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ボーイズラブが前提の長編小説です。主人公は高校生。ある日、不思議な少年に出会ったことから、怪奇な事件に巻き込まれていく。惹かれ合う2人だったが…?! Copyright © 雨振舘 All Rights Reserved. Template by RESIST. Powered by FC2 Blog |
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Author:あまふりあおの 最近のコメント カテゴリー
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お話のタイトルは「DARK HALF」です。中学生でも読んでも大丈夫!ですが、ちょこっとそういう描写もありますので注意です!(指定するほどじゃないので…)
管理人の日記はリンクから”雨振舘つれづれ日記”へどうぞ。お話についてもつぶやいてます。 拍手、コメント、メール大歓迎です!感想ぜひぜひクダサイ! 著作権放棄してないですよ。無断使用、転載等やめてくださいね。 ☆管理人とはこんな奴 ☆日記はこちら ☆登場人物紹介へ ☆あらすじへ ![]() 〜アンケートご協力ありがとうございました!結果発表をお楽しみにvv〜 ☆☆こんなのあったので作成してみました。はじめからこういうアンケート作成してればよかったかも…。 人物アンケート気が向いたらやってみてください…。
2007/05/19
/23:26
――――――風がね、君にね、教えてあげなよっていったんだよ。
――――――風…、ね。それこそどいう風のふきまわしだい。 ――――――君ね、やっぱりね、ニンゲンに興味あるんだよね、その、しゃべり方もね。 ――――――何だっていうんだい。 ――――――でも、完全にね、人型をね、とれないんだよね、残念ながらね、君の、その力のままじゃね、そうね、風がね、言っていたんだよ。 ――――――…………。 ――――――興味ね、あるよね、このね、風の話ね、君がね、望んでることがかなうかもしれないんだよね。 ――――――信用、できんな。オマエなぞ。 ――――――信じてみてもね、損じゃないかもね、しれないよ。だってね、風がね、噂してるね、とってもいいお話だからね。 夏のとある場所、とある夜。どこかでそんな会話がかわされていた。 8月に入った。桂と会った後に宣言した通り、高杉は久坂が図書館に行く時はちゃんと図書館で何か読んでいる。長机でむきあって、特に会話をすることなく過ごすことになった。もちろん、毎日そうというわけではなく、高杉も飛目としての役割があるので、図書館に来られない時もある。それが事前に解っているときは律儀にもやはり夜久坂を訪れて、あやまっていく。 別に、約束してるわけじゃないんだし。 そういって、久坂が答えると、高杉はそんなことないだろう、と当然のように言う。 公然と側にいられる機会を許してもらえたんだから、俺は行くの。お前はそれをだめっていわなかったんだから、約束と一緒。初めてする、お前と、 俺との約束。 そういって、また邪気のない笑顔をする。 なんか、イメージ的に飼い主と一緒にいられることを喜んでる犬がしっぽ振ってる感じ。 そんなことを思いついて、ため息をついた。 本当に素直に、俺と、一緒にいたいって思ってくれてるのかな。 たまに不安になる。でも、今の自分でもいいって、今の自分が昔のクサカじゃなくても一緒にいたいっていう気持ちを持ってもらえるならそれでもいいのかな、と最近は納得させるようにしていた。で、その約束通り、夏休み図書館で本を読むか、宿題を一緒にするか、そういった毎日になったわけである。 日常が、非日常に変わる刻はそんなに待ってはくれなかった。 夏休みだというのに、制服を着て、久坂は学校の正門に集合していた。毎年8月に行われているという、有志参加の課外学習に出るためである。課外学習といっても、そんな難しいことではなく、学校が持っている郊外の合宿所へ一泊して、宮前市の自然を体感する、とかいう名目の自然学習だった。この行事は昔学校の学長がその職を辞して市議会議員に立候補するにあたって、イメージアップのために始められた、といわれている取り組みで、今では形骸化している。まあ、暇な人が参加する遠足のようなものだった。 多くの参加者は親が学校になんらかの関係があって、建前上参加をさせられているとか、仲が良い物同士、文字通り暇だから遊びに参加したりとか、そういった程度な上に、参加は一年生に限られているから、参加人数は20人くらいだ。ちなみに久坂は自分の意思で参加、高杉はそれに無理矢理くっついて参加、というところだった。 「なんでわざわざこんなに徒党を組んで行くのに参加するんだよ」 送迎用のバスに乗り込み、やや後ろ側の窓際に久坂が座ると、隣にどっかりと座りながら高杉が聞いてくる。 「この課外授業の場所がね、父さんが今浄化する場所として力を入れている宮尻川の源流だからだよ。俺の父さんがあの市内に流れている川を綺麗にしたいっていう目標がどのくらいなものなのかなって思って。源流みたくなったからね」 久坂が少し照れ笑いをしながら高杉に微笑みかける。久坂は身内のことを話すとき、照れくさそうに、でも少し誇らしそうに笑う。 「ふーん…」 と、高杉が何かを考え込むように手を顎に当てて首を傾げながらうなづいた。 「何だよ」 「お前、水好きなのか?」 唐突に聞かれて、は?とよくわからない、という表情で久坂が返した。 「いや、この前の桂の話じゃないけど…。いやに、水にこだわるなーと思って。いつもくれる水とか」 ああ、クサカが転生先に今の「久坂」を選んだのは、水をきれいにしようという研究をしようとしている今の久坂の父親が関係あるんじゃないか、というあれか。 「…うん。水は…好きだよ。ただ…」 「ただ…なんだよ。好きじゃない部分とかあるのか?」 高杉がちょっと不満そうに聞き返す。 「俺さ、眺めるのは好きなんだよ。海も。川も。湖も。だけど、その中に入るの、だめなんだよ。怖くて、水の中に入れない」 「はぁ?!」 今度は高杉の方がよくわからない、という表情になった。 「泳げないわけじゃないんだぞ。