ボーイズラブが前提の長編小説です。主人公は高校生。ある日、不思議な少年に出会ったことから、怪奇な事件に巻き込まれていく。惹かれ合う2人だったが…?!
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プロフィール

あまふりあおの

Author:あまふりあおの
あまふり・あおの

普段は絵描きをしている腐女子な主婦。無事出産で、現在一児の母。
たまりにたまった萌えをはきだすために、BL小説街道爆進中です。
長編ですので、ちょっと読むのは大変とは思うのですが、感想等いただけると非常にうれしいです。
もともと絵描きだから、たまには絵もアップ♪




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Welcome to 雨振舘 !!
お話のタイトルは「DARK HALF」です。中学生でも読んでも大丈夫!ですが、ちょこっとそういう描写もありますので注意です!(指定するほどじゃないので…)
管理人の日記はリンクから”雨振舘つれづれ日記”へどうぞ。お話についてもつぶやいてます。
拍手、コメント、メール大歓迎です!感想ぜひぜひクダサイ!
著作権放棄してないですよ。無断使用、転載等やめてくださいね。

☆管理人とはこんな奴
☆日記はこちら
☆登場人物紹介へ
☆あらすじへ


〜アンケートご協力ありがとうございました!結果発表をお楽しみにvv〜 ☆☆こんなのあったので作成してみました。はじめからこういうアンケート作成してればよかったかも…。
人物アンケート気が向いたらやってみてください…。
DARK HALF第7話 
2007/05/17 /08:36
第7話

 ーー人を喰らってもいいの。空腹にね、なったらね、お前は人を喰らうんだよ。
 ーーそんなことはしないよ。
 ーー都合がいいね。
 昨日暗闇の中で話した会話がまた再現されていた。久坂はただ黙って、渡された力の欠片を見つめている。そして、それをやはり口に入れる。
 ーー思うままに、やればそれでいいと思ってるよ。
 ーー君は誰?
 昨日と同じように問いかける。知らない誰かの声が消えていく。やはり正体はわからない。
 ーー俺のせいだ。俺がお前をこっちの世界へ引きずり込んでしまった。
 ーーどういうこと?
 ーーお前…混じってるんだよ。
 ーーよくわからない。
 唐突に、高杉と交わした会話も再現される。途端に、身体が鉛のように重くなるのを感じた。まるで自分の身体ではないみたいに、手が指が、動かない。ただただ、自分の中身が空洞化していく。でも軽くならない。重くなっていく。でも、中身は無くなっていく。そんな感触に、動かせない手を動かそうともがく。頭の中で、中身を補充しろ!と何かが叫ぶ。
 中身…何を補充すればいい、無くなった中身…。
 ーー…あやかしは、奪う事しか基本的にできないからな…。相手の力を無理矢理取り込もうとして、その手段としてやってるんだよ。
 ーー奪うことしか…できない…。
 だったら何を奪えばいい?いいや、奪う事なんてできやしない。
 先の見えない暗闇で、またもがく。
 気が付くと、暗闇の中で、消えてしまったはずのあやかしが立っている。久坂をみて、微笑んだ。
 ーーこんばんは。元あやかしの…人間さん。

「…!!」
 久坂ははっきりと目を覚ました。だが、夢の中と同じ。ひどく身体が重い。汗をかいてはりついた前髪をはらうのもおっくうなくらいだった。
 ここは久坂の自室。
 久坂はようやく重い身体を動かして、のろのろと起きあがった。身体はだるいが、熱があるとか、そういったことはなかった。昨日高杉に普通に生活しろ、と言われたので、とりあえず学校へ行くことにする。それでなくても、何がなんだかわからなくて、家にいても落ち着きそうにないのだった。

