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ボーイズラブが前提の長編小説です。主人公は高校生。ある日、不思議な少年に出会ったことから、怪奇な事件に巻き込まれていく。惹かれ合う2人だったが…?! Copyright © 雨振舘 All Rights Reserved. Template by RESIST. Powered by FC2 Blog |
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Author:あまふりあおの 最近のコメント カテゴリー
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お話のタイトルは「DARK HALF」です。中学生でも読んでも大丈夫!ですが、ちょこっとそういう描写もありますので注意です!(指定するほどじゃないので…)
管理人の日記はリンクから”雨振舘つれづれ日記”へどうぞ。お話についてもつぶやいてます。 拍手、コメント、メール大歓迎です!感想ぜひぜひクダサイ! 著作権放棄してないですよ。無断使用、転載等やめてくださいね。 ☆管理人とはこんな奴 ☆日記はこちら ☆登場人物紹介へ ☆あらすじへ ![]() 〜アンケートご協力ありがとうございました!結果発表をお楽しみにvv〜 ☆☆こんなのあったので作成してみました。はじめからこういうアンケート作成してればよかったかも…。 人物アンケート気が向いたらやってみてください…。
2007/05/13
/09:32
第11話
いつから意識があったのかはわからない。 いや、今のこの状態も意識があるといって良いものかどうかわからなかったが、今自分が真っ暗な空間にただ、在るということはわかっていた。ただ、自分の存在がとても希薄で、そのままこの真っ暗な闇にとけていきそうな、そんな感覚を覚えていた。 突如、全身に悪寒が走る。 何かが自分に向かってきたのがわかった。 何も見えない暗闇にあちこち視線を向けるが、もちろんあるのは暗闇だけだ。でも確かに、何かが近づいてきている。恐怖に身体が震えたとき、目の前に突如人の腕らしきものが現れた。 「ああっ!!」 思わず悲鳴をあげる。 その色黒い手が久坂の腕をつかんだ。その力の強さに恐怖が増す。必死で腕の伸びてきた方向に目をこらすと、徐々に腕の主が姿を現した。 久坂が息を飲む。 みたこともない男だった。がっしりした体格を誇示するかのように、太い腕を肩から晒している。短い髪は燃えるように逆立っており、その鋭い眼光が男の力の強さを物語っているようだった。 「…あ…あ…」 何か言おうと思うのに、うまく言葉がでなかった。 自分はこの鋭い瞳を知っているのではないかと思えた。否、正確に言うと、“自分”ではなく、それより昔の“自分”…つまり、クサカが、この男を知っているのではないかと、なぜだかそう思えた。 『こんなに震えて…お前ほどの力を持つ物が…かわいいものだな。やはり人間を喰らえなくなると、こうも力が落ちる物なのか』 「え…」 目の前の男が、口を開く。しかしそれは、久坂に向かって発しているのは違う印象を受けた。確かに目の前でしゃべっているのに、久坂は頭に直接響いてきたような感覚を覚えた。 『このまま喰ってしまうのもいいが…それでは何のおもしろみもないな。どうだ、どうせ力を失して朽ち果てるか、他のあやかしのえじきとなる身であろう。そんなオレがお前を生かしてやろうじゃないか』 いいながら、掴んだ腕を引いて、久坂を自分の胸に引き寄せる。その力強い胸に抱き込まれて、久坂は一瞬息が詰まった。 逃れようともがくが、自分を抱きしめている腕はびくともしない。せめて胸に押しつけられている頬を離したくて、嫌々をするように首を振った。そのくらいの抵抗しかすることができなかった。そんな久坂をみて男がにやりと唇をゆがませて、ふいに抱きしめていた身体を緩め、自らの身体を大きくずらした。 「う、あ…っっ!!」 首筋の生暖かい感触にびくりと身体が跳ね上がる。男の舌が首筋をゆっくりとはっていた。びくびくしている久坂の反応を楽しむように何度も耳の下から鎖骨の上辺りまでを往復させる。 『喜ぶがいい、このままお前をオレが飽きるまで慰み者にしてやろう。犯し尽くして、身体も、心もすべてオレの力で満たしてやろう。そうすることが、もう力もなくしたお前に最良の選択だとは思わないか?美しいこの姿も、それでこそ役に立つというものだろう』 「あ…、や、嫌…だ…っ」 男は笑いながら久坂の身体を確かめるようになで回す。その手を払いたいのに、腕に手に、全く力が入らない。 違う、違う、と頭の中でその言葉がずっと繰り返される。 こんなんじゃないと、自分の身体を、心を満たす者は違うと繰り返す。 俺が待っているのは、こいつじゃないと。 ずっと待っている。ずっと求めて長い時間待ってきたけれど、自分を満たしてくれる者はこいつではないと、頭の中でぐるぐると回っている。それが今自分が考えていることなのか、それとも過去の記憶なのか、もうぐちゃぐちゃで何もわからなかった。 それでも、今の“久坂”としてはっきりと口にすることができた。 だから、叫ぶ。 「助けて…ッ!高杉…ッ!!」 「久坂っ!!」 突然、光が飛び込んできた。 あまりのまぶしさに辺りが真っ白になる。 何がどうなっているのかわからなかったが、久坂は必死で自分を呼ぶ声のした方へ手を伸ばした。 その手がしっかりと誰かに握られる。その感触を離したくなくて、もう片方の手で更にその手に重ねた。 ほっと息をついた時、だんだんと自分という感覚が戻ってくるような、不思議な感じと共に、あれだけまぶしかった光が収まってくる。そして、視界が開けた。 「…………え……?」 やっとはっきりと目の前に現れた光景に、ぽかんとする。しばらく言葉が出なかった。 そこは、知らない場所だった。 まず飛び込んできたのは、天井、伸びる太い柱と、明かりが入ってきていたのは白い障子だった。 そして畳に敷かれた布団に横たわった久坂自身の傍らで伸ばされた手をしっかりとにぎりしめてくれているのは、先ほど助けを求めた、その人物だった。 