…プールなら…人工的につくった囲いの中だったら入れるんだけど、こう、その…自然の中にある水には入るの怖くてだめなんだよ」 「な、なんで、人工的なのがよくって自然なのはだめなんだよ!」 高杉がまるで自分が嫌われたかのように必死になって久坂に向き直る。 「よくわからない。昔から、両親が俺を川とか海に連れて行ってくれて、その中へ連れて行こうとすると、ひきつけを起こすくらい泣いて嫌がったんだって。でも、ただ眺めさせているだけだと、大人しかったんだって。だから今でも理由はよくわかんないよ」 久坂も説明しづらいな、と思いながら話していた。 高杉が黙っている。それに気づいて、ちょっとのぞき込むようにして名前を呼んでみた。 高杉が手を口に当てたまま、うつむいている。 「…じゃあさ。俺が水属性って聞いたとき、嫌じゃなかったのか?俺が力にするのは自然の水だよ。結界張った時もそうだ…その時、怖くなかったのかよ」 高杉は、どうもショックをうけているらしかった。 久坂は、それを聞いて、今までそんなこと考えつかなかったことを思い出した。確かに高杉は水属性で、気配も水。でも、高杉に抱きしめられたり側にいられるのは嫌じゃない。高杉の張った水の結界の中でもそれ自体は全然怖くなかった。 「…怖くなかったな。お前に関する水は、全然俺、怖くないんだよな。なんでだろ?」 久坂も首をかしげる。 なんでだろうねぇ、とまだショックから立ち直れないでいる高杉も横でため息をついた。 合宿所に着いた。人数も少人数のため、2,3人部屋を割り当てるのではなく、大広間に布団を敷いてのまるで部活か何かの合宿のようになった。 到着したのは昼前。まずは合宿所の掃除からはじまった。それが終わったら昼食を食べる。そして、食べ終わってこの学習の趣旨を座学で終えると、夕方まで5,6人にわかれて周辺のフィールドワークとなった。これを明日の午前中もすませて、帰るだけ。本当に、授業と言うには形骸化しすぎた行事だった。 久坂は別にこの参加に特に期待をしていたわけではなく、源流を見る、というのが目的だったから、別に不満はない。高杉も、公然と久坂と一緒にいられるので(どうやら班分けのクジをひくときもなんらかの力で操作して、久坂と一緒にしたらしい)、何も不満はないようだった。それに、ここは郊外で空気がいいし、高杉にとってもすごしやすい場所のようだ。高杉の目が生き生きとしているのがわかって、ちょっとうれしくなった。 「今日はこの山の頂上までいったら終わりだから。とりあえず、ここにちゃんと来た証拠として、小石を一つ拾って帰るんだぞ。それに名前を書いて、提出すること」 引率の教師の声が響く。これもずっと続いているおかしな習慣の一つらしい。ぶつぶつ文句をいっている生徒もいたが、皆頂上に着くとそれなりに気に入った石を探し始めた。久坂も大人しく石を探す。下をみながらうろうろとして、一つ石をひろった。花崗岩かな?とか思いながら、その石を拾って立ち上がった時、木々の間から明日行く、という川が小さく見えた。 ふと、奇妙な違和感を覚える。 なにか、違うな、と思った。 「高杉…」 気がつくと、高杉を呼んでいた。すぐそばにいたらしい高杉が近寄ってくる。 「何だ?」 「別に…あやかしがいる、とかじゃないんだけど…。ここから見えるあの川、なんか変な感じ、しない?」 「変な感じ?」 高杉もじっと川を見つめる。しかし、ゆっくりと首をふった。 「…よくわからないな…。何もいない、とは言えないけど、危険なものは感じないな」 「そっか…」 久坂がほっと息をつく。ちょっと臆病になりすぎているのかもしれなかった。 「お前が言うなら、大丈夫だよな。明日はあの近くにいくし、何かあったらすぐわかるよな」 そう笑って皆のいるところに久坂は駆け出す。その久坂の後をすぐには追わず、高杉はしばらくその川を見つめていた。 その後、夕食の準備となった。メニューは定番のカレーであった。大人数でも少人数でも対応できる便利な料理である。久坂は意外に器用に調理する高杉を見て、へーっと感心する。やっぱり水だけ飲んでるわけじゃないのか。 きちんと言われたとおりに高杉が一定の形に野菜を切っていく。自分を見ている久坂に気がついたのか、高杉が顔を上げた。 「何?なんか、俺間違ったか?こうやれっていわれた通りにやってるつもりだけど…」 久坂があわてて自分の同じように切っている野菜を隠すようにしながら答えた。 「いや、料理とか意外にできるんだな、って思っただけ」 高杉がそうかな…とつぶやいて、また作業にもどった、久坂は一応家で母親の手伝いをしたりしていて、同い年の男の子の中で言えば料理は作る方だと思う。でも、母曰く「ぶきっちょさん」ならしく、見目良く作ることができない。まあ、端的にいえば、包丁さばきは下手、というところか。味に関しては問題ないのだが。 それを、こう一応人間の生活をしていない高杉にいとも簡単に美しくにんじんの皮をむいたりだとかじゃがいもをむいたりだとかそれをほぼ均等な大きさに切っていくだとか、こなされると、なんかちょっと自分が格好悪い気がした。 「…で、俺の分はできたけど、お前は?」 考え事をしながらできるだけていねいにじゃがいもの皮をむいていた久坂に高杉が話しかける。その声にあわてて、久坂はうかつにも包丁でざっくりと左手の人差し指を切ってしまった。 「いたッ…!」 「おいっ、大丈夫か?」 血が、まな板にぽつぽつと落ちた。 最悪。格好悪…。 とりあえず水で血を流そうと、流しの蛇口をひねって水を出した。そこに人差し指を差し出そうとする久坂の手を高杉がつかんで、自分の方にひきよせる。 「それよりもこっちのほうが早いから」 「!ちょっ…」 久坂が制止する前に、高杉がその傷口を口に含む。傷口に、高杉の舌があたるのがわかった。その感触と痛みに久坂がびくりと身体を震わせる。高杉が口を離した。その瞬間、久坂はあることに気がついた。 痛みがない。 恐る恐る自分の左手の人差し指をみると、傷が跡形もない。さっき確かに包丁で切ったはずなのに、まるでそんな出来事がなかったかのように治っている。久坂はちらりとまな板と包丁をみる。確かに、自分の血がついていた。 高杉が血の付いたそれらをぼーっと突っ立ている久坂に代わって洗い流したりしている。 「今の…お前が治したってことになるの…?」 