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ボーイズラブが前提の長編小説です。主人公は高校生。ある日、不思議な少年に出会ったことから、怪奇な事件に巻き込まれていく。惹かれ合う2人だったが…?! Copyright © 雨振舘 All Rights Reserved. Template by RESIST. Powered by FC2 Blog |
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Author:あまふりあおの 最近のコメント カテゴリー
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お話のタイトルは「DARK HALF」です。中学生でも読んでも大丈夫!ですが、ちょこっとそういう描写もありますので注意です!(指定するほどじゃないので…)
管理人の日記はリンクから”雨振舘つれづれ日記”へどうぞ。お話についてもつぶやいてます。 拍手、コメント、メール大歓迎です!感想ぜひぜひクダサイ! 著作権放棄してないですよ。無断使用、転載等やめてくださいね。 ☆管理人とはこんな奴 ☆日記はこちら ☆登場人物紹介へ ☆あらすじへ ![]() 〜アンケートご協力ありがとうございました!結果発表をお楽しみにvv〜 ☆☆こんなのあったので作成してみました。はじめからこういうアンケート作成してればよかったかも…。 人物アンケート気が向いたらやってみてください…。
2007/05/15
/08:56
第9話
「あら、誠。まだいたの?もうとっくに家を出る時間でしょ?」 台所から洗面所に向かおうとしたらしい母が、玄関に腰掛けたままの久坂に驚いて声を掛けた。確かに、いつもならばこの時間にはとっくの昔に家を出ているのだが、どういうわけか、家を出たはずの久坂はまだ玄関でぐずぐずしているのだった。 「あー…、いや、ちょっとぼーっとしてて。もう、行くから」 母親の声にあわてて取り繕うように久坂が笑う。 いつもと違うその様子に、心配そうに自分を見つめたままの視線を居心地悪く感じて、久坂は急いで玄関の扉を開けた。 今朝早く、自分の部屋から高杉は出て行った。改めて辺りをうかがってみても、やはり高杉の気配はない。わかりきったことなのに、やはり寂しい。 久坂はそっとため息をついて学校への道を歩き始めた。 いつもの道をとぼとぼと歩いている時、後方から、異質な気配が近づいてくるのが解った。自分に対しての攻撃欲のようなものも、同時に感じ取れる。 あやかしだ、とは思ったが、どうすることもできない。今は、高杉もいない。そして、もし自分の力が暴走するようなことになったら、周りを会社や学校へと急ぐ人々を巻き添えにすることになる。 どうすることもできないが、せめて少しでも人のいないところに、自分が逃げるしかないと決心した。どうするかは、それから考えるしかない。 意を決して、振り返った久坂の耳元に、地をはうようなあやかしの声が響いた。 ーーーーーーーーー力の気配は強そうな気がしてたが、なんでぃ…。人間のようだナ。食べやすそうだナ 「…って、食べられてたまるか!ばかっ!!」 その言葉に無性に腹が立って、声の気配がする方に怒鳴った。 周囲の人が、何事かと足を止める。 久坂はすばやく周囲を見やって、一番人がいない方向を捜した。当然というか、やはり人気が一番少ないのは、この通りの向こうに広がる、例の雑木林しかない。まだ声だけで、あやかしの姿が見えないだけに、動くのはためらわれたが、自分がここにいる以上、状況は変えようがないのである。 ただ、先ほどのあやかしの言葉で、これだけ周りに人間がいても、あやかしが狙っているのは自分だということは感じ取れていた。 自分が逃げれば、それを追ってくる可能性の方が高い。 高杉に助けを求めることが出来ない以上、ここは自分でやれるだけのことをしなければ、と心の中で強く思った。 身を翻して、雑木林の方へと走った。 それに気が付いて、気配が追ってくる。 ーーーーーーーー逃げるつもりかナ…逃げてるつもりなのかナ…おいかけっこなのかナ… 愉快そうに笑うあやかしの声が頭に響いた。 どうやら、思惑通りついてきたらしい。問題が解決したわけではないが、あの場を離れることができたことにほっとした。 そのことで少し気が緩んだのか、急に足がもつれて、バランスが崩れる。あわてて地面に手をついて身体を起こそうとするその背後に、あやかしの気配が迫ったのが解った。 ーーーーーーーーおいついたー… 「あ…」 振り返ると、いつのまにか大きな炎が見下ろしていた。それは人の形ではなく、何か動物のような、そのような形だった。 覚悟はしていたが、それを上回る恐怖がわき上がる。同時に、自分の中で何かが熱く高まった。。 力が、暴走する。 そう感じて目を固く閉じた瞬間、あたりの空気が一変したのに気が付いた。 硬質の、冷たい感触が辺りを包む。 「石、生、縛!!」 ーーーーーーーーああああっ??! 声と同時に、まさに久坂に襲いかかろうとしていたあやかしの足下に、小さな固まりが4つ光った。そして、あやかしの動きが何かに縛られたように止まった。 間髪入れず、その光に自由を奪われたあやかしの頭上に、新たな気配が翻った。 「撃斬!!」 久坂があっと息を飲む間に、あやかしをその気配が指し貫いた。 頭の天辺から、まっすぐに刀のようなもので貫かれたあやかしが、何が起こったのか状況をつかめないまま、断末魔の叫びを上げて消えていく。うすれていくそのあやかしの核を、刃物が貫いているのが見えた。そして、それは動くことなく、消えていくのがわかった。 あっという間の出来事に、あやかしだけでなく、久坂もわけがわからない。 そのままあやかしの消えた方を見つめていると、あやかしを倒した気配がはっきりとわかってきた。 「お前は…松…、あ…っと、栄…太…?」 恐る恐る声を掛ける。 そう呼ばれた人物は、地面にささった身の丈ほどもある刀をひきぬくと、軽く片手で肩に乗せ、久坂の方を見てにやりと笑みを浮かべた。 「一人で何とかしようって思う気持ちはわかるけどな。結局、自分の力をコントロールできなかったら、同じ事なんだぜ。