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ボーイズラブが前提の長編小説です。主人公は高校生。ある日、不思議な少年に出会ったことから、怪奇な事件に巻き込まれていく。惹かれ合う2人だったが…?! Copyright © 雨振舘 All Rights Reserved. Template by RESIST. Powered by FC2 Blog |
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Author:あまふりあおの 最近のコメント カテゴリー
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お話のタイトルは「DARK HALF」です。中学生でも読んでも大丈夫!ですが、ちょこっとそういう描写もありますので注意です!(指定するほどじゃないので…)
管理人の日記はリンクから”雨振舘つれづれ日記”へどうぞ。お話についてもつぶやいてます。 拍手、コメント、メール大歓迎です!感想ぜひぜひクダサイ! 著作権放棄してないですよ。無断使用、転載等やめてくださいね。 ☆管理人とはこんな奴 ☆日記はこちら ☆登場人物紹介へ ☆あらすじへ ![]() 〜アンケートご協力ありがとうございました!結果発表をお楽しみにvv〜 ☆☆こんなのあったので作成してみました。はじめからこういうアンケート作成してればよかったかも…。 人物アンケート気が向いたらやってみてください…。
2007/05/23
/23:01
2月は旧暦では一年のはじまりとされ、春ともいわれている。
とはいえ、まだ雪もちらつく寒い2月下旬の宮前市を、ひとりの男子中学生が歩いていた。中学の学生服の上に厚めのコートを羽織り、あわいベージュのマフラーをまいた姿ですこし足取りも軽く、家路を急ぐ。 彼の名前は 久坂 誠 といった。 とくに目立ったところはなく、見た目普通、もしくは、まだ少年のあどけなさの残るかわいさがある顔立ちといったところか。特技も特になく、勉学に秀でているわけでも、スポーツができるわけでもない。どれも真ん中よりは上、といった程度だ。 今日彼は自分が受験した高校の合格発表を見に行ったその帰りだった。足取りが軽いことからもわかるように、当然彼は受かっていた。公立は志望せず、ほぼこの私立一本をめざしていたようなものなので、ことさらに喜びは大きい。 彼が受験したのは、宮前市の中心部から少し離れた場所にある、私立の男子校で、この町では古くからある学校だった。彼がそこを希望したのは、単純に、電車や自転車を使うことなく、歩いて通うことができることと、彼が尊敬する父親の出身校であること、それだけだった。 家にいる父親と、母親にいい報告ができる。 それを胸に抱きながら、ちょうど宮前市の中心部にある商店街のアーケードを通り抜けようと、アーケード内に足を踏み入れた時だった。 不思議な違和感に立ち止まる。 その違和感を放っていた人物が、ちょうど正面から歩いてきた。 違和感、に興味を持って、すれ違うときにその人物を観察した。 背格好からして、年齢は自分と同じくらい。久坂よりは少し背が高い男だった。厚いコートを羽織るほど寒い日なのに、白いシャツにグレーのジャンパーにブラックジーンズ。寒くないのかな?と疑うほどの軽装だった。少し長めの前髪が目の辺りを隠していて、表情は見えない。 その人物は、特に何をするわけでもなく、久坂とすれ違った。 一瞬、気にはなったが、知っている人なわけでもなかったので、そのまま通り過ぎようとしたとき、背後で先ほどすれ違った人物が小さく声をあげた。 「やべっ…」 「?」 その声に振り返ると、男の足下からちょうど久坂の方に向けて、小瓶が転がってきていた。どうやら、男が落としたものらしい。 それは人々の足に踏まれることなく、久坂の足下にたどり着き、こん、と久坂の靴にあたってとまった。 