 いつも通り家を出て、いつも通り、高杉がまっているはずの交差点の角へと向かう。

 もしかしたら、いないかも

 そんな不安が不意に心によぎった。高杉と一緒にいるということが当たり前になってきていただけに、その不安は激しい動揺に変わる。昨日の様子から、自分が何か変わってしまって、自分たちの関係も変わってしまうのではないかと思うと、久坂はどうしていいのかわからなくなるのだった。
 昨日共に戦えたことが自分にはうれしかった。
 でも、高杉がそう思っていたわけではなかった。
 ーー心の底のどこかで、クサカを求めたかもしれない
 そう言って、高杉は自分自身を責めた。久坂は昨日、高杉の力を借りて、久坂の中に存在していた妖力…クサカの力を解放した。でも、やはり記憶がもどるということもなく、久坂は久坂のままだった。それを高杉が悲しんでいるとしたら。
 ーー心の底のどこかでクサカを求めた
 今の自分が望まれていないとしたら。
 そこまで考えて、久坂は足を止めた。前から高杉の気持ちを考えると不安でしょうがなかった。それが今、その気持ちが強くなっていることに気が付いた。昨日他愛のないけんかをしてしまった、その原因も似たような気持ちだが、それよりも不安が大きくなっている。
 久坂は立ち止まったまま、胸の辺りを押さえた。内側から、熱い力がまたじわり、とにじみ出していくような感覚を覚える。
 こんなに自分は臆病だっただろうか、と疑問が浮かぶ。自分の中にある熱い力が訴えているのは、極端に言うと、高杉に拒まれたらもう自分は生きていくことができないのではないか、という感情につながった。これを何というのかはわからない。このままじゃいけない、とも思っている。
 ふいに、この感情の発端は、夢の中で食べたあの力の欠片のせいではないか、ということが頭に浮かんだ。あの欠片は、なぜか飢えているのだ、というイメージがある。人間も、同士でもなんでも喰らうあの風のあやかしが、唯一食べることができなかった、クサカの力の欠片。それが何かを訴えているのだろうか。もしそうだとしても、解決できるのはやはり自分と、そして高杉だけなのだと思った。
 一歩踏み出す。
 二歩目は怖くて躊躇した。
 もし、いなかったら。
 恐る恐る、二歩、三歩、と歩いた。角はすぐそこだ。
 久坂はぐっと目を閉じて、下をむいたまま、なんとか角まで歩いた。意を決して、顔を上げようとしたとき、頭上に声が振ってくる。
「おはよ」
 久坂がはじかれたように、顔を上げた。自分より少し背の高い高杉が、いつものように立っている。驚いたような顔で見つめる久坂に、どうした?というような顔をして言葉を続けた。
「お前なぁ。朝からばしばしに妖力出しながら歩いてくるんじゃねぇよ。よっぽど飛び出していこうかと思ったけど、まあ、近づいてきたから大丈夫かなって思って…」
 高杉が苦笑しながら続けようとするのを、久坂の鞄が地面に落ちた音が遮った。
「わ、わ…る…かったな…。俺はそんな…力出してるとか、そんなのわかんなくって、どうせ…」
「久坂?」
 つっかえつっかえしゃべる久坂に、高杉が近づいた。
 その高杉の肩口に、どん、と久坂がぶつかるように額を押しつけた。普段は自分から接触することのない久坂がそうしてきたことで、高杉も動揺する。
「お、おい?どうしたんだよ?」
 うろたえながらも、右手を久坂の背にまわした。
「よかった…。お前、もしかしていないんじゃないかと思って…」
「…んなことあるわけないだろ。俺がお前の側を離れるなんて、ありえないよ」
「でも、昨日…俺、余計なことしたのかと思って…その、不安で…」
 お前がいなくなったらどうしようって思った。
 そう、ぽつりと小さな声でつぶやく。その声に、高杉がゆっくりと両手をまわして久坂を抱きしめた。
「昨日は俺もちょっと動揺してて…。でも、たぶん、その理由はお前が考えてるのとちょっと違うくて…。今はもう俺は大丈夫だから。俺はお前を守るって、そのことに変わりはないんだから。…不安にさせて、ごめんな」
「……ううん、俺が…勝手にそう思ってただけで…」
 高杉が抱く腕に少し力をこめた。
「こんなに不安にさせるんだったら、いつものようにここで待ってるんじゃなくて、お前の部屋に直接向かえに行けばよかったかな。俺、実は一晩中、お前の家の屋根の上にいたからさ」
「…俺の家の?なんで?」
「…うーん…。反省会ってやつかな…。俺も混乱してて、どうするのがいいかって冷静に考えられなかったから」
「反省会…」
 その言葉を聞いて、はじめて久坂の気持ちがほぐれた。ふっと笑みがもれる。そういえば、高杉は夏の課外授業の時も、反省会だといって合宿所の屋根の上にいたのだった。
「こら。笑うなよ。一応反省会は真剣にやってるんだからな、俺は」
「ふーん…」
 いいながら、またくすくすと笑みがもれた。そこで、はじめて、今まで不安で高まっていた身体の中の熱い力が収まっていくのを感じた。高杉がいて、本当によかった、と思った。この暖かい気配を離したくない気分だった。
 久坂が安心して脱力した身体をそのままあずけていると、高杉が、ちょっと困ったように、でも少しからかうような口調で話しかけてきた。
「あのさ、俺はさ、お前がこうやって甘えてくれるのがすっごくうれしいんだけど。うれしくって、こう、つい手が出そうなんだけど、やっぱまずいかなって思うんだよな」
「え?」
 久坂が顔を上げた。
「お前、ここが今、朝の登校途中の交差点だって、自覚してるかなーって思って」
「あっ!」
 そこで久坂も我に返った。考えてみれば、今は朝で、この辺りに住んでいて、今から駅に向かうもの、学校に向かうもの、会社に向かうもの、そんな諸々の人々が利用する交差点なのだった。途端に周りの視線が痛くなる。一気に顔が赤くなった。
「うわぁ、俺、何やってるんだ!!」
 叫んで、思いっきり高杉をつきとばした。だが、逆に事態はもっと情けないものとなった。あまり力がはいらない身体でいきなり大きな動きに出たことで貧血のような状態になり、結局また高杉に抱き留められたのだった。
 幾分か頭や心の中が冷静にもどってきた久坂は、せめて知り合いが誰も見ていませんように、と祈るばかりだった。


 教室に入って席につく。かばんを置いて、中身を机の中に入れてしまうと、久坂は大きくため息をついた。結局あれからあまりのはずかしさに、いつものように並んで登校するのではなく、微妙に離れながら歩いてきたのだった。今考えても、今朝の自分はどうも自分らしくなかったような気がする。もしかしたら、これが何か変わってしまった部分なのかもしれないとか、あれやこれやと頭の中で考えていた。
 そこに、陽気な品川の声が響いた。
「よう、高杉!お前、さっき大通りんとこで、久坂とラブシーンやってたんだって?!」
 ごんっ、と久坂が額を自分の机にぶつけた。
 とりあえず、まったく嘘とも言えないあの状況を自分で説明してこの場を切り抜ける自信がない。久坂は机になついたまま、もう高杉の対応にたよるしかなかった。
 幸いなことに、高杉はいたって冷静だった。
「ああ、あれね。お前、俺らと方向違うのに、よく知ってるな」
「俺の情報網を甘く見んなよなー。で、どうなんだよ」
 品川はにやにやしている。
 そういえば、品川はどうも久坂と高杉の関係についてつっこんで聞いてくるのだということを思い出した。
「まあ、そう見えなくもないと思うけど。実際はただ、具合悪くて倒れそうになってた久坂を支えてただけだぞ。ご期待に添えなくて悪いけど」
 お前、懲りずにこの話題好きだなー、と高杉がからからと笑っている。興味をひかれて集まってきていた他の生徒たちが、久坂、具合悪いの?と久坂のほうを振り向いた。そこでそのまま机に顔を伏せておくわけにもいかないので、困ったような笑みを浮かべて久坂が顔をあげた。確かに、その顔色は、もともと昨日から体調がおかしかったのと、あれを誰かにみられていた、というショックで真っ青だった。周囲もさすがに納得したらしい。
「うわ、ほんとに顔色悪いな。休んだ方がよかったんじゃねぇの?」
 品川も顔色をみて驚いているらしい。
「うーん、耐えられなくなったら保健室にでもいくから」
 やっとのことで久坂は冷静な声を出すことに成功した。これ以上皆にかまわれてもたまらないので、なんとか平気そうな振りをしようとつとめる。そこに追い打ちを掛けるように教室に響く品川の声(こいつは無駄に声がでかいのだ)。
「ま、本当に倒れたりしてもさ、ほれ、お前の王子様が運んでくれるからよ、安心だよな」
 高杉を指さしている。
 高杉は苦笑混じりのあきれ顔。
 教室内大爆笑。つまりみんなネタに飢えているだけで。遊ばれてるだけなのだが。
 久坂はふたたび、ごんっ、と机に額をぶつけた。