「たか…すぎ…?」 やっと言葉を形作って高杉を見ると、高杉は涙を浮かべて、瞳を切なげにゆらせた。布団の傍らから、久坂をのぞき込むような体勢でいた高杉が、安心したかのように大きく息をついてうなだれた。 「お…まえ…、よかった…。やっと、目を覚まして…」 絞り出すように声を出す。ともすれば、そのまま崩れ落ちてしまいそうな印象を受けた。 「あ…俺、どうして…?ここは…?俺…俺は…?」 記憶が混同して、どうしてこういう状態になっているのかがわからない。さっきまでいた暗闇は何だったのか、夢だったのか、その夢さえもどんなものだったのかというのが思い出せない。さっきまでは覚えていたと思ったことが、今はさっぱりわからなかった。 「三日も、眠りっぱなしだったんだよ。あの洞窟から…。お前の意識は戻らないし、うなされてるし、このまま目を覚まさなかったらどうしようかと思って、俺…」 高杉が握っていた久坂の手を両手であらためて包むと、自分の唇に押しつけた。 「洞窟…。そうか、俺、木偶を壊そうと思って、思いっきり力を使って、それで…そのまま…?高杉、お前が助けてくれたの…?」 ぼんやりとする頭でなんとか思い出そうとする。しかしまだうまく記憶をつなげることができなかった。 「そ…。い、いや、正確にいうと助けたのは俺じゃないんだけど、あそこからなんとか脱出して、この安全な場所にお前を連れてきたんだよ。お前の傷もちょっと酷かったし、俺も…まあ、回復させないといけなかったし、何よりもお前が意識なくって、あぶない状態だったから」 「安全な場所…」 そう言われて、目だけで辺りを見回す。どこなのかはわからなかったが、なんだか懐かしいような、安心するような、確かに安全な場所と言われれば納得がいくような気がした。 「久坂」 尚もぼーっと宙を見つめている久坂に、高杉が呼びかける。その声に高杉の方へと顔を向けると、すぐに唇が降りてきた。 ゆっくりと重なった唇を、すぐに高杉の舌が割る。驚いて身を引きかけた久坂の舌を絡め取った。深くなる口づけに、久坂がきつく瞼を閉じる。 「ん…っ」 力を流し込んでくれているのか、身体がだんだん熱くなっていくのがわかった。それがなんだかいつも以上に気持ちよくて、はじめてもっと欲しいと、そんなことを考えていた。 初めて積極的に応えてくる久坂に、高杉も口づけを深くしていく。そんな高杉をもっと近くにひきよせたくて、久坂は両腕を伸ばして、高杉に触れた。そのまま、抱き寄せようとしたとき、予期せぬ激痛に身体がはねあがった。 「……ッ!」 「大丈夫か?」 痛みに我に返り、唇を離す。激痛が走ったのは左肩だった。どうやら、一定以上に腕をあげることはできないらしい。なかなかひかない痛みに目をぎゅっと閉じて、耐える。 「結構ひどい傷だったからな…。やっぱり完全に治るにはまだまだかかるかな」 「これ…、一体いつ…」 顔をしかめながら、久坂は記憶をたどる。 「あ…そ、そうか…」 思い出して、どういう表情をしていいのかわからなくなった。 これは、あのクサカが放った光弾を受けた時のものだ。ああいった戦い方を選んだ以上、自分も無傷ではいられないだろうということは覚悟していた。確かな勝算があったわけではないが、ただ負けたくなかった、そんな気持ちも一緒に思い出していた。 そして、自分がこうして無事でいるということは、それが成功したということ。それはつまり、高杉の目の前で“クサカ”の姿をしたものを消し去ってしまったということだということも思い当たった。 あの時は必死で、ただ、自分が自分でいるために、負けるわけにはいかないとそんな気持ちだったが、それだけともいえなかった。 高杉を、渡したくなかった。 だから、自分の目の前から消し去ってしまいたかった。 そんな気持ちが存在したことも否定できない。あれほど激しく、誰かを消してしまいたいと思ったことは今まででなかった。これを嫉妬というのならばそうかもしれない。だから、複雑な気分になるのだった。 あのことを、高杉はどう思っただろう。 一気にそんなことが頭の中によみがえってきて、久坂は高杉から顔を背けた。 「…?どうしたんだよ?傷が痛むのか?」 そんな久坂を心配してか、高杉がのぞき込んでくる。返事をしかねている久坂をなだめるように、高杉の手が優しく久坂の髪をなでた。その感触に、久坂は先ほどとは違う痛みで目をぎゅっと閉じた。 高杉が自分の横にいて、自分だけを見てくれて、やさしく触れてくれて、それだけで胸が締め付けられて痛いほど幸せだ、と思ってしまう。結果的に自分はあの“クサカ”に勝って、この幸せを手に入れたんだと思えれば、どんなに楽だろうと思っていた。 確かに自分は生き残って、高杉をクサカに渡さなくてすんだかもしれないけれど、それで勝ったことにはならないと思えた。 自分はまだ高杉に何も言っていないし、こうして優しく接してもらっていても高杉を自分のものにできたわけでもない。 結局はこれまでと何も変わっていないのではないかと思えた。 あの時自分が言い切ったように、自分こそが真に“クサカ”でなければ、それが否定されてしまったら、高杉も離れてしまうのではないだろいうか。自分の中には確かにクサカの力はあるかもしれないが、木偶を元にしたあのクサカの中にも確かにクサカの力は存在していた。そして、自分にはない記憶ももっていた。そして何より、姿形、声も何もかも、そのままだった。あまりにも自分とは違うその姿を見て、その姿を見た高杉の狼狽ぶりを目の前で見てしまったから、どうしても自信なんかもてない。 そう考えると、情けなくなって、瞳に涙がにじんだ。 「本当に、大丈夫か?痛むのか?」 嗚咽をこらえている久坂の肩が震えるのに気が付いて、高杉が慌てて久坂の上に覆い被さるようにして久坂の様子をうかがっている。声を掛けても返事をしようとしない久坂をどうしていいのかわからないようだった。 「お前が完全に妖だったら、力を補充してやれば回復は早いんだけど、やっぱりお前は人間でもあるから、どうしてもうまくいかないんだよな…。