あの場所でも、ここでも、お前が不用意に力を使ったら、この辺一帯がふっとぶことだってあり得るんだからな」 「え…そんな…」 栄太は地面に腰をつけたままの久坂に近寄ると、手をさしのべた。 「挨拶がまだだったよな。俺は通称栄太。今こっちでは松里栄太。桂の一番の部下ってとこかな。よろしく」 「よ、よろしく…」 久坂がためらいながらもその手をとると、栄太は嬉しそうに笑った。 「俺は別にいいんだけど…。お前、いいのかよ?学校さぼっても。久坂は真面目な奴だって、きいていたんだけどなぁ…」 栄太が、買ってきたばかりのハンバーガーの包みを開けながらつぶやいている。 ここは、街の中心部から少し離れた小高い丘の上にある公園だった。側には、小さな動物園があるが、平日の昼間ということもあって、人気はほとんどない。遠足できているらしい幼稚園の子供らしき一団が少し前に2人の前を通り過ぎていったくらいで、他に人影は見あたらなかった。 久坂も栄太の横で同じようにベンチに腰掛け、自分もハンバーガーの包みを開いた。 「そりゃ…俺も、さぼったのなんて、初めてなんだけど…。なんか、いてもたってもいられなくて、学校…行く気がしなくて…」 「ふうん…」 栄太はうつむいたままぽつりぽつりと話す久坂をちらりと横目で見たが、何も言わずにハンバーガーに口を付けた。 久坂も、栄太がそれ以上追求しないことにほっとして、手に持っていたバーガーに口をつける。 自分の力をコントロールしないと、周りを巻き込んだ惨事を引き起こす可能性があると言われ、まずはそれを何とかしたかったというのは本当だ。このまま学校に行っても、またどのタイミングであやかしが寄ってくるかもわからないし、何がきっかけで力が暴走するのかもわからなかった。それに、また力を使い果たして倒れるようなことがあっても、高杉が側にいない、そして自分が本来の奪う力を取り戻せない限りは、力を補充できない状況に陥ってしまうのだ。だから、栄太の話を聞いて、少しでも自分でなんとかしたいと思ったのだった。 そして、もう一つ。 高杉のいない学校に行きたくなかった。 我ながら女々しい理由だとは思うが、高杉が今側にいないという現実を、学校という場でも思い知ってしまうのが嫌だったのだ。そして、それはさすがに言えなかった。 「さて…と。じゃあ、それ食べ終わったら、まずはお前の質問に答えようかな。高杉や桂に聞けなかったこととか、改めて思ってる疑問とか、何でもいいからさ。俺が答えられることは、ちゃんと答えるぜ?」 さっさと自分の分を食べ終わったらしい栄太が、両手を膝の上で組み、少し身をかがめて久坂を見つめた。その表情が気配がとても優しそうで、久坂は肩の力を少し抜くことができた。 そういえば、こうして栄太と近くにいると、なんだか昔から知っていたような気もしてくる。特に、先ほど栄太があやかしを倒した時に使っていた日本刀のようなもの…、あれを見たときに、心のどこかで、あっと叫び声をあげた自分がいたのは確かだった。 ということは、昔自分はこの栄太を知っていたのではないかと思った。 「じゃあさ、昔のこと…ちょっとききたい。俺は…その、クサカはお前のこと知っていたのかな?」 その質問に、栄太がははあ、なるほど、と言いながら眉をしかめた。 「やっぱ何も覚えてないんだよな。それは聞いていたけど、実際にそう言われるとちょっとへこむな」 「ご、ごめん、その、ぜんぜん記憶とかなくて…」 久坂が慌てると、栄太が愉快そうに笑う。 「冗談だよ。まあ、そりゃ本当にへこむけど、俺だけが忘れられてるわけじゃないし。今までのことは今までのことで、これからはまたこれから関係を作っていけばいいんだしな」 「うん…ほんとに…ごめんな」 「いいって。そうだなぁ…何から話せばいいのやら。だったら、俺のこと全然知らないって事になるんだろうから、そういう辺りから話した方がいいか?」 その言葉に久坂もうなづく。そういえば、この栄太のことは全然知らないのだった。どんな力を持っていて、桂や、高杉ともどういう関係があるのか、それに、桂が言っていた、“今の久坂には栄太が適任だ”というその理由も聞きたかった。その言葉に高杉も反論しなかったので、高杉もそれは承知しているということなのだろう。 「俺はもちろん、人間じゃなくて、妖なわけなんだけども、実は人間だった時期もあるんだよ」 「え…?!人間…?」 それは、自分と同じように、人間として生まれ変わったことがあるということだろうか。 「あっと…。正確に言うと、“人間だと思って生きていた時期がある”ってことなんだけどね」 「思ってた…って、自分が妖だって知らなかったって事…?」 そう。とうなづいて、栄太は少し真剣な表情を見せた。 「妖って奴らは、普通は生まれた時から…まあ、発生するって感じなんだけど、この世に姿を現した時にはもう、自分が何者であるかくらいはわかってるものなんだ。もちろんその姿は俺たちみたいな人間の姿そっくりなのもいれば、そうじゃないのもいるし、様々なんだけど、いずれにしても、普通はね。わかってるものなんだよ。」 でもなぁ、と栄太が一息ついた。 「俺は、ある日目が覚めたら、石切場に転がっていて、自分が何者であるかも何もわからなかったんだよ。そしたら、そんな俺を記憶喪失だと思って引き取ってくれた親切な人間がいてななぁ。俺はそこで暮らしたから、自分の事はずっと人間だと思っていたわけだよ」 「あ、もしかして…栄太っていう名前は」 「なかなか勘がいいな。そうなんだよ。そこでつけてもらったのが、この名前なんだ」 久坂はなるほど、と心の中で納得した。妖の通称名なんて数えるほどしか知らないが、どれも自分から見れば名字のようなものが多かったが、栄太はどうみても名前のように聞こえるので、少し違和感があったのだった。 「まあ、かいつまんで話すとだな。結局俺は人間じゃなかったわけだから、周りから気味悪がられてね、村八分になった末に、クサカに拾われたんだよ」 「え…クサカに…?でも、どうして気味悪がられるなんてことがあったんだ?」 「だってお前…、お前だってその力が人に見られたら、どう考えたって人間じゃないだろ?自分でコントロールする術をしらないんだから、何かの拍子に力が出ちゃったりしてさ。俺の側にいると、石が降るとか言われたもんだよ。大きな岩を突然砕いたりね。それに、気味悪がられる最大の理由は別にあるんだ」 「力以外のことで?」 