「そのくらいならちょっとなめてりゃ治るだろ」 「いや、確かにそういう言葉は使ったりするけど、なんか、次元が違う話だと思うんだけど」 まだ久坂はじーっと自分の手をみつめている。なんだか、ひどく不思議な感じがする。そんな久坂に高杉がため息をついた。 「いつまで惚けてるんだよ、そのくらいの傷なら、俺が治せるの!今、力使ったの!それで、納得か?」 「そういう力もあるんだ…。すごいね…」 素直に感心したように久坂がまだ惚けたままつぶやいた。すごい、といわれて高杉が少し照れたように視線をはずす。 べつに、俺たちにとっては基本的なことだよ、と言って、久坂がやり残していた野菜を手際よく刻み始めた。 そんな高杉をみて、なんで不思議な気がしていたのか、その理由を一つ思い付いた。 “何かを癒す力"というのをもっているのが、うらやましいな、と思ったのだった。そして、それをなんだかずっとそう思っていたような気がしたから、不思議な気がしたのだと思う。でも、それは高杉に会ってから、ではなくて、もっと昔から思っていた気がする。 クサカの記憶…? そんなことが頭をかすめた。結局はよくわからないまま調理時間は終わり、夕食が始まった。そして、何事もなく終わる。後は、入浴と、寝る前の自由行動(ただし、外出禁止)。要するに、ここからはもう引率の教師も特に監視することなく、皆持ってきたゲームやトランプに興じる。そんな時間が始まるという時に、高杉が久坂に近寄って、耳元でささやいた。 「なんか、外をうろついてる奴がいる。気配が遠のいたり、かなり近づいたり、不審すぎる。だから、ちょっと見てくるから」 「…あやかし…?」 「そうだと思うけど…。ちょっと判別つきにくい。だから行ってくる。お前はここを離れるなよ」 一応、心配だから、と高杉が久坂の手をぎゅっと握った。ここは大広間で、他の参加者もいる場所だったので、赤くなって久坂がその手を振り払った。 「心配しなくても、もう外出禁止だから、どこにも行けやしないよ」 「そうだな」 そういって、高杉が部屋を出て行く。高杉の妖力の気配が少し大きくなった。離れていく。久坂はそれを目を閉じて感じていた。いつの間に自分はそんなことがわかるようになったのだろうと思う。 高杉と、よく接触するようになってからかもしれない。 春には、少なくとも初めてあやかしに出会った辺り、そして高杉と頻繁に会うようになる前はこんな感じではなかった。自分は高杉の気配を感じることもなかったし、その力を出してる時と出してない時がわかるとか、もちろんそんなことはなかったはずだ。 ーお前は、人間、だよ。 ー君はどう調べても、人間にしか思えない。 高杉の言葉と桂の言葉が頭の中に蘇る。確かに彼らから見ればそうなのかもしれないけど、普通に、人間なのかどうかは疑問があった。だったらどうして彼らが見えて、力がわかって、一緒にいたりするんだろう。 どうせ答えなんて出てこない。 そう思って大きくため息をついた。窓辺に歩いていく。 高杉は今どのあたりだろうか、と考えた。窓を開けようとしたとき、同じクラスの小田村から声がかかる。 「久坂、トランプ混じらねー?」 「あー、やるやる。風呂から出たら入るから、それからでもいいかな」 小田村がオッケーといって、別の人の輪に入っていく。高杉も戻ってきたらこういった遊びするかな?そう思って、手をかけていた窓を、からからと開けた。その瞬間だった。 一瞬で、何か、が自分の身体の中を走り抜けた感じがした。 身体の自由がきかなくなる。 同時に、頭の中に声が響いてきた。 野太い、男の声だった。 ーーーーーーいろんなこと、知りてぇよなぁ? あやかしの声だ、とは思ったが、頭がしびれて何も考えられない。 ーーーーーーここに来てみてはどうだい。 久坂の足は、合宿所の出口へと向かっていた。 そのころ、高杉が昼間皆で来た山頂へと降り立っていた。気配が消えた。結局、その気配は不審な動きをしてまわりをうろうろしたあげく、消えるようになくなった。 何かがいたずらでもしかけてきたかな。 そんなことを考えて、首をひねる。今日ここで久坂は何か違和感がある、といったが、特に目立った動きをしているものはいなかったから、あまり気にとめていなかった。ただ、いろんな場所に自然の源のような力が充満していて、それを力に求めるあやかしや妖、そういったものの中でもあまり人間に害を及ぼさないと思われるものが出入りしているな、とは感じていた。だから万が一にも、と思って来てみたが、やはり変わりはない。合宿所に戻ろうと、踵を返したその時だった。 「もしもし。水のお方でございまするか」 足下から話しかけてくるものがいる。 反射的にそこから飛び退いて、片手をその気配の方にかざす。 「誰だ」 するどく問いかけた。 「ああ、そのように怖いお顔をされないでください。私はここにずっと巣をはっている妖でございます。この山の小石達とのんびり暮らしているだけの齢を重ねた爺でございます」 「………」 どうやら、小石が話しかけてるらしい。石属性ならしい。一応、手を下げた。 「さっきからちょろちょろして俺をここに呼んだのはお前か」 「と、とんでもない。それは違いまする。私にはそんな力はございません。ただ、気になることがございまして、あなた様を呼び止めましただけでございまする」 本当にそんな力はないらしい。本気で高杉の鋭い気配に怯えているらしいので、一応警戒を緩めた。相手が心底ほっとしたのが伝わってくる。 「なんだよ、その気になるっていうことは」 「先ほどからあなた様が追いかけられていたものでございます。あれは、おとりではございますまいか」 「…なんだと…?」 高杉が身を乗り出す。 「私はずっと長い間ここに居りまする。動いておりませぬ故、動いているものを気になって見ていたのでございます。あなた様の追いかけられていたものは、今日の昼間もこの近くにおりました。ただ一人、人間が、それに気が付いたようでございまして、それと同時に、不穏な動きを始めたのがわかったのでございます」 昼間…その人間は、久坂のことか、と思い当たる。 「不穏な動きってなんだ!何をした!」 「よくわかりませぬ。ただ、その気配と入れ替わりに、あなた様とは違う水の方の力がほんの少しだけ小石に宿りました。それは、その人間がひろって持っいたものでございます。そのことが気になりまして、更に、さっきのようなわざと気になるような動き。