 なんだかんだと午前中が終わり、昼休憩になる。具合は悪いのに、食欲は落ちたりはしなかった。身体がだるいのには変わりなく、それどころか、動作がどんどんにぶくなっていくのを感じていた。
 ため息をついて、久坂は持参した弁当を開けた。具合がよくない、という久坂のために母がなにやら具だくさんの弁当を作っていたのだった。
 食べる気はあるけど、こんなに食べれるかなぁ、と思いながら、ゆっくりと箸をつけていると、目の前に高杉が椅子をよせて座ったのがわかった。
「普通に食欲はあるのか」
「あ…うん。それは…そうなんだけどね…。身体が、どうも…重くて」
 一応周りを見回して、そばに誰もいないのを確認してから小声で話をする。
「お前の…人間の部分が、なんとかお前の身体を維持しようとしてるんだろうな、きっと」
「俺…それがよくわからないんだけど…」
 久坂が弁当のなかの里芋を軽くつつきながら、つぶやく。高杉は、そうだな…と、思案しているようだった。
「ここじゃ…あまり詳しく話せないけどさ。昨日、俺、お前は混ざってるっていっただろ?お前にはきつい言い方かもしれないけど、今のお前の状態は、人間のようだけど、妖力をちゃんともっていて、それでいて、妖でも、人間でもない。どっちも混ざり合ってるって感じなんだよ。だから、当然人間としてのお前はその力を維持しようとするだろうし、妖としての部分ももちろん、力を補いたいと思ってると思うんだよな…」
「俺が、力を持ってるとしても、お前達と同じにはならないってこと?」
「まあね…。前に、お前、俺に水だけで生きられるのかって聞いただろ?まあ端的にいえば、俺ならそれはできるけど、お前は…人間の部分がちゃんとあるから、それだけじゃ無理だってこと。どっちも必要っていうわけだよ」
「どっちも必要…か…」
 久坂は尚も里芋をつつきながら、考えた。
 例えばこの里芋を食べることは、自分の人間としての力を維持するための行為になるのだろう。だとすれば、もう一つの妖の力を維持するためには何をすれうばいいのだろうか。高杉にとっては属性の水。クサカは、たしか…。
 人、人間。
 久坂が箸をとめた。
 具体的にはどうしろというのだろう。
 それは、もしかしたら…。
 そこまで考えて、ぶるり、と身震いをした。
「お前は俺が守るっていっただろ?今、様子を見てるとこなんだから、深く考えるなよ。大丈夫だから。だから、何か変な感じがしたりとか、とにかく何かあったらすぐ俺に言えよ?」
 久坂の考えてることが解ったのか、高杉がそっと久坂の頭をなでながら言う。
それは昨日と違って本当にいつもの高杉で、そのことにほっとする。
「とにかく、今お前がすることは、ちゃんと食べて、自分で管理できる人間の力の部分は完全にしておくこと。もし人間としての体力もなくなって、倒れたりしたら、俺ここでお前を抱き上げて保健室までいかないといけないんだからな。今朝のネタどころじゃないぞ」
 その言葉に今朝の事を思い出して赤くなる久坂をよそに、高杉がひょい、とおかずを盗み食いする。あいかわらずうまいなー、とか言って、次のおかずを食べようとするのをこら、と声をかけて止めた。
「お前、今日は何も買ってないの?食べるなら食べるで、予備の割り箸あるからそれ使えよ」
「ちょうど俺が食べたいようなものがなかったから、今日はこれだけ」
 そういって、高杉がペットボトルを振って見せた。久坂はそれに苦笑しながら、予備にとっておいた割り箸を渡す。
「お前ってば、俺の母さんの料理好きだよな。体育祭の時も喜んで食べてたもんな」
「お前の母親のだけじゃなくて、お前のもおいしかったよ」
 そう言われて、久坂は恥ずかしさに真っ赤になった。実は体育祭の時、高杉に弁当を作ってきたのだった。自分が高杉のために作った、というよりは、母親に何気なく、友達の分も作ってもらえるか、と聞いたら料理好きの母親が大いにはりきって、高杉の分をつくってくれたのだった。ただ、その際に母親が一品くらい作ったらーとかなんとか言ったので、まあ、手伝うくらいの感覚で作ったものがあった。ただし、明らかに、これは母親が作ったのではないな、というシロモノで。
「いいよ、別にお世辞なんて。お前だって食べる前はこれは何だ、とか何とか言ってたじゃないか」
 久坂は料理ができないわけではないが、不器用で、見目良く作ることができない、という特技を持っている。
「だって、味は、よかったよ」
「…………」
 味は、よかったのならまだよしとするべきなのか。
「そういえば…その、クサカは料理とかしなかったのかな」
「クサカが?料理?」
 言われて高杉が考え込んだ。その様子から、そういったことはあまりしなかったのかなと思った。
「そうだな…。俺らはそんな、人間みたいに必ず飯喰わないといけないっていうのはなかったし…。クサカはどちらかというと、食べ歩きが好きだったし、料理とかそういったことは桂がたまにやってたかな…。俺は全然そんなことやらなかったけど、クサカは俺と一緒にいた時、一度くらいは気まぐれに作ったことがあったな、そういえば」
 あの桂が料理!というのも驚いたが、クサカも作ったりしたんだ、というのも驚きだった。久坂にはまだ高杉達の生活様式がいまいちよく理解できない。
「じゃ…その、料理はどんなだった?」
「味は、よかったよ」
「…………」
 その答えにだいたい想像がついたので、それ以上この話題は続けないことにしたのだった。