「年とらないんだよ」 「え?」 「だから、この姿のままで、俺たちは変わらないってことなんだよ。何年経っても、拾われた時の姿のままなんだ。よっぽど姿を変えたかったら、そうする術もあるらしいけど、そんなことできっこないしね。だから、10年経とうが、20年経とうが、この姿のまま。年をとらない。そんなのどう考えても普通じゃないだろう」 確かに、人間は容姿がまったく変わらないと言うことは普通ありえない。それだけでも、人間ではないと思われても仕方がないことだったのだろう。 「そうか…。それじゃあ、高杉とか桂も?」 「桂のクラスになるとそれなりに姿を変えることもできるんだろうけど、少なくとも、俺が出会ってから今まで変わってないよ。もしかしたら、長いことあの姿なんじゃないかな?」 栄太が腕を組んで、首を傾げながら話す。桂の姿を思い浮かべているようだった。 「じゃあ、クサカも…?」 「そりゃあそうだろうね。今まではね。クサカの姿が変わったのは、俺は初めて見たよ」 「ど、どういうこと?」 驚いて久坂が栄太に向き直ると、それをみて栄太が愉快そうに笑った。 「どういうことも何も、だって、お前、クサカとはやっぱり容姿が違うからさ」 「あ、そういうこと…」 そうだった、と、久坂は自分の胸に手を当てた。今の自分は昔のクサカと全く似ていないと言うわけではないが、そっくりということもない、というものだったのだ。いつか高杉も、クサカはもっときれいだった、と言っていた。そして、自分をクサカだと言い切ってくれながら、今は昔のクサカの姿をした何者か…を追っているのだった。 「お前は…。栄太は、どう思う?姿とか全然違って、ぜんぜん力不足だし、記憶だってないし…。そんな俺でも…でも、クサカだって、そう思う?」 久坂は胸に手を当ててうつむいたまま栄太に問いかけた。 「…桂に言われて、こっちにやってきて初めてお前を見たときはそりゃ驚いたよ。なんか、イメージが全然変わってたからかな…。でも、俺なりに確かめてみて、やっぱりお前はクサカなんだってわかったよ。だから、俺はお前はクサカだと思うね」 栄太はベンチに腰掛けた足を組み直して、天を振り仰いだ。 「確かめたって、何を?」 「図書館だよ。お前、力を暴走させただろ?あの時」 久坂は、昨日の図書館での出来事を思い出した。確かにあの時は自分は力を暴走させて、それを押さえることができず、たぶん、栄太が結界を張って防いでくれたのだ。 「あれでどうしてわかるんだよ?」 顔をあげて栄太の方を見ている久坂に、栄太も視線を合わせた。 「俺の特殊な力は、“相手の力を吸収する”ってことなんだよね…。だから、俺なりに確かめようと思って、お前が力を出す機会を狙っていたんだよ。それであの時、暴走したお前の力を吸収して、そんで、その力がクサカのものだっていうのがわかったってわけ」 「狙っていたって…じゃあ、高杉を足止めさせたっていうのも…」 「まあ、あいつにすぐ出てこられたんじゃ困るから、ちょーっと邪魔しただけなんだよ。別に嫌がらせじゃないぜ」 そう言って、栄太はからからと笑っている。高杉の方は完全に悪意だ、とか言っていたような気もするが、と久坂はあの時のいらついた高杉を思い浮かべていた。その時足止めに使ったという小石を見て、栄太のことはだいたい想像がついていたようだった。 ………石。 石を使っていたと言うことは、栄太の属性は石、ということだろうか。では、あの先ほど使っていた刀のようなものはなんなのか。唐突に疑問がわいてきた。 「あの…話は変わるんだけど、お前の力って、石…なの?高杉は、基本的には水だけど、自分にはあまり属性は関係ないようなこと言っていたけど、どうなのかな?」 「うん。端的にいえば、俺は石を使って力を出すけど、属性が石ってわけじゃないぜ」 「石を使うけど、石じゃないの?」 「まあ、石も含めて…他にも、そうだな。金属とか…。属性で言うと、“金(こん)”ってことらしいよ。ちょっとわかりにくいんだよな。例えば、さっき俺がみせた刀みたいなのは、力をあやつるのに都合が良い物体を石の力を借りて俺が作り上げたものなんだ。俺は俺の属性の範囲だから、あんな刀みたいに見えるんであって、他のやつだったらもっと違った感じになるんじゃないかな?」 「金…」 確かに、ぱっと聞いただけでは金は具体的に何を指すのかわかりにくい。あまり考えたことがなかった。ただなんとなく、あの刀の正体がわかったような気はしていた。 「ちなみに、桂はね。あいつはもう属性とかそういったことを超越しちゃってるから、こういった括りの中には入れることが出来ないんだけど、噂によると元は土だったらしいぜ。本人に確かめたわけじゃないけど。まあ、桂を呼ぶ時はみんな土を通じて行うから、あながち噂だけじゃないって感じもするけどね」 「あ…なるほど…」 久坂は昨日学校の校庭の土を使って呼び出された桂を思い出した。確かに桂はなんとなく、広い大地のイメージが似合うような、そんな気がしていた。 「まあ、属性の明確な区切りってのもよくわからないんだけどね。あやかしだって俺たちと元は一緒みたいなものだって聞くけど、属性がなんだかよくわからないようなのもいるしね。そういう意味では、さっきお前が言ってた高杉も、明確に水の属性って括れるもんじゃない気がするし」 「属性が関係ないってところ?」 「あいつの出生も、力の源も水だっていうのははっきりしてるんだけど、それだけじゃないんだよな、あいつの場合。確かにその気になればどんな属性の力だって借りることができるんだから、変な奴だよ」 栄太が言いながらおもしろくなさそうな顔をしている。どうも2人はお互いをあまりよく思っていないようだが、どうしてなんだろうと、これにも興味がわいた。 「高杉のこと…嫌いなの?」 「べつに…そういうわけじゃないけど。ちょっと気に入らないだけなんだよな」 「……なんで?」 どうしても聞いておきたかったので、さらに追求してみる。 栄太は眉間にしわを寄せて、何か思案するように目を泳がせると、ちょっと首をかしげた。 「なんか…本人を目の前にしてちょっと言いにくいんだけどね。…俺は高杉よりもちょっと早くクサカに出会っていて、つきあいも高杉よりはちょっと長くて…。