年寄りの老婆心としてお聞きなされても結構ですが、もしや狙いはあの人間ではございますまいか」 「!!」 言われて、高杉がすぐに久坂の気配をさぐる。 だが、先ほどまで感じられていたはずの久坂の気配が全く感じられない。 「くそっ…!!俺としたことがっ!!」 怒りに、妖力を爆発させる。ひー、という声が聞こえて、小石の爺の気配が少し遠のいた。今の力の放出で吹き飛ばされたらしい。そんなことには構っていられないので、とにかく高杉は自分を落ち着けようと深呼吸をする。久坂がどこにいるかさえわかれば、すぐそこに行ける。自分が久坂と別れてから、そんなに時間はたっていないはずだ。だから、まだ無事のはず。半分は祈るように自分に言い聞かせる。だから、気配はあるはず。探る。感じない。焦るほど、うまく感じ取ることができない。冷や汗が頬を伝った。 「どこに…っどこにいるんだよ……っ!!」 拳を握りしめて叫ぶ。そこに、どう戻ってきたのか、先ほどの小石の爺がまた話しかけてくる。 「あなた様がお探しの人間は、この山の下の河原近くにおりまする」 「な…何?!」 足下の小石の爺が宿っている石を拾い上げた。 「どうしてお前にそれがわかるんだよ!」 いらだち紛れに握りしめると、またひえーと、怯えた声を出す。ご勘弁を、ご勘弁を、と叫んでいる。 「にぎりつぶされたくなかったら、早く言えっ!!」 「あ…あの、昼間あまりにも気になったものでございますから、その人間が拾って、なにか水の気配が入り込んだその小石に、私の力を一部入れたのでございます。ほんの少しでございますが、気になって、入れたのでございます。何かを狙ったわけではございません。本当でございまする!ですから、自分の力の位置がわかるだけでございまする!!」 小石の爺は必死になって叫んでいる。やっと高杉が手の力を緩めた。 そういうことか。どうやら久坂は今日ひろった石をそのまま持っているらしい。 ぐっと宙をにらんで、もう一度辺りの気配を探る。先ほどから久坂の気配を捜すことしかしていなかったが、まずは今の状況をわかっていないといけない。改めて心を鎮める。 よく探ると、結界のような気配が二つ、張られていることに気が付いた。気配が大きくない。ただ、一つは範囲がかなり広い。この山の辺り全体を覆っているようだ。しかも、邪悪な気配とか、攻撃的な気配をわざと隠すように張っている。下等なあやかしにできることではない。それが霧のようにその中にさらに張ってある結界を隠している。中の結界は、確かに川の辺り。自分と同じ水の結界だった。 高杉が、唇をかみしめた。これらはたぶん、高杉が不審な気配を追って合宿所を出た直後張られたものだと思われる。そして、久坂はその水の結界の中に隠されている。高杉が久坂を見失ってしまうとしたらそのタイミングしか考えられない。 なぜならば、合宿所を出たとき、高杉は必要最低限の妖力しか出していなかった。そして、その力のまま高杉が久坂の側を離れる。次に、直後に結界をはって、高杉を出来るだけ久坂から離す。そこで小石に込めた水のあやかしがその力を使って久坂を連れ出し、自分の結界内に入れる。入れてしまったところで、それまで高杉を翻弄していた気配の主が、気配を消して、高杉を自由にする。高杉の水の力が弱いうちに、その高杉よりは妖力が弱いと思われるあやかしが結界を張ることに意味があるのだ。なぜならば、自然界に置いて、同じ属性の力はそこに差があれば優劣は自ずと決まってくるが、均衡の状態、つまりフィフティー・フィフティーの状態であれば、力は相殺されてしまうという法則がある。つまり、高杉の力がそのあやかしと均衡して、久坂の気配を察知したり、あやかしの気配を察知したりするあらゆる妖力がそこで相殺された、だから、高杉は久坂が消えたことに気がなかったということである。このことを遂行しようとするならば、高杉の力を知っていないといけないし、性質も理解していないといけない。今回のあやかしはどうやら少しばかり頭を使える奴が2体はいる。それが考えられないことに、協力し合っているということであった。 「……なめやがって…ッ!!」 高杉が怒りに震えながら、手にしていた小石の爺を制服のスラックスのポケットに押し込んだ。 「な、何をなされます!!私めは、弱力にございますれば、この山を離れたらもう生きてゆけません!!妖力の供給がうけられなくなってしまいます!後生ですから、ここに置いていってくだされ!!」 小石の爺は身の危険を感じてポケットの中で暴れた。それに向かって高杉が小さくつぶやく。 「…縛」 小石の爺が動きを止める。意識だけはあるようで、まだご勘弁を、まだ死にたくはないとさけんでいるが、高杉の力で縛られているため動くことができない。 「うるさいな、別に殺したりしねーよ。お前の力の属性分析して頭に入れてる時間がもったいねーから連れて行くだけだ!」 怒鳴って、さきほど小石の爺が言っていた河原に向かって跳躍する。 「み、水属性のあなた様にそんな探知は無理でございます、私は石でございますぞ!!どうぞ、どうぞ、ご勘弁を!!」 小石の爺は尚も叫ぶ。本気で恐ろしいらしい。 「だから、うるさいっ!!属性がなんであろうが俺には関係ないんだよっ!!俺に命あずけとけっ!!」 ひーっと小石の爺の悲鳴がまた聞こえたが、高杉はもうそれには耳を貸さず、その気配と同じ気配を川に張られた結界の中に捜すことに集中する。これが、今久坂を捜す最善の方法だ。だから、どうか、どうかまだ無事で。祈るように気配を探った。 ぼんやりとした意識のまま、ずっと合宿所から何かに導かれるように久坂は歩いていた。だが、川の側に行き、そこに張られた結界の中に入った途端にびくり、と身体が震えて意識を取り戻す。 水、だけど、高杉じゃない! あわてて辺りを見回した。 「ここは…。宮尻川の源流?俺はどうしてこんなところに…」 自分のまわりをまとわりつくように過ぎていく気配に夏だというのに肌寒くなり、自分の身体を抱くようにした。 そこに、野太い男の声が響いた。 ーーーーーー話に聞いていたよりずっと簡単だったわい。まるきりニンゲンそのものというのは嘘じゃなかったようだなぁ。 「だ、誰だっ!!」 久坂が叫ぶ。あやかしなのは、解る。今まで出会った下等なあやかしよりも力が大きいことも解る。そして、高杉と同じ水を使うあやかしということも、今張られている結界の中の気配で感じ取れた。