ボーイズラブが前提の長編小説です。主人公は高校生。ある日、不思議な少年に出会ったことから、怪奇な事件に巻き込まれていく。惹かれ合う2人だったが…?!
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プロフィール

あまふりあおの

Author:あまふりあおの
あまふり・あおの

普段は絵描きをしている腐女子な主婦。無事出産で、現在一児の母。
たまりにたまった萌えをはきだすために、BL小説街道爆進中です。
長編ですので、ちょっと読むのは大変とは思うのですが、感想等いただけると非常にうれしいです。
もともと絵描きだから、たまには絵もアップ♪




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Welcome to 雨振舘 !!
お話のタイトルは「DARK HALF」です。中学生でも読んでも大丈夫!ですが、ちょこっとそういう描写もありますので注意です!(指定するほどじゃないので…)
管理人の日記はリンクから”雨振舘つれづれ日記”へどうぞ。お話についてもつぶやいてます。
拍手、コメント、メール大歓迎です!感想ぜひぜひクダサイ!
著作権放棄してないですよ。無断使用、転載等やめてくださいね。

☆管理人とはこんな奴
☆日記はこちら
☆登場人物紹介へ
☆あらすじへ


〜アンケートご協力ありがとうございました!結果発表をお楽しみにvv〜 ☆☆こんなのあったので作成してみました。はじめからこういうアンケート作成してればよかったかも…。
人物アンケート気が向いたらやってみてください…。
DARK HALF第8話 
2007/05/16 /08:47
第8話

 秋も深くなり、学校は11月に行われるクラスマッチというスポーツの祭典と、黒校祭という名の文化祭の準備に涌いていた。クラスマッチは当然ながら、スポーツ系のクラブに入っている者の見せ場として、そして黒校祭は文化系のクラブ、同好会らの発表の場としてもうけられている。ただ、黒校祭は、他の学校の文化祭ほど人気はなかった。なぜならば、まず、食販は禁止。つまり、喫茶など、そういった類のものは生徒は運営することができない。責任者を置いたとしても許可されない。また、教室をつかっての発表は、事前に申請し、「文化的活動の発表に値するもの」と許可がおりたものにしか適用されない。おまけに、バンド活動など、楽器を使うなら、そこに歌を入れてはならない、歌を発表するなら、ピアノ以外の楽器は基本的に認められない、というものになっている。生徒にとっては、せっかく学外から知り合いを呼んだとしても全く楽しみのないものなのだった。
 従って、力をいれて準備をしているのは、OBか、保護者連中、またごく一部の文化系発表を持つ者達だけだったりするが、これも伝統なので皆入学する前からあきらめていることでもあった。
 そんな学校の様子とは無関係なところで、高杉と久坂は悪戦苦闘していた。
 事の起こりは、10月。あやかしを討滅する際に、久坂が高杉の力を欲し、また高杉がその力を与えてしまったことで、久坂の中にあった妖の力が覚醒してしまったことにあった。
 そのために、久坂は妖の力を消費する度に高杉から供給を受けることになる。それは、久坂には転生する前から、「人を喰らわない」という縛りを受けているためであり、また、高杉が「力を与える」という能力を持っているから、ということもあるが、その手段としての“接触”が、2人の関係に微妙な変化をもたらしていた。
 今のところ、その手段は「キス」である。
 以前、高杉とクサカはそういうことは当たり前にやっていた、と久坂は聞いていたが、それが自分自身のためだということはわかりつつも、いまいち完全にはその行為を受け入れることができないでいた。
 高杉とそういった接触は以前からあって、もうそのこと自体にはそんなに驚くこともなくなっていたが、どうしても気持ちの上で、すべてを受け入れることができないでいる。
 それは、久坂自身が、高杉のことをどのように想ったらいいのかわからない、ということに起因していた。
 2月に出会って、それからいろんなことがあり、いつしか自分は高杉と一緒にいたいと想うようになった。そして、そのためなら、人間としての生活を捨ててもいいとまで、思っていた。それに間違いはないのだが、その気持ちを例えば、恋愛のような、好き、という感情に置き換えられるものなのかが、いまいちわからないでいる。
 また、今の自分のことを大切だと言ってくれる高杉の言葉に嘘はないとは思っているが、高杉が自分のことをそういったモ恋愛“のような感情で見ているのかは疑問だった。今まで自分、そしてクサカに対する高杉の溢れんばかりの真っ直ぐな愛情は痛いほど解っているのだが、それがあまりにも当然、といった態度の高杉に、自分が考えているような感情を当てはめていいのかもわからない。確かに愛情は感じてはいるが、それをはっきりと言葉に出して言ってもらったりしたことは少なくとも今の自分にはない。

 俺はクサカのもので、クサカは俺のもの

 いつか高杉はそう言っていた。それは、高杉にしかクサカに力を与えることしかできない、とか、その過程において行っている行為とか、そういったことの意味合いではないと思う。少なくとも、お互いがお互いのものだと言えるほど、2人の絆は強かったのだろう。

