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ボーイズラブが前提の長編小説です。主人公は高校生。ある日、不思議な少年に出会ったことから、怪奇な事件に巻き込まれていく。惹かれ合う2人だったが…?! Copyright © 雨振舘 All Rights Reserved. Template by RESIST. Powered by FC2 Blog |
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Author:あまふりあおの 最近のコメント カテゴリー
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お話のタイトルは「DARK HALF」です。中学生でも読んでも大丈夫!ですが、ちょこっとそういう描写もありますので注意です!(指定するほどじゃないので…)
管理人の日記はリンクから”雨振舘つれづれ日記”へどうぞ。お話についてもつぶやいてます。 拍手、コメント、メール大歓迎です!感想ぜひぜひクダサイ! 著作権放棄してないですよ。無断使用、転載等やめてくださいね。 ☆管理人とはこんな奴 ☆日記はこちら ☆登場人物紹介へ ☆あらすじへ ![]() 〜アンケートご協力ありがとうございました!結果発表をお楽しみにvv〜 ☆☆こんなのあったので作成してみました。はじめからこういうアンケート作成してればよかったかも…。 人物アンケート気が向いたらやってみてください…。
2007/05/21
/23:46
朝、目が覚めて、その体勢に驚く。
驚いて大声をあげなかった自分を褒めてやりたい、と後から思った。 その日は土曜日だったので、いつもの時間に鳴るアラームは切ってあった。しかも、久坂自身、この二日間の出来事に精神的にも体力的にも疲れ果てていたので、昨夜閉めずにいたカーテンから朝日が差し込んでも、すぐに目が覚めることはなかった。家の外で人々が動き出す気配、音、朝の空気、そんなものにふと意識を引き戻されて、ぼやけた頭で考える。 土曜日だし、朝寝してしまおう… そう思って、ベッドの中で身じろいだそのとき、何かに当たった。まだ意識も目覚めないままなので、なんだろう、というくらいの気持ちで当たった何かをさぐる。 ………人…? いきなり、ぱっちりと目が覚めた。 そうだ…人って、高杉!! はっきりと、目が覚めた。ベッドに寝ている自分の横に、同じ布団の中で眠っている高杉がいる。 しかも、高杉の、腕枕、付きで。 一緒に寝てるのは、今思い出したのでいいとして、それはともかく、何で、腕枕?! 驚いて、混乱しながらも、いや、驚いて混乱しているからこそ、久坂は高杉を起こさないようにそっと離れた。昨夜の疲れ切った高杉をみていたから、ゆっくり寝かせてやりたいかな、とか、混乱しながらもそんなことを優先したからだった。 昨夜、高杉は久坂を襲ってきた木のあやかしの痕跡を全て消すために、あちこちまわって退治してきたらしい。それでも、夜に久坂の部屋へいく、という約束を守って、くたくたの身体でやってきた。結局会話もそこそこに、高杉は眠ってしまったのだった。 とにかく、お前のそばがいい そんな言葉を残して寝られてしまったから、久坂もその時はどうしようかと途方に暮れた。が、まがりなりにもこの二日間、自分を助けてくれて、そして、結果こんなに疲れている高杉を無下にほうりだすわけにもいかない。高杉を床でそのまま眠らすか、ベッドを使わせて自分が床に寝るか、ということも考えたが、あいにくと久坂の部屋には余分な布団が置いてなかった。下の客間にとりに行くわけにもいかず、結局、とりあえずベッドに入れて、寝かせ、久坂は同じベッドの端の方に寝ることにした。…はずだったのだ。 で、なぜに腕枕? ベッドに座り込んでじーっと高杉をにらみながら考える。 まあ…実を言うと、一緒の布団で寝る、ということに危険?というか、危うさのようなものを最初感じないわけでもなかったのだが。これまでの高杉からの接触とか、言動とか考えると、ちょっと…こう、自分も男なんだけれども、そういった大前提、な、いいわけが通用しないような何かが存在する気がしていた。そんな気はしていたけれども、結局の所自分は女の子ではないわけだし、気にする方が変に意識してるようで自分が嫌だというか…ともかく、自分の頭の中で考えられた変な可能性はとりあえず持たないことにしたのだった。 それに、高杉からの接触は自分の常識的に考えると友情にしては行き過ぎ、の感はあったが、不思議と、邪気のようなものがない。あまりにも当然、といった態度でそう接してくるので、それはたぶん高杉がいう「クサカ」とそう接してきたからではないかと思われた。 「同じっていわれても、俺全然わからないのになぁ…」 ふと声に出してつぶやいてみる。 そして、ずっとにらんでいた視線をふとやわらげた。ゆっくりと高杉を観察する。ぐっすりと眠っているその顔からは、人間外の生き物、とかそういったものは全然感じられない。普通の、自分とそう年の変わらない少年の寝顔に思えた。身体も桁外れに大きい、とか、筋肉質だ、とか、そういった感じでもない気がする。これはみたわけじゃないからそう思っただけだが、一般的に見て、普通に人間とやはり変わらない。ふと自分の横に投げ出されてる高杉の手のひらをみて、自分の手よりもずっと大きいことに気がつく。この手に、昨日何度も助けられた。これからも、守る、と宣言する、その手。触れてみたい衝動にかられて、そっとその指に自分の指がふれた。 瞬間、その手を高杉の手が掴んだ。 「!!あ…」 起きるとは思わなかったので、驚いて声をあげる。 「……あ、そうか、久坂、か…」 高杉もどうやら反射的にとった行動らしく、すぐにその手を離してゆっくりと起きあがった。そして、久坂のほうにむきなおる。 「ごめん、俺のせいでもしかして眠れなかったか…?」 久坂が先に起きあがっていたから心配したのか、ちょっとすまなそうに高杉が聞いてくる。 「いや、そんなこと…なかったけど…」 腕枕が、ですね、驚いたんですよ。 心の中で付け加えた。 「俺はあれで寝ちゃって、ずーっといい夢みていて…。あー、なんで今、目が覚めちまったんだろ…」 高杉が嫌だーとかなんとかいいながら、もう一度ベッドに潜り込んだりしている。 …どうやら、あの腕枕、こいつ意識的にやったわけじゃないんだな… 無意識ってもっと悪い。久坂はしばし考え込んだ。 「ありがとうな」 高杉がまたベッドから身を起こして、久坂の座っている高さに顔を合わせて久坂の顔をのぞきこんだ。