こんだけ傷が大きいと、俺の術だって気休め程度だし、お前の意識が戻らない以上なかなか力を分けてやることもできなくて、その…きっとつらいと思うんだけど、俺何もしてやれなくて…せめて少しでも力を分けてやって、回復に結びつけばって思って…でもそれが無理させてしまったか?ごめんな?」 高杉が一生懸命言葉をつなげて久坂をなだめようとしている。さきほどのキスで無理をさせてしまったと思っているようだった。 「ちが…、違うよ、そうじゃなくて…」 さすがにそんな高杉を見て、久坂もなんとか言葉を返す。でも、どういえばいいのかわからない。言っていいことなのかもわからなかった。 「俺…お前に、ひどいことしたかも…って…思って…」 「?ひどいこと?」 「あの洞窟の中にいた、クサカ…。どうなった?」 思いも掛けない問いかけに、高杉が一瞬言葉につまった。しかし、静かに答えを返す。 「…消えたよ」 「……やっぱり、そうなんだ」 「そんなこと…どうして気にしてるんだよ」 「だって…」 久坂は涙で濡れた瞳で高杉を見つめた。 「いくら、クサカそのものじゃないってわかっていたとは言っても、お前の目の前で…、お前が大事にしていた“クサカ”の姿をした者を、俺は消してしまったんだよ?お前だって…、あの姿に…。俺とは違う、あのクサカの姿に会いたかったんじゃないのか?」 真っ直ぐ瞳を見つめて言われて、高杉が少し居心地悪そうに視線をそらした。どう言おうかと、言葉をさがしているようだった。 「その…確かに…。あの姿も、声も…以前の“クサカ”だったよ。最後に…本当に最後に消える前に見た表情は、俺だって確かに、あれはクサカのものだって…そう、思ったけど…。それは、クサカの力の欠片を埋め込まれてその記憶から作り出されたものなんだから、当たり前なんだよ。あの姿は意図的に作られたものだっていうのも、わかったんだけど…。だけど、その、もし俺がその姿をしたあのクサカを爆砕できたかっていうと、たぶん…俺…できなかったんじゃないかと思う」 「…………」 やっぱり、と久坂は心の中で思った。 「でも、でも、な。でも俺…。あんな状況になったから改めて思ったっていたら変だけど、俺はそれでもお前の方が大事だったよ」 「…え…」 その意外な答えに驚いて、そのまま高杉から視線をはずさずにいると、高杉がそらしていた視線を久坂の瞳に合わせた。 「正直言うと、桂からクサカの姿をしたものが現れたって聞いた時、自分でも自分の気持ちがわからなかったんだ。その時だってちゃんと、俺のクサカは今ここにいるお前だってこと、わかっていたし、信じていたけど、いざ目の前に現れたらどうなるか…自分がどうなるか、よくわからなかった。だから、確かめに行きたいって思っていたんだよ」 そこでいったん言葉を切って、高杉が息をついた。 それをそのまま黙って見つめている。 「そして、目の前に現れたけど、確かに、心は揺れたけど、でも、それでも俺はお前のほうが大事だったんだ。目の前からクサカの姿が消えても耐えられたけど、でも、お前が連れて行かれそうになった時、耐えられなかったんだよ。絶対にお前を誰にも渡したくないって思ったし、いや、今でも思ってるよ。誰にも渡したくない。お前が記憶がないのもわかってるし、以前のままのクサカじゃないのも当然わかってるけど、でもそれでも俺はお前を…自分のものにしたい」 「そ…」 真剣な瞳で言われて、今度は久坂のほうがうろたえた。 自分のものにしたいっていうのは、つまり、そういうことなんだろうか。かつて、クサカと高杉がそうだったような関係に自分たちもなろうということなんだろうか。 確かに久坂自身も高杉を自分だけのものにしたいとは思っていたけれど、たぶん具体的に考えていることが違うのではないかと感じられた。きっと高杉の言う“自分のものにする”と言う表現は久坂のように気持ちの上で考えていることよりももっと直接的なことなのではないかと思えた。 だから、つまり、そういうことなんだろうか。 赤くなって黙ってしまった久坂の頬に、高杉がそっと手をあてる。 「だからな、俺はひどいことなんかされてないよ。むしろ、嬉しかった。俺こそ…その、お前の気持ちが俺に向かってるのかなって思えてあんな緊迫した状況なのに、でも嬉しかったんだよ。だから、今までは押さえていたけど、もう押さえるのやめようって思ったんだ。お前に以前の記憶がなくても、それでも以前と同じじゃなくても、でもお前のこと欲しいって思う」 「…………」 これはもしかしたら、告白されているようなものなのだろうかと、久坂は頭の隅で考えていた。 「だめかな?」 高杉が優しく微笑んだ。 そんなこと、だめなわけはないのだった。 「だめ…じゃないよ。俺だって、お前がそう言ってくれるの、その、嬉しくて、俺は、だって…」 どういっていいかわからなくて久坂も言いよどむ。単純に好き、とかそいういった言葉で言ってしまって良いものかどうか迷った。その通りといえばそうなのだが、この場合高杉が求めている事への返事を全部できるかというとそうでもないような気もする。 気持ちではそう返すことができても、高杉が言う具体的な行為のことに関しては、それだけで踏み切ってしまうのがためらわれた。ここで返事をしてしまうのが怖いといえばそれまでなのだが。 「俺、お前にちゃんと応えられるかわからないけど、でも、俺だってお前とずっと一緒にいたい。もう離れたくない。だから、お前のものになるとか、その、その、そういったことはまた…あの…」 やっぱりうまく言えなくて、頭がぐらぐらしてくるのがわかった。 土壇場でずいぶんと意気地がないなぁと自分で自分が情けなくなる。 そんな久坂をみて、高杉がとうとう吹き出した。目の前で笑い出した高杉に、久坂はもう頭に血が上ってどうしていいのかわからない。そんな久坂をゆっくりと、横になった久坂に負担をかけないように優しく高杉が抱きしめた。 「とにかく、拒まれなかったんだってことがわかって、いいよ、とりあえず俺はそれだけでも十分。今はお前も身体を治さないといけないし…。たとえ、お前を抱くことが力を十分に与えることになるとしても、今のお前の体力じゃあ、身体がついていかないかもしれないしな。だから、お前の身体がある程度回復するまで待つし」 「そ、そうか…」 久坂がほっとする。