あわててこちらにかけてくる男にわたしてやろうと、久坂がそれを拾い上げた。小瓶のなかには、青白い小さな炎のようなものがゆらめいていた。 「ええっ?!」 男の、驚いた声があがる。 何に驚いたのかわからなかったが、久坂はその小瓶を男に差し出した。 「はい、これ。君の?」 「お…お前、これ、見えてるのか…?」 差し出された小瓶を受け取りつつも、男が驚いたように訪ねてくる。 「?どうして?見える…けど?」 不審に思って久坂が男を見つめ返した。 「これがみえるって、お前は…」 そこまでいいかけて、男は久坂をみて、固まった。 表情も、固まっている。 何かを言おうとしてそのまま時がとまったように、目を見開いたまま、男は立ちつくしていた。そして、受け取った小瓶がまた手から転げ落ちた。 「ちょっと…、また落としたよ…」 そういって、久坂が身をかがめて、小瓶をひろって顔をあげると、やっと男が口を開いた。 「…ク、クサカ…」 「?どうして、僕の名前を?」 「ほんとに…クサカ、か…?」 「そ、そうだけど…、君、誰…」 「クサカっ!!」 君は誰だ、と訪ねる前に、男が正面から久坂を抱きしめた。ものすごい力で抱きしめられて、一瞬で息がつまった。 「な…何を…」 息が苦しい。 「やっと…やっと会えた!無事だったんだ、やっぱり無事だったんだな、クサカ!」 「は…あ…?あの…っ人っ違いじゃ…」 抱きしめられている状態からじたばたと身体を動かして、何とかその腕から逃れる。真正面から男を見ても、自分には全く見覚えがない。人違いをしているのではないかと思った。 「俺だよ、わからないか?覚えてない?」 「え…っと、ごめんなさい、たぶん、人違いだと思うんですけど…」 男の目が真剣で必死なだけに、本当にすまないと思って応える。 「でも…でも、お前、クサカなんだろ?!これ、見えてるのが証拠じゃないか!」 男も必死で食い下がる。 「あの…もしかして、くさかさん違いなんじゃないかと思うんですけど、本当に、俺、知らないですし」 人捜しをしていたらしいことはわかって、本当にすまないとは思うけど、あまりの勢いに尋常でないものを感じる。ちょっと、周りの目もあるし、早く離れてしまいたい気分だった。 久坂の肩をつかんでいた男の手から力がぬけて、そっと離れる。もう一度、久坂を正面から見つめて男は切実に訴えた。 「本当に、俺のこと、何も、わからないのか…?」 あまりの真剣さに久坂は目をそらした。きっと、この探しているのはこの男にとって大事な人なのだろうと思えた。 「すみません、本当に心当たりないですから、違うと思います…」 「人、違い…」 男ががっくりとうなだれた。 気の毒に思ったけれども、自分にはどうしようもない。先ほど拾い直した小瓶をその手ににぎらせた。 「あの、これ…。俺、それじゃ…」 そういって、男に背を向けて足早に離れる。 離れながらちらりと後ろに目をやると、男はまるで、泣いているかのように見えた。 2月、そんな出会いがあった。 それから2ヶ月。宮前市は特になにも大きな出来事もなく、桜の季節を迎えていた。 久坂も今日は入学式もすみ、初登校である。制服は最近よくあるデザイナーにたのんだようなものでもなく、ブレザータイプでもなく、昔からよくある金ボタンの学生服。中学の時とそうかわらなかった。父親のアルバムの中にあるそれと同じ制服を着ることができて、満足感を味わう。目標をひとつ達成した。新しい生活への期待と、目標をクリアできたことへの達成感で目を輝かせながら、新しい学舎へと足を運んだ。 割り当てられた教室は1−b組。構成は4クラスで、さすがにこう男ばかりだと、なんというか、学生服だらけで黒い。制服も黒いが、鞄も黒い。校舎も歴史を反映してか、黒ずんでいる。もとはこの町でもモダンな建物だったらしい。この黒、黒、黒の特徴から、黒校、と略されることもある、私立の北宮前高等学校。 久坂は自分の席について、新しい教室をぼーっとながめていた。同じ中学からここを受験したものもいたが、同じクラスにはならなかったし、第一名前も知らなかったから、特に仲がいい友人がいるわけでもなかった。