 クサカと高杉はお互いにとある感情を共有していた。

 桂から聞いた、その言葉は、もしかしたら、“恋愛感情”の様なものに当てはめられるのではないだろうか。

 そして2人は幸せに暮らしていた。

 その幸せを壊してしまったのは、他でもなく、突然姿を消したクサカ自身であるが、高杉は今でもクサカを信じている。
 たまに、意地の悪い考えではあるが、クサカが高杉を裏切っていたりとか、欺いていたりとか、そういったことは考えないんだろうか、と思うことがある。この間、高杉も知らないクサカの秘密、というものを聞いたときからなんとなく考えてはいるのだが、高杉はそういった可能性は考えていないように見える。
 もしも、自分に記憶が戻ったとして、クサカが姿を消した真相が、高杉を傷つけるようなものだったとしたら、どうなるだろうと考えてしまう。もしも、もしもそれがとても許せないような事で、高杉の一途な愛情が、憎しみに変わってしまったら、とてもじゃないが耐えられないと思っていた。
 そんな馬鹿みたいな想像で傷ついてしまうほど、最近は高杉のことばかり考えている。いつも、どこか自分に対しては遠慮がちな(無理に何かを要求することもないし、気持ちをぶつけてくることもない)高杉に、少しははっきりと言葉に出して気持ちを教えて欲しい、と思いつつ、そうされても困るような、どっちつかずの状態である。
 つまり、久坂はまだ自分の高杉への気持ちに名前をつけることができないでいるのである。
 特に、久坂の力が覚醒して以降、のんびりとそんなことを考える余裕がなくなってしまう出来事が続いているので、尚更であった。