御礼を言われて、ちょっととまどう。 「いや…だって、助けてもらったし。御礼を言うのは俺のほうだし…」 高杉がゆっくり首をふった。 「お前、人間だから。俺とかのことなんてよくわからなくって、本当はこわいだろうに、俺のわがまま聞いて、一緒にいさせてくれて…すごく、うれしかった」 「………」 なんと答えていいのか解らなくて、久坂が黙り込む。 それでも高杉はとても幸せそうに見えた。 「寝てる間ずっと、お前の気配に包まれていて…それが、ずいぶんと久しぶりで、こんなにありがたいものだったんだって、あらためて気づいた。こんなに、お前に飢えていたんだって、気づいた。そんで…俺も、今まで結構気を張って疲れていたんだって思ったよ」 「ずっと…その、クサカを捜しながら、あんな奴らと戦うような生活を?」 うん、と高杉がうなづいた。 俺の周りは血なまぐさいからなぁ、ともつぶやいた。 その瞳が、遠くをみている。これまでの日々を思い返しているようだった。 きっと、クサカがいなくなる前はさっき見せていた本当に幸せそうな顔で、日々を送っていたんじゃないかと思う。だからその分、いなくなってからの高杉は、つらい日々を送っていたのではないだろうか。 せめて、少しでも思い出してあげられれば。 そう思って、久坂は胸の奥が少し痛んだ。 高杉が伸びをして、ベッドから降りた。振り向かないまま久坂に告げる。 「でも、なるべくこんなことしないから」 「こんなことって?」 「うん…だから、こうやってこんなに長い時間お前と一緒にいるってこと。学校とか…日常とか…なるべく俺は少し離れてることにしてるから」 そういわれて、初めに学校で声をかけてきて以来、あやかしに襲われるまで高杉が何も話しかけたり接触してこなかったことを思い出す。 「そういえば…そうだよな。なんで?」 不思議に思って聞いてみる。 「そりゃ…。さっき言ったろ。俺の周りは血なまぐさいって。お前は確かに俺たちにしか見えないようなモノが見えたり…気配とか感じられたりして、他とはちょっと違うかもしれないけど、でもやっぱり人間だから。本来なら力を持ってるはずのクサカがそうなってるってのは、たぶん…理由有ることだと思うから、そうやって人間の生活してるお前の生活を乱したくないんだよ」 変なことに巻き込まないようにする、予防策。そうも言って、高杉が微笑んだ。でも、ちょっとつらそうに見えた。 俺はクサカのもので、クサカは俺のものー 昨夜高杉が言ったことを思い出す。自分がそのクサカなのだとしたら、ずっと一緒にいたいと思うほうが自然なのに、あえて離れるという。裏を返せばそれだけクサカが大切なのだ。 「でもさ。たまには、こうやってお前の所に来て、お前を独占しててもいいかな」 ベランダで靴をはきながら高杉が聞いてくる。 「はあ?独占って?」 「俺的、エネルギー充填」 「なんだよ、それ」 冗談っぽく言う高杉に、初めて笑って返した。 笑顔でそのまま、いいよ、と答えた。 その笑顔を見て、高杉がふいに顔をそらす。 不思議に思って近づいた。 「…ごめん、ちょっとだけ…」 言うが早いか、近づいた久坂を正面から抱きしめた。一応、力を加減はしているみたいだが、思いっきり高杉の胸に取り込まれる。しかし、それは数秒で終わり、今度は高杉が力を緩めて、久坂に唇を近づけた。 「!!」 驚いて、身を固くする。反射的に目をつぶった。 久坂のその反応に気づいて、唇に触れる寸前で高杉が動きをとめる。 恐る恐る久坂が目を開けると、ちょっと困ったような高杉の顔があった。そして、そっと久坂から離れる。 「じゃ、月曜日に。学校で」 久坂が何かを言う前に、その背中は姿を消していた。 あっという間に、季節は梅雨をすぎて、夏を迎えた。世間も、とっくに衣替えを済ませていた。この学校の夏服は、白いシャツではなく、うすい青色である。胸ポケットの所に黄色く校章が縫いつけてある。これも学校始まって以来変わっていないらしい。そんなわけで、全体的に黒かった学校の雰囲気が、少し夏らしく、まあ爽やかに、といえば爽やかに変わっていた。男ばかりな環境は変わらないので、爽やかも何もなかったりするのだが。 学校中は今期末テストに向けて、必死なモードが広がっている。中間テストはさほど問題はないのだが、学期末テストはある程度の点数をとらないと、夏休みに補習が待っているのだった。高校始まって初めての夏休みを補習でデビューしたくない!という熱気が教室中にも満ちている。普段勉強しない生徒達も、ノートを借りたり、ヤマを聞いたりと忙しい。中にはあきらめてしまってさぼる算段をしている者もいる。人それぞれだった。 久坂は、といえば、特にあせって準備するほどでもなかった。が、手を抜けるほど出来ているわけでもない。一応、休み時間も問題集に目を通し、また、新しくできた友人達と情報を交換し合ったり、まあ、それなりに対策をほどこしていた。 相変わらず高杉は朝向かえに来て、夕方送っていく、ということはしているが、それ以外であまり接触してこない。この間たまたま掃除の当番が一緒になって、教室に2人きりになったことはあったが、特に何があるということもなかった。久坂としては、本当はいろいろと聞きたいことがある。特に、クサカのことを聞きたいと思うのだが、高杉はなかなか自分から話し出そうとはしない。ただ、その登下校の際に、ぽつぽつと自分たちのことを話してくれる。そして、久坂が知らない間に起こって、知らない間に高杉が終わらせているあやかし襲撃のこともそれとなく教えてくれた。 初めのあやかしの襲撃から約2ヶ月。久坂はそれまでに2度あやかしに遭遇していた。もちろん、高杉の助けによって、撃退したことは言うまでもないが、そのたびに高杉はどこかしら傷ついていた。たぶん、自分を守りながら戦うというのは、難しいことなのだろう。そう思って、なるべく邪魔にならないようしようとするのだが、どうにも恐怖で身体が動かない。結局、いつも助けられてばかりだった。 俺は、本当に守られることしかできない人間なんだな そう思って、少し複雑な気分になる。自分がこんな人間ではなくて、ちゃんとクサカとして転生していれば、高杉はこんなに傷つきながら戦うこともなかったのではないかと、どうしても考えてしまう。いつも高杉に守られてばかりの自分が高杉にしてあげられることはなんだろう、と最近よく考えていた。 期末週間がちょうど終わった夜、まるでタイミングをはかったかのように、あやかしが久坂の前に姿を現した。 石の、形をしたあやかしだった。 ちょうど高杉と久坂の家にいつものように一緒に帰っていたところだったので、たやすく戦闘は始まる。