もともと友人と群れるタイプでもなかったため、それはそれなりに新しい環境なのがより感じられて新鮮だった。 担任が入ってきて、ホームルームがはじまる。皆が席に着き始めた。がやがやと、騒いでいた生徒達がだんだんと静かになっていく。その様子をながめていた久坂は、ひとつの机の上で目がとまった。 机の上に、小瓶が置いてある。 見覚えがあった。 二ヶ月前に見た、転がってきたあの小瓶。 そんなものがなぜここに…反射的に、その机の主を確認する。久坂の机の右側の列、2つ前。久坂の視線を感じて、その主がゆっくりとふりかえった。 「あっ…!!」 久坂が思わず叫んで立ち上がった。 主はそれをみて、にやりと笑っている。 二月にアーケードでであった、あの男だった。 「そこ…っ!何してる、着席して!」 担任の教師の声に我にかえった。 「は、はい、すみません」 あやまって、着席する。もう一度、おずおずと右斜め前を見た。男が、こっちを見ていた。机の上に、小瓶はもうない。 男は久坂にくすり、と笑いかけると、そのまま前を向いて、もう振り向かなかった。 昼休みになって、がやがやと喧噪がもどる。初日なので授業もたいしたことはしないが、教師の自己紹介がやたら長くて疲れた。そんなことを考えながら、昼食用に購入したパンの包みをあける。まわりではもうグループのようなものができていて(おそらく出身校が同じもの)、放課後のクラブ活動見学の話題などしている。 久坂はもとからクラブ活動をする気はなかったので、そういった話に興味はなかった。パンを食べていると、ふと自分の席の前に誰かたった気配がして、顔をあげる。 「お前、久坂 誠っていうんだってな」 「あ…君は…」 小瓶の主が立っていた。やはり手に例の小瓶をもっている。 「俺は高杉 晋っていうんだ」 「高杉…くん…」 「高杉、でいいよ。俺もお前のこと久坂って呼ぶから」 「はあ、う…ん」 いきなり呼び捨てにしろ、とか、呼ぶから、とかいわれても。と、ちょっと雰囲気に圧倒される。 「あの…この間は…」 「ああ、あれはすまなかったな。いきなり。覚えてないんじゃ、しょうがないよな」 「お、覚えてないとか、よくわからないけど、本当に記憶にないんだけど」 人違いだとは、思わないことにしたらしい。 「べつにそれでいいよ。いま知り合ったことにしても。お前は久坂。俺は、高杉」 にっこりと、邪気のない笑顔で笑いかけられて、つられて微笑む。 「あ…はあ、じゃあ、これからよろしく…」 「うん」 うなづいて、高杉が手でもてあそんでいた小瓶を久坂の机の上に置いた。 「もう一度聞くけど、お前、これが見えてるんだよな」 「うん…。別になんの代わりもない小瓶に見えるけど…?」 「中には、何がみえる…?」 「えっ…と…。青白い、炎みたいなもの?生き物か?これ」 そう応えると、そっか、と言って、高杉が小瓶を置いたまま机から離れた。 「それはお前のだから。なくさないように、持ってろよ」 「え?俺の?」 「そう。お前の。だから、だれにもとられるなよ」 それがどういうことなのか、問いただす前に高杉はその場を去っていく。それから高杉から話しかけてくることはなかった。 それから数週間後、特に目立つ事件もなかった宮前市に、物騒なニュースが連日伝えられることになった。昼夜に関係なく、突然何か大きなものであたまから打たれたかのように、人が死んでいるのが発見される。必ず一撃で殺されており、なぜか血を抜かれたかのように、血しぶきが飛び散っていない。そんな、怪奇殺人を、“連続打撲殺人”といい、ワイドショーをも騒がせた。警察は犯人の手がかりも、目的もつかめていないらしい。 久坂は今日も朝家を出る前に母のつけているニュースでそれを知った。物騒だとは思うが、気をつけようもないからどうしようもない。その程度にしか考えていなかった。 「じゃあ、いってきます」 「あら、もうこんな時間?いってらっしゃい、気をつけてね」 母とそんな会話をしながら家を出て、学校へ向かった。 