吐き気がしそうなくらい、胸がざわざわする。この力を自分には受け入れられない、と本能的に感じた。これは、敵だ、と。 水の中のようにゆらめく結界の中から、誰かが近づいてくる。人の形をしていた。ゆっくりと一歩一歩久坂に近づいてくる。久坂が無駄だとは解っていても、2,3歩後ずさった。 そのあやかしは、人の姿をしていた。だが、人の姿をしていただけだった。なぜならば、身体は水でできている。後ろの景色が水を通して見える。そして、中年男のような格好はしているが、いたるところがぽたぽたと水がしたたるように崩れていて、まるで絵の具で描いた人物が溶けかけている様に異様だった。 「…あ、あ…」 近づいてくるその気配に、どうすることもできなくて、恐怖で身体が縛られる。自分があやかしにあやつられてここに来たことをとりあえず理解した。 ーーーーーーうん? 近づいたあやかしが、ちょっと首を傾げる。その髪から、傾いた頬から、ぽたぽたと人物を構成している水がこぼれ落ちる。気味が悪いことこの上なかった。 ーーーーーーすげぇな、聞いていた以上だわい。完全にニンゲンになってるじゃねぇかよ。 久坂をみておもしろそうに腹を抱えてそのあやかしが笑った。近づいて、久坂の頬に手を添えた。生暖かい水の感触に、うっとうなってとりあえず悲鳴を押し殺した。 ーーーーーーどうなってんだ?これ。どうやったらそんなになるんだよ。おもしれぇな。まるごと喰うのは、やめだ。 頬に当てたその手を久坂の首筋や胸や腕にはわす。感触を楽しんでいる様だった。吐き気がするほど嫌悪感がわき上がったが、動けるほどの力はなかった。恐怖に身体が支配されている。そこに、目の前にいるあやかしとは違う声が空から振ってきた。 ーーーーーーなにを、やっているの?丸ごと、食べなよ。ぱくって。風がね、そうしないとね、いけないってね、言ってるよ。そう、言っただろ。早くしないと。せっかく離した水の奴が来るよって、風がね、言ってるよ。 二体いるのか、と久坂も理解した。今言ったのは高杉のことなのだろう。ということは、もう少しがんばれば、高杉が来る。少し、心に力が籠もった。 ーーーーーーだからよ、やり方を変えるんだよ。奴が来る前に、俺の深淵の中にこいつを引き込んでな、身体のすみずみまで調べ尽くしてから、喰ってやることにしたんだよ。喰うことに変わりはないからそのくらい楽しんでもいいだろうよ。 いい乍ら、久坂のシャツに手をかける。襟を掴むと、一気に引き裂くようにボタンを引きちぎった。器用にアンダーシャツもちぎられる。 「!!」 現れた胸に、あやかしがまるで傷つけていないかを確かめるかのように手を当てる。心臓のあたりを捜しているようだった。 ーーーーーーだめだよ、丸飲みにね、しろってね、言ったでしょ。風がね、そうしろってね、言ってるんだよ。それはね、重大なね、違反じゃないかな。すぐにね、そいつを丸飲みにね、しちゃいなよ。 ーーーーーーうるせぇな。はじめっから俺はお前のことなんざぁ信じちゃいねぇんだよ。このからくりがどうなってるか調べるのはおもしろそうだ。俺はね、正直者でね。自分の欲求にしたがうんだわ。お前の用事はなくなった。こいつが手に入ればいらねぇよ。去りな。 ーーーーーー…………。 もう一人のあやかしが黙った隙に、川から触手のようなものがのびてきて、久坂をからめとる。そして、久坂を川の方へと引きずり込もうとする動きになった。 「や…い、いやだ…ッ!!」 久坂がせめてもの抵抗に力一杯両足で踏ん張るが、ずるずると川面に近づいていく。 そこに、おもしろそうに笑うあやかしの声が響いた。 ――――――なぁ、全部調べさせてくれよ。お前、元は人間じゃねぇんだろ?なのにどうしてそんなに完全にニンゲンの形とれてるんだよ。知りてぇよ。知りてぇなぁ。俺もお前を喰って、ニンゲンの形をとって、あばれまくる力が欲しいんだよ。こんな中途半端じゃなくてな。わかるだろ?お前もそうだったんだろ?どんな力持ってたらそうなるんだ?興味有るじゃないか、え? ずるずるとゆっくり久坂の恐怖を引き出すかのように川面へ引きずりながら、あやかしが後ろから久坂を抱きしめるように腕を回す。先ほど破いたシャツの間から両手を差し入れて、自分と密着させているのがわかった。嫌悪感と恐怖と…そしてそれは、あやかしへの恐怖と同様に、川の中へ連れ込まれるという恐怖も含まれていた。久坂はどういうわけか、水の中へ入ることを極端に嫌う。本能的に嫌っているらしい。それがひどく恐ろしい事のようにいつも思っていた。このままでは、そこに引きずり込まれる。このあやかしの巣へ。 「た、高杉ッ…!!」 声をしぼりだす。 高杉の気配はない。来る気配がない。いつも側にいたあの気配が今どこにもない。 ――――――なんだ?あの水の奴の名前か?来ねぇな、来ねぇよ、あきらめな。俺の、水の中へ来な。楽しみだな。 もう川は目の前で、触手に引きずられた久坂の靴が水に浸かった。 「!!」 水に足をいれた恐怖で頭が真っ白になる。 これまでとは全然違う思考がどんどん頭の中へ巡ってくる。 いらない。いらない。別の水なんかいらない。 拒否しろ、拒絶しろ。 他の水なんて、欲しくない。 高杉の、水しか、欲しくない。 いらない。高杉以外、いらない。 「高杉――――っ!!」 最後に力を振り絞って叫んだ。その瞬間、水の中へ引き込まれる。同時に、辺りに爆音が鳴り響いた。 急に、自分を戒めていた力がなくなった。昼間見た川とは思えないほどの深い水の中に、久坂は漂っている。ここが、さっきあやかしの言っていた“自分の深淵”なのか、と思ったが、あやかしの気配が薄い。むしろ、これは…。自分の慣れきった気配だった。 高杉…? 久坂の意識はそこまでしかもたなかった。 意識を失った久坂を、水の中で高杉が抱き留める。静かに、何かつぶやいた。久坂の周りに結界が張られ、久坂の表情が少し穏やかになる。それを背にするように高杉があやかしに向き直る。 「…ずいぶん、俺もなめられたもんだな。手の込んだことしやがって。いつからあやかしも徒党を組むようになったんだよ」 高杉の先ほどの攻撃によって、触手と両手を切断されたあやかしが苦しそうに振り向きながらつぶやく。 ――――――上には風の野郎がいたはずだがな。 高杉が、馬鹿にしたように、笑みをこぼした。 「しょせん、あやかし同士だな。俺が結界に近づいたとき、早々に去っていったぜ?