待ってくれるというなら、そのことについてはもう少しゆっくり考えられるかもしれないと思った。 「だから今はこれでがまんするから」 「ん…」 そういいながら、またゆっくりと口づける。口づけと、それを介して力を受け取りながら、久坂はうっとりと目を閉じた。やっぱり高杉とのキスは気持ちよくて、だんだんと眠たくなっていくような心地よさを覚えた。 「高杉…お願いが、あるんだけど…」 「なに?」 口づけの合間に、久坂がそんなことを口にする。 「なんだか、俺眠くて…。このまま眠ってしまいそうなんだけど、だから、お前も一緒に寝てくれない?」 「この状況でそういうこというか?」 高杉が俺は今衝動をがまんしてるんだぞーと、文句を言う。それでも久坂の横に改めて潜り込んで、抱きしめてきた。その胸に顔を埋めながら、久坂はやっぱり幸せだと思った。 ふと、目が覚める前の夢のことが気になったが、もうそれを深く考える思考の余裕は残っておらず、久坂はそのまま眠りに落ちていった。 それから二日で、久坂は自分が人間以外のものがまざっているという現実を、身をもって実感することになった。 肩の傷を初めて目の当たりにしたとき、自分でも驚いた。どうやら処方してもらった薬が効いていて、痛みは思ったよりは軽かったが、たしかに傷口は酷い。これは治るのに時間がかかるだろうと、素人ながらも判断できるものだったのだが、それが、たったこの二日で、すっかりふさがってしまっている。確かにまだ腕を元のように自由に動かすことはできないが、少なくとも見た目には、あれほど酷い傷を受けていたとは思えないような傷跡になっていた。 「たった二日しかたってないのに…。こんなに早く傷口がふさがってしまうものなの?」 高杉に傷の手当てをしてもらいながら、つぶやく。 「早くっていっても、俺たちからみたらずいぶんと遅いけどな。二日って言ってもそれはお前が意識を取り戻してからであって、お前が意識がなかった三日間もふくめると五日はたってるはずだし…。この二日の治りが早かったのは、やっぱり“妖”としての力を完全じゃないながらも補充できたからじゃないかな?たとえば俺だったら一日でこのくらいには回復すると思うよ」 「そんなもんなんだ…」 はーっと、息をついて感心する久坂に高杉が新たに包帯を巻いていく。と、高杉の手から巻きかけの包帯が転げ落ちた。 「っと…しまった」 「…………」 そこで久坂はちょっと不思議に思うことがあった。 高杉は、手先は器用だ。意外と細かい仕事もうまくこなす。料理の時材料を切りそろえたりするのも、久坂よりもずいぶんと丁寧で巧い。それなのに、ここ二日見ていた高杉はどうも指先がうまくまわっていないように思えた。よく観察してみると、それは左手ではなく、右手なような気がしている。 それが高杉らしくなくて、不思議に思っていた。 「なあ…高杉、お前さ…」 「ん?」 高杉が途中でほどけてしまった包帯を巻き直しながら、顔をあげずに応える。 「右手…どうかした?」 「!」 その問いにうろたえたのか、高杉が再び包帯を取り落とした。あきらかにあせっているような動きに、久坂はやっぱり何かあったな、と確信する。 「いや、別に…」 「嘘だ。何かあったんだろ?」 なんだかごまかそうとする高杉に、久坂も強い口調で聞き返す。もう少し答えをしぶるかな、と身構えたが、意外にあっさりと高杉は口を開いた。 「ちょっと…。怪我したところが…その、治ってないんだよ。もちろん傷口はすっかりふさがってるんだけど、まだ動きがぎこちないっていうか…。まあすぐに元通りになるとは思うから。心配かけたくないから言わなかったんだよ」 「ふうん…」 一応納得して見せたが、そこでまたふと考える。 先ほど自分の傷の話をした時、高杉は自分だったら一日くらいでこのくらいには回復する、と言っていた。その高杉が少なくとも怪我をしてから五日たった今でもうまく動かせないほどの怪我、というのは、もしかしたら自分の怪我なんかよりもずっとひどいものだったのではないだろうか? 「ほんっとーに、心配しなくていいからな。俺はこのくらい平気なんだから」 じっと右腕を見つめられて居心地が悪いのか、高杉は包帯を巻いてしまうとそそくさと立ち上がった。その背中に、また追いすがるように声をかける。 「もしかして、あそこから脱出するとき、怪我したの?俺が意識がなくなった後、いったい何があったんだ?そろそろ教えてくれたっていいじゃないか」 その言葉に一瞬高杉は歩みを止めたが、そのまま部屋から出て行ってしまった。その態度からやっぱり何かあったんだな、と久坂は心の中で思った。 一体何があったんだろうと考え込んでいると、高杉が食事を持って入ってくる。 「それは後で桂達と一緒に話すから、今お前は身体を治すことだけ考えてればいいんだよ。ほら、食べる!」 高杉が持ってきたおかゆをさじですくって、久坂の目の前に差し出した。まあこうなったらすぐに話はきけないだろうと思い、久坂も素直にそれに従う。久坂が大人しく差し出されたご飯を食べていることに高杉は安心したようだった。そして、いつものようになんだか幸せそうな緩んだ顔をしている。まあそういう顔をされると、なんだか追求するのも悪い気がして、久坂がやれやれ、と心の中でため息をついた。 高杉はどうやら、高杉的に“格好悪いと思われること”(と、久坂は解釈している)に関してはなかなか話したがらない。その基準がどこなのかは定かではないが、そうなると素直に話してくれないことが多い。久坂としてはそんなことは気にしないから、どんなことでも話して欲しいというのが本音なのだが、今は半分あきらめている。 それに、今高杉の顔を緩んだ顔、といったが、たぶん自分も普段同じくらい緩んだ顔をしているのではないかと思っていた。 それほどに、ここでの高杉との生活はおままごとのようで幸せだった。この二日は特に何も考えずに2人だけで過ごしてきて、ただ時間が過ぎるだけでも退屈にも感じない。それを変な自分の勘ぐりで壊したくもないとは思っていた。 とりあえず、言われたとおりに黙って食べる。 そして、別の話題を切り出すことにした。 「そういえばさ…。ここって、どういう所なの?安全な場所って言っていたけど、俺とお前以外はここにはいないの?」 