ただ、それを邪魔にならないように離れた場所で見守りながら、久坂はふと、今までと違う違和感に気がついた。 それはこういうことだ、とはっきり言えるものではなかったが、このあやかしの気配に、攻撃欲とか、支配欲とか、そういった欲望のほかに、何か考えている節がある。戦い方も高杉が下等なあやかし、というわりにはなぜか高杉の戦いを観察している風があった。そして、その目はいつも久坂をとらえている。高杉と間合いをとって戦いながらも、こちらを気味の悪い視線で見ているのがわかる。 高杉が何度石の固まりのようなこのあやかしを爆砕しても、規模は小さくなっていくが、すぐに砕けた破片を融合させて襲いかかってくる。なんどか攻撃した後、高杉がいったん間合いをとるために久坂の近くまで跳躍して移動してきた。 「あいつ…今までの奴らとなんか違う。どこか、変だ」 高杉がつぶやいた。久坂も、ちょうどそれを思っていたところだったので、高杉にかけよって、同意する。 「やっぱり…あれ、変だよな」 「お前、何か感じるのか?」 高杉がこちらを振り向いて聞いてくる。 「あの…しっかりそうだ、とわかったわけじゃないんだけど、今までのあやかしと違って、何か狙っているような気がするんだ。お前との戦闘も、今までのあやかしのように倒そうと襲ってくる、というよりは、お前の力を測ってるって感じがして…」 とりあえず、自分が考えていたことを口にした。 やっぱ、そうだよな、と高杉がつぶやいた。 久坂をかばうように前に立ちはだかると、石のあやかしをじっとにらみつける。 「あいつ、もしかしたら、誰かに指示されて動いてるかもしれない。あやかしには普通そいうことはないんだけどな」 「なにか、別の目的をもって動いているってこと?」 久坂も恐る恐るたずねてみる。 「どうかな…。普通、あやかしはそんなことしないから…。目的としては、たぶん今までのやつらと一緒なんだ。でも…確かに、何かを狙ってる。」 ついでに、と付け加えた。 「あいつの生命を維持してる核…。こちらからではどこにあるかわからないくらい小さい。一気に粉砕しないと、核だけ逃げちまう可能性だってある。」 高杉がさきほど傷つけられた肩口の傷にそっとふれる。そこに流れる血を指ですくい取った。そして、振り向かないまま久坂に告げる。 「なんか、時間かけても悪い方向に進みそうな気がするから、次、大きいやつでしとめる。だから、すごし離れてろよ」 「あ、うん。わかった」 久坂も指示通り、適当な位置に離れた。 先ほど爆砕されて粉々になった身体をかき集めるようにして形を整えていき、あやかしが吠えた。ただ、その瞳は、目の前の高杉ではなく、久坂をみていることが、久坂にははっきりと感じとれた。 高杉が、血のりのついた指を頭上に高く上げる。あやかしは、体勢を整えて、攻撃姿勢を示した。高杉が一瞬目をすがめる。上げていた手を振り下ろした。 「坎、艮、水…縛ッ!!」 高杉の手から、大量の水が噴き出した。それはあやかしだけでなく、それを形作っていたまわりに散らばる粉々になった石の欠片も一緒に磁石のように水の中であやかしにまといつき、水の檻の中にとじこめられたあやかしは悔しそうに吠えるのみで、身動きもできない。 そうして形作ってるものがひとまとめになったところで、間髪入れずに高杉が両手をひろげて叫ぶ。 「爆砕!!」 化け物の、気味の悪い叫び声が聞こえた。あやかしを覆っていた水も術と共に四散し、石が粉々に砕け散る。その時だった、久坂は、いつもなら、それで薄れていくはずの気配が鋭く、小さな固まりになって早いスピードで向かってくるのを察知した。 ーーーーーーこの時を待っていたよ。 ーーーーーーその身体、俺に喰わせろよ。 気味の悪い声が叫ぶ。久坂は反射的に身体を腕で抱きしめるようにしてかばい、身をかがめた。 「!!っ…!!しまった!!」 高杉が同時に右手を久坂のほうに伸ばす。 何かがぶつかる音がした。同時に、何か焼けるような、嫌な臭いがあたりに広がる。久坂は恐る恐る目を開けた。 目の前で高杉が自分の前でそのあやかしの核、を手のひらで受けとめている。その受けとめた手が焼かれたようにただれて、嫌な臭いを漂わせていた。 核は、なおも久坂の方へ行こうと、ぐいぐいと高杉の手を押していく。 「ぐ、あ、あ…っ」 素手で受け止めて、さすがに苦しいらしく、高杉から苦痛の声が漏れた。だが、右手に力をこめて、核を握ったまま地面にたたきつける。高杉が肩で息をしていた。つらいだろうということが見て取れる。久坂はいてもたてもいられなくなった。 「た…高杉っ!何か…何か俺にできることはないか?!」 木のあやかしと戦ったときのように、何か高杉の役にたてないかと、叫ぶ。 「何もねぇよッ…!!」 高杉の罵声が返ってきた。しかしそれは、久坂をののしったというよりは、苦しい息の下からやっと絞り出した言葉、という感じであった。 あまりにも役立たずの自分にどうしようもなくなって、久坂はとりあえず高杉に声をかけた。 「高杉…!俺、お前のこと信じてるからっ!お前は…お前は強いって俺、思ってるから!!だから、だからがんばれ!」 こんなときにエールを送るのもなんだな…。とか、頭の中では考えたが、その時は必死だった。 苦しそうにうつむいていた高杉の肩がぴくり、と動いた。 「それ…いいな…」 ぼそりとつぶやく。 苦しそうな表情はかわらないが、久坂を一瞬ふりかえって言った。 「それ、もう一回たのむ!」 「それって…今の?」 こんな状況で冗談を言うわけでもあるまい、と思い、とりあえず久坂も必死になって叫んだ。 「えっと…高杉、がんばれ!傷の手当てとか、なんだって、俺、するから!だから、がんばって勝ってくれ、高杉!」 今できる精一杯のエールだった。 今までうつむいていた高杉の肩が少しふるえる。 高杉の力が今まで以上に右手に集約してきているのがわかった。 「っよし!元気出た!!」 高杉が、思い切り右手に力をこめたのが、久坂にも気配でわかる。 「……力を自らの中に収めよ、幻妖集握ッ!爆砕!!」 途端に、高杉の手のひらの中で爆発がおこる。 あやかしの、くやしそうな断末魔が響く。 ーーーーーーもうずごじ、ずごじ、だったのに…あの、身体を… もう言葉にはなっていなかった。だが、気味悪さはやはり変わらない。 今度こそ完全にあやかしの気配がなくなってから、久坂は高杉に駆け寄った。 高杉は右手の手首を掴んで苦しそうな顔をして動かない。 「……っ…!!まじ、痛い…。こういう時に運悪く水、もってないんだよな…」 がっくりとその場に腰をおろした。 ミネラルウォーター…いつも持ち歩いていたのは、飲むためだけじゃなかったんだ。