 午後、変化は唐突にやってきた。
 久坂は妙な息苦しさを感じて、自分の制服の胸元をつかむ。先ほどまではただ身体が重いというだけだったものが、今度はなんともいえない気持ち悪さに変わっていった。それは空腹になりすぎて気分が悪くなるのに似ていた。
 呼吸するだけでもつらいのは、ここの空気が気持ち悪さを増幅させているからだと気が付く。
 この教室に充満する気配、匂いに気が狂いそうになる。
 人の、匂いに吐き気がした。
 こうなったら自分はだめなのだ、と頭の中で誰かが警鐘を鳴らす。
 とにかくここを離れなければと思い、立ち上がろうとした時、それよりも早く自分の中で何かが動いた。身体の中を熱い力が暴れる。
 もうだめだ、と思ったとき、辺りを鋭い感覚が走った。
「う…」
「久坂!!」
 久坂が崩れ落ちるのと、高杉が抱き留めたのは同時だった。そこで、やっと久坂はまともに息がつけるのを覚えた。
 荒い息をつきながら、顔を上げると、周囲は音もなく止まっている。水に包まれたようなその冷たさは、もう慣れた感覚の、高杉の結界だった。
「あ…高杉…どうして…?」
 また何かが襲ってきたのかと思い尋ねると、高杉が真剣なまなざしで見つめてくる。
「お前だよ」
「え?」
「お前の力をはじくために、結界を張ったんだよ。じゃないと、…教室一つくらいは軽く吹き飛ばされてたんじゃないかと思う」
「そ、そんな…」
 力が入らない久坂の身体を、高杉が抱きかかえた。横になった方がいい、という高杉の提案にしたがって、結界はそのままに、保健室へと向かうことになったのだった。