んで、人間界に興味があるクサカをいつか自分が人間界を案内してやろうと…桂も一緒に、こう、旅みたいなのができたら、クサカも桂も喜ぶかなぁ、とか、そんな幼いこと考えていたんだよ」 そこまで言って、栄太がじっと久坂を見つめた。急に見つめられて、久坂も思わずどきりとする。 だが、すぐに栄太はため息をついて視線を外した。 「でー…、そんなこと考えたりとかしながら、真面目に修行して、飛目としての実績も、力も磨きに磨いたわけだよ。一つの任務が終わって、桂とクサカの所に行くたびに褒めてくれてさ…。俺はできそこないの妖だったから、早く一人前に認めて欲しくて、2人の側に近寄りたくってさ…。もう修行の鬼と言われましたともさ」 そうしてまた大きくため息をついた。 その先に何があったのだろうと、久坂も息を飲む。 「ある日、いつものようにしばらく人間界に行ってて…、でもちゃんと任務をこなして戻ってきたら、クサカの側に高杉がいたんだよ。まるでね、当然のように!!それだけでも俺には十分ショックだったんだけど…だって、クサカが桂以外に自分の側にずっと誰かを置くなんて、聞いたことも見たこともなかったし。予想もしてなかったし。しかも聞けば、元から巨大な力を秘めてる妖だっていうし、俺がめちゃくちゃ努力して手に入れた力や地位をいとも簡単に手にしたというか…。なんか、生まれながらのエリートって感じがして嫌な感じがしたんだよな!おまけに……」 栄太が言いながらがっくりと肩を落とし、さらに大きくため息をついた。 「おまけにクサカは幸せそうに笑ってたんだよ…」 「はぁ…」 久坂はなんとコメントして良いものやらわからず、居心地悪そうに身体を動かした。 つまりはやきもち…のようなものなのだろうか? そんなことを考えていると、栄太が顔をあげた。今度は少し怒ったように、瞳の力を強めている。 「でもな、それだけじゃないぜ。力のことに関して言えば、俺はこれまで高杉と手合わせしたうちで負けたことは一度もないんだからな。そういうことで気に入らないんじゃないんだ。俺が気に入らないのは、あいつが強大な力を持っていながらそれを高めようとか、鍛えようとかする意志が足りないってことなんだよ」 「え…でも、高杉は今でも強いと思うけど、確か桂も高杉はずいぶん修行したって言ってたような…」 「だから、そこなんだよ。実際あいつの力はすごいぜ。俺が今あいつに勝てる部分は戦い慣れっていうか、場慣れしているからって所が大きいんだ。高杉の力はこんなもんじゃないんだよ。そのくらい、俺にだってわかる。ただ、高杉は自分の力を高めたりとか、鍛えようとかそういったことを、クサカが…つまりお前が関わらないとしないんだよ。そこが、腹立つんだよ」 「俺が…クサカが関わらないと…って?」 久坂は驚いて栄太に向き直った。 「だから、どんなに潜在的にすごい力を持っていたとしても、あいつはお前になんかない限りはそれを引き出そうとは思わないってことだよ。だから、今でも鍛え方が中途半端で、本来の力を十分発揮できてないんだよ。しょうもないミスとかやらかすしね。もしクサカが姿を消したりしなかったら、そのクサカを探し出そうなんて思わなかったら、高杉はずっと昔のまま、力を秘めたままで終わってたんじゃないかな?だから潜竜っていわれるんだよ。たとえどんなにすごい力を持っていたとしても、しょせん水面に出られない水の底…ってね」 「だから言われるの嫌がってたのか…」 久坂はその呼び名を言われるたびにむきになって否定していた高杉を思い出していた。 クサカのためにしか強くなろうとはしない高杉。 自分を護るために強くなろうとしてくれる高杉。 いつか高杉は自分はクサカのために動いていて、クサカのために生きているといっていた。そのぐらい、クサカのことを強く思っているのだ。それはこれまでもずっと感じてはいたが、あらためてそう思う。 記憶のない自分には解らないが、クサカは、高杉と出会ったときから、高杉に何らかの感情を抱いていたのだろうか?そもそも、2人はどうやって出会って、どうやってお互いを自分のものだと言えるほどの絆を作ったのだろう。 そして、その2人の関係をはっきりした言葉で言ってしまったら、どういう関係になるのだろう。 それは、強く、深く、愛し合っていた…と言える関係だったのだろうか。 そうだとしたら、その延長上に自分への愛情も存在したりするのだろうか。同じような感情を持っていてくれるのだろうか。 それとも、クサカへの愛情の延長上としてしか、やっぱり自分は存在しないんだろうか。 考え始めたら止まらなくて、次々と頭に浮かんでくる。 今、ここにいる自分ができることはなんなのだろう。 きっと、帰ってきてくれるだろう高杉を、そう信じて待つと決めた自分は一体何をすればいいんだろう。 そしてそして、高杉に今の自分自身を受け入れてもらおうと思ったら、どうすればいいんだろう。 「……今、高杉のこと考えてるだろう」 「えっ?!」 ずばり言われて、久坂が途端に真っ赤になる。 「ああ、もう…。わかりやすいな。ちぇー、結局どこまでいってもクサカは高杉が好きなのかよ」 「え…、ち、違…っっ!!」 またもや図星を指されて久坂はますます赤くなった。 「いや、もうばればれだからさ、お前。それに、そんなこと今さら驚かないよ、俺。一応付き合い長いんだから」 「…………」 「それを認めて、それから始まることだってあるんだから」 栄太の諭すような口調に、久坂もゆっくりと深呼吸して気持ちを落ち着けた。確かに、自分の気持ちをしっかりと認めて、それから動き出せることもあるのかもしれない。 「こんな俺でも…、そう思っていてもいいのかな?」 「いいんじゃない?」 栄太が即答する。 「もちろん今のお前は昔のままじゃないけどさ、お前はお前。それは動かしようのない事実なんだから。確かにクサカは強くて、大妖って呼ばれるほどすごい妖だったけど、その力が今お前にないっていうんなら、とりもどせばいいだけだよ。何年かかっても」 「その力を取り戻せたら…少しは自信がもてるかな」 「どのくらいでそれをお前が感じるかはわからないけど…。でも、忘れていた、知らなかった自分の力を自分のものにできたというのが実感できたときは、自分の中でも何かが変わるもんだよ。世界が変わる感じ」 栄太が久坂に笑いかける。 その笑顔を見て、久坂は栄太と今日話をはじめてから持っていた疑問の一つの答えが見えたような気がした。 