「あ、久坂、今大丈夫?」
 放課後、クラスマッチの件で呼び出されてしまった高杉を待って、図書室でぼーっとしていた久坂に、クラスメイトが声を掛けてきた。
「あ?ああ、うん。いいよ」
 久坂は先ほどからまったく読み進んでいなかった本を閉じた。
 近づいてきた生徒は、松浦という、美術部の部員だった。大人しくて、普段は目立つこともなかったが、この松浦とは久坂は割とよく話をする友人であった。
「ちょっとね、相談があるんだけどさ」
 松浦が手に持っていたクロッキー帳を机に置いて、久坂の横に腰をかけた。
 言いにくそうにしているところを見ると、あまり愉快な話ではないらしい。
「どんな事?俺、美術には全然明るくないから、そういう相談なら無理だと思うんだけど」
「いや、そうじゃない…って言ったら嘘になるけど、美術そのものの話でもないんだ」
 今度の文化祭での作品発表のことなんだけど…と、つぶやく。
「何か問題があるの?お前、今回は動いている人間の魂がどうのこうのって言って、夏くらいから描いてたじゃないか。この前、完成したって言ってたろ?」
「うん…それは、完成したんだけどね」
 そういって、松浦が眼鏡をそっと直している。
「文化祭までそんなに日はないんだけど、どうしてももう1作品入れたくなってさ。さっき部長にお願いしたら、絶対に間に合う自信があるならいいって、言ってもらえたんだよ」
「へー…」
 松浦の絵は久坂も何度か見せてもらったことがある。久坂は絵画についてはまったくわからないのだが、松浦の絵が、というよりは作風がおもしろいと思っていた。何しろ、見せてもらうたびに画風がころころと変わっている。本人は写実的な絵を描くことが好きだというのだが、たまに精神世界をかいま見られるような抽象画を描くこともあり、さすがにその絵を見たときは、こいつの頭の中は暗黒が渦巻いているのではないかと心配したほどだった。本人曰く、絵というものを描くことが好きなだけで、手先が器用なだけの自分は画家にはなれない、といつもぼやいている。そんな松浦が夏くらいから凝っているのが、人物画なのだった。
「まあ、部長さんの言うように、あと数日だからさ、間に合う自信があるんなら、描けばいいんじゃないの?」
「そうしたいんだけど、自信があるかどうかって言われると、…自信がないんだよ」
「何で」
「俺がそれを描きたいって思ったのは、…なんていうのかな、雰囲気とか、オーラみたいな?そんな不確かなもので、それを見つけたときは、次の俺のテーマはこれだ!とか思ったんだけど、冷静に考えてみたら、それを描き表せる自信がないなーとか思って」
 そこまで話を聞きながら、なんでそれが自分に相談するようなことなんだろう、と久坂も首を傾げた。松浦は絵を描き始めたらものすごい集中力で、没頭するので、声もかけられない。聞けば、昔からそうだったというので、てっきり絵画に関係のある家族なのかな、と思ったのだが、意外に松浦の家は鮮魚が売りの、そこそこ大きなスーパーなのだった。
「ふーん…。描く本人が、そんな弱気なんじゃ、やめといたほうがいいんじゃないかなぁ…。次の機会にするとか。…素人意見だけどさ」
 だよねぇ、と松浦がため息をついた。
「そうなんだよね、その、モデルにしたい本人のさ、雰囲気がさ、むらがあって…こうやって今話していても、あの時感じたようなインスピレーションが涌いてこないんだよな…」
「…は?どういうこと?」
 久坂が松浦の方へ身を乗り出した。今、モデルにしたい本人、とか言われなかっただろうか。
「だから、お前、…と、高杉なんだけどね。ここ最近、ちょっと興味深いものを感じてさぁ」
「な、何を?!」
 久坂の心臓がばくん、と跳ね上がった。保健室での一件以来、自分と高杉はまるで公認カップルのようにひとくくりにされていて、事ある毎に遊ばれている。
「ああ、皆が言ってるような意味じゃなくってさ。最近、お前達一緒にいると、…そうだな、例えば、何かに対して警戒してるような、殺気のような…そういった雰囲気があるんだよね」
「さ、殺気…?」
 久坂は冷や汗の出るのを感じた。
「例えが変かな。…まあ、変ついでに。俺が描きたいって感じたのはそこでさ。なんかこう…人でも喰いそうな、人間離れした気配っていうか…、人殺しをしそうっていうよりも、飲み込みそうっていう飢えた気配をね、お前から感じたことがあって、俺、霊感とかそういうのないし、今まで興味もなかったんだけど、でも何か悪霊とかにとりつかれたら、そういった雰囲気になるのかなぁ、って想像したら、なんかおもしろくなってきてね、描きたくなってきたんだよね」
「そ、そんな…」
 冗談っぽく話してはいるが、まるっきりはずれてもないので、久坂は青くなる。動揺して、身体が熱くなるのを感じた。
「ああ、ごめんな。前からたまに高杉には似たようなの感じたことがあって、機会があったら描いてみたいなと思ってたんだよ。そしたら最近お前もそんな感じでさ。ファンタジーな絵をかくつもりじゃないから、表現が難しいな、って思ったんだよ」
 そうなると、人間じゃないみたいじゃない?と松浦が笑ったその言葉に、久坂が激しく反応した。
 突然、ばんっ、と大きな音が図書室に鳴り響いて、窓ガラスに次々とひびが入っていく。返却整理棚に置かれていた本が、はでにひっくり返って、床に散らばった。図書館のあちこちで驚きと悲鳴があがった。
「わ…な、何?突風??じ、地震かな」
 松浦があわてて辺りを見回す。同意を求めて久坂を振り返ると、真っ青になって震えていた。
「く、久坂、そ、それなんだよ、お前のその雰囲気ってやつ…。ま、まさか、これ、お前がやってるんじゃない…よな?」
 怯えたように、松浦が久坂から離れた。
 久坂はそれを否定することも、この状況を収めることもできないで、ただこれ以上被害をださないように精一杯祈るしかなかった。
 高杉と久坂が悪戦苦闘しているというのは、まさにこれだった。
 久坂は力が覚醒してからというもの、自分の意識下で妖力を制御することができないでいた。松浦が感じたという雰囲気も、押さえることができない妖力が久坂の周りには流れ出ているためなのだろう。現に、その力のせいで、下等なあやかしがふらふらとすいよせられるようにまとわりついてくる。それを自分でなんとかする術をしらないので、高杉がもっぱらそれを警戒し、やっつけているという状態だった。そして、時には久坂の動揺によって、暴走することもある。せっかく自ら望んで力を覚醒させたとはいえ、結局制御できなければ役には立たないのである。
 図書室の後方で、一際大きな音がして、本棚から本が崩れ落ちた。
 目の前の松浦はそれと、震える久坂を交互に見て、また後ろにあとずさった。
 久坂も、どうすればいいのかわからない。
 ただ、今はもう高杉に来てもらうしかないのだった。
 
 その時、図書室全体に、硬質の鋭い感覚が走った。
 久坂が驚いて顔をあげる。
 結界だ、というのはすぐに気が付いたが、高杉のものではなかった。高杉の水が揺れるような結界とは違う、鉱物のような冷たさを感じさせるものだった。
「こ、これは…」
 不思議なことに、今まで暴れていた久坂の力も、それに吸い込まれるように大人しくなる。久坂がそれを自覚した瞬間、ぱん、とはじけるように辺りが元に戻った。
 