 保健室のベッドに横になって、久坂はやっと大きく息をついた。教室にいるよりずいぶん楽なのは、たぶん、人の気配がほとんどないからかもしれなかった。高杉の結界は学校中に張り巡らされて、人の動く気配がしない。そのことが、今の久坂にはずいぶん楽なことのように思えた。
 高杉が横たわる久坂の傍らで、心配そうにのぞき込む。
「少しは、落ち着いたか?」
「うん…。さっきより、だいぶ…。でも、どうしてなんだ?俺が、俺の力が、みんなを殺そうとしたってことなのか?」
「端的に言ってしまえばそうなるけど…。実際の所はたぶん、お前の妖の部分があの場にいることに耐えられなくなって、“全部消したい”って思ったんじゃないかな。力の気配が敵意とか攻撃欲とか、そんなんじゃなかったからな」
 あの場にいるのが耐えられない、と考えたのは確かだった。力がそれに反応したということなのだろうか。久坂は、今さらながら自分が制御できない力に怯えた。このまま自分はどうなっていくのかわからない不安も涌いてくる。
「俺は…どうしたらいい?昨日お前は普通に暮らせっていったけど、俺は…どうしていいかわからないよ。この身体の重さも、それと関係があるんだろう?」
 手を伸ばして、ベッドの脇に座っている高杉の制服をぎゅっとつかんだ。高杉がその手に自分の手をそっと重ねた。
「昨日…。お前が力を解放した時に、かなりの力を放出したんだよ。たぶん、お前自身の中にあった妖力を、一度に使ったって感じだったんだ。それは…きっと、お前が自分の力をコントロールできないからだと思う。幸いだったのは、今まで人間として生きてきて、妖力の補充もしてなかったから、お前の中の妖力の器に対して、余っていた量が少なかったってところかな…」
「力は…空っぽになったってこと?」
 妖力がなくなれば、また普通の人間に戻るのだろうか、と頭の中でちらりと考えた。
「そうじゃなくて…。空腹状態になって飢えてるっていう感じかな。空っぽにはなってないよ。たぶん、空っぽにはならない。そこまでいったら、もう自分の意志とは関係なく力の補充を求めるだろうから。だから、お前に今必要なのは、妖力を補充して、ちゃんと自分を保つくらいになることだと思う」
「でも…でも、そうしたら、俺は…。人を…食べないといけないの?俺は、そんなのできないよ!さっきだって…。人の匂いとか、気配とか、すごく嫌だったし、そんなの食べたいなんて…思わない!!」
「だから!それがお前なんだよ!」
 高杉が久坂の手を強く握って怒鳴る。
 久坂が息を詰めて高杉をみつめた。
「人属性なのに、人を食べることができない…。それは、お前がクサカだからなんだよ。記憶はなくても、その縛りはお前の中で消えてないんだ」
「縛り…?」
「クサカは…俺と出会うよりずっと前は、巨大な力を持つあやかしだったんだよ。その時に出会った一人の人間に、“人間は喰らわない”っていう縛りをかけられたって聞いてる」
「クサカが…あやかし…」
 そのこと自体に驚きはなかった。風のあやかしに言われた時からそうなのではないかとうすうすは感じていたからかもしれなかった。それよりも、そのあやかしの久坂がなぜ大妖と呼ばれているのか、どうしてただの人間から、自分の力の根元を絶たれるような縛りを受けたのかがわからなかった。
「あまり…驚かないんだな」
「昨日から、もしかしたらそうなんじゃないか…って思ってたから…。だとしたら、どういうことになるの?俺は、本当はお前の敵ってことになるのか?」
「そうじゃない。クサカは俺たちが信頼する、尊敬する…妖だったんだよ。そのことは、お前にはちゃんと認識してて欲しいんだ。お前自身のことなんだから」
「じゃ…じゃあ、クサカはどうしてあやかしから妖に?縛りをかけた人間っていうのは一体どういう存在なんだ?それが原因なの?」
 立て続けに尋ねる久坂から、高杉が目をそらした。答えに困っているようだった。
「ある日、桂の前に現れて、それから長い時間をかけてあやかしとしての力を妖の力に変化させたんだってことは聞いてる。その理由にその人間がどうやらからんでいるらしいっていうのも…聞いてるけど…」
「………?」
 高杉がちらりと久坂の方を見て、また目をそらす。握っていた手をそっと離してベッドサイドに座った自分の膝の上で居心地悪そうに手を組んだ。
「その人間がどういう奴なのか、どうしてそんなことになったのか、クサカは俺には…何も話してくれなかったから、俺もよくは知らない」
「………」
 自分の半身のように一緒にいた高杉にも言わなかったクサカの秘密、というところなんだろうか。もちろん考えても今の久坂に思い出せる事ではなかったが、もし自分だったら、と想像してみる。
 巨大な力を振るっていた自分を、言葉だけで縛ってしまうその人物。
 自らの力の根元を絶たれて、生き方を180度変えてしまうような、そんな戒めを、甘んじて受けたのだろうか?そして、それを高杉にも言えないのは、自分の失態だから?その人物を憎んでいたから?
 違う、と思った。
 そうなのだとしたら、どうして自分にそんなことをする人間たちを愛せるというんだろう。桂は、クサカは人を愛していて、人間界を荒そうとするあやかしを絶対に許さなかったと言っていた。それは、もしかしたら、そのクサカに縛りをかけた人間が、大切だったからではないだろうか。
「その人が…大事な人だったのかな…」
 何気なく、つぶやいた。そのつぶやきに、高杉がびくりと反応して振り返る。
「お前、何か思い出したとか、心当たりとかあるのか?!」
「え…いや、違うけど。そう、思っただけ…なんだけど…」
「…ふーん…」
 高杉が身体ごと久坂のほうに向くと、両手を横たわる久坂の顔の両側についた。上からのぞき込むような体勢になる。
「もし、お前が思い出したら、そのこと絶対に話してもらうからな。今度は遠慮したりしないんだからな」
 まるで脅すように久坂に言い聞かせる。
「う、うん…、わかった。……気になるの?」
「悪かったな!!」
 高杉がすねたようにぷい、と横を向いた。やきもち焼いてるのかなーと思うと、おかしくなる。クサカに関することとなると、高杉は子供っぽく見える。そんな高杉を見るのは嫌いじゃないな、と思った。
「こら…笑うなよ。今真剣な話してるんだから」
「あ…、そうだったね。ごめん…」
 あやまりながら、自分が人を食べるか食べないか、という真剣な話をしているのだ、ということを思い出し、なんとか気をひきしめようとする。確かに飢えていることは実感できるが、やはりまだ現実のこととしてとらえられないことも事実だった。それに、たぶん高杉が何とかしてくれるのではないか、と思ってもいた。昨日自分が何とかする、と言ってた高杉を信じているから、というのもあるが、理屈無しに安心してるというのもある。
 話題がそれてしまったせいで、少し沈黙が流れた。久坂は相変わらず力が入らないのでぼんやりと自分の上に覆い被さるような体勢の高杉を見つめている。
「え…と、つまり、さっきも言ったように、お前は人を食べて力を補充するっていう、属性的に正しいことはできないんだよ。他に考えられる同士喰らい…も、現実的じゃないから、そうなると、力をわけてもらうしかないんだ」
「わけてもらう?」
「正確に言うと、お前が奪うってことになるんだけどな」
「あ…」
 昨日、同士喰らいの現場に遭遇した時、高杉が“あやかしは基本的に奪うことしかできない”と言っていたあれか、と思う。食べないで奪うとは、どういうことなんだろう。
「本来なら、お前がその奪う力をコントロールして、力をわけてくれるっていう妖から、少しだけわけてもらうんだよ。でも、お前にそれは無理かもしれない」
「俺には、奪う力がないっていうこと?」
「うん…。ないんじゃないかな。ためしてみるか?」
「え…そんな、簡単に?」
 簡単なことだから、と言って、高杉が身体の横に投げ出されていた久坂の手をとって、身体を起こす。両手でそっと久坂の手を包み込んだ。何が起こるのかと、久坂が目を白黒させていると、ゆっくりと高杉が目を閉じる。
 高杉の力が、自分の手を包む両手に集まってくるのを感じる。それは暖かく、心地よかった。
「そのまま、昨日みたいに、俺の力が欲しいって願ってみろ」
「わ、わかった」
 久坂もぎゅっと目を閉じて、心の中で願ってみる。昨日は確かにそう願って、そして自分の中で何かが動いたのがわかった。けれど、今はそういった気配は感じない。
 恐る恐る目を開けると、高杉も閉じていた目を開けて久坂をじっと見ていた。
「やっぱり…。昨日のは、一種極限状態だったんだろうな。本来のクサカの力だったら、いや、そうじゃなくても、少なくとも妖力が欲しいと思っている妖なら、このくらい力を送ってやれば奪う力はなくても受け取れるはずなんだけど…」
「俺が、半分人間だから?」
 高杉が久坂の手をそっともどした。片手をベッドについて、身体を支える。
「それも関係あるかもしれないけど、たぶん、完全に力が覚醒してないからじゃないかな。それとも…よくわからないけど、力を送っても、お前自身がどうやら拒否してる感じがするんだよな」
「俺が、力をもらいたくないって思ってるって事?」
「そうなるのかな…。だから、そんなお前に力を渡そうとすることは、他の妖にはちょっとできないかもな」
「え?」
 再び久坂の上に覆い被さるように身体を移動させて、先ほどより近い位置に高杉の顔があった。じっと見つめられて、居心地が悪くなる。
「いっとくけど、これしか方法がないんだからな。お前が嫌だっていっても、だめなんだからな」
「うん…。それは、今の俺でもできること…なんだろ?」
「できる…と思うけど、お前がクサカじゃないから、一応言っておくんだよ」
 久坂はその言い方にかちんときた。これまではさんざん一緒だと言っておいて、この後におよんでそれはないんじゃないかと思う。確かに、自分は全然クサカには届かないかもしれないけど、それでも確実に近づいてきている。だから、今さらのように違いを指摘されても困る。
 それに、そんなことをそんな顔を赤くして言わなくてもいいじゃないかとも思った。自分でも意地になった、とは思うが、なんとなくクサカに負けたくない気がした。
「じゃあ、クサカは普通にやってたことなんだろ?今の俺の力でも問題ないんだったら、できるよ、それくらい」
 実際どのようなことかはわからなかったが、強気になって言ってみる。
 高杉が赤くなってまた少しうろたえた。
「まあ…普通にやっていた、と言えば、そうなんだけど…。実際にこうやって俺はクサカに力を渡して、クサカの妖力を保ってきたんだから」
「だったら、問題ないじゃないか。できるよ、俺だって」
「あのな…。…わかった。その言葉、わすれんなよ」
 久坂が返事を返そうとしたその言葉は、吐息ごと高杉に飲み込まれた。気が付いた時にはもうキスされていて、久坂は反射的に目を閉じる。そのキスがいつもの感覚と違うことに気づいて、逃れようと頭を振った。しかし、それも高杉が両方の頬に手をあてて、固定したことで失敗に終わった。
「…っ、ん……っ」
 息が苦しくて少し開いた唇の間から舌が入り込んでくる。どうしていいのかわからない久坂の舌を高杉のそれがからめとる。だんだんと何がなんだかわからなくなって、久坂は頭が真っ白になった。
 されるがままになっていると、どんどん自分の身体が熱を持ったように熱くなってくるのがわかった。胸の中でやはり何かがどくん、と動く。
 それがなんだか怖いことに思えて、久坂は高杉の腕をきつく掴んだ。
 それに気が付いた高杉が、ゆっくりと唇を離す。
 やっと解放されて、久坂が大きく息をついた。緊張して、満足に息をすることも忘れていたようだった。まだ自分の頬が熱いのがわかる。情けないが、こんなキスをしたのははじめてだった。
「気分はどうだ?」
「き、気分って…!!」
 高杉が冷静にのぞき込んで聞いてくるその台詞にますます真っ赤になる。さっき、クサカとは普通にやっていたことだ、と言っていた。頭の中で、やっぱりクサカとはそういう仲だったのか、とか、どんなことまでやっていたんだ、とかぐるぐる頭の中でまわる。我ながら単純な発想だとは思ったが、いったん回り出した考えが止まらない。
「だから、今ので少しは力が回復したはずなんだよ。それがどうだってきいてるの」
「あ、ああ、そういば…」
 まだ顔は赤いままで、久坂は何とか冷静になろうとする。
 変化はすぐに気が付いた。さっきまでの飢えたような気配や、身体のだるさがなくなっている。ためしに起きあがってみたが、なんの問題もなかった。
「うまくいったみたいだな。お前、途中から抵抗やめて大人しくなってたから、力が送り込みやすかったんだよ」
 その言葉にまたがーっと顔が赤くなる。恥ずかしくて高杉の顔をまともに見ることができなかった。
「い、今のが、その…力を渡すってこと…なんだよな。俺はお前から、奪ったって事とは違うんだよな?」
「そう。今のは、一方的に俺がお前に力を流し続けて、それをお前がなんとか受け取ったってことになるんだよ。俺がお前に送った量に比べて、お前が受け取ったのはほんのちょっとだから、あんまり効率いいとはいえないけど」
「あれで、ちょっと、なんだ…。俺はこんなに回復したのに?」
「そのくらいだったら、またすぐ動けなくなるから。本当は、もうちょっとちゃんと渡さないといけないんだけど…」
 そこで今度は高杉の方が赤くなったようだった。
「…いっとくけどな、他の奴とこんなことしても、だめなんだからな。俺だから、そんな無謀なことができるんだからな」
「む、無謀なことって?」
「だから、力を奪うことができないお前に、お前が受け取るまで力を流し続けるってこと。他の奴がそんなことしたら、そいつの存在している力をすべてつぎこむことになりかねないんだから。それに、そうやって誰かに力を与えるなんていうことができる妖なんて、数えるくらいしかいないんだからな」
 今度は久坂が高杉のほうに身を乗り出した。
「どういうこと?」
 だから、と高杉がまた照れたように赤くなる。
「そもそも、俺たちは自分の属性の物質から力を得てるわけだから、そんなわけてもらう、なんてことはないんだよ。だから、その反対に、自らの力を自分の意志で相手に送る、なんてことも普通はできないんだよ。でも、希に…そういう力をもった奴がいて…。それが、俺なんだよ」
 そこで、久坂は夏に河原で出会った石の爺のことを思い出した。あのときも確か、石の爺の力が弱まっていて、それに高杉が一瞬で力を与えていた。その後、石の爺が高杉のことを希な力をもってる、と言っていたはずだ。だから、潜竜なのだ、とも。
「そのお前の特別な力が…潜竜って言われてることにも関係してるの?」
「そっ、それは…!!関係ない訳じゃないけど、でも……。まあ、理由の一つってことになるのかな。そう呼ぶ奴の真意なんて俺にはわかんないけど、その力に関して言うなら、たぶん、もう一つの特徴にあるんじゃないかって思う」
 高杉が嫌そうな顔をして答えた。やっぱりそう呼ばれるのは嫌ならしい。
 逆に久坂はますます興味がわいてきて、高杉に詰め寄った。
「もう一つの特徴って?」
「だから…さっき言った、無謀な事をできるってことだよ」
「さっきって…?」
 そんなこと言ったかな、と首を傾げた。そんな久坂に照れ隠しなのか、高杉が顔を赤くしたまま怒鳴る。
「言っただろうが!さっき!!お前に力を流し続けることは、妖として無謀だってこと!!頭悪いな、もう!!」
「あ…そっか」
「キスくらいで動揺してないで、ちゃんと聞いてろよ」
「なー…!!」
 さっきの動揺を気づかれていたことに恥ずかしくなる。身体が一気に熱くなるのがわかった。それが恥ずかしさのあまり高杉に向かって爆発しそうだった。
「ちょ、ちょっとまて、こんなくだらないことで妖力使うんじゃないっ!」
「は…、え?!」
 言われた時にはすでに遅く、結界を張っているはずの空間が衝撃を受けて震えたのがわかった。久坂も驚いて目を閉じる。
 高杉が、何かを唱えて結界を修復しているようだった。
 その作業はすぐに終わったらしくて、高杉も安堵のため息をつく。
「…ったく、これだから…。あらかじめ結界を張った中でよかった…」
「お、俺が、また…何か?」
 言いながら、また力が抜けたようになっていくのがわかった。向かい合うように側にいた高杉にもたれかかるように久坂の身体が沈んでいく。
「ほら…もう、言った側から…。この状態を考えると、昨日のは奇跡に近かったと思うよ」
「…………」
 久坂を抱きしめながらまた高杉がため息をついた。情けなくて、顔があげられなかった。
 今度は落ち着いて聞けよ、とささやく高杉に、うん、と頷いて答える。
「俺の力のもう一つの特徴は、力をわけあたえるってことに関しては無限だっていうことなんだよ。無限っていうのも正確にはよくわからないけど。だから、たとえお前が力を奪えなかったり、受け取れなかったりしても、俺はお前が受け取るまで力を流し続けることができるし、お前が望んで、力を100%にしたいって言って俺から奪ったとしても、俺の存在はびくともしないくらいにはできてるんだ」
「それって…」
「うん…だから、クサカもお前も、俺といる限りは喰らうことも、奪うこともないんだよ」
「だから、クサカはお前と一緒にいたのか…」
 高杉が久坂を抱きしめる腕に力を込めた。
「まあ…俺は、そのために生まれてきたようなものだからな」
「そのために?」
「そう。俺はクサカのためだけに生きてきたし、俺の中でも、クサカと…もちろん、お前と一緒にいられなかったら、俺の価値なんてないだろうって思ってるよ」
「…………」
 久坂が黙ったままでいると、高杉が腕の力を緩めてのぞき込んでいた。
「でも、別に義務とか、使命感とかそういうのじゃないから。そういうのとは違った…その、なんて言えばいいのかな。逆に俺しかそれができないってことに関しては嬉しいんだよ。ほら、こう…あー、もう、なんて言えばいいのかな。絶対的に独占してる感じがするっていうか…。求められてるのがすっごくうれしかったんだよ」
 どんどん赤くなる高杉につられてやっと熱が収まっていた久坂も顔が赤くなる。
「だから、昨日お前が突然俺の力が欲しいって言った時に…。お前が俺を求めてくれたのが嬉しくて…。でも、もしかしたらそれは俺がずっとお前にそうなることを望んでいたのかもしれない、とか考えたりしたんだよ。お前にそれを望んでも仕方ないってわかってたのに」
 その言葉に、赤くなりながらも久坂が力強く高杉をにらみつけた。
「でも俺は、望んだよ。お前の力が欲しいって」
「無理すんなよ」
「無理なんか、してないっ!」
 お前だってわかってない、と高杉の胸に顔を埋めながら叫んだ。
「お前、なぁ…。人がせっかく自重してるのに、煽るようなこと言うなよ」
 高杉が何かに耐えるように久坂をきつく抱きしめた。それに答えるように、久坂も高杉の背に腕をまわして、抱きしめる。しばらくそうしたまま、動かなかったが、不意に久坂の手がぽとりとベッドに落ちる。どうやら、せっかく高杉に補充してもらった力を、先ほど動揺で使ってしまったらしい。
 ぐったりとしている久坂を高杉が苦笑しながらベッドに横たえた。
「もっと一度に力を送り込む方法もあるけど…。お前、キスだけであんなに動揺するんだもんな。当分、無理だよな」
「その方法って…?」
「大きな力をやりとりするときは、深く接触することが必要なんだよ。お前みたいに、力を受け取りにくいんなら尚更に。だから、キスよりも深い接触って事。これでもわかんないんだったら…」
 言いながら、高杉が久坂の首筋にかかった髪をはらって、そこに口づけた。
「あ…!」
 突然のことにに、またその感触に驚いて久坂の身体がはねる。同時に、キスより深い接触の意味がわかる。一カ所を強く吸われて、力の入らない両腕で高杉の身体を押し返すようにして拒んだ。
 それに気が付いて、高杉も唇を離して、あらためて久坂の顔をのぞき込んだ。
「だから無理すんなって言ってるのに。この行為自体は確かに、お前を助けるためっていう大義名分はあるけど…。俺にとってお前に触れることはそれだけの意味じゃないんだから」
「そ…な、こと言われても…」
 完全に頭の中がパニックになってる久坂に高杉がまた苦笑する。でも少し嬉しそうに、そのまま2,3度久坂に軽く口づけた。
「今度はさっきよりもしっかり渡せるんじゃないかな。お前も力抜いて、俺の力を受け取ることだけ考えてろよ。もしそれもできないようなら、何も考えるな」
「うん…」
 そしてまたゆっくりと唇が重なった。
 高杉からのキスを受けながら、何も考えないようにしようとは思ったが、ぼんやりと考えてしまうことがあった。
 それは、これまでの自分と高杉の関係が明らかに何か変わったということ。それは、今までなんとなく遠慮していたような高杉が自分に近づいてくれたことでもあるし、自分自身もまた自分の意志で高杉に近づけたような気がしていた。これから自分がどうなっていくのかは解らなかったが、高杉が側にいるなら大丈夫だと思った。