今の自分に栄太が適任だと言うこと。 高杉達と違って、栄太は本来持っているはずの力をどう使っていいかわからない状態から、それを自在に使いこなせるように努力したという妖だ。それは今の自分の状態によく似ているとも言える。 自分の力をどう扱っていいのかわからなかった栄太が周りに一目置かれる妖となったのは、それ相応の努力があったのだろう。だからこそ、今の自分の境遇をわかってくれるのかもしれない。 強くなれるかもしれない、俺も。 久坂はなにかを決意したようにぐっと表情をひきしめた。 「お前の言うとおり、俺も、この自分の中にある力をコントロールできるようになりたい。そのためにどうすればいいのか…俺に、教えてくれないか」 「…もちろん。俺の一番の任務はそれだからな。うん、お前が自分から言ってくれて俺も嬉しいぜ。結局、力を作用させる源は“気持ち”だからな」 栄太がまた嬉しそうに笑って、久坂の手をとった。握手するようにぶんぶんとふる。 その無邪気な様子に、つられて久坂も微笑んだ。 「…ありがとう」 「御礼はちゃんと力をコントロールできるようになってから言ってほしいな。時間もあまりないから、とにかく厳しくいくからな」 「うん、わかった」 「でも…」 そこで栄太がちょっと意地悪そうに笑った。 「役得として…前払いで少しもらっておこうかなぁ」 「何を?」 「御礼」 言うが早いか、栄太の唇が久坂の唇を掠め取った。 一瞬遅れて何が起こったのか理解した久坂に出遅れた血の気が登ってくる。 頭が真っ白になって、身体を熱いものがこみ上げた。 次の瞬間、そうなることを予測してか、あらかじめ張ってあった栄太の結界の空間を雷が落ちたような衝撃が襲ったのはいうまでもなかった。 それからの日々は、飛ぶように過ぎていった。気が付いてみれば、文化祭当日である。 高杉は相変わらず帰ってはこないし、また何か連絡があることもなかった。ただ、3日前栄太と一緒にまた桂と連絡を取った時、高杉から、クサカの力の気配のする場所を特定したという報告を受け取ったと言うことは聞いていた。そして、その辺りでは人間が山には入って行方不明になる事件が昔から多発していることも報告を受けているので、そのあたりにあやかしの気配があることも報告を受けていると言っていた。それから連絡がないということなので、少々不安ではある。 それに、自分にはまったく連絡手段がないことも寂しいと思っていた。自分はいつまで高杉をただ待っていればいいのだろうと、そんなことを考えて落ち込んでしまう。携帯電話の発達している現代、離れていても声を聞くことは容易になってきている。だが、自分たちの場合はそんな文明の利器には頼れないというのもなんだか不思議な気分だった。 妖の世界は、今まで自分が暮らしていたこの世界で常識なことが常識でなかったり、常識とは考えられないことが常識だったりする。まだまだ自分はそちらへは近づけてないのだと思えた。 自分はと言えば、栄太指導の元、もっぱら精神修行をしている。 修行と言うから、筋力を鍛えたりとか、体力トレーニング的なものがあるかと思っていたが、そういったものではなく、久坂に日課として与えられているのは瞑想をして、心を落ち着け、自分の中にあるクサカの力の気配を把握すること、だった。それは主に夜自宅で一人部屋にいるときに行っている。そして、栄太と居るときは、力を使った「結果」をイメージするトレーニングをしていた。これは栄太が張った結界の中で行っているため、一人でやってみたことはないが、高杉がいない以上自分にこれ以上の力を供給するものがいないので、あやかしと闘うとか、そういった大きな事ではなく、まずは自分の中の力を外に形作ることからだった。以前風のあやかしと闘ったとき、自分はよく覚えていないが確か力をまるで刀のように形作っていたと思ったので、それを再現するイメージをつくることに専念していた。栄太も力を刀のように変えて形作っているが、高杉達のようにはじめから力をあやつれる妖などはあまり必要ないが、人間である久坂の場合には何か武器をイメージしたほうが形作りやすい、というアドバイスもあったからだった。まだはじめて一週間だから当たり前と言えば当たり前なのだが、地道に続けていくしかないと思っている。 こうして時間を見つけては鍛錬をしているのだが、栄太と2人で話した初めの日のように学校をさぼることはなかった。久坂自身もあまりそういったことはしたくないとは思っていたし(あの時は高杉と離れた直後で冷静ではなかったと思っている)、栄太も高杉同様、今の久坂の生活をできるだけ護りたいという考えのようだった。 確かに、学校に行ってみると高杉は家庭の事情で休みとなっており、いつもの教室で高杉がいないのは寂しかったが、栄太はそんな久坂を気遣っていつも明るく、そして時に厳しくはげましてくれていた。この間不意打ちのようにキスされてしまったことから、初めはどう接して良いのかと悩んだこともあったが、栄太の明るい雰囲気に次第にそんなことは気にならなくなっていた。また、栄太もあれ以上何かをするとか、そういったことはないのでいつしか気にしなくなっていた。 ただ、学校の登下校、学校にいる間、そして休日ほぼ一緒にいるのに、栄太は久坂の部屋へ来たことはなかった。栄太曰く「一応、遠慮する」ということだったが、夜近くにはいるらしい。その遠慮するというのが誰に対してだかイマイチわからなかったが、久坂としてはそういしてくれてありがたいと思っていた。 「あれ…どういうことなんだろうなぁ…」 久坂は文化祭を抜け出し、一人校舎の屋上でフェンスにもたれながら空を見上げていた。構内からも校庭からも、BGMが流れてきてにぎやかだが、やはり少し寂しさを覚えて、友人達にも何も告げずこっそり抜けてきたのだった。 実は昨日、栄太がこの街のあやかしについて不穏な動きがある、と言ってきたのだ。栄太は久坂を護ったり、トレーニングにつきあったりするのとは別に、この街のあやかしを討滅する任務もある。最近は久坂の力の影響なのか、この街にはいつも以上にあやかしが集まって来やすくなっているのだが、その集まったあやかしがここ数日で何かに怯え、逃げだそうとしているというのである。 「本当かうそかはわからないんだけどね、何か“黒い力が来る”とか言っていたんだよなぁ。