 久坂が何が起こったのかわからずに呆然としていると、目の前には、さっきまで自分から離れていたはずの松浦が座っている。
「あれ?あ…っと、何を話していたんだったかな。俺、お前にちょっと相談したいことがあったんだけど…今の地震で忘れちゃったかなぁ…。それにしても、でかい地震だよね。絶対、震源地近かったよな」
「え?ええっ?」
 久坂はあわてて辺りを見回した。窓にひびが入っており、本は床に散乱している。図書室にいる皆がそれぞれ、震度はどのくらいだ、とかざわざわと話しているのが聞こえた。
「あの…お前、その…覚えてないの?」
 先ほど自分のことを人間じゃない、といって怯えていた松浦を思い出して恐る恐る聞いてみる。
「うん。何を言うか忘れちゃったよ。俺、別に地震とかこわがるようなタイプじゃないんだけどね。揺れが大きかったから、忘れちゃったのかなぁ」
 のんきにそんなことを言っている。
「いや、そのことじゃなくて、この、原因が…」
 久坂はわけがわからなくて、うろたえる。
「原因って?」
 松浦が何事もなかったかのように聞き返してくる。
 どうしよう、と思った時、図書室の扉が開いた。
「おーい、松浦。こんなとこにいたのかよ。日直の仕事、終わらせねぇと部活いけねぇんだから、はやくすまそうぜ!」
「あ…そうだった。ごめん、久坂。せっかく時間もらったのに。俺行くわ」
 松浦がそういって、図書室の入り口にいる人物に手を挙げて応えている。
 その人物を見て、久坂は眉をしかめた。
 あれはクラスメイトだ、というのはわかる。それはわかるのだが、名前がさっぱり思い出せない。
「誰だ…?」
 久坂は思わずつぶやく。
 その人物は、松浦を迎えるように、近づいてきている。じっと見つめる久坂に、にやりと笑った。
「久坂、お前も大変だな。肝心な時に側にいないような、役立たずの水は捨てちゃえばいいんだよ」
「な…?!」
 久坂が驚いて立ち上がる。それを、その人物は自分の人差し指を口に当てて、静にしろ、とでもいうようになだめた。
「松里…?何の話だ?」
 その会話に松浦が尋ねるのを、松里、と呼ばれたその人物はなんでもないよ、と応えてそのまま松浦と図書室を出て行った。
 一連の出来事に頭の整理が追いつかなくて、そのまま突っ立っていると、図書室の扉がまた激しく開いた。
「久坂!大丈夫か?!」
 そこには、血相を変えた高杉が立っていた。



「…なるほど、それが今回の原因ってわけだ…」
 図書室から、誰もいない教室に移動して、久坂は先ほどの出来事を高杉に話した。
 高杉が、適当な机に腰掛けて、いらいらしたように足で椅子を軽く蹴っている。その手には、なぜか小石が握られていた。
「その結界が、俺の力を吸収したのは確かだし、妖気とか、そんなのは感じなかったけど、その、松里っていう奴がからんでるんじゃないかと思うんだ。…実際の所はよくわからないけど、少なくとも、俺は松里について記憶はないんだ。でも、松浦は当然のように接していたし、俺の力が暴走した記憶もどうやら同時に消してくれたみたいだから、敵なのか、味方なのかよくわからなくて…」
「俺が図書室に行ったときにはそいつの気配なんて全然感じなかったんだけどな」
「お前が来る直前だったんだけどね。…そういえば、遅かったよな。来るの」
 久坂の力が覚醒してから、こういったことが頻繁に起こるので、高杉はずっと久坂の側にいた。もちろん、学校ばかりではなく、家に帰ってからもどうやら側にいるらしい。ただ、それならまた部屋に来ればいいのに、と言っても高杉はそれを断って、部屋に入ることはあっても泊まることはなかった。少し前なら、なんのためらいもなく部屋へ来ていたのに、それをしなくなったのも、やはり久坂の力が覚醒してからだった。
「こいつにね、足止めを喰らわされたんだよ」
 高杉が、もてあそんでいた小石を久坂に向かって投げる。受け止めて、見てみると何の変哲もない小石だった。
「これが?どういうこと?」
「そいつに力を込めて、文字通り俺の足を止めたんだよ。お前の力を感じたのと、ほぼ同時くらいだから、その結界のちょっと前ってことになるかな。絶対に、わざとだよな」
 また高杉が足で椅子を蹴った。今度は少し力を入れていたようで、椅子が倒れて、後ろの机とぶつかって大きな音を立てた。高杉がそういった乱暴なことをする時は、いらついている時なので、久坂もあえて何もいわなかった。
 高杉が軽くため息をついて座っていた机から降りると、無言で先ほど倒した椅子と机を直している。
 少し間を置いてから、久坂が尋ねた。
「…その正体を、お前は検討がついているんだな」
 高杉が、動きを止めて、久坂を見る。そして、ゆっくりと頷いた。
「この石を見た時から何となく、な。どういう目的で来たのか…」
「味方なの?」
「まあ、敵ではないはずだけどね。…俺への悪意はしっかりと感じるけど」
 久坂も、松里が図書館で言った言葉を思い出してなんとなく納得する。
 高杉が立ち上がって、桂に聞いてみないとな、とつぶやいた。
「桂に?どうやって?」
「とりあえず、誰もこないような…。校舎の裏でも行くかな」
 そう言って、久坂の手を引いて歩き出した。