そう考えてから、自分の家に買いためてあったことを思い出す。 「えっと…だぶんそうなんだと思ってはいるんだけど、水道水とかじゃだめなんだよね?」 近くに公園があるので、一応聞いてみる。 「そりゃ…文字通りこの場合は焼け石に水だよ…」 高杉がため息をつきながら答えた。 「じゃあ、俺の部屋へいこう。俺、家にミネラルウォーターあるし、手当もできるし」 もともと久坂の家に向かっていたところなので、その方が早い。 そうだな、と高杉もつぶやいて起きあがった。 家に連れてきたといっても、正面から入るわけにはいかないので、高杉はまたベランダからの進入である。 久坂は急いで家にもどると、試験の後でいろいろとやることあって忙しいから、と両親に手早く理由をつくって部屋へこさせないようにする。我ながらあまり出来た言い訳じゃないな、とは思ったが、とにかく今は高杉の手当のほうが先だった。冷蔵庫をあけて、買い置いてあったミネラルウォーターのペットボトルを2,3本とりだす。そして、タオルと一緒にもって部屋へと急いだ。その背中に母から声がかかる。 「誠ったら、ご飯食べずに、水だけ飲むつもりなの?」 「あ…えっと…あとから食べるかもしれないからラップしておいて!」 それだけいって、急いで自分の部屋へと戻った。 部屋へ戻ると、すぐにベランダの窓の鍵をあける。窓をあけて、高杉を中へ導いた。床へと座らせる。 傷の箇所は先ほどの右手の手のひらと、あとは肩口が切れたようになっている。右手の傷は、まるで熱い鉄をつかんだように皮膚が熔けて周りはこげており、血は黒く固まっていた。思わずうっとうなる。肩の傷は切られただけのようだったが、そこもまるでやけどの後のように赤く腫れ上がっていた。 「えっと、治療ってどうやればいい?」 方法がわからなくて聞いてみる。 「ああ、いいよ。自分でできるから」 高杉がペットボトルとタオルをうけとって、タオルに水をひたした。たっぷりひたすと、それを右手にそっと押さえ込む。 「っ…い、た…ッ」 さすがに高杉が一瞬顔をしかめる。 押さえたタオルから、蒸気のようなものがわきあがった。高杉が歯をくいしばっている。 「あの…、タオル、新しく水にひたすか?」 何も出来なくておろおろしながら久坂が訪ねる。 大丈夫、と答えて、高杉が押さえているタオルの上からまた水をかける。そしてまた、派手に蒸気のようなものがあがった。 しばらくして、高杉が、大きく息を吐いて、タオルをそっとはずす。 右手の傷が治っていて、久坂は驚いた。ただ、焼けただれた跡や、切り傷のようなものは治ったが、そこに傷があったことをしめす跡がひきつれのように残っていた。これも、いずれは消えるんだろうか? 高杉が、同じようにタオルに水をひたして肩口の傷にあてようとする。それを久坂がやんわりと制した。 「俺に、やらせてよ」 何も出来なかった自分がせめて高杉にしてあげらること、そう思って、久坂は高杉からタオルをうけとった。 「…じゃ、たのむ」 そっと、その傷口にタオルをあてた。せめて痛くないように、なるべく力をかけないように、そっと、水をしみこませていく。こちらの傷は先ほどに比べるとたいしたことないようで、すぐに傷跡はふさがった。無事に治療できて久坂もほっとする。 サンキュ、といいながら、高杉がその肩をぐるぐるまわしたり、右手をにぎったり開いたりしていた。 そこでやっと、久坂は疑問を口にした。 「でも、なんで水でこんなに治っちゃうんだ?」 「ああ、それは単純に、おれが水でできてるからだよ」 「え?み、水でできてる?!」 驚いて声をあげる。 高杉が、言い方間違ったな、という表情をして、説明しなおした。 「どう…いえばいいかな、俺の力の源は水、ってことなんだけど…。俺は水から力を得て、それを発することで力とする。えっと…それで、わかるか?」 高杉が自分の説明にいまいち自信がないらしく、久坂に確認するように聞いてくる。 「じゃあ、水がなかったら、力もだせないって…そういうこと?」 「まあな、この世界から水が一滴もなくなって、ついでに俺の中にある水…たとえば血液だったりするんだけど、そういったものもすべて枯れてしまったら、だめなんじゃないかな」 高杉があごに手をあてて、考え考え話している。 水から力を得て、それを発することで力とする…それを聞いて、久坂はこれまでのことを思い出していた。 はじめて木のあやかしから助けてもらったとき、彼は炎を使ったが、確か、その前に“あまり得意じゃない”、みたいなことを言っていた気がする。そして、次の日に襲ってきたあやかしをはじくために張った結界は、まるで水の中にいるようだった。そして、いつも爆砕、している時の炎ではなく、まるで水蒸気爆発のような熱気。 そうか、と納得した。 「だったらさ、水だけ飲んで生きていけるって事?」 「そりゃ…その気になれば、そうすることもできるけど、結局は力は自然界からわけてもらってるものだから、自然界に生きているものを料理という形で食するのは身体にもいいことだから、水だけ、なんてことは現実にはしてない。まあ…でも、疲れた身体を回復させたりするには、質のいい水が一番なんだけどな」 へー、と感心する。それで、前スーパーの安い水がどうの、と文句をいっていたのか。そう考えて、久坂はある考えがひらめいた。ずっと、高杉に御礼に何かしたいと思って考えていたのだ。実は、その安い水云々のやりとりのあと、今度高杉が来たときに、と思い、自分なりに高い(でも限度はあるが)水を購入していたのだった。それって、自分を守って戦ってくれてる高杉へのプレゼントになるかな?と、そう考えるとちょっと楽しくなってきた。 「なあ、もう傷の手当てすんだんだろ?だったら、これ、飲んでみない?」 手に持っていたペットボトルを高杉に渡す。 「うん…ありがたいけど…。さっきのやつと違うな。わざわざ用意していたのか?」 ふたを開けながら聞く高杉に、久坂は思いきりうれしそうに、うん、と頷いた。なんだか高杉が飲むのを少しためらっている。でも、それを早くのめ、と久坂の目がわくわくと促していた。 久坂のほうを少し気にしながら口をつける。ごくごくと、一口飲むと、ペットボトルから口を離した。 「どう?これもやっぱり…だめか?」 今度は不安そうに久坂がのぞき込んでくる。 ちょっと照れながら高杉がまた口をつけた。 「いや…これは悪くない。スーパーで売ってるものにしては上出来だと思うよ」 そうか!と久坂の顔がぱっと明るくなった。プレゼントが成功してうれしいらしい。高杉が、ちょっと顔をあからめている。 