高杉とはあれから特に話をすることもなかった。彼も別に久坂に近づいてくることはなかった。たまに、こちらをみているのに気づくことはあったが、それで特に何もいってこないので、最近は気にとめないようにしている。ただ、高杉から言われたからではないが、何となく気になって、手渡された小瓶はいつも携帯していた。 正直、こんな正体のわからないようなものを自分のものだといって渡されても気味が悪いだけなのだが、久坂はこの小瓶をそういった気味の悪いものだとはなぜか感じられなかった。生き物のような、かざりのような、その青白いものをみていると、不思議となつかしいような気分になる。もしかしたら、本当にこれは自分のものだったのかもしれない、と、そんなことすら思っていた。 そして、少し高杉に関して観察してみたが、特に気味の悪い人物というわけでもない。帰宅部、というのは久坂と一緒だったが、彼はスポーツに秀でていた。足も速く、球技もこなす。運動部からの誘いはひきもきらないほどだったが、彼はなぜかすべて断っていた。クラスでの受けもいい。特に目立ったことはしないが、何かあったときには頼りにされそうな、そんな雰囲気をもっている。悪い奴には見えなかった。ただ、二月にアーケードで会ったときと感じが変わっていて、本当に同一人物だったのかな、と疑いたくなるほどだった。 でも、きっと、気にとめる程のことでもない。 そう思って、自分から関わることもせず、その日も授業が終わった。 その日、久坂は図書館に寄っていた。たまたま読みたい本があり、借りる予定だったのだが、時間もあったので、そのまま図書館の机で読んでいくことにした。お目当ての本を何冊かもって長机の一角に陣取ると、本を読み始める。実は、この不思議な小瓶のことを調べてみようと思っていた。高杉の口調から、どうも曰くありげな品物であるように思える。単純な発想だが、昔から伝えられている伝奇的アイテムに似たようなものがないかな、とかその程度の興味だったが、とにかく、それらしき本をめくっていた。 だが、やみくもにページをめくったところで、わかるものでもない。手がかりも何も聞いてはいなかったのだから。 久坂は、机の上に置いた小瓶を見つめる。中ではやはり生きているのか、青白い炎のような物質が少しゆれていた。 なんなんだろうなぁ、一体。 見つめながら、やはり高杉と一度ちゃんと話してみる必要があるのではないかと考えていた。はじめはあやしい奴なんじゃないかと思って近づくのもどうかと思っていたが、ここ数週間みたところではそうでもないらしい。だったら、これをくれた本人に、一体何なのか、これをどうすればいいのか、いろいろと聞いた方が、早い。ただ、それがなんとなく恐ろしいことなような、そんな予感もしていた。 「…あの…すみません、ここ、いいですか?」 「えっ…あ、すみません、どうぞ」 女学生らしい女の子が、目の前に本を抱えてたっていた。どうやら図書館も混み合ってきたらしく、席がなくなってきたのだ。遠慮無く本をひろげていた自分を恥じて、ちらかした本をかたづけはじめる。女の子はその久坂の向かい側に座るらしく、手にしていた本の束を久坂の目の前に置いた。 なんのためらいもなく、置いた。 「あっ…!」 久坂が思わず声をあげる。 本の下敷きになったと思われる小瓶に手を伸ばした。 だが、本は小瓶を、、、、、、すりぬけていた。 すぐに小瓶を手の中につかみ取る。壊れてもいない。久坂の手には、しっかりと質感をもって感じられる。目の前の女の子には、これが見えなかったのだろうか? 「あの、すみません、何か邪魔しちゃいました?」 「…これ、置いていたから…見えなかった…ですか?」 小瓶をみせて聞いてみる。 女学生は、変なモノをみる目つきで久坂をみた。 「これって、いわれても…。手品か、何かですか?」 あきらかに、気味悪がっていた。 見えていないらしい。 まるで変質者をみるかのような目つきになった女子学生にきづいて、久坂が、あわててまわりをみまわす。幸い、まわりは気がついていないようだった。 