「いないよ。俺と、お前だけ。安全っていうのは、ここは桂が作った空間だから…。外の世界とは遮断されていて、めったなことがないと、他の奴にみつかることがないからだよ。……以前は…前は、ここで一緒に暮らしていたんだ」 「あ…それで…なのかな…」 その答えに、久坂も納得する。以前の自分がここで一緒に暮らしていたのなら、なつかしいと思っても無理もないかもしれなかった。同時に、それをなつかしいと思えた自分を嬉しくも思った。 「でもさ、さっき初めてお風呂使ったけど、昔からあった空間っていうにはちょっと現代っぽかったというか…。…シャワーとか、普通にあったんだけど」 確か、高杉がクサカと一緒にいたのは今から100年くらいは前になるはずだった。その頃からある設備としてはあまりにも新しすぎる。 「そりゃ…。桂がメンテナンスしてるからね。もともとあいつの作った空間なんだから、あちこちいじるのも自由なんだな。だから、現代に合わせてそういった設備になってるんじゃない?台所だって、全然違うよ。なんか、やたらと物が充実していて、俺だってびっくりしたよ」 へーっと、久坂が感心する。 「桂って、まめなんだね」 「いや、あれはほとんど趣味だからな」 高杉があきれたようにつぶやいた。 桂って、なんだか趣味が多いなぁ、と久坂も吹き出す。そうして笑っていると、ほんの数日前に出会った黒いあやかしや、洞窟内でのクサカとの戦いでの緊張も心の底からほぐれてくるような気がしていた。 もちろん自分がこの空間…この家?で高杉とかつて暮らしていたという記憶はやはり自分の中にはないが、でももしかしたらここにいるうちに何か少しでも思い出すことができるのではないかと思えてくる。 「もうだいぶ動けるようになったし…この空間を探検してみたいな。どんなところか、いろいろと見てみたい」 そう言いながら立ち上がろうとすると、高杉が驚いたように見つめている。 「ずいぶん…元気じゃないか。まだ肩が痛むんじゃないのか?」 「うん…まだ肩はね、ちょっと痛いけど、でも全然動かせない程でもないし。それに、身体のほうは今朝から具合がいいんだよね。こうしてお前が作ってくれたご飯も食べられるし、気分もいいんだ。自分でも驚いてるけど、我ながら回復したほうじゃないかと…」 そこまで言いかけて、高杉の視線に気づく。なんだか、さっきまでの視線の意味と違っているような気がした。 「な、何…?」 どちらかというと、ちょっとその視線が怖いような気がして、恐る恐る尋ねてみる。そんな久坂に高杉がすっと近寄った。 そっと、怪我をしていない方の肩を掴まれる。あっと思った次の瞬間には、先ほどまで横になっていた布団にそのまま押し倒されていた。突然の行動に抗議の声をあげる暇もなく、すぐに高杉が自分の上に覆い被さってくる。怪我をしている肩には触れないように、高杉にやんわりと抱きしめられた。 「ちょ…ちょっと…」 その展開にうろたえる。 「お前の身体がある程度回復するまで待つ…って、この前言っただろ?だから…」 高杉が久坂の耳元でささやくように言う。 その言葉に久坂は一気に顔に血の気が上がって、真っ赤になっていくのがわかった。 つまり、この前言った、そういうことを、しようといっているのだろうか。 「無茶はしないようにするから」 「で、でも…そんな、急に言われても…」 別に嫌だとか思っているわけではないのだが、改めて決断を迫られるとどうしても逃げ腰になってしまう。昔そういった関係であったとしても自分は覚えていないし、経験ないことには変わりないのだった。 本気で逃れたいわけではないが、居心地悪そうに高杉の下でもぞもぞと足を動かし、少しでも身体の自由をきかせようとする。そんな中途半端な久坂の抵抗を高杉は自分の足を絡めることであっさりと封じた。ただ、やんわりと抱きしめた力は変えずにじっと久坂の返事を待っている。 どう返事をしていいのかわからなくて、右手で高杉のシャツをぎゅっとつかんだ。高杉が久坂の首元にうずめていた顔をあげる。真っ赤になって、視線を落ち着きなくうろうろとさせていた久坂の顎をそっととらえた。その動きにさまよっていた視線を固定されて、久坂が困ったように眉をよせた。その表情に少し笑って、高杉がゆっくりと久坂に口づける。深く合わせない、角度を変えて触れ合うだけの口づけに、久坂もだんだんと気持ちが落ち着いていくのがわかった。 きっと、自分は嫌じゃないから、大丈夫。何があっても、変わらない。 そんなことを考える。関係が変わることを恐れているわけではないつもりだったが、少なくとも、そういうことをする前と、した後ではどこかしら違った2人になるのではないかと、そんな気がしていた。それでも、お互いが変わらないといい。変わるなら、もっと大事に思えるといい。 繰り返される口づけに、目を閉じていた久坂が、唇を離して潤んだ瞳で高杉を見つめた。 「俺は…よくわからないから、全部お前にまかす。だから…だから、うまくいかなくたって知らないからな」 精一杯、強がる。どういっていいのかわからないから、もうなんでもいいや、という気にもなっていた。 「じゃあ俺のことだけ考えていろよ」 そんな歯が浮くような台詞を言って、高杉がその次に何かを言おうとした久坂の唇を再び塞いだ。今度は少し長い、深い口づけになった。 「…ッ、あ…、あ…っ」 声をあげるのがはずかしくて、なんとか押さえようとする。どうやれば声を漏らさずにやりすごせるのかわからなくて、自分の口からまるで女のような声が漏れるたびに唇を引き結んだり、奥歯を喰い閉めたり、それでもかなわずとうとう自らの手のひらで口を押さえつけてみたりした。しかしそれも逆効果のようで、息が苦しくなって手を離した。息を継ぐために開いた唇から、いとも簡単に押さえていたはずの声があがる。一度声を出してしまうと、そのほうが楽な気もしてきて、もう自分でもどうすればいいのかわからない。そのおかげで、久坂は声を押し殺してみたり、耐えられなくなってあげてみたり、せわしなく繰り返していた。 誰かと身体を重ねることが、どんな感じなのか具体的に考えたことがなかったが、興味がないわけでもなかった。