 校舎の裏に移動し、誰もいないのを確かめると、高杉が辺りに結界を張る。そうしてできた空間の中心で地面に膝をついた。そして、片方の手のひらを地面に当てた。そこに力を集中しているのがわかる。
「来いっ!!桂!!」
 高杉が叫ぶと、手を当てた土の辺りから、大きな力がわき上がってくるのが解った。
「うわ…」
 思わず久坂が後ずさる。反射的に目をつむった。
 結界を張った空間が揺れた。
 ゆっくりと目を開けると、目の前に桂が立っていた。
「あ…本当に…?」
「久しぶりだね、久坂」
 現れた桂が微笑む。夏に見たときと変わりない、桂だった。一度しか会ったことがないのに、ひどく懐かしい気がした。
「以前は実体化させて君の所に行ったからね、時間もかかったし、周りの状況も掴みやすかったけど、今は連絡用に私の力が呼び出されただけだから、会話くらいで何もできないんだけどね」
 そう言ってまた笑う。
「前に言ったことあるだろ。呼び出そうと思えば、一瞬で呼び出すことができるって。かなりの力を使えば、本体だって呼び出すことは可能なんだから」
 高杉が横から口を挟んだ。
「何をめちゃくちゃなこと言ってるんだ。私の本体が動いたら、後が大変だろう。そんなことよりも」
 桂が高杉に向き直った。
「私の用件はもう聞いたのか」
「やっぱりお前の差し金かよ」
 高杉がおもしろくなさそうな顔をする。
「じゃあやっぱりあの松里は、妖?」
 久坂の問いかけに桂が一瞬、はて?と首を傾げた。
「松里…松里…。そんな名前にしたのかな?あいつはころころ名前を変えるから、よくわからんな。前は松村だったと思うから、近いし、今はそれにしたのかな?」
「そ…そんなもんなの?」
 久坂が驚いて高杉を振り返った。
「俺はまだ本人に会ってないから、なんとも言えないけど…」
 高杉がそう言ったとき、後ろから唐突に声がした。
「俺ならここにいるぜ」
 高杉と久坂が驚いて声のするほうへ向き直った。そこには、自分たちと同じ制服を着た、そして、久坂が先ほど図書室で会った松里が立っていた。
「栄太!!やっぱりお前かっ!!なんでここに入ってきてるんだよ!」
「側まで来ているようだったからな。私が入れたんだ」
 桂がははは、と笑う。
「あの…栄太って?」
 久坂が桂に問いかけた。
「彼のね、通称名だよ。私の仕事を手伝ってほとんど人間界にいることが多いから、いろんな名前を彼は使っているんだ。でも、私たちが呼ぶのはまた別だからね。久坂も、栄太って呼ぶといいよ。昔からそうだったから」
「昔から…」
 久坂は、高杉とにらみ合っているその、松里…栄太を見る。やはり、何も思い出せない。しかし、この妖も昔クサカと関わりがあったのだろう。
「だから、なんでこいつがここにいるのか説明しろよ!」
 高杉が桂に怒鳴る。それを栄太が鼻で笑った。
「お前が役立たずだから、俺が来たに決まってんじゃねぇか」
「何だと、この…っ」
 実際に見えるわけではないが、なんとなく2人の間に火花が散っているようだ。久坂はただはらはらしながらそれを見ている。
 同じように横でそれを見ていた桂がため息をついた。
「…お前達は、顔を合わせたら喧嘩しかできないのか。いい加減、大人になったらどうだ」
 その言葉に2人が同時に叫ぶ。
「だって、こいつがっ!!」
 見事にハモってしまって、また2人が黙ってにらみ合った。
 それを見ていて、久坂はなんとなく、本当は仲がいいんじゃないかな、とか考えていた。
「もう、いい。こうなることがわからなかったわけじゃないが、私だって、考え無しに呼んだわけじゃないんだ。栄太には、これからしばらく久坂についていてもらう。そして、高杉はこっちに戻ってこい」
「な…っ!!」
 高杉が絶句した。久坂も驚いて桂を見上げる。
 桂が戻ってこい、ということは、高杉は自分の側からいなくなるということだろうか。
 こんな風に高杉と自分が離ればなれになる可能性なんて、考えたこともなかった。
 栄太が一人、事情をわかっているようで、うろたえる高杉を楽しそうに見ていた。
「そういうこと。この状況ではお前は役立たずだから、違う仕事しろって事なんだよ。さっき俺が言った通りだろうが」
「断る!!」
 高杉が再び怒鳴る。
「何で俺が久坂の側を離れなきゃならないんだよ。そんなことするはずがないって桂、お前だってわかってるじゃないか!まして、こんな状態の久坂をあんなやつに任せられるか!!」
「久坂がこんな状態だから、そうするんだ。お前には、久坂に力を与えることはできても、久坂のその力を押さえることはできないのだからな」
 そういわれて、高杉がぐっと言葉をつまらせた。
「あの…それは、俺に問題があるってことなのか?」
 今まで黙っていた久坂が、桂に恐る恐る質問した。
「そうだね…。問題があると言えばある。君の力が覚醒したのは、もう起こってしまった事なんだが、それを自分で制御できないところに問題があるんだ。前にも言ったように、クサカの力は巨大なものだったから、そのまま力を押さえることが出来ないと、君自身もどうなるかわからない。それに…。君の力の気配を感じて、またあやかしが集まり始めているのも事実なんだ」
「クサカの力ってだけで、どうしてそんなに…」
 そんなに特別なものなのか、と疑問がわく。久坂が考え込んでいると、桂がちょっと困ったように笑った。
「確かにね、変だと思うだろう?でも、昔私はクサカに言われたことがあるんだよ。自分の力が弱まったりして、クサカ自身が自分で制御出来なくなった時、他のあやかしに力を渡さないために、一撃で殺してくれ…ってね」
「殺す…?!」
 久坂が驚いて顔を上げた。高杉は、知っているようで、黙って地面を見つめていた。
「それは、あやかし同士でしか解らないことなのかも知れないが、弱くなれば、元の力が大きければ大きいほど、ほかのあやかしに利用されるってことらしい。あやかしも、そういった力を常に捜してるのさ。…ああ、クサカがあやかしだったってことは、聞いているんだろう?」
「うん…」
「我々と違って、あやかしにはまた弱肉強食の事情があるらしい。クサカはもう、あやかしとは呼べないほど我々の側にいるが、それでも元々の力はあやかしの力だからね。それに、力が蘇ったと言っても、君はまだまだ人間だから、この人間の中で生活していかないといけないだろう?それには、そういった力を押さえて生活する術を知らないといけないと思ったんだよ」
 不安そうな表情の久坂の肩にかるく手を載せて、桂がまた微笑んだ。
 大丈夫、と言って久坂の肩をぽんぽんと叩いた。
「高杉も、それはわかっているんだろう?」
 話を振られて、地面をにらんでいた高杉が顔をあげた。
「それは…わかるけど、なんで栄太をよこすんだよ。お前がやればいいじゃないか」
「私が動くわけにもいかないからな。それに、今の久坂には栄太が適任だと思ったからだ。それも、言わなくてもわかるだろうに」
「…………」
 高杉が黙り込んだ。悔しそうに歯をくいしばっている。
「だとしても、俺が久坂の側を離れなきゃいけない理由にはならないだろ。俺は嫌だからな。離れるなんて、そんなことできないんだからな」
 だだをこねるように、高杉が言いつのる。
 それを見て、栄太が何かを言いたそうにしたが、そのまま黙って、桂を見た。
「ずっと離れてろなんて言わないよ。ちょっとやってほしいことがあるから、戻ってこいと言っているんだ。それは…」
「それがどんな事でも、たとえ人間界がどうのって関わるほどのことだとしても、俺は久坂の側を離れないからな!」
 桂が何かを言いかけるのを遮るように高杉が怒鳴った。てこでも考えを変えないらしい。
「高杉…」
 久坂はそれを自分でどう受け止めて良いのかわからずに、高杉をただ見つめた。
 そんな頑なな高杉に、桂がやれやれ、とため息をついた。
「とにかく、聞け。お前から久坂の力が覚醒した、と報告を受けた辺りから、各地に放った他の飛目から、気になる報告を複数受け取っているんだ。それは、たぶん久坂にも関係があることなんだぞ」
「何だって…?」
 そこではじめて高杉の態度が変わった。
「各地で、クサカを見た、という報告を受けているんだ」
「え…」
「まさか…!!」
 久坂と高杉が同時に叫ぶ。久坂はどういうことかわからなくて、呆然としていたが、高杉はかなり動揺しているようだった。
「もちろん、クサカは今ここにいる久坂だってことは、私も十分に承知しているし、間違いないと思っている。それなのに、他の妖達が、以前と同じクサカを見た、と言っているんだ。同じクサカの気配、そして、昔と変わらないクサカの姿で…ね」
「同じ、姿…」
 久坂はショックで足下がくらりと揺れるのを感じた。
 高杉や桂から何度、自分とクサカは同じだといわれても、覚えていないから自信なんてもつことはできない。さらに、容姿も変わっているというのも聞いていたから、尚更だった。
 それが確かに存在するのなら、もしかしたら、もしかしたら、そっちが本当のクサカで、自分は偽物なのではないかと、そんな考えがふいに頭をよぎる。それならば、力を制御できないことも、記憶がないことも、つじつまが合うのではないだろうか。
 そんなことになったら、自分という存在が、根本的に覆されてしまうのだ。
 そんな久坂の肩を、高杉ががっしりと掴んだ。
「そんなことはありえないな。俺の久坂はここにいるんだからな。絶対に間違いはない」
 力強く、高杉が言い切った。
「そういうと思ったよ。だから、なんだよ。お前に、調べてみてほしいんだ。それが本当にクサカなのか、それは高杉、お前が一番わかるはずだからな。お前だって、気にならないはずはないだろう?」
「……それは…」
 高杉がまた言葉をつまらせた。
 自分の後ろに立つ高杉を、久坂は不安げに振り返る。
 瞳が合うと、高杉がそっと視線をはずした。
「今すぐ、とは言わないが、自主的にお前から戻ってきて欲しいと思っている。他でもない、クサカのことだからな。お前だって、他の奴にまかせたいとは思わないだろう?ただ、騒ぎになったり、…もしくは何か起こってしまう前に、確かめるだけ確かめた方がいいと思っているんだがな」
「…………」
 高杉は、すぐに返事をしない。迷っているようだった。
「よく考えて欲しい。後のことは、栄太と相談しろ。ああ、もうつまらない喧嘩はするんじゃないぞ」
「俺は俺の任務をはたすだけなんだけどね」
 そう言って、栄太が肩をすくめた。
 それに、うるさい、と怒鳴ってから、高杉が桂を見つめて言った。
「わかった。考える時間をくれ」
 その言葉に頷いて、桂が出てきたときと同じように土の中に消えていった。
 結界を解除しても高杉はずっと何かを考えてるようで、黙り込んでいる。
 栄太はいつしかその場からいなくなっていた。