「すみません、気にしないでください」 「はあ…」 さすがにその場にいられなくなって、本をまとめて棚に戻しにかかった。 お前、これが見えるのか 高杉が最初に言ったことを思い出す。なるほど、誰にでも見えるものじゃないんだ。自分にはこんなにもはっきりと見えるのに。なにか、やはり人外的なものを感じて、ぶるりと身震いした。 先ほどまでは気軽に高杉に聞いてみようか、などと考えていたが、それもなんだか恐ろしいこのように思えてきた。自分は何か変なことに巻き込まれようとしているのではないかと、様々な想像が頭をめぐる。 まとまらない頭をとりあえず自分ではたいた。 本の、読み過ぎかもしれない。そんなこと、そうそうあるわけでもないだろう。なんとかそう思うことにして、久坂は図書館を後にした。 図書館は学校をはさんで自宅とは反対側にあるので、帰宅に少々時間がかかる。早く家に帰りたかったので、久坂は町の中でもあまり整備されていない大きな雑木林をぬけることにした。一応、ここは夜はあまりおすすめといえる場所ではなく、電灯もまばらだ。だが、直線距離で、走ればこっちのほうが家まで断然早い。久坂はかばんを抱え直すと、雑木林の中に雑に舗装された道を走り出した。 たぶん、時間にしてものの1分というところか、いきなり久坂は何かに足をすくわれて、おおきく前につんのめった。 「うわっあ…?!」 つまづいた、というよりは、足をつかまれた、という感じだった。そればかりではなく、地面に倒れ込んだまま、右足がぐいぐいとひっぱられていく。 「な…なんだ、これっ…!!」 目をこらしても、何が起こっているのかわからない。あたりが薄暗いことを差し引いても、自分の右足には何もない。ただ、引っ張られている。見えない何かが、自分をどこかへ引きずり込もうとしていた。 危険を感じて、久坂がそばにあった木の根に両手でしがみついた。一瞬、足をひっぱる力がとまる。だがそれは、本当に一瞬のことだった。足から気配が消えたと思った瞬間、久坂のからだをにやはり見えない何かが巻き付き、そのまま宙に持ち上げられる。 「う、あ、あ…っ」 あまりのことに、恐怖で顔面が蒼白になる。しめつける何かは、どんどん力を増し、息をするのも苦しい。息も絶え絶えになっている久坂の頬を、また見えない何かがあたった。何かがあたった、と思った瞬間、そこはカミソリで切られたかのように一筋の傷をつくり、血がにじむ。それを、さらに、何かが、なめるような感触があった。 「ぐうっ…」 その気色悪さに、身体が震えた。 唐突に、頭のなかだろうか、声が聞こえた。 ーーーーーーうまいな、これは。 地をはうような声、とはこういう声なんだろうかと考える。人間の出すような声ではない。久坂の恐怖はさらに増した。先ほど頬をなめた何かが、さらに流れる血をすする感触がする。自分の血をなめて楽しんでいる。 ーーーーーーおもしろいな。 ーーーーーー次は、どこをきってやろうか。 また声が響いた。 本能的に、この何者かは、自分をすぐ殺すのではなく、少しずつ切り刻んで、嬲り殺そうとしている、と感じ取れた。恐怖に、身体が硬直して動けない。 殺される。 シュッと空を切る音がして、開いていた久坂の学生服のえりの間を何かが過ぎ去った。同時に痛みが走る。 「ううっ…」 どうやら、首の頸動脈はねらわず、そこをはずして、首筋から鎖骨の辺りを切られたらしい。また血をなめとる感触。すべてが見えないこともてつだって、恐怖も頂点に達した。 「あ…あ…」 息をつぐのもうまくできない。死ぬか、このまま。頭の中のどこかが冷静に考えていた。 「爆砕!」 唐突に声があがると同時に、何かが爆発したように、轟音が響いた。しめつけられていた力がゆるんだ。何者かがおどろいてほえている声が頭にひびく。そのまま地面に激突するかと思う寸前で、何かに、受け止められた。人の、腕だった。 「久坂、無事か?!」 その声に恐る恐る顔をあげる。 土煙が辺りにまう中に、見知った顔があった。 「…た、たか…すぎ…?」 声を出すのがやっとだった。 