ただ、漠然と好きな人とそういうことになれば、それは気持ちの良いものなのだろうか、ということぐらいしか思っていなかったが、実際にこの場になってみて、思っていたことと随分違っていることに心のどこかで驚いていた。 こんな行為はもっと、単純な快楽に基づく物だと考えていた。それが。 それが、好きな人とするこの行為がこんなに複雑で、苦しい物だとは想像もしていなかった。 確かに、高杉の手に、指に、舌に、自分の快感が呼び起こされていることは確かだ。だけれども、それを受け入れようとすると、胸が苦しい。それを素直に感じてしまうことができない。先ほどの声を出す云々と同じように、思いっきり感じてしまいたい気持ちと、どこか冷静でいたい、余裕を保ちたいというような気持ちが入り交じって、とにかく苦しい。それは決して自分の男としてのプライドが許さないとか、この行為に嫌悪感を感じているとかではなくて、どちらかというと、自分でも知らない自分が引き出されてしまうのを恐れるような、そんな気持ちだった。 好きな人の前なのだから、全てをさらけ出さなければ分かり合えないとか、そういった理想論は頭ではわかっているつもりだった。でも、自分の中で何かを越えないとその境地にはたどり着けないと、そんなことも頭の中をぐるぐると回っている。 こんなことを考えて苦しいのは自分だけなのだろうか。 他の人はもっと素直に、好きな人と感じ合えるのだろうか。 「んんッ!!」 高杉の舌が、足の付け根の薄い皮膚をなぞった。薄い皮膚はダイレクトにその感覚をつたえて、久坂の身体は跳ね上がる。何度も往復するようになでられる感覚に泣きそうになる。同時に身体もますます熱くなっていくのがわかった。 「あ…、嫌だ、いや…あ、やめ…っ」 開かされて伸ばしたままになっていた足を逃れようと動かす。膝をまげて、身体を上にずらして逃げようとすると、その太ももを力強く押さえられた。久坂が感じているのがわかるからこそ、余計にやめてくれないその行為に、その場所からなんとか高杉の頭を引きはがそうと手を伸ばす。その手が髪に触れる前に、唐突に高杉が次の行動に移った。 「っや…あっ!!」 今までは手のひらで軽く触れられるだけだった久坂自身に先ほどまで足の付け根を刺激していた舌が触れた。それだけでも電流が走ったかのような衝撃を受けた久坂だったが、その次に口腔内に含まれた時にはもう声も出ず、ただ息を継ぐので精一杯になっていた。暖かい口の中に含まれたそれがその感覚に慣れてくると、やっとつかえが取れたかのように浅い息と共に声がもれる。 そして、自分でもあきれるほど、また、制止する言葉を発するのも間に合わないほどあっけなく達した。 固くなっていた身体から、一気に力が抜ける。はずかしくて目を開けられなくて、顔を背けると式布団に押しつけるようにして高杉の視線を避けた。それでも少し、高杉の反応も気になって薄く目を開けてそちらをみると、嬉し素に笑っている高杉の瞳とばっちり視線があってしまう。あわてて口元に手を当てて目をつむると、高杉が身体を上にずらして、久坂の包帯を巻いていない方の肩に口づけた。そのまま鎖骨をなぞり、首筋を伝って顔を背けたままの久坂の耳たぶを緩く噛んだ。 「あ…」 暖かい息が耳元にかかるのと、耳への刺激ぞくりとして、身体をすくませる。その久坂の耳元へ、掠れた声で高杉がささやいた。 「ちょっと…痛い思いさせたらごめんな」 「え…?」 先ほど達した余韻と、今まで頭の中でぐちゃぐちゃ考えていたことで朦朧としていた久坂がその意味を掴みきれないままいる間に、濡れた指が自分の身体の奥を探っているのがわかた。。 先ほどまではそこを指で刺激されていた。はじめて挿入された時は指一本でもそれが苦しくて、ただ高杉がゆっくりとならしたおかげで少しその感覚に慣れてきたその程度だったそこに、今度は指に続いて熱い塊が押しつけられる。そこまできてやっと、これからされることがはっきりとわかった。 「や…ちょっ…、待って、待ってまだ…っ」 やはりそれを受け入れるのは怖くて、腰を振ってそれから逃れようとするが、その抵抗をものともせず、熱い塊は押し入ってきた。 「ーーーーーーっ!!」 息を止める。 夢中で、高杉の腕を掴んむ。 息もできない、その熱さの中で久坂は高杉を自分の中へすべて受け入れた。 ふっと、目を覚ますと、部屋のまぶしさに何度もまばたきする。行為が終わった後の記憶があいまいだから、たぶんそのまま気を失うようにねいってしまったのだろうと思うのだが、そんな長い時間だったわけではないらしい。 障子から外の光が入ってきているが、その加減から今が夕方当たりなのではないかと思われた。 それにしても、あの行為がこんな光の明るい中で行われたとは、今になっても信じられない。勝手な想像だけど、そういったことをするのはきっと夜の暗闇の中だろうくらい思っていた。 しかし、確かにそういった行為があったのだという証拠に、身じろぐと身体の節々に違和感を感じる。起きあがろうと思えばできないこともなかったが、ただ、こうしているのが気持ちよかったので、もうしばらくこのままでいることにして、今まで枕にしてしまっていた高杉の胸にまた頬をつけた。 高杉はまだ寝ている。 静かな寝息からは、さきほどまでの激しさは感じられなかった。でも、確かに自分たちはある一線を越えたのだと、しみじみと考える。 実は想像していたほど酷いことにはならなくて、多少身体は痛むが、意外にも血を見ることもなかったし、その痛みに耐えられないというほどでもない。それに、何がなんだかわからなかったといえばそれも嘘じゃないけれども、でも、思い返してみればやっぱり嫌ではなかった。つらかったし、それで快感を得るとかそういったことにはまだ遠いかも知れないけれど、むしろ、とにもかくにも自分たちが今までとは違う意味でつながったのだ、ということになんだか充実感を感じる。 少なくとも、高杉を自分の中に受け入れることができたということだけは、自分でも満足していた。うまくできたか、とか、満足させられたかとか、気にするときりがないし、今回はそんなことを考える余裕もなかったから、まあいいのではないかと、疲れた頭で考えていた。 