 結局その後、久坂は保健室に残ってしばらく休むことになった。高杉の言うとおり、初めにキスしたときよりも多く力をもらったというのは何となくわかったが、おかげで身体の熱さが収まらなかった。それがまた何かのきっかけで暴走したら困るので、落ち着くまでは久坂は保健室にいることになったのだった。
 高杉は教室に戻って、何事も無かったかのように結界を解く。当然、その間の時間の流れは切り離されて、午後の喧噪が戻った。
 保健室のベッドに横たわりながら、窓の外から漏れてくる自然の光と、校庭から聞こえてくる生徒の声に不思議な物を感じる。先ほどまでのあの時間が静かな水の中で行われたことだということは、やはり現実感がないな、と思っていた。
 そして、人の気配も、匂いも不快な物は感じない。身体も軽いし、妖力を不用意に出してしまうということをのぞけばやっぱり自分自身には変化は感じられないのだった。
「…もしも、本当に記憶が戻るなら…。知りたいことがたくさんあるなぁ…」
 夢の中で、知らない誰かが自分に語りかけたことが蘇る。
 ーー選ぶ権利があるのは、久坂、お前だけだから。思うままにやれば、それでいいと思ってるよ。
 そうなのだとしたら、きっと自分は間違ってない。
 久坂は気合いを入れるように起きあがった。午後の授業はほとんど終わりに近かったので、教室にもどろう、とベッドの脇に掛けてあった制服の上着を手に取る。まだなんとなく身体が熱いような気がしたので、着る気にはなれず、それを手に持ったまま、教室へと向かった。