「わざわざ、用意してくれていたんだ…」 「だって、お前、疲れた時また俺の部屋にくるかもって言っていたじゃないか。だから、その時のためにってこの間買ったんだ」 やはりにこにこして久坂が答える。今までぜんぜん役に立ってなかった自分が少しでも力になれたようで単純にうれしい。そのまま水を高杉が飲み干すのを、静かに見守っていた。少し沈黙がながれる。高杉が口を開いた。 「明日、試験休みだったよな」 「うん」 「今日は泊まっていってもいいかな」 「えっ」 高杉が手に持っているペットボトルをもてあそびながら、久坂の返事を待っている。 久坂はほんの少しの間だが、考え込んだ。 まあ、この間もまた泊まりにくる、と言っていたし。その時何かあったわけじゃないし(まったく何もなかった、とは言い難い展開ではあったが)。今日は自分が部屋に連れてきたようなもんだし。 それに、自分の部屋に泊めてあげるっていうそれだけで、この間みたいに高杉が元気になってくれるならそれもいいか、と考えをまとめた。 「うん…。いいけど、客用の布団とか、俺の部屋ないから…それに、俺さっきかなり不審な行動して部屋にあがって来ちゃったから、一度下に降りて家族と顔あわせておかないといけないし…」 いいよ、といいながらも、言い訳をつらつらとならべた。 「それはいいよ。家族とご飯食べてくればいいし。俺はお前が来るまでベッドで寝させてといてもらうから」 慣れない試験勉強、なんてのもして頭もつかれてるからなーとか高杉がぼやいている。 「…わかった、それなら、この間みたいにそのままベッドに入られてもこまるから、これ、俺のだけど着替えてから入ってろよ」 そういって、久坂はタンスから適当にシャツと短パンを高杉にわたした。 それを手渡された高杉が、なにやらそれをじっとみつめて、くすっと笑った。 「なんだよ?」 「いや…さ、この間、品川がさ…」 品川とは、高校のクラスメイトである。女の子に目がなくて、入学早々に他校に彼女をつくっていた。いつも、それを自慢げに話している。 「品川が、どうしたんだよ」 「彼女の部屋に泊まりに行ったら、自分用の寝間着が用意されていて、いつでも来ていいってフリーパスわたされた気分だってよろこんでたの思い出して…」 彼女が、彼氏に、いつでも自分の部屋へ泊まっていいというフリーパス。 それを今の自分たちの状況に置き換えて話す高杉に、顔が赤くなった。 「何いってんだよ、それと全然次元の違う話だろ!さっさと着て、寝てろ!」 照れも手伝って、少々乱暴に扉を閉めて、階下へとむかった。 台所で、一人遅い夕食をとる。母がおかずを暖め直してくれた。高杉にもっていかなくていいかな?と考えたが、まあ今日のところはいいか、と思い直した。もくもくと食べている久坂に、母が話しかける。 「明日はお休みなのよね?」 「うん。そうだよ。期末終わったから、試験休み」 「明日は思いっきり朝寝していてもいいわよ」 久坂が箸をとめた。 「なんで?」 「父さんと母さんね、明日親戚の法事の関係で、朝早くにでかけなくちゃならないの。帰ってくるのはたぶん夕方くらいになると思うけど…。ご飯用意しておくから大丈夫よね?」 一応心配そうに母がきいてくる。 「あ、そうなんだ。こっちは大丈夫だから、気をつけていってきなよ」 頭の中で、だったら、家族を気にせずに、高杉を寝かしておいてやることができるなーとか、考えていた。 「でも」 母がちょっと意地悪そうな顔になって身を乗り出した。 「母さんのしらないうちに、彼女とか、家にあげていたら嫌だからね。誠ももうそういう年だから、ちょっと心配になっちゃうわ」 何か母が感づいているんじゃないかと思って、心臓がはねあがった。 「そ、そんなのするわけないだろ、何へんな心配してるんだよ」 別に彼女とかそんなのではないが、ちょっと友人というのも微妙なものを家にあげてますが。 心の中でうしろめたいのか、言い訳をしている。 「正確にいうと、心配してるんじゃないのよねー。そうなったらちょっと楽しいかなって思ってるだけ。つきあってる子できたらちゃんと紹介してね」 にこにこと母が微笑んでる。 …単純に楽しいのだろうな、と考えて、ため息をついた。はいはい、と適当に返事をしておく。 食事も終わり、さっさと風呂に入る。明日高杉とこの家で2人なら、何かまた話をしてくれるかもしれない。と、そんなことを考えていた。 二階にあがり、自室のドアをそっと開けた。 「高杉…?」 ベッドの方をみると、高杉が潜り込んでいるのが見えた。 寝たのかな? そう思って、そっと近づく。 のぞき込んでみても、動かない。本当に、寝てしまったのかもしれなかった。 それを確認して、ほっと胸をなでおろした。 寝ているであろう高杉をおこさないように、自分もそっとベッドにあがり、横になった。高杉がかけているタオルケットを、少し自分にもかけようと手に取ったその時だった。 「あっ…!!」 寝ていると思っていた高杉が横にいる久坂を抱き寄せる。そのままぎゅっと久坂を抱き込み、久坂の肩口に顔をうずめた。 「ちょ…ちょっと、な、何するんだよ!」 まだ両親も起きているので、大きな声をだすわけにもいかず、久坂が小声で抗議する。高杉が、肩口に押し当てていた口を少しずらすと、その息が久坂の首筋から耳のあたりにあたって、久坂がびくりと身体をふるわせた。抱きしめられている身体を固くする。自分の筋肉という筋肉が緊張して、全体で抗議をしめした。 はぁ、とため息をつくような高杉の吐息がまた耳の辺りにかかった。ますます身を固くする。そんな久坂に高杉がぼそりとつぶやいた。 「…人間って、なんかおカタイんだよな。…それとも、お前がそうなのかな…」 たかが、このくらいなのに、ともぶつぶつつぶやいている。 それを聞きながら、やっと久坂も正気が戻ってきた。とにかく、抱きしめられてる体勢を少しでも変えようと、両腕を高杉の胸につっぱって、少しでも距離をとった。 「だ、誰だって、こんなのおかしいって思うだろ!お前はいったい、何したいんだよっ!」 やはり小声でそれでも怒気を加えて訴えた。 少し距離をとったことで、横になったままちょうどお互いの瞳を見つめ合う格好になった。高杉の瞳に、真剣な色合いが浮かんだのがわかった。高杉も、久坂を抱く手はそのままに、声を落として言った。 「まじめな話。」 「え…何…?」 「だから、今からすることは、まじめな話。」 「そ、そうなんだ…」 じゃあさっきのは一体なんだったんだ、と思ったが、高杉も真剣な表情をしているので、体勢はそのままに、続きを促した。 「今日出てきた奴、なんか変だっただろ。断定はできないけど…少なくとも、俺がどういう戦い方をするのか、ってのは知っていたんじゃないかと思う」 黙って高杉を見つめながら聞いていた。