雨振舘

現代ファンタジーボーイズラブ長編小説。一部R15。

DARK HALF第31話(最終話)・9

 じっと小高い岡の上から学校を睨むように見つめていた栄太が、そのまま視線を空に向けた。しばらくそうしていて、視線を戻さないままつぶやいた。

「終わったんだな。…今度はあいつ、正面から向き合ったってことか…」

 そんな栄太の後ろから、桂が近づいた。

「我々に宣言した通りだな。…ただ、久坂がまた我々のところに戻ってきたいと思うかどうか…」

「そんなことわかんねぇさ。でも、それでも久坂を生かしたんだよ、あいつは。戻って来てもこなくても、久坂が生きているなら、きっと、それでいいんだよ、あいつ」

 栄太が視線を街へと戻す。そのままただ目を細めて街を見つめていた。

「…お前にはまだここに残ってもらわなければならんぞ。身体も癒えていないだろうが、事情がわかっている者にいてほしい。…しばらくは大きなあやかしの行動はないとは思う。ただ、我々は当分動けないからな」

「わかってるよ。後の始末が大変だぜ、ったく。今度のことで、今まで黒い力のこと知らなかった妖たちにまで、その存在を知られてしまったわけだし…。“反桂”なんていう輩も、これを機にうるさくなるだろうなぁ…」

「まあ、そういう連中も、現れるかもな」

「他人事のように言うなよ」

 少しおどけた調子で栄太が肩をすくめた。

 今回の黒い力の一連の騒動で、結果的に桂は2度も実体をあらわし、さらに大きく時空に干渉した。このことを、よく思わない連中はいくらでもいる。そういったものが騒ぎ出さないとも限らない。
 さすがの桂も、火印も、どうやったってしばらくは動けないだろう。
 桂の代行として動ける力を持つものは、今はどこにもいない。だからこそ、桂の下にいた自分たちがしっかりしなければ、この飛目体制そのものが崩壊しないとも限らない。
 
「まあ、取りまとめは中谷が情報統制がてら、なんかするんだろうけどね」

「その辺りは任せてある」

「杉山は?」

「知らん」

「もうどっか行ったのか…。わかんない奴だなぁ…」

 はぁ、と栄太が大きくため息をつく。
 そして、桂に向き直った。

「もう、戻るんだろ?」

「そうだな。そろそろ、私もここを去らねばならんな」

「おつかれさん」

「お前も…辛い思いをさせた」

「俺はなんともないぜ?もっと辛い奴ら、いるからな」

「そうか」

「俺は俺のやるべきことを、やっていく。それだけだろ?」

「そうだな。…お前も、ある意味成長したのかもしれんな」

「なんだよ、突然」

 しみじみとつぶやく桂に栄太が笑顔を向ける。
 そんな栄太に静かな微笑みを桂は返した。
 後は何も言わず、桂の姿が土へ吸い込まれるように消えていく。

 栄太はそのままその場所で、夜が明けるまで動かなかった。


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DARK HALF第31話(最終話)・8

「お前は消滅を望むけど、でも俺はお前を滅ぼしたりなんかしない。久坂誠を、消したりなんかもしない。俺は、お前を生かすためにいる存在なんだから」

「………?」

「いいか。お前が次に目を覚ました時、お前は俺と出会う前の人間に戻るんだ」

「?」

「お前が持つ黒い力、妖力…お前が怯えているものすべて、俺が持って行く。そして、姿は見えなくても、ずっとお前の側にいる。お前が気づかなくても、見えなくても、ずっと、側にいる」

 何かを言おうとするが、身体はぴくりとも動かなかった。ただ、夢の中にいるような感覚で、高杉の言葉だけが、久坂の頭の中へと響いた。

「ずっと側にいるから。だから、いつかお前が…もう一度黒い力と…いや、もう一度俺と一緒に生きて行く事を心から望んだ時、俺が必要になった時、俺を呼べ。俺は、その時に、また現れるから。それまで、お前が恐れているこの力を、封印してるから。もう一度、俺を信じて、俺と一緒にいたいと思ってくれるまで」
 
 どういうことだろう、と考える力すらもうなかった。
 ふわふわと、ただ暖かい感覚だけが、久坂の中に残る。最後に、優しく、高杉の声が響いた。


「好きだよ。俺はどんなことになったって、どんな時だって、お前のために在るよ。そして、お前を護るから」


 それはまるできれいな音楽のように、心の隅々まで響き渡って、そして、消えて行った。

 もう久坂も意識はなく、そこに静寂が訪れた。







 空間を覆っていた黒い力が、跡形もなく消える。黒校を中心にして、これまで禍々しい力を誇っていた、その気配が、だんだんと暖かいものに変わって行く。街は、静けさを取り戻した。
 静けさを取り戻した街を、その外側から包んでいた別の力が、何かを塗り替えるように広がっていく。
 黒い禍の力が浄化された後に、桂が時空に干渉して、街自体に起こるであろう混乱を軽減したのだった。それはとても大規模で、濃い力だった。
 
 何事もなかったかのように、ただ風が吹き抜けた。


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