「間に合ったか…よかった…!!」 高杉が、心底ほっとしたような表情で久坂を抱きしめた。 「あの…これはっ…何…?!」 次から次から起こる出来事についていけなく、パニックになる。 そんな久坂を抱きかかえ直すと、高杉がそのまま跳躍してその場を離れた。 いままで自分たちがいた場所に、何かをたたきつけたような轟音と、地面にへこみができている。さっきの何か、が反撃してきたのだろう。 ある程度離れたところで久坂をおろすと、高杉が何か、のほうに向き直った。そのまま久坂にふりかえらないまま告げる。 「とりあえず、あいつを黙らせるから、あいつの触手がとどかない位の距離に離れてろ」 「あいつ…?触手…?そ、そんなの見えないのに、どうやって距離を測ればいいのか、わかんないよ!」 あわてて久坂も叫ぶ。 高杉が心底驚いた顔をして振り返った。 「見えてない…?」 「あれ、何なんだよ!化け物?声みたいなのは聞こえたけど…あとはさっぱり…」 「どういうことだよ!」 こんどは高杉が怒鳴る。 「う…し、知らないよ、お前に聞きたいくらいだよ、何だよ、あれ!」 「まさか…あんな下等な奴、姿も気配も消してないんだぞ。現にお前、襲われていただろう?!」 「何も…何もみえなかったよ!声、みたいなのとかは聞こえたけど…でも、そのほかは何もっ…!!」 「そんな…」 いいかけて、高杉がとっさに久坂をかばうように覆い被さった。 「ぐっ」 「高杉!」 高杉の背中に、その見えない何かの衝撃があたったことがわかった。久坂をかばうために、多少まともにくらったらしく、高杉が身体を震わせて息を整えている。 ーーーーーー邪魔だな。お前。 声が響く。 「邪魔なのは…お前のほうなんだよっ!」 叫ぶと同時に、高杉が何かかたいの爪のようなものでやはり見えない何かを切り裂いた。そのまままた久坂を抱き上げて跳躍し、すばやく雑木林をぬけていく。 「わ…う、わっ…」 そのスピードに振り落とされそうで、久坂はしがみついているのがやっとだった。 雑木林をぬけると、やっとそこで久坂をおろす。 そして雑木林に向かうと、両手を前に差し出した。 「あんま、得意じゃないけど…とりあえず、ここはなんとかできるかな…」 そんなことをつぶやいてる。 雑木林の中から、あの何かが、押し寄せてくる、そんな気配を、本当にその気配だけを、久坂は感じて思わず叫んだ。 「き、来たっ!」 「…………」 聞き取れない何かを高杉がつぶやく。と、同時にその両手から大量の炎が雑木林を覆う。何か、のくやしそうな断末魔が響いた。気分の悪くなる声だった。 数秒後、あたりは元の静けさをとりもどした。 あんなに大量の火を放ったはずなのに、雑木林はそのままだ。火事にもなっていない。 久坂は一連の出来事が理解できなくて、その場にぼーっと立ちつくしていた。 何が、起こったんだ? ようやく高杉が久坂の方に向き直る。 「いま、見えたか?」 「炎は…。あれ、お前、が、…?」 少しおびえながら答える。 「やっぱり、こんなの、初めてか」 「当たり前だ!何だよ、これ…あれ、人間じゃないだろ?…お、お前も…」 やはりおびえた目で高杉を見て、一、二歩後ずさった。 高杉はその場を動かず、ため息をついた。 「人間じゃ、ねぇよ。あれも、…俺も」 「…な…」 高杉も、あれ、の仲間なのか。もしかしたら、高杉も、自分を殺すのか? 恐怖に身体が動かない。 「こわがんなくってもいいよ。あれはお前を確かに殺そうとしたけど、俺は絶対にお前のこと、守るから」 「ま、守る…?」 「お前、渡した小瓶、ちゃんともっていてくれたんだな」 ふいに高杉が表情をやわらげて笑いかけた。 その表情に、あの化け物と同じような気配は感じないし、殺意も、敵意も感じない。むしろ…。違う、好意に似たようなものを感じた。 「なんだか…不思議と、なつかしい感じがして…。お前が、これは俺のだっていっただろ?それが何となく…だけど、納得できるような気がしたから、だけど。もってた」 正直に答えた。 「なつかしい…感じ…」 高杉がつぶやいた。