怯えて逃げようとする奴もいるし、昨日の奴なんか、それに危機感を覚えてめちゃくちゃに暴れたりしてさ、被害者も出たし…。どういうことなのかはわからないけどね」 そういって考え込んでいた栄太を思い出す。 ただ、なぜか「黒い力」というのが頭にひっかかって、離れなかった。もちろん、記憶なんか無いのだが、自分はそれを知っているような気がしてならない。それが今の落ち着かない気分の原因でもあるかもしれなかった。 「戻ろうかな」 ここに一人でこうしていてもしょうがないので、にぎやかな校内に戻ろうと、踵を返したその時だった。それまで秋晴れの澄み切っていた空が、突如暗雲に包まれる。それはちょうど久坂の頭上から、周りに広がっていくような感じだった。 「な…何…?」 その雰囲気の重さに、あたりを見回す。一気に空気も重くなり、息をしているのも苦しい程だった。ただ、この感じに覚えがあった。あせりながらも、それが何だったのか思い出そうと、懸命に頭を巡らせる。 「あっ…」 思い出して、一歩後ずさった。 それは先日、自分がまさにこの力を初めて使った時、初めて倒したあやかし…風のあやかしの中にあった、別のあやかしの巨大な力と同じものだった。あの時風のあやかしはその力を不用意に食べたため、その力に逆に乗っ取られて自分の意志を失っていた。そして、その力は高杉を憎み、高杉を狙っていたものだった。 それが、どうしてここに。 まるで黒い煙のように自分の頭上に現れたそのあやかしを見上げる。よく目をこらしてもても、それはただの黒い固まりにしか見えず、これまでのような何か属性のわかるものでもなかった。ただ、力だけは巨大で、その気配だけで久坂は足が震えた。 そして、もう一つ久坂を驚愕させたものがあった。 ここ数日の鍛錬のおかげで、久坂は自分の中の力の流れ、気配を感じられるようになってきていた。そして、その自分の力の気配が、その黒いあやかしの中から微量だが感じ取れるのだった。 逃げなければと思うが、足が動かない久坂に、そのあやかしの声が響いた。 ーーーーーーーー貴様は何者であるか… 「え…」 ーーーーーーーー貴様は我の一部か。我の求めるものがそこにあるか 「お、俺は人間だ。お前の求めるものなんかじゃない」 ーーーーーーーー人間か…。これは異なこと。中身は我のもとめるものである 「ど、どういうこと…?」 久坂がまた一歩下がる。中身、ということは自分の中のクサカの力と言うことだろうか。そもそも、人間だとはいったものの、自分の半分はクサカなのだから、まったく人間だというのは通じないかもしれなかった。だが、このあやかしの中にあるのが確かに自分の力と同じものだったのなら、あやかしは自分の中のその力を求めているということなんだろうか。 ーーーーーーーー確かめてやろう…来い…我の元へ… 「!!」 これまで黒い固まりでしかなかったそのあやかしから、まるで手のように二本の触手が久坂へと伸び、あっという間に身体を絡め取られる。それはぐいぐいと締め付けて、息をするのさえままならない。 「あ…ぐ、う…」 久坂はかろうじて動いた右手をあやかしに向けた。息が苦しく混乱する頭の中で、栄太の言葉を思い出す。 『お前は力を暴走させるばかりじゃなくて、押さえることも一応本能的にはできてるんだ。朝お前があやかしに襲われているとき、すぐ助けようと思ったんだけど、暴走するかと思ったお前の力を、あの時少しの間だけどお前は自分で押さえたんだよ。だから、どうなるかちょっと見守ったんだよね。だから、自分の中の力の流れをつかむことができたら、普段から力を出さないようにすることも、逆にそれを思うように使うことも出来るようになると思うんだよ』 そう言われた通り、ここ数日自分の力を感じ続けていた。そして、もう一つ、“結果”をイメージすることも続けてきた。完全ではないが、今できることはこれしかなかった。 『結果をイメージしろ!』 今できること、とにかく、ここから逃れること。 このあやかしを、吹き飛ばす…!! 「吹き…飛べ…!!」 ーーーーーーーーなに… ありったけの力をこめて叫ぶと、手のひらが熱くなり、力が集中したのがわかった。そして、それと同時に、辺りが閃光に包まれ、続いて爆音が起きる。 辺りの空気が震え、校舎自体が衝撃に震えた。あやかしが咆哮をあげ、身体にからみついていた触手が離れるのがわかった。また、久坂自身も衝撃に後ろに吹き飛ばされる。 屋上か、もしくは校舎の壁にぶつかる衝撃を覚悟した時、その身体は何かに抱き留められていた。 「四石硬爆!!」 ーーーーーーーーが、うがああああ!! 離れた場所で、あやかしが再び咆哮をあげる。 その声に目を開くと、自分を片手で抱き留めた栄太がいた。 ほっとして、やっと大きく息をつく。 「久坂、ごめんな。あんまりにでかい力だったもんだから、先にここいら一帯に結界を張っていて遅くなっちまって…。でも、がんばったな。すごいじゃん」 そう言って、栄太が笑う。つられて久坂も微笑んだ。 とりあえず、その一撃はうまくいったらしい。 「一人で立てるか?」 よろけながらも久坂がなんとか身体を支えると、栄太は少し安心したように息をついて、あやかしに向き直った。 久坂、栄太の攻撃を立て続け受けて少しひるんではいるものの、あやかしの力の衰えは見られない。 「あれは、一体何なんだ?」 久坂は栄太に尋ねるが、栄太もあやかしをにらんだまま首を振った。 「わかんないな。俺もこれほど濃い力は見たことがない。…これは、俺一人じゃきついかもな…」 「えっ…」 めずらしく弱気な栄太の発言に、久坂も驚くが、それに栄太は構わず、体勢を立て直して襲いかかろうとするあやかしに攻撃態勢をとる。 「でも、やるっきゃないだろう!やんなきゃあいつに笑われるからな!」 「そんな…」 「乙庚剣!」 栄太が叫ぶと、その手にいつか見た刀が現れる。それを構えると、襲いかかるあやかしに向かって跳躍し、振り下ろした。 「撃斬っ!」 それが伸びてきた触手の一部を切り落とすと、あやかしは大きな体をゆすって、さらに触手の数を増やした。栄太を絡め取ろうと向かってくるその触手を乙庚剣でなぎ払うと、地面に降り立った栄太が小石を握った左手を自分の額に押しつける。 「神五石柱!!」 栄太が手に握っていた小石をあやかしに向かって投げると、五つの石があやかしの周りを取り囲んだ。