 教室に戻ると、やはり授業は終わったところで、皆それぞれに帰り支度をする者、部活に行く用意をする者、とにぎやかだ。教室に入って、呼吸をしても、あの息苦しさはやはり感じない。それに心の底から安心した。戻ってきた久坂に気が付いた者が何人か声を掛けてくれる。口々に顔色がよくなった、と言われて、自然と顔が赤くなった。軽く話をしながら自分の席に戻ろうとすると、高杉が近づいてきた。
 なぜか、困ったような、ばつの悪そうな顔をしている。不思議そうにしている久坂に、小声ですまん、とつぶやいた。
「え…何が?」
「いいから、上着、着ろ」
「あ…でも、ちょっと暑くて…。着ないとだめなの?」
「……首筋に、その、さっきの跡が…ついてるからさ。品川とか、気が付いて何かまた騒ぐ前に」
「な…なんだって?!」
 久坂が首筋を慌てて押さえて真っ赤になって叫んだ。
 それを慌てて高杉が止める。
「声が大きいって…。何のために小声で話してると思ってるんだよ!」
「お前…まさか、わざとじゃないだろうな?」
 そんなことはないだろうとは思いながら、一応聞いてみる。
「ばか!わざとつけるなら、そんな中途半端なところにつけるか!!もっとわかるようにつけてやるよ!!」
 久坂のその問いに高杉が動揺したのか、その声は教室中に響き渡ったのだった。
 もうどうでもいいや、と久坂はがっくりと肩を落とした。