お前を見限ったんだろ?」 あやかしの顔が一瞬くやしそうにゆがみ、すぐにもとの表情にもどった。 ――――――最初から、あてにしてなんか、いないさ。それより。獲物、横取りするんじゃねぇよ。俺はそいつを喰って強くなるんだからな。 もとより水の属性のためか、水の中でみるみる力を回復させていく。切断されてた両手が元に戻った。自分の身体の周りにいくつもの触手が生まれてくる。 「…………」 高杉はそれを黙って見つめていた。 ――――――お前も、水らしいがな、俺はずっと昔からここをテリトリーにしてるんだよ。ここは俺の深淵だ。お前は不利だ。お前は俺の水の一部になるんだ。 そいういって、形の崩れかけた人型のあやかしが笑う。高杉の周りを包んでいた高杉自身の水の気配まであやかしの気配で覆われる。それでも高杉はだまってそのまま見ていた。 ――――――どうしたよ、恐ろしくて、声もでねぇかよ。おもしろくないわい。反撃してみろよ。俺の、深淵の中でよ。やれるものならな。 肩を震わせてあやかしが笑う。 ――――――お前みたいな、常に人型とってるやつも、ニンゲンも気にくわねぇんだよ!!なんとか言えよ、ガキがぁ!! 挑発に乗ってこない高杉に業を煮やしたのか、触手が一斉に高杉を狙って来た。高杉が静かに右手を水の中で頭上に掲げる。それを×を描くように斜めに切るように動かした。 「艮、為、山、…水、土、関!!」 高杉が叫んだ途端、今まで流れていた水の流れが止まる。途端に、逆流する様にあやかしに襲いかかった。 ――――――な、なに、これは…水、ではないわいっ!! 驚き叫んであやかしが、かろうじてその逆流してきた波を避ける。今まであやかしの気配で覆われていて深淵が、高杉の強い気配にみるみる塗り替えられて行くことに、驚愕する。 ――――――何をした!てめぇ、何者だ!! よほど慌てたのか、その気配に恐怖を感じたのか、触手が高杉に向かって再び襲いかかる。それを高杉は軽く片手でなぎ払った。 力の差は歴然としていた。 「何をしたかって?」 高杉が静かに笑みをたたえながらつぶやく。 「川は流れている。その川をお前は支配している。だから、その川の流れを上流と下流、二つの山で堰き止めてやっただけの話だよ。この山の、土を使ってな。後は、水が判断することだ。どっちの力が強いかってな」 いいながら、両手を前に差し出した。 ――――――土、を使っただと?!ありえん、ありえんわい、水の奴のくせにそれをできるなんて、ありえん!! 叫んだ後、唐突に沈黙した。 ――――――…そうか、お前が、潜竜か。なるほどな。だったらうなづけるな。ということは、可能性としてそのニンゲンは… 「その名で俺を呼ぶのは良い度胸だな、砕け散れ!!……爆砕っ!!」 あやかしは、身を翻す暇もなかった。辺りが震える。その振動で水が一斉にざわめいた。ほどなくして、あやかしの気配は跡形もなく消える。結界に守られている久坂を抱いて、高杉が水面を出て、河原に久坂を横たえた。 静かに、川の流れを堰き止めていた力を解く。川は何事もなかったかのようにもとの穏やかな流れをとりもどした。 水が、好きだ、と思う。 自然の作用によって、暴れる竜にも、穏やかな竜にもなって、見ているものを、その水に関わるものを癒す水がずっと好きだと思った。 水に抱かれると、他に何もいらなくなった。何も考えたくなくなった。それしかいらなくなった。 だめなのに。そうなったらだめなのに。水に入ってしまったらそれを思い出すから、だめなのに。 だめなのに、水が好きだった。 自分だけの、水が。 「………」 久坂がゆっくりと瞳を開ける。ぼやけた視界がクリアになった時、瞳に飛び込んできたのは泣きそうな高杉の顔。なんでそんな顔をするのかな…と考えて、さっきまであやかしに襲われていたことを思い出した。 「高杉?」 右手をよろよろと挙げて、高杉の頬にあてた。 泣いてる…? 瞳から伝う涙に、泣きそうだったんじゃなくて、もう泣いていたんだと気が付いた。 久坂の手に高杉が自分の手を重ねる。 「………すぐに助けられなくて…ごめん…ごめんな、俺…」 うつむいて、高杉が泣きながらあやまる。何をあやまっているんだろう、と不思議に思った。高杉が助けてくれたから、自分は無事なのではないのだろうか? 「なんで、あやまるんだよ…?お前、助けに来てくれたんだろ?あの、水のあやかし…もう、いなくなった…よね?」 うん、うんと高杉が頷く。よかった、とつぶやいて、久坂が再び瞳を閉じる。そして、落ち着くように深呼吸をして、身体を起こした。それを高杉が支える。 あらためて自分の格好を見直した。記憶に残っていたので、わかっていたことだが、シャツが引き裂かれてぼろぼろだった。ほかは何かの衝撃か、下唇がすこし傷ついているくらいで、無傷に近い。下唇は、あのあやかしに触れられていた時の嫌悪感や恐怖を押しつぶすためにかみしめていたから自分で傷つけたのかもしれなかった。 「…うわ…これ、ひどいな…。どうしよう…」 心配をする高杉をよそに、ぼーっとそんな現実的なことを考える。もう、転びました、なんて言い訳は通用しないだろう。替えのシャツは明日の分を持ってきてるからいいとしても、合宿所にもどってどう説明をしていいのやら。久坂がため息をついた。 それと時を同じくして、高杉が感情を押し殺すように低い声でつぶやいた。 「…あの野郎に、何された…?」 うつむいて、表情は見えない。 何された、と聞かれても…。 「よく、解らない。お前が合宿所を出て行った後、窓を開けたら突然あやかしの声が頭に響いて…気が付くとここに来てた。なんか、あやかしが2体いたらしくて、言い争いをしてた。結局、川に引きずり込まれた…ってとこまでしか覚えてないよ。俺がうかつだったのかな…後はお前が来てくれたんだろ?そのくらいしか…」 「違う!!」 とりあえず状況を説明していた久坂に高杉が怒鳴る。高杉が震えていた。驚いて、高杉を改めて見つめた。 「そのことじゃなくて…。俺が駆けつける前、あの野郎、お前に何かしたのか」 高杉が、それ、といって、引き裂かれたシャツに触れる。襟元に触れたその手に、久坂がびくり、と反応して身体を離した。途端に高杉が傷ついたような顔をして見ている。久坂も反射的にとった行動だったので、動揺して高杉から顔を背けた。 「…その、なんか、もとは人間じゃない俺の身体に興味があるとか言って…。