 その晩、久坂は久しぶりに、部屋で高杉を待っていた。
 あの後、いつものように久坂を家まで送ってから、高杉は栄太に話があるといって、いったん久坂の側を離れた。夜には戻ってくるというので、その何時間かを、久坂は久坂で普通にすごしていた。
 人間の生活を送る自分にとっては、当たり前の、食卓。他愛もない、両親との会話。改めて、それも大切なんだ、と思い知った。
 最近は高杉のことばかりを考えていて、安易に人間としての生活を捨てても良いなんて考えていたけど、実際はそんな簡単なものではないのだということも理解できる。
 高杉への気持ちが高まって、周りが見えていなかったのではないかと反省した。出会ったときから高杉が守ろうとしてくれていたのは、久坂と、そしてそれをとりまく環境なのだ。だから、自分でもそれを守る努力をしなければ、望んで力を得た意味もないのだと、そう考えることができた。
 だから、少し高杉と離れる必要が、自分にはあるのかもしれない。
 そんなことを考えながら、それでも高杉のためにと用意していた水のペットボトルを手でもてあそんだ。
 その水は、ネットで取り寄せたもので、いつか高杉が飲んで感動していた。
 クサカとの、思い出の水だった。
 あの時の複雑な気持ちを思い出しながら、水を見つめた。
 もし、高杉がその、気配も姿も昔と同じ、という“クサカ”に会ったら、どうなってしまうんだろう、と考える。
 何となく、いつもはしないのに、ペットボトルのふたを開けて、そっと口をつけた。
 水は冷たくて、そしておいしかった。
 やっぱり自分には思い出せない。
 たとえそれが偽物だったとしても、あんなに焦がれていた、クサカに会うことが出来たら、その時はどうなってしまうのだろう。
「……まったく、女々しいんだよなぁ、俺も…」
 久坂はそっとため息をついた。
 それでも、高杉を信じて、自分は自分でやるべきことをやらないといけないんだ、と言い聞かせた。
 