 静かな山間の里に、桂は居を構えている。正確に言えば、ここは桂自身が作り上げた空間で、外界から遮断された場所であった。長らくここに本体の場所を定めて活動をしている。これまでこの場所をあやかしにつきとめられたのは一度だけだった。
 今ここにいるのは、本体、と言われている桂と、一人の妖だった。
「…なんだよ、俺が長く留守してる間に、クサカが…現れたってことかよ。知らせてくれないなんて、ちょっとひどいぜ」
「そういうな。私も自分の目で確認するまでは半信半疑だったからな。どうなるかわからないということも含めて、あまり口外しないようにしていたのだよ。お前だけに知らせなかったわけじゃない」
「そりゃわかるけどよ。でも、本当にどうなってるんだ。俺だって人間界に長くいるけど…。クサカほどの大妖がまったく今まで力の気配を感じさせないで人間として暮らしてるなんて、そんな例聞いたこともないぞ」
 その妖は、右の目の上にかかる前髪をうるさそうに掻き上げた。
「だから、慎重なんだ。どうするんだ、今回のこと、ひきうけるのか?やめるか?」
 その桂の言葉に、にやりと笑みをうかべた。
「もちろん!受けるに決まってるだろ。それに…その久坂は、高杉のことすら忘れてるっていうじゃないか。おもしろいことになるかなって思うしな!」
 そして愉快そうに笑う。
「…全く、何を考えてるのかはわからんが、お前の任務遂行能力に一応は期待しておく。お前が向こうに着き次第、高杉を戻してくれ」
「主役交代…ってとこだな」
 また不敵な笑みを浮かべるその妖に、桂は無事に収まってくれればいいが、と頭を抱えた。

第7話了・続く

DARK HALF一気読み第7話 * トラックバック(-) * Comment(0) * Page top↑




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