その、水のあやかしが…。身体を調べるとか、言ってたかな、で…、その…。…………………」 途中で黙ってしまった久坂を高杉が問いつめるようにそれで、と促した。ちらりとその高杉を見てから、久坂が怒鳴る。 「なんか体中さわられまくったんだよ!!!気持ち悪いし、怖かったし、もう思い出したくもないの!!これ以上はもう、言わない!!」 叫んで、高杉の胸に両手を当てて軽く押しやった。一体何を心配して、何を言わせたいのか。馬鹿らしくなる。無理矢理先ほどのあやかしの感触を思い出さされた。つぎつぎと嫌な感触が頭によぎる。 「…ごめん…」 また高杉があやまる。 それをうつむいたまま聞いて、自然に涙がこみ上げてきて、ぽろりと自分の瞳からこぼれ落ちた。 「俺、お前は絶対来てくれるって思ってたよ。思ってたけど…。あのあやかしから、お前は来ない、って言われて…。力ずくで川に引きずり込まれて…。お前の気配が全然しなくって、でも、来るって信じていて、それで…」 ぼろぼろと涙を流しながら言葉を綴ろうとする久坂を高杉が抱きしめる。そして、耳元でつぶやく。 「俺が、もっとちゃんと…力があったら。ちゃんと…していたら、よかったのに、俺、やっぱり桂がいうようにまだまだ未熟で…。お前を守りたいのに、怖い思いさせて…。ごめん。俺が悪い。ごめんな。俺…」 久坂が自分を抱きしめている高杉の背に両手をまわす。あまり力が入らなくて、すがりつくような感じになったが、それでも力一杯抱きしめ返した。 やはり、高杉だと、違う。安心感が違う。こうしていると、すごく安心する。でも、なんとなく、自分が守られてるというよりは、自分を守ってくれる、というそのために闘っている高杉を、自分が守らないといけないんじゃないかとか、そんな気がした。そんな力はしょせんは無いのだけれど。 高杉が抱きしめる腕の力を少し緩めた。久坂の顔をのぞき込んでくる。久坂も、高杉の肩口に埋めていた顔を離して、高杉を見つめた。近づいてくる高杉に、瞳を閉じる。 唇が重なった。 嫌ではなかった。 軽く重ねて、角度を変えて、何度かキスを繰り返す。 そのうち、高杉が久坂の下唇の傷に気づいて、それをそっとなめた。 「…ん…」 その感触に、思わず鼻にかかった声が漏れる。すぐに傷はふさがった。 キス、じゃなくて、応急処置みたい。 とか、そんなことが頭にうかんだ。 あらためてお互いに顔を見合わせる。今まで避けていた何か、が今だったら避けなくてもいいような、そんな気分になった。よく見つめてみると、高杉の瞳は微妙に青い。こんなところも水かな、とか考える。なんだか、夢の中の出来事の様だった。 唐突に、それを打ち破るような声が聞こえた。 「み、水のお方!!あやかしを討滅いたしましたならば、この私めを早く戻してくだされ!後生でございます!!このままではこのまま朽ち果ててしまいまする!!お願いでございまする!!」 その声に、2人ともあっと息をのんだ。 久坂も突然夢から覚めた気分になる。それまでしていた行為に顔が赤くなった。 い、いったい、自分は、何を…!! 高杉を押しのけて、あわてて体勢を立て直す。引きちぎられたシャツを無意識にかき合わせるように掴んだ。 「やばっ…忘れてた!」 高杉は高杉で、自分の制服のポケットからごそごそと何か取り出す。 小石だった。薄く、水の膜に包まれている。 「…何、それ」 久坂がのぞき込む。 「あ…えっと、この小石の爺さんがな、お前を助ける突破口を作ってくれたんだよ。だから、その、恩人、みたいな…感じ?」 と、高杉が不本意、というような笑顔をつくりながら久坂に笑いかけた。小石の爺は尚も叫ぶ。 「そう思って頂いてるんなら、はやく返してくださいませ!!もう力がほとんど尽きておりまする!!こんな年寄りをいじめて、楽しいのですか!!ひどうございます!あまりにも、ひどうございます!!」 「な…泣いてるよ?」 久坂でも、この小石の力が弱まっているのが解る。恐る恐る、触れながら高杉に聞いてみた。 「…ったく、しょうがねぇなぁ…」 つぶやくと、高杉が、小石を覆っていた小さな結界を解く。そして、その小石を胸に抱くように両手で包んだ。 「…………」 何かをつぶやいた。聞こえはしなかったけれど、両手に高杉の力が集まったのが解った。一瞬の出来事だったが、久坂にも、小石の力が元にもどったのが解った。 「戻った…?」 驚いて高杉を見る。 高杉は小石を顔の高さまで持ち上げて、今度は本当に感謝しているような笑顔で話しかける。 「悪かったな。でも、お前のおかげだ。感謝する。深く。このまま、ここで静かに暮らしてくれ。俺は、絶対に荒らさないから」 「…………」 先ほどまで騒いでいた小石の爺が大人しくなった。何かを考えているようだった。 「あなた様は、希な方でいらっしゃいますな。先ほど水のあやかしが潜竜、と申しておりましたが、爺も納得いきました。確かに、属性を越えて力をあやつる、そんな妖はそうおりません。お見かけいたしました時にあまりにもお若いので、見当違いをいたしてしまったようでございまする。あなた様は確かに潜竜さまなのですな。失礼を申し上げました数々、平に、お許しくださいませ」 「潜…竜?」 あやかしとのやりとりを聞いていなかったので、久坂は意味がわからない。ただ、同じような言葉を桂がいいかけたのを思い出した。高杉を見ると、明らかに、余計な事を、という不機嫌そうな顔をしている。 「ああ、わかったよ。俺をその名前でよばないなら、許してやるよ。ほら、元の場所に戻りな」 小石の爺が何かを言う前に高杉が妖力を込めてその小石を元いた山頂めがけて投げた。小さくて見えることはなかったが、きっと届いたのだろう。それを見送って、改めて高杉に向き直る。 「何があったの…?潜竜って、何?お前のこと?」 「そう!でも、それ言われたくないの!…なんでみんな知ってるんだよ、くそっ…」 高杉がおもしろくなさそうに舌打ちする。 「お前の名前?」 更に聞いてみる。 「名前じゃない!!」 高杉が乱暴に返した。相当嫌ならしい。それがわかったので久坂もそれ以上の追求はやめた。 「じゃあ、今まで通り。お前は、高杉。それでいいんだよな。なんの問題もない」 そう笑いかけてみた。 高杉が途端に嬉しそうに抱きしめてくる。 「よかった、お前には言われたくなかったんだよ!」 抱きしめられた感触に、さっきまでの雰囲気を思い出して、久坂は慌てて高杉から離れた。 