 ベランダの気配に気づいて、あわてて顔をあげる。
 いつものように、高杉が立っていた。鍵は開けてあるのに、高杉はベランダに立ったままだった。
 久坂は近づいて、窓を開けてやる。
 それでも、高杉は入ろうとはしなかった。
「入らないの?」
 問いかけると、高杉が無言でじっと久坂を見つめた。
「いや…、おじゃまします」
 高杉が中に入ったのを確認して、ほっと息をつくと、久坂は窓を閉めた。
「これ、飲んでいい?」
 久坂が先ほど開けてしまったペットボトルを手にとって、高杉が久坂を振り向いた。
「あ、ああ、いいよ。ごめん、さっきちょっと俺が飲んじゃったんだ」
「ふーん、めずらしいな」
 言いながら、高杉が口をつける。そして、それが何の水かわかったようだった。高杉はそれを飲み干さず、静かにふたを閉めた。そんな高杉に久坂も何も言わず、横に座った。
「あのさ…」
「お前は…」
 同時につぶやいて、2人で顔を見合わせる。なんだか今日はそんなことが多い気がした。
「何だよ」
「いいよ、高杉が先で」
 なんとなくお互いに譲り合いながら、結局先に高杉が話すことになった。
「…今日の話なんだけどさ、お前は例えば…俺がいなくなっても平気なのかよ」
「え…」
 答えに困って顔をあげると、高杉が真剣な瞳で久坂を見つめていた。
 気まずいような気がして、久坂が目をそらした。
「…平気っていったら、嘘になるけど…」
「どのくらい?」
「は?」
 いきなり横にいた高杉が久坂の顔を正面からのぞき込んできた。
「平気じゃないなら、どのくらい平気じゃないんだよ」
「ええっ?そ、そんなこと言われても…」
 久坂が赤くなって口籠もると、高杉がそのまま久坂を抱きかかえて、あっというまにベッドに押し倒した。
「ちょっと…いきなり、なんだよ!」
 両親がいるので、相変わらず大きな声は出せないが、精一杯抗議する。
 その久坂の唇を、高杉が強引にふさいだ。
 いつもより激しい口づけに、久坂はうまく息が出来なくて、何度も逃げようとするが、高杉がそれを押さえ込む。少し口を離しては繰り返されるそれに、久坂もだんだんと朦朧としてくるが、一つのことに気が付いて意識がはっきりと戻った。
 高杉がこういったキスをするのは、自分に力を渡すようになってからで、それまではどちらかというと、軽くふれあわせるだけのキスだった。そうじゃなくなったのは、力を渡すためにより深い接触が必要になったからだったが、今のこのキスからは、高杉の力を感じない。つまり、力を渡すとか、そういったとこと関係のない、キスなのだということに気が付く。
 それはたぶん、高杉の感情からきた行為なのだ、と考えると、力を受け取ったわけではないのに、身体が急激に熱くなる。キスの合間にうまく息を嗣ぐことができなくて苦しいのとはちがう苦しさが身体を駆け抜けた。
 その感覚をどうすればいいのかわからなくてパニックになる前に、高杉がそっと唇を離して久坂を解放した。
「俺は…ずっと、お前を捜していて、そして、見つけて…もう、離ればなれになるなんてこと、嫌なんだよ。離れている間に、またお前がいなくなったら今度こそ俺はどうかなってしまうんじゃないか…って思ってるんだ」
「………」
 そのまま、高杉は久坂をきつく抱きしめた。その激しさに久坂は息をのんだが、高杉が少し震えているのに気が付いて、そっとなだめるように高杉の手に自分の腕をまわした。
「お前の力のことは…くやしいけど、栄太にまかすしかないって思ってる。あいつも、桂から話を聞いて、ちゃんとお前の状況もわかってるし、あいつだって…クサカを大切に思っていたんだから、お前のその不安定な力をなんとかできるかもしれない。ホントくやしいけど…俺にはそういった能力がないんだ」
「………うん…」
 抱きしめられているので、高杉の表情が見えない。高杉の声だけを耳元に聞きながら、久坂は目を閉じた。
「それに、栄太は俺よりも長く飛目のとして人間界にいて、あやかしに関してはあいつのほうが場慣れしていて…。お前のこと、ちゃんと護ってくれると思う」
「……うん…」
 久坂は目を閉じたまま、心持ち額を高杉の肩に押しつけた。
 高杉は、決めたんだ。
 行くことを。
 離れることを。