栄太がそのまま二本の指を前方に振り下ろす。 「縛!!」 ーーーーーーーーむ、うううううっ 栄太の声と同時に、あやかしの周りに散らばった石が光を放ち、みるみる柱のように伸び、あやかしを包囲する。その柱の檻から、あやかしは動けなくなっていた。 ーーーーーーーーこしゃくな…!! 「う…っ!!」 動けないながらも、あやかしが鋭く触手をのばして反撃する。その素早さにさすがの栄太も一瞬動けず、触手の攻撃をまともにくらう。だが、かろうじて刀で受け止めた。 受け止めたものの、その力は大きく、栄太も片膝をつく。そして、今度は乙庚剣を横になぎ払った。鈍い光が走り、柱で取り囲まれた黒い固まりを襲った。 本体を攻撃されて、伸びていた触手が力を失い消滅する。さすがのあやかしも柱の結界で縛られた状態ではそれ以上の反撃をすることができず、結界の中で吠え、暴れた。 あやかしがとりあえずそれ以上動けないことを確認して、栄太はまたがっくりと膝をついた。肩で大きく息をつく。久坂は思わず駆け寄っていた。 「だ、大丈夫か…?!」 栄太は握っていた乙庚剣を離すと、両手をにぎったり開いたりしている。 「ああ、なんとか…。でも、やばいな。はじめっからフルパワーで、それでもこんだけしかできないってのは…。手がしびれて、だんだん感覚が無くなってきやがるぜ」 「お、俺が何かできること、できることないかな?!」 久坂もあせって叫ぶ。栄太にもどうしようもないというのに、今の自分で何ができるわけでもなかったが、せめて手助けがしたかった。力を思うように出せなかった以前よりは少しは何かできるのではないかとそんな気もしていた。 だが栄太はそんな久坂に静かに首を振った。 「まだ何かできる力が残ってんなら、俺がくたばった時に逃げるためにとっておきな。それまではそこで応援しててくれたらいいから」 「お、応援って…。…高杉と同じ事言うんだな」 いつか高杉もそんなことを言っていたのを思い出した。 「あいつが同じ事言ったっていうんなら、そりゃあいつが俺のまねしてんだよ」 「そ、そうなの?」 「そうだよ、きっと。俺はあいつと同じ事なんて言わないから」 こんな深刻な場面なのに、少しおどけたように言う栄太に、久坂もついつい笑みがこぼれる。 「そんなもんなんだ」 「そんなもんなんだよ」 2人で顔を見合わせてまた笑った。そして、栄太がまた真剣な顔になる。 「久坂、これ」 「え…?」 栄太は制服のポケットから、何かを取り出すと、久坂の首にかけた。それは、青みがかった緑の石のペンダントだった。 「これは?」 「そいつには“火印”っていう大昔の大妖が入ってる石だよ。中の火印自体はほとんど眠っていて何かするわけじゃないんだけど、火印が入っているその石自体にも力が宿っていて、お前の力を引き出す手助けをしてくれると思う。ただ、今のお前じゃあ火印の力の方が強すぎて、結果がどうなるかわからないところもあったから、もう少し力のコントロールができるようになったら渡そうと思って……。桂にもそう言われて預かっていたんだけどね。もうそうも言っていられる状態じゃないからな」 「火印…」 「ちなみに、桂から渡されたときはもっと違う石に入っていたんだけどね、それじゃ味気ないと思って、俺がその石に変えておいたんだよ。お前の誕生石」 「誕生石?」 久坂は首から提げられたその火印を手にとって見つめた。たしかにその輝きは深い緑の様にも、光の具合によっては青い色にも見える。何か宝石だとは思うが、何かはわからなかった。 「翡翠だよ。お前、五月生まれだろ」 「そ、そうだけど、知らなかったよ」 「まあ、そんなわけでおれからのプレゼント。いいか、何かあったらそれに力を込めるんだ。手助けになるはずだからな」 「でも、お前はどうするんだよ…!!」 立ち上がろうとする栄太の腕を掴む。その言葉がまるで死にゆくものの遺言のようにも聞こえたからだった。 「俺は…お前を護るのが使命だから。どうあっても、護るよ。もしもの時のためだ。心配すんな」 「でも…」 まだ久坂が何かを言いかけたとき、それまで動けなかったあやかしが再び力を増したのを感じ、2人ともあやかしに向き直る。 黒い固まりが柱の結界の中で膨張し、内側から結界を破ろうとしているのがわかった。それほどにこの黒い固まりは大きな力を持っているらしい。 その力が大きくなると同時に、前よりもはっきりとその中にある自分と同じ力も感じ取れるようになっていた。 「栄太…あの、あの固まりの中から、俺と同じ力を感じるんだ。ど、どうしてかな」 「そうらしいな。…考えられることは…。あのあやかしもクサカの力を喰ってるということか…」 「クサカの力を喰ってる…」 そう言われて、先ほどあやかしが“求めるものがあるか”と自分に問いかけていたことを思い出した。とすれば、あのあやかしはクサカの力を集めているのだろうか。それは一体どういう目的なのだろう。 「来た…!!下がれっ!!」 「!!」 栄太が久坂を自分の背中へ押しやると、乙庚剣を構えた。 あやかしはまさに結界を破り、勢いをつけて襲いかかってきている。 栄太が目を閉じて、何かをつぶやく。足下のコンクリート全体が光を放ち、栄太に集まってくるのがわかった。 乙庚剣が一気に光を増す。 あやかしが触手ではなく、本体のまま栄太の頭上に襲いかかった。まるで大きな口を開けるように、広がると、栄太を飲み込もうとする。そこで栄太が目を開いた。 「金、乾、震…!!」 栄太が叫ぶのと同時に、乙庚剣から光が炸裂した。まさに栄太を飲み込もうとしていた黒い固まりが動きを止め、叫びをあげて暴れる。久坂はそのまぶしさにとっさに目をつぶった。 「喰らえッ!撃、斬!!」 ひるんだあやかしの頭上に跳躍した栄太が、そのまま刀を振り下ろした。 ーーーーーーーーおのれ、妖めが…!! 「!!」 あやかしが叫ぶのと爆発が重なり、久坂には何が起こったのかわからなかった。ただ、黒い煙がもうもうと辺りを覆っている。あやかしの力が弱まったのがわかった。そして、何かが地面にたたきつけられた様な音も同時に聞こえる。 「栄太…!!」 その方向を見ると、栄太が脇腹の辺りを押さえて倒れている。 押さえてはいるが、その下の制服は広範囲に赤く染まっていて、どうなっているのかわからない。再び久坂は駆け寄った。 「怪我したのか、栄太!!」 