「あ…その、合宿所に戻らないと。無断外出だし…俺、こんな格好だし、どうしよう…」 とりあえず、現実的なことを言ってみる。 高杉も少し考えている風だった。そして、よし!といって手を打つ。 「俺がなんとかする。このまま帰ろう。普段はそういうことをしちゃだめだと言われてるけど、いいだろ、この場合。非常手段だ」 「なにが…非常手段?」 よくわからないまま、そのまま高杉に抱き上げられて、跳躍する。いきなりスピードを上げて宙を飛ぶので、久坂は吹き飛ばされないように高杉にしがみついた。こういうの、春にあったなぁ、とか頭の中で思っていた。合宿所にはあっという間に到着する。その到着する直前に高杉がしがみついている久坂をみて、ふふ、と笑った。 笑った気配に顔をあげると、すばやくキスがおりてきた。 久坂が抗議する間もなく、そのまま合宿所に降り立つ。高杉は久坂をひっぱってどうどうと入り口から入った。懸念していたように、そこには引率教師があわてて飛び出してくる。 「高杉!!久坂!!お前ら、どこにいっていた!!外出は禁止といっておいただろう!!」 予想通り、響く怒鳴り声。どう答えたらいいのか久坂はさっぱりわからないので黙っていると、高杉が教師を真っ直ぐにみつめて先生、と言った。その声に、教師は怒った態度を変えないまま、何だ、と怒鳴る。高杉が、その教師の前で右手の人差し指を教師の眉間を突き刺すかのようにつきだした。 「………」 何を言ったのかよく解らないが、何か言った、と思った時、以前学校全体に結界を張ったような、鋭い感覚が合宿所内に伝わった。目の前の教師の態度が豹変する。 「ああ、高杉、久坂、お前ら、点呼の時いなかっただろう。だめだぞ、これで点呼とったことにするから、早く寝ろ」 「はい。すみません。気をつけます」 高杉がしおらしく答えるのに教師は、うむ、というような返事を残して合宿所の奥に消えていく。 何が起こったんだろう、と立ちつくす久坂に、高杉が声をかける。 「さ、これでいいから。お前早く風呂入って、そのシャツなんとかしろよ。そしたらみんな解らないからさ」 高杉が久坂の手を引っ張って、合宿所にあがる。 「な、何したの?今の」 「ちょっとした、暗示」 「暗示?」 高杉が、桂には言うなよ、とぼそりとつぶやいた。それは妖力を使って、個人、もしくは複数の人間に特定の概念を植え付けるようなものだという。飛目として人間の中で暮らす際につじつまの合わないことを合わせるために用いるらしい。ただ、使うには事前にそれが適正であるかという判断を仰ぐ必要があるという。つまり、悪用して人間をだますな、ということらしい。故に、これを使える妖はそうはいない、と言っていた。とにかく、今ので、久坂達2人は、ずっといなかったのではなくて、たまたま点呼の時にいなかった、その他は皆と一緒にここにいた、ということになったのだった。 確かに便利だけど、悪用されると嫌だな、と思う。 そっと大広間に入ると、皆自分たちがいなかったことを感じないくらい、楽しそうにカードゲームやトランプに興じていた。久坂のひどい格好にも気が付かないらしい。久坂はとりあえず部屋着用に持ってきた衣服を一式出すと、風呂に向かおうとした。確かに、あのあやかしに触れられたせいで気持ちが悪い。早く行こうと思った時、高杉が何の用意もしてないことに気が付いた。 「あれ?お前は入らないの?」 「…そう。さっきの暗示に、今夜俺がいなくてもわかんないようなのも含めておいたから、俺はこれから屋根の上」 天井を指して高杉が笑う。 「なんで?わざわざ?」 理解できなくて、久坂が怪訝そうに高杉に問う。 高杉が少し顔を赤らめて、困ったような顔をした。 「今日の俺は落第点だったから、罰として一人反省会なの。朝にはちゃんと戻るから、大丈夫。合宿所からは離れないから、見張りとしても大丈夫」 「でも、そんなのわざわざ屋根の上でしなくったって…」 そういう久坂を、やはり困ったな、という顔で高杉がちらりと目をやる。そして、右手の指でそっと久坂のはだけられた胸をとん、と押した。 「俺は今あやかしよりあぶないかもしれないから、お前の横では寝れないってこと。…じゃ、明日な」 そう言って、高杉が一瞬でその場から消えた。 …それって、なんだ?と首を傾げる。あやかしよりあぶない。って、なんだ?自分のはだけた胸に手を当ててみる。ふと、一つの考えが頭に浮かんだ。先ほどの河原でのキスが頭の中でフラッシュバックする。 「ば、馬鹿じゃないのか、あいつ!!」 真っ赤になったまま、久坂は乱暴に大広間のドアを閉じて風呂に向かった。 次の日は、何事もなかったかのように過ぎた。予定通り、川の源流を見に行く。昨日と違って、違和感も何もない。久坂はそっとその流れに手をさしのべた。 冷たい。 そして、心地良い。 昨日意識を失ったとき、頭の中でずっと響いていた言葉があった。それは、正確に言えば二つの言葉に分けられる。でも、明らかに矛盾している、気持ちだった。 久坂は手を水に浸したまま目を閉じる。 それはきっと、記憶とかではなく、クサカの心の中。 矛盾を抱えたクサカの心の中。 水がとても好きだけど。 水に入ってしまうことは出来ない。水には、入れない。 それが、たぶんクサカの気持ち。 そう理解して、少しクサカと自分がつながったような気がした。どうしてそう考えるのか、とかそういったことはさっぱりわからないままだが、それだけは理解できるような気がした。現に自分も水が好きで、こうして自然の中に行くのが好きで、水を綺麗にしたいと思っていて、でも、水には入れない。そんな矛盾を抱えている。きっと、それには理由がある。 「昨日のこと、気にしてるのか?」 ずっと川縁に座り込んでいる久坂に高杉が声をかける。久坂はゆっくりと首を振った。 でも、大丈夫。クサカと自分は確かに共通しているものがある。 とりあえず、水が好きだということ。 そう思って、ふふ、と笑って立ち上がって高杉の手をとった。驚く高杉をそのままひっぱる。 「帰ろっか」 「なんだ…?」 くすくす笑う久坂を訝しげに見ながら高杉がついてくる。 後10日ほどで夏休みも終わる。 来年の夏はどうなるのかな、とか、そんなことを久坂は考えていた。 第5話・了 続く
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