確かに、あのあやかしは、高杉の力を測っているような感じだった。戦い方を知っていたが、自分の力と比べるとどのくらい差があるのかは知らなかった、ということだろうか。 「それに…。奴、はじめっからずっとお前のこと気にしていた。でも、お前を直接襲ったりはしなかった。それもおかしいって思ってた」 「そうか…。そう、だよな。今までは力の強いお前より、まずは俺を狙ってくることの方が多かったし…」 自分が少し他の人間と違うというのがあやかしにわかるのか、今まで遭遇したあやかしは久坂を傷つけてその血を狙う、とか、内蔵を喰らうとか言った奴もいた。自分があやかしにとってどうしてそういう対象になるのかはわからないが、とにかくとっとと殺すなり傷つけるなりして、「喰らい」たがっていた。 「今までのあやかし達にとって、お前は喰ってみたい食材だった、って訳だよ」 「食材って…。嫌だな、それ」 そんなにおいしいとも思えないが、あやかしの思うことなので、想像もつかない。 「でも、奴は違ってた。逆に、お前を傷つけないようにしておきたかったんだ」 「どういうこと…?」 高杉の、久坂の背に回していた手に少し力が籠もった。 「これは…推測だけど、たぶん、間違っていないと思う。奴のねらいは、お前自身だったんだよ」 久坂が驚いて目を見開いた。 「俺自身?」 そう、と高杉がつぶやいて、抱いていた腕をほどいて、久坂に自分の右手をみせた。先ほどより、傷はうすくなっていた。このまま消えていくのかもしれない。 「俺がつかんだあれは、奴の核なんだ。あの核をつかって、石の属性である奴は、石で自分の身体を形成してた。でも、奴ははじめからあの身体を捨てるつもりだったのさ」 「捨てて…どうするの…」 何となく高杉の言いたい事がわかったような気がして続きを聞くのが怖かったが、それでも聞いてみる。 「お前の中に入って、お前をのっとって、自分の身体にしようと考えたんだろうよ」 あやかしの声が頭に響いてきたときのことを思い出した。 ーーーーーーこの時を待っていたよ ーーーーーーその身体、俺に喰わせろよ 「でも、あいつ、喰わせろって言っていたよ?」 「同じことさ。お前の中に入って、お前の人間としての存在を食い荒らして、支配する。そして、自分の身体にする。そんなところだよ」 自分の中が食い荒らされる。ぞっとした。 でもなぁ…、と、高杉が久坂の方に向いていた体勢を変えて、仰向けになり、天井をにらんでいる。 「あれくらいの下等のあやかしじゃあ、そんなことやっても意味がないはずなんだよな…」 「意味がないって?」 「維持できないってことだよ。あいつは石の属性だし…。石ころならいろいろとあやつれるんだろうけど、人間の身体をあやつれるような高度なことはあいつの妖力くらいじゃ、結局うまくいきっこないはずなんだ」 高杉は腕を組んで、何か思案している。 「それに…俺がお前の側にいるっての、はじめからわかっているのも、おかしい。いや…正確に言うと、お前を守って絶対に俺が戦うと確信していたところが、なんかおかしい」 あのあやかしは、久坂を狙えば高杉が攻撃してくることを初めから承知していたということになる。そして、高杉の繰り出す力が、どういう力なのかも、知っていた。たぶん、爆砕されて、自分が粉々になり、倒した、という錯覚を起こさせて核だけ飛び出した、というところか。 ーーーーーーこの時を、待っていたよ また、あの時のあやかしの声が頭に響く。確かに、あのあやかしは、高杉によって自分が粉々になる瞬間をまっていたのだろう。 「あの…あやかし同士で、何か連絡とったりとか、そういったことはしてないの?」 どう考えても、自分たちの存在をあのあやかしが初めから知っていたとしか思えない。 「普通は…ありえないんだけどな。しかも、あんな中途半端な…。もっと頭のいいあやかしだったら、確実に狙ってくると思うんだよ。でも、あいつは何かたくらんでいるみたいだったけど、しょせんは下等なあやかしにすぎないんだ。それが、どうしてそんな自分の妖力に見合わないようなことを考えたのか…」 「お前、戦ってる時、誰かに指示されているかもしれないっていっていたよな」 久坂が思い出して問いかける。 うん、と高杉が腕を組んだまま答えた。 「連絡もとったりとかしないあやかしが、そんな指示をうけるようなこと、あるの?」 「そういうこと出来る奴…いるからな。正確に言うと、指示されて動いた、というよりは、単純に何かを信じ込まされて動いたって感じかもな…。あんな妖力でも、人間のお前を乗っ取れるという確信を、奴が抱くような、何か」 「信じてしまうような、何か…」 久坂もつぶやいて、うつむいた。自分に何があるというのだろう。高杉からはあまりクサカや、妖や、あやかしのことについては詳しく聞いていない。だから、想像のしようもなかった。でもこれは、今の人間の自分自身に関係することではなくて、やはりクサカ、に関係することなんじゃないだろうか。どちらにしても、もしそんなことをするあやかしがさっきの奴だけじゃないとしたら…。 そこまで考えて、全身に悪寒が走った。恐怖というよりはなぜか気持ち悪さに身震いする。あやかしが、妖力で自分の身体を支配しようとする、その事が、思い出せそうで思い出せない、自分にとってひどく嫌なものに思えた。こんなのを既視感、というのだろうか。 震えている久坂に気がついて、高杉が身を起こして久坂をのぞき込んだ。 「お前…大丈夫か?顔色が真っ青だぞ…何か、怖かったのか?」 久坂が震える身体を抱きしめながら首をふった。恐怖じゃない。でも、すごく嫌なもの。そして、なぜか胸をしめつけられるくらい、悲しいなにか。同時に正体のわからない不安が襲ってくる。記憶があれば、ここまでわけのわからないものに悩まされることも、怯えさせられることもないだろうに。久坂は無意識に高杉のシャツをつかんで、高杉の胸にくっつくように身をよせた。 「久坂…?」 「高杉、ごめん、でも、今はちょっと…こうしてないと…」 自分から接触することのなかった久坂がそうしてくることに、さすがに高杉は驚いたようだった。しかし、自分の胸の中で震える久坂を見て、そのままゆっくりと久坂を抱きしめた。 そのまま何も言わずに抱き合う。胸に顔をあてているので、頭の中に高杉の胸の鼓動がダイレクトに響いた。でも、それがなぜか心地よい。久坂が今尋常じゃないことをわかっているからか、高杉もただ抱きしめるだけで、何かしてくることはなかった。不思議だが、今まで度を超した接触を受けてきたが、今は大丈夫、という気がしている。 