駆け寄って、抱き起こそうとした久坂を、栄太がにらみつけた。 「いいから、下がってろ!!」 「でも…!!でも、こんなに血が…!!」 その傷を見て久坂がうろたえた。 脇腹が大きくえぐり取られている。普通の人間なら即死していたかもしれないほどの大けがのように見えた。 無理に身体を起こそうとした栄太が咳き込むと、同じく血が噴き出した。 「ど、どうすれば…。どうすればいいんだ、俺は…」 なすすべもない自分が歯がゆくて、久坂は身体が震えてくるのがわかった。 このままでは栄太が死んでしまう。 それは嫌だった。 知らず知らず、久坂は首にかけられた火印を握りしめた。 そうこうしている間にも、先ほどよりだいぶ小さくなったあやかしがそれでも体勢を立て直し、こちらに向かってくる。先ほどの栄太の攻撃でだいぶ力が弱まったことは感じ取れた。弱まっているのに、執念からなのか、みるみる膨張していく。 ーーーーーーーー許さん、許さんぞ、この、我を…!! 「けっ!!差し違えてでも消滅させてやるぜ!」 荒い息をつきながら、目の前で栄太が乙庚剣を杖代わりにして立ち上がる。 そんな栄太を見上げ、久坂は心の中で叫んだ。 どうすればいい?高杉……高杉!! あやかしが2人を飲み込もうと再び大きく口を開いた瞬間、辺りを水の気配が包んだ。 「爆砕!!」 聞き覚えのある声と同時に、あやかしが爆発に吹き飛ばされた。 久坂はまさか、と目の前に自分をかばうように立ちふさがった背中を見つめた。 「あ、あ…まさか、まさか…」 その声に背中の主が振り返った。 「時間ないからちゃっちゃとかたづけるからな。栄太を頼む、久坂!」 そういうと、まだ事態をのみこめない久坂に笑いかけ、高杉が黒いあやかしに向かっていく。 「爆砕!」 次の爆発が起こった時、我に返った久坂は、栄太に駆け寄った。 「栄太!!」 よろめく栄太を抱き留め、引きずるようにしてその場を離れた。 校舎の陰までつれていくと、栄太は壁に身体をあずけた。 「あいつ…高杉、来たのかよ…」 「う、うん…よくわからないけど、助けに来てくれたみたい」 「でも、変だぜ。それにしてはあいつは…」 そこまで言いかけて、栄太が咳き込んだ。また鮮血が流れ出る。 「とりあえず今はしゃべるなよ、きっと高杉がなんとかしてくれる…」 久坂は闘っている高杉の方を振り返った。 ーーーーーーーーこの力は潜竜…、お前か…!!お前…お前さえいなければ…!! 「うるさいっ!!おとなしく消えやがれっ!爆砕!!」 ーーーーーーーーおのれ、おのれ、潜竜…っ!またしても、またしても…っ!! 断末魔をあげながら、黒いあやかしの力が徐々に消えていく。 辺りを覆っていた重苦しい空気もだんだんと薄れていくのがわかった。 「倒した…のか…?」 あやかしの気配が無くなると、久坂もやっと肩の力がぬける。力がぬけて立ち上がることもできず、そのまま呆然としていると、高杉がそばに来ていた。 「高杉…」 「無事でよかった」 高杉は心から安心したような笑みを久坂に向けると、今度は栄太の側に膝をついた。 「お前…高杉、そんななりでよく来れたもんだよな…無理しやがって…」 「久坂のためなら俺はなんだってできるんだよ。お前こそ、そんな状態でよく文句言えるもんだよ」 「うるせぇな、助けてくれなんて言った覚えはないからな」 「まあ…俺もお前を助けるつもりはないけどね。でも、久坂を護ってくれてありがとう。礼を言う」 「ふん…礼を言われる覚えもないけどな」 そう言って目を閉じた栄太の肩に高杉が手を置く。どうなるのかと見守っていた久坂が目を見開いた。 「た、高杉…?!」 栄太の傷が癒えていくのと引き替えに、目の前の高杉の身体が、どんどん薄くなり、消えていきそうになっていた。 驚いて高杉に手を伸ばすと、その手は高杉に触れず、空を切った。 消えそうな高杉がゆっくりと振り返る。 「ちくしょう…。お前に触れたかったな…」 久坂の頬に触れようと伸ばした手は、触れることは叶わなかず、久坂は高杉の力の気配だけをその頬に感じた。あわててその手の気配に自分の手を久坂が添えようとした時、高杉の気配は目の前から消え去った。 わけがわからなくて、久坂は自分の手を見つめた。 「どうして?どうなってるんだよ!!」 目の前で高杉が消えてしまったことに納得できずに、久坂はあたりをみまわすが、高杉の気配ももうどこにも感じられなかった。 「あいつは本体じゃなくて、力の一部を送ってきたんだよ」 「え…」 栄太を振り返ると、先ほど高杉から力を送られたのが応急処置になったのか、力をいくぶんか回復させて傷口がふさがった栄太が壁を支えに立ち上がっていた。 「たぶんお前の危機を感じて、助けに来たのは間違いないと思う。でも、なんらかの事情で本人が来ることが出来なかったんだろうな。だから、力だけ飛ばしてきたんだよ。そんで、それを使い果たしたから消えたのさ」 「そ、それじゃあ高杉自身はどうなってるんだ?!」 「わかんないけど…たぶん、何かあって、動けなくなってる可能性は高いんじゃないかな。でなけりゃ、本人が来るはずだからな。何か、トラブルがあったか…。ちょっとわからないけどな」 「う、動けなくなってるって…」 久坂は頭の中で何かに殴られたかのようにがんがんと音が鳴り響くのを感じた。 今まで離ればなれになって、考えないようにしていたが、やっぱり高杉がいないのは嫌だった。そして、もし高杉に何かあったのなら、何も出来なくても、それでも側にいたいと強く思った。 「俺は…高杉のところへ…側にいかなきゃ…」 「そんなこと言っても…何があったのかわからないから、とりあえず今回のことを報告するのと一緒に桂に聞いて…って、おい、久坂?!」 栄太は目の前の久坂の存在が揺らめいているのに驚いて声をあげる。 当の本人も何が起こっているのかわからなかった。 「おい、お前まさか、高杉のところへホントに行くんじゃないだろうな?!」 「あ、どうなってるのか、わからな…」 久坂が何か言いかけたが、最後まで言い切らないまま、栄太の目の前から久坂の存在がふっと消え去った。 驚いてしばらく呆然とした栄太だが、我に返って右手で頭をかいた。 「なんて事だよ、全く…!!」 栄太は空を振り仰いでため息をついた。 第9話・了
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