つぶやいたその瞳が切なそうに揺れている。 二月にアーケードで会ったときの雰囲気とだぶって、久坂は学校でみている高杉より、こっちの高杉の方が本物なんじゃないかと思った。 そのまま歩み寄ってきた高杉が、今度はふわりと優しく久坂を抱きしめた。 驚いたが、手に当たった高杉の学生服から血がしたたっているのに気がつく。 「あ…お前、怪我っ…!さっき、怪我しただろ!」 あわてて高杉から離れた。 「ああ…このくらいなら、すぐ治るから。それより、家まで送っていく」 「は?」 やはり事態をのみこめない久坂が驚いて目を見開いてるのを尻目に、その手をとって高杉がぐんぐん先に歩いていく。確かに、雑木林をぬけたから、家までは一本道のようなものなのだが。 「送ってくって、お前、家知ってるのか?!」 「そんな初歩的なこと調べてるさ」 「な、な、何のためにー!!」 ひっぱられながら抵抗して叫ぶ。 「だから、お前を守るためだって。俺は、絶対、絶対に…お前のこと、守るから」 「何で…」 歩く速度をゆるめないまま高杉が答える。 「今度、ゆっくり話す!今日はお前を家にぶち込んで、見張ってなけりゃ安心できない」 「何だよ、それっ!」 それに、現実的なことなんだが、高校生にもなって、手を引かれて家まで男に送ってもらうってのも世間的にどうかと思う。先ほどは人は誰もいなかったが、さすがに家の周りにまったくいない、ということもないだろう。 「あ、あのっ、わかったから、とりあえず手を…離してくれよ」 「なんで」 ますます握ってる手に力が籠もった。 「だ、だって、おかしいだろ!!高校生にもなって男が手をつないで歩いてると!!!」 高杉の歩みがとまった。しばらく考え込んでいる。 やっと手を離した。 「たしかに、そうだな。いまの生活に特別な変化を起こしたり騒ぎをおこしたりするのは得策じゃないし…」 「そ、それに、送ってくれなくても家すぐそこだから…もう、大丈夫なんだろ?あれ、出てこないんだろ?」 「まあ、今晩くらいは持つだろう。でも、もう出てこないわけじゃないから、俺だって心配してるんじゃないか」 「ま、まだ生きてるのか…」 恐怖が蘇る。 その久坂の頭を高杉が優しくなでた。 「だから、俺が守るって。お前がその小瓶をちゃんと持っていてくれたら、俺は離れていても有る程度お前の位地はすぐ把握できる。何かあってもすぐ助けにいくから」 「……そのために、これを俺に…?」 「別に、そのためだけじゃない。それは、お前のものだから、お前にもっていてほしいって思ったからだよ」 「……」 ゆっくりと2人で歩いていると、久坂の家が見えてきた。 そこで、高杉が立ち止まる。 「ここで、お前が家にはいるのを見届ける」 「あ…家まではいかないんだ」 送るとかなんとかいってここまで来ておいて、中途半端だなと久坂は思った。 「お前の家族にあったら困るだろ。俺たちのこの格好、どう考えても何かありましたって格好だぞ。それとも、“お宅の息子さんが暴漢に襲われていたところをお助けしました”とか言うか?」 「なっ…女の子じゃあるまいしつ!」 馬鹿にされた気がして、怒鳴って返した。 「だろ?だから、おれはここでお前がちゃんと家に入るの見届ける。お前は転んだことにでもしてろ」 「この年で…こんなになるまで転ぶかなぁ…」 言い訳の内容にあきれて、ちょっと口に出してみた。 するとやはり、馬鹿にしたような口調で高杉が返してくる。 「お前、弱っちろいから、おかしくなんかないだろ」 むっとしたが、さっきは本当に助けられてばかりだったから、言い返すのは不毛だと思った。とりあえず、言うとおりに家に足をむける。 その背中に、高杉の声がかかった。 「また明日、な。久坂」 複雑な心境だったので、久坂はそれに答えることができなかった。 *********************** *********************** ![]()
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