だんだんとさっきまで感じていた何かに対する嫌悪感、不安感が消えていく。ここは安全だ、と何かが自分の中でささやいたような、そんな気がしてきた。 「もう、大丈夫か…?」 そんな久坂に、高杉が優しい口調でささやいた。 うん…、と小さく答えてから、自分でも何も意図していない、ひとことが、口から出た。 「クサカも昔から、こうやっていたんだろうね…。本当はクサカも、お前と離れたくなかったんじゃないかな…」 「!」 その言葉に、高杉が息を飲むのがわかった。そして、久坂もはっと正気にもどる。身を任せていた高杉から身じろいで、離れた。 「あ…ごめん、今の、何気なく言っただけで、あんま、意味ないんだ…」 「…そ、だな。……。うん、お前の言うとおり、クサカがそう思っていてくれたんだったら、俺はうれしいんだけどな」 あやまる久坂に、安心させようとしているのか高杉がちょっと冗談っぽく返した。でも、さっきの一言に何らかのショックをうけたことは、久坂にも容易にわかった。クサカが高杉の前から突然姿を消したその理由も、状況もよくわからないまま、不用意なことを言った、と思った。 「えっと…変なこと言って、ごめんな。それと、さっきありがとう。なんか、落ち着いた」 「そっか。お前から抱きついてくるから、誘ってんのかと思ったけど」 高杉が笑う。そして、いつものようにけしからんことを言う。 「そんなわけあるかっ!俺、もう寝るからな」 照れも半分あって、乱暴に高杉に背を向けて横になると、無理矢理に目をつむった。後ろで、高杉が小さくため息をついたのがわかった。そこで、言おうと思っていたことを思い出す。高杉の方は振り向かないまま、口を開いた。 「明日、家の両親朝早くに出かけて…帰ってくるの夕方くらいになるから、明日は家でゆっくりしててもいいからね。俺も、聞きたいこととかあるし」 「そうなのか…。じゃあ、明日は朝からお前と二人っきりってことだな」 「うん、だから、遠慮無く話を…」 言いかけた久坂を高杉が後ろから抱きしめた。 「なるほどね、遠慮、いらないわけだ」 「ばかッ!なんの話だよッ」 騒いで起きている両親に気づかれない程度に抱きしめられてる体勢から暴れる。 「このくらい、許せよ…。せっかく一緒にいるんだから」 「だ、だからって…」 「今度は、俺が落ち着きたい気分だから」 「………」 まあ、さっきは自分がそうしていたわけだから、お互い様、といえばそうなのかもしれない、となんとか自分を納得させて暴れるのをやめる。たぶん、危惧しているようなことは高杉はしてこないだろうと思った。そのままおとなしく抱かれていると、本当に眠くなってきた。だんだんと眠りに落ちていく久坂の耳元で、高杉がひとこと、つぶやいた。 「くさか…」 それが、自分にむけられたものなのか、それとも今は現実に会うことのできないクサカにむけられたものなのか判断できないまま、久坂は完全に眠りに落ちていった。 ちなみに、次の日目が覚めると朝寝どころではなく、昼を回っていた。本当に2人ともぐっすりと眠っていたらしい。久坂はこれまでそこまで怠惰な生活をしたことがなかったので、昼をまわっても目が覚めなかった自分に驚きを隠せなかった。一方高杉は、のんびりと伸びをして、快眠、快眠、とかのんきなことを言っている。 そんな高杉を見て、久坂がちょっと顔を赤らめた。 まあ、こんなに寝てしまったのは、気持ちよかったからなんだけどね。 絶対に口に出して言えないことを心の中でつぶやいた。 実際に、高杉に抱きしめられてただ寝ている、それだけのことが、自分にはとても心地よかった。前回の時はそんなことは感じなかったし、それほど高杉のことを知らなかったからかもしれない。 でも、確かに高杉に抱きしめられるのは(場合によりけりだけど)嫌じゃないんだな、ということは解った。でも、それ以上の接触は、やっぱりどうも、抵抗がある。その辺に関しては、高杉が何を考えているのかさっぱり解らないのだった。 服を着替えて顔を洗うと、母が作り置いてくれていた朝ご飯を、とりあえず昼食とすることにした。あたりまえだが、一人分しかないので、それを高杉にも半分わけてやる。初めは高杉は俺はいい、とか言っていたが、久坂的に自分はご飯を食べているのに、向かい側で水だけ飲まれているというのもなんだかいい気がしない、ということで、無理矢理昼食につきあわせることにした。 「お前の母親って、料理うまいんだな」 食べながら、高杉が感心したように言う。 「そう…かな?普通だと思うけど」 「いや、ちゃんと心込めて料理を作ってるって感じするよ。だから、おいしい」 自分の皿にわけてもらったおかずをぱくぱくと平らげている。 まあ、料理好きだって言ってたからね…と、照れながら答えた。身内をそうほめられるのは悪くなかった。 一人分しかなかったので、2人はあっという間に食べ終わる。久坂が食後のお茶でもいれようかと思い立ちあがった。 「お茶でも飲むか…って、お茶、飲める?」 「うん。問題ないよ」 久坂は適当に日本茶をつくると、高杉の前においた。食卓の向かい側に自分も座って、お茶をすする。高杉はまだ熱くて飲めないらしい。ちょっと口をつけてはふーふー吹いている。その仕草がちょっとかわいくて笑えた。 「何、笑ってんだよ」 不審気に高杉が言う。 「いや…別にね、何もないけど」 ふーん、と言った後、高杉が湯飲みを置いた。 「昨日の夜の、お前…なんか、怯えていただろ?今だったら、それ、冷静に話せるか?」 「昨日の…」 あの、既視感というか、不安感というか、あの事か、と思い当たった。 「うん…でも、自分でもよくわからない。なんだろうな、あやかしが自分の中に妖力を入れて支配する、っていうことが嫌だったのかな…。なんか、昔同じことですごく嫌な目にあったような、それがすごく不安なことのような、そんな感じで…。うまく言えないんだけど」 「そうか…」 高杉がそういって、しばらく黙って何かを考えていた。 「俺、お前にあんまりちゃんといろんなこと話してないからな。突然言われて、不安にさせてしまったこともあるかもしれないよな」 「意図的に俺に、話していないことがあるの?」 「意図的に…っていうか…。いろんなことを話して、今人間のお前を、こっちの世界に巻き込むのが正直怖い」 高杉が久坂から顔をそらした。 高杉が自分のことを考えていてくれているのは、解っている。でも、もうここまで関わって、それでも知らない振りしていろって言われてもそれもできるものではないと思った。 「俺にはよくわからないから、お前達にとって俺に話すのが都合悪いことあるなら、それは話さなくてもいいから。