今回の最中にもそうだったのだが、どうも自分は考えすぎる傾向があるらしいと思っているので、今はそんなことからも解放されて、このまま眠っていたいような気分だった。 それでもいろいろと頭の中には思い浮かんでしまうもので、今度は高杉が初めて自分の部屋に泊まっていった時のことを思い出していた。 あの時は目が覚めた時腕枕をされていたのにひどく驚いたものだった。 まだ出会ったばかりで、何もわからなくて、そんな高杉に何か危うさのようなものも感じていて…。 その時の状況を思い出して久坂はくすりと笑った。 あれから、半年くらいしかたっていないのに、随分と自分の気持ちも変わったなと思う。あの時高杉が言っていた、“それでもお前のそばがいい”という言葉も今は実感をもって感じられる。 ああそうだね。本当に、そばにいるのがいいね。 心からそう思って、久坂はそっと手を伸ばすと高杉の指先に触れた。 確か、あの時も触れてみたいと思った手だった。 「ん…」 みじろぎして、高杉が目を覚ました。 ぼんやりと、胸に抱いている久坂を見る。 「あ…、起こしちゃったかな」 少し身体を起こして久坂がすまなそうに言うと、高杉は眠そうな声で答えた。 「いや、そんなことないけど…。どのくらい寝てたのかな?」 「さあ…。ここにいると時間の感覚わからなくなるからね…。でも、日が落ちてないから、あまり時間はたってないんじゃないかな」 なんでもない普通の会話をかわしながら、久坂はそんな普通に会話できていることがまた楽しくなった。 どうやら、今の自分はどんなことでも楽しくてくすぐったいらしい。 「…安心した」 「安心って?」 高杉がいきなりそんなことをつぶやくから、何のことかと聞き返す。 「さっきの、お前が良かったのかな、って。…いろいろな意味でだけど」 「な、何がだよ?!」 さっと赤くなって、久坂が問い返す。 「お前初めてだったし、無理させたかなって思っていたんだ。そのことだけじゃなくて、さっき力も一緒に渡してたからさ。キスの時よりは一度に渡す量が多かったと思うから、一度にそんなに受け取って大丈夫だったかな、って思って。何?違うこと想像した?」 わざとからかうように言う高杉の頭を久坂がはたく。それでもにやにやと笑って抱き締め直してくる高杉をもう一度たたいてやろうかと思ったときに、ふと気が付いた。 「あれ…。肩が…」 「ん?」 「えっと、左肩が、さっき振り上げたのに、前ほど痛くなくなってる。全く違和感ないってわけじゃないけど、ずいぶんと楽になっていたんだよ」 久坂が右手で自分の左肩を包帯越しにそっとなでた。確か、包帯を巻き直してもらっている時はまだ痛みは残っていたし、先ほど高杉と交わっていた時も、全く痛みを感じないわけではなかった。それが、今はほとんど感じない。あれから数時間しかたっていないはずなのに、であった。 「力を受け取ったからじゃないかな。俺から渡した力を、お前が無意識に怪我の治療にあてたんだと思うよ。実際俺たちはそうやって傷を治していくわけだからさ」 「そうなのかな…」 もしかしたら、この行為が思ったほど身体の負担になっていないように感じるのも、そういった力の作用があったからなのかもしれない。そうなのだとすれば、それは自分がどんどん高杉達に近づいているということであり、またどんどん人間から離れていくことになる。 それはそれで嬉しくもあり、また少し複雑でもあった。 「でも、お前の妖としての力が100%回復したわけじゃないから、そこはまだ不完全なんだろうけどね。あせらなくてもいいと思うけど…」 「うん…」 「今からまた新しく渡してもいいし」 「うん?」 高杉が先ほど抱きしめそこねた久坂を抱き寄せて、今度は遠慮無しに自分の下に組み敷いた。 「ここ、俺たち以外は誰もいないし」 「ば、馬鹿っ!だからって、無理だよ!いくらなんでも…!」 久坂は真っ赤になって高杉を押しのけようとする。初めてのことで、身体に対するダメージはゼロではないから、それは本当に無理というものだった。 「いいからいいから」 「よくないってー!!」 高杉は冗談なのか、本気なのか、そんなやりとりをしながら、もみ合っていると、急に動きを止めた。目を閉じたかと思うと、深いため息をはいて、がっくりと久坂の胸にもたれてくる。 「な、何?どうしたの?」 「なんでこんな絶妙なタイミングで…」 「は?」 「……桂が、来た」 「ええっ!!」 2人で跳ね起きると、あわてて服に手を伸ばした。 「もうすっかり2人ともよくなったみたいだね。初めは2人だけでここに残すことに不安を感じないでもなかったけど、まあ結果的に良かったのならよしとしようか」 「なにが不安なんだよ」 「けが人2人で共倒れでもされたら大変だろう?」 「久坂はともかく、俺はたいしたことないって」 そんな会話を高杉と桂が交わしている。それを久坂はぼーっと見ていた。結局きたのは桂と栄太だった。久坂は洞窟内で気を失っていて、栄太が後できたことを知らなかったので、屋上で別れた栄太が無事だったことを喜んだ。ただ、あの時受けた傷はまだ完治していないようで、それが心配でもあった。 「さて、と…。それはいいとして。今回現れたあやかしのことについて、話しておく必要があるな」 「あの黒いあやかしの正体、わかったの?」 久坂も聞き返す。 「栄太から話を聞いて、私なりにいろいろと調べてみたけどね、あの黒いあやかしについては全くわからない。今まで聞いたこともない。そんなに大きな力を持っているあやかしなら…なんらかの情報はありそうなものなのだけれどね。しかも、その中に久坂と同じ力があるのなら…。君と関係ないとも言い切れないし。しかも、高杉のことを知っているというんだろう?本当にお前、心当たりないのか?」 「ないよ。全然。今まで見たことも聞いたこともないし」 「お前が知らないうちにうらみを買うようなことしたんじゃないのか?」 そんな栄太のつっこみに高杉がにらみつける。 でも確かに、あの黒いあやかしは高杉のことを知っていた。それだけじゃなく、確かに、“お前さえいなければ”、と、そんなことも言っていたような気がする。 それに。 「もしかして、なんだけど、以前にもあのあやかし…。高杉を襲ってきたような気がする」 「何?」 その久坂のつぶやきに、皆が注目する。 