「だから俺は…」
「行ってくるんだろう?…クサカを、捜しに」
 高杉が、つよく抱きしめていた腕をゆるめて、お互いの瞳を見つめ合った。
強くまっすぐ見つめる久坂に対し、高杉の瞳が泣きそうに揺らいでいるのがわかる。
「お前が行かないっていっても、俺は行けっていうつもりだったよ?俺なら大丈夫だよ。全然平気…ってわけじゃないけど、お前の帰りを待つくらいできるから」
 俺の話っていうのはそれだから、と付け加えた。
「久坂…」
 高杉の瞳を見つめながら言っているうちに、久坂はだんだんと心の中がすっきりとしていくのがわかった。今まで高杉に対してもやもやと考えていた自分の気持ちが、ぽんっと何かを押し出すように心の中に出てくる。それはあまりにも単純で、どうしてこれを認めることができなかったのか、冷静に不思議に思った。
 それはとても簡単な事だった。
 とっくに、高杉のことを好きになっていたのだった。
 でも、それは言えない。好きだって解ったから、今の高杉にそれを言うことはできなかった。
「…帰って…来るよね?」
「…………ああ、もちろん」
 高杉は再び久坂を抱きしめる。抱きしめられながら、自分に表情を読まれたくないのかな、と久坂は考えていた。
「だって、お前はここにいるんだから、他にクサカがいるわけないんだよな。だから、俺がちゃんと確かめてくるから。きっと、すぐに帰ってくる」
「…うん、きっと、すぐだよな」
「すぐだよ。あっという間だ」
 その晩は、朝まで2人ともほとんど眠れなかった。眠って、朝が来てしまうのがもったいなくて、それでも何をするわけでもなく、ただ抱き合っていた。お互いの胸に、お互いに言えない何かを隠しているような、そんな寂しさを少し、2人の間に残したまま、朝が来る。

 高杉は、久坂の部屋を出て、そのまま行ってしまったようだった。
 久坂は高杉の気配が完全に自分の側から離れたのを感じて、はじめて脱力感を感じて、窓辺に崩れ落ちた。
 高杉が言うように、きっとあっという間の、すぐのことだろうに、離れてしまったことへの後悔がいまさらのように胸にせりあげる。
「たかだかこれしきのことで、不安になるなんて…。俺もこのままじゃいけないんだよな」
 自分に言い聞かせながら、久坂は立ち上がった。
 負けない、と心の中で強く思っていた。

第8話了・続く
DARK HALF一気読み第8話 * トラックバック(-) * Comment(0) * Page top↑




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