でも、もうちょっとちゃんと、お前達とかのこと、そして、クサカのことを知りたい」 久坂は高杉をまっすぐ見つめて言った。そして続ける。 「だって、昨日の奴みたいに、何か狙いをもって襲ってくる奴もいるかもしれないんだろ?自分で知識武装くらい、しておきたい」 高杉が、そらしていた顔を久坂に戻して、そうだな、とつぶやいた。 右手を伸ばして、久坂の手に重ねた。久坂がびくっと反応する。それをみて高杉が苦笑した。 「もうすぐ夏休みだろ?」 「あ…うん」 「ちゃんとお前に説明するために、呼びたい奴がいるから、すぐに連絡つけて、夏休み始まったくらいに一日くらいかけてゆっくりと…。いろんなこと、説明する。それでいいか?」 あと2週間ちょっとくらいか…と久坂も考えた。本当は今ここで聞ける範囲を聞いておきたいけど、高杉がそう言うということは、高杉から聞くよりもその人物から説明するのがいいと判断したということなのだろう。それか、高杉には説明しにくいことなのかもしれない。 「わかった。俺、別に、夏休み特に予定ないし。たぶん、今回の手応えの感じだと、補習もひっかからないと思うから大丈夫だと思うよ」 そこで、高杉が現実にもどったような顔をした。 「補習って、そんなのあったっけ?」 「言われていただろ、テストの中で、一つでも点数の横に赤丸がついたものがあったら、夏休み始まってから2週間くらいは毎日補習だよ。…まさか、お前が、補習ひっかかる、なんてこと…ない…よな?」 とりあえず、聞いてみる。 「や…多分、大丈夫…と思う。あんまりそんなこと考えてなかったからな、こう、いい点を目指すというよりは、そこそこ平均点くらいとるつもりくらいでいっかなーとしか考えてなかったから」 「大丈夫かよ…」 お前、勉強できないの?といつも頭悪いと言われている仕返しに意地悪く聞いてみた。高杉がちょっとうろたえる。 「できないわけじゃないけど、今まで学校、なんて組織に行ったことなかったし、今回はお前のそばにいるのが目的だったから、短期間で小学校?とかその次の中学校?とかの勉強を一通り頭に入れたんだよ。だから、今の授業については、すでに知ってる範囲をのぞけばはじめて入れる知識だから…。人間の中に紛れ込んでいるんだし、目立ってもしょうがないから、まあ適当でいいか、と…しか…考えてなくて…」 最後の方はちょっと声が小さくなっていた。 ああ、勉強ができないわけじゃないんだ、と久坂は納得する。確かにあれだけスポーツ面では目立ってるから、これで学問もできる、となったらかなり目立つ存在になるだろう。まあ、妥当な判断だったのではないかと思う。 とりあえず、少し自信のなさそうな高杉が見れたのが新鮮だったので、補習引っかからないといいねーとだけ、笑顔で返しておいた。 時計に目をやると、2時半をまわっていた。 「これから、どうする?」 高杉に予定を聞いてみる。 「どうするもなにも…そうだな、桂に連絡とらないとなぁ…」 そっか…と、久坂がつぶやいた。自分から頼んだのだから、仕方ない。呼びたい奴っていうのは、以前に聞いた強力な力を持った大妖の、あの桂ならしい。 「じゃあ、もう帰る?」 「………なんか、帰って欲しくなさそうな口調じゃないか、めずらしい。どうしたんだよ?」 「べつに…」 久坂が口ごもった。 高杉は普段いつか言ったように、久坂になるべく近寄らないようにしている。だから、話ができるのは登下校の時くらいで、あまりゆっくり話す機会がない。登下校のほかで一緒にいるとしたら、あやかしに襲われている時くらいだから、なんかそれも寂しいと思っていた。 「…………」 高杉がじっと久坂を見ている。立ち上がって、久坂の側に歩いてきた。久坂の座っている椅子のすぐ横に立つと、久坂の髪にそっとふれた。驚いて、久坂が高杉を振り仰ぐ。その反応に、高杉がため息をついた。 「お前なぁ…。ほんっとにがちがちにおカタイな。それなのに、誘うようなことするなよ」 「さ、誘う…って、そんなこと、してないっ!」 顔を赤くして久坂が叫ぶ。 そうなんだよなぁ、と高杉がまたため息をついた。そして、椅子に座っている久坂を抱きしめる。 「ちょっと…」 久坂があわててその腕をはずそうとした。だか、高杉の腕は容易に離れない。 「でもさ…このくらい、いい加減許してくれよ」 「許す…って…」 それは、いいよ、とか言えばいいんだろうか?しかし、そんなことは恥ずかしくて、口にはできない。何か言おうとして言えなくて、久坂が真っ赤になってぱくぱくと口を動かしている。 そこに、電話のベルの音が鳴り響いた。 久坂は我に返って、電話をとりに向かう。高杉もこれは仕方ないので身体を離した。 「もしもし、久坂ですが」 「あ、誠ム?家にいたのね?」 「か、母さん…。法事じゃなかったの?」 電話があるとは思わなかったので驚いて聞き返す。 「それがね、早く終わっちゃって…今父さんの携帯からかけてるの。帰ったらすぐお食事にでもいきましょうよ。あと五分くらいでつくから、支度しておいてね、じゃあねー」 「あの…っ」 久坂が了解する前に電話がきられる。 いつもこの調子なんだよな、うちの親って。そう思ってため息をついた。 あと五分って、すぐだよな。車で出たんだから、五分なんてすぐ…。 そこまで考えて、高杉の存在を思い出した。 あわてて高杉のところへ戻る。 「何?」 あわてている久坂に椅子に座っていた高杉が振り返った。 「母さん達、もうあと五分もしないうちに帰ってくるって!」 「はー?夕方まで帰らないんじゃなかったの?」 高杉がちらりと時計をみて言う。今はまだ3時前だ。 「でも、早く終わったって…。とにかく、帰ってくるから!」 「わかった。じゃあ、俺も、帰るな」 そういって、高杉が立ち上がる。靴は昨日の夜ベランダから入ったのでそこに置いている。2人で二階へあがる。 久坂の部屋にもどり、高杉はベランダから出て行こうとする。それを見送っていると、靴をはいた高杉が、あらためて久坂を振り返った。 「俺は…少しはお前の信用を得られたって思ってもいいかな?」 「え…?」 高杉が優しい瞳で久坂を見つめている。久坂も、自分の中でそれは間違いない、と思った。 「うん…。そうだな、俺、お前のこと信用してる。だから、また来いよ。おいしい水、用意しておくから」 そう言って、笑う。 高杉も笑顔で、だから、誘うなって…とつぶいやいた。 高杉が宙に消えるのと、玄関の鍵が開く音がしたのは、同時だった。 両親のただいま、という声を聞きながら、久坂は外をじっと見つめていた。 第3話・了 続く
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