久坂も確かな記憶ではないのだが、以前風のあやかしと闘った時、同じような状況があった気がするのだ。 「ほら、風のあやかしと闘った時、あのあやかしが食べた力の欠片っていうのが、確かお前を憎んでるって言っていた気がする」 「ああ、あれか…」 高杉もそのことを思い出したようで、考え込んでいる。 「確かにそうだな、あの時すごい敵意を感じたよ。でもやっぱり知ってる気配じゃなかったし…」 「その後なんだけど、もう一つ気になることがあって…」 そう言って久坂はその後に見たたぶん自分では夢だろうと思っていることについて話した。それは暗闇の中で風のあやかしと、自分と、そしてもう一人正体がわからない人物と話をしたことだった。その時風のあやかしは、その食べた力の欠片の中にどうしても食べられなかった不純物だと言って、小さなクサカの力の欠片を渡してくれたのだった。 「なるほど…。それなら、その時の力の欠片の元々の持ち主と、今回の黒いあやかしが同じかも知れないというのも可能性が高いことになるな。その、もう一人いた人物というのに心当たりはないのか?」 「ごめん…。わからない」 今思い返してみれば、なんとなくその声に聞き覚えが在るような気がしないでもないのだが、確証はない。 「そうか…。これからはそのことも頭に入れて、調査は続けよう。黒いあやかしについて今の段階でわかることはこれだけだ。我々ではわからないが、あやかし達もその力を恐れていたというから、多方面からも探りをいれる必要があるだろう。では次に、洞窟内に現れたあやかしのことだ」 「?」 あの場に木偶のクサカ以外に何かいたのだろうか。久坂が首をかしげる。 「あれは、私も知っている。間違いなく“幻妖”だ」 「幻、妖?聞いたことないな」 「しかも、あやかしなのに“妖”?」 高杉と栄太が一斉に口を開く。 「古くからいるあやかしなんだがね。まあ…昔それほど“妖”と“あやかし”を区別していなかった頃からの付き合いだ。奴にとって私はやっかいな存在だろうから、今回も逃げるのを優先したのだろう。ただ…強大な力をもったあやかしだが、ここしばらくはずっと気配がなかったんだよ。それが急に現れて、しかもクサカの力の欠片を使って“クサカ”を作っていたとは…。私の知る限りでは、クサカが奴と関わりがあったというのも聞いたことがないのでね」 そこまで聞いて、久坂が高杉の服の袖をひっぱった。 「どういうこと?何があったの?」 「いや…。お前が気を失った後、そいつが現れて…。で、そいつがあのクサカを作った張本人だっていうことがわかったんだよ」 「それでどうなったの」 「お前、話してないんだ?」 栄太が驚いたように口を挟む。高杉がしまった、という顔をした。 「栄太も知ってるの?」 「俺が駆けつけた時にはもういなくなっていたから、姿は見てないけどね。でかい気配は感じていたよ。桂の気配を感じて逃げたらしいし。駆けつけてみたら、お前は倒れてるし、高杉は腕をちぎられてくたばってるし…」 「腕、ちぎられた?!」 そんな酷いことになっていたとは想像していなかったので驚いて声が大きくなる。 「っ!違う!!そんなへまはしてない!自分で切り落としたんだよ!」 「ええっ!!」 もっと衝撃的な言葉をきいて久坂が青くなる。その表情に高杉がまたしまった、という顔をした。 「や、あの…、たいしたことじゃないからさ。心配かけたくなかったんだよ」 「俺が腕もちゃんと回収してやったから今無事なくせに」 「うるさいな!お前だって腹に穴あいているの助けてやっただろうが!!」 「いい加減にしないか、お前達」 喧嘩を始めた2人にあきれるように桂がなだめる。久坂は高杉の右腕をそっとなでた。どんな事情があったにせよ、高杉が自らの腕を切り落とすなんて、よっぽどのことに違いない。自分は気を失っていて何の手助けもできなかったことがくやしくて悲しかった。 「ごめんな、そんな状況になっていたなんて…。俺、役に立てなくて…」 「お前のせいじゃないって!!本当に気にするなよ。今はこうして動いてるんだから」 そんな2人のやりとりを、栄太がにやにやしながら見ていた。 「話を戻そう。ともかく、幻妖は久坂がただの人間ではないことに気が付いたようだから、また襲ってこないとも限らない。だから、十分に注意して欲しい。奴の目的もわからないからな…」 「あ…その、幻妖ってどんな姿をしているの?」 見たこともないものへ備えるのも不安だったので、久坂が尋ねると、高杉が思い出したながら口を開いた。 「体型は大きくてがっしりした感じで…。眼光鋭い、肌の浅黒い奴だったよ」 「浅、黒い…?」 それを聞いて、久坂がぶるりと身震いする。何かを思い出せそうで、思い出せなかった。 「どうした?」 「いや…なんだか、知っているような…そうでないような…。なんだかすごく嫌な感じがしたから」 そんな久坂を桂が興味深そうに見る。 「もしかしたら、過去にクサカと関係があるのかもな。それなら奴がクサカに固執していたことも頷けるし、その記憶がもしかしたら久坂に残っているのかもしれない。もう一つ、興味深いことがある」 「何?」 「どうやら、クサカの力の欠片というのが、複数存在しているらしい。初めは高杉が見つけて持っていたものだけかと思っていたが、そうではなく、他にも存在して…。しかも、その存在が目立ってきたのは高杉は久坂に出会って、そして久坂が力を取り戻して行く過程でという特徴がある。だから、これからも見つかる可能性は大いにあるな」 「欠片が…複数存在する…」 もしかしたら、それを集めていけば、自分の中でクサカの記憶は戻っていくのではないだろうか。力を取り戻すことも、もしかしたら…。もしかしたら、“クサカ”に戻ることも。 「ただ、元々どうしてクサカが消えて、今の久坂に転生したのか、そしてどうして欠片が複数存在するのかもわかっていない。ただ、そういうこともあると思って行動しておいたほうがいいと思う」 「わかった」 高杉が神妙に頷く。何か思うところがあるようだった。 「とにかく、だ。黒いあやかしはともかく、今まで大人しかった幻妖までが活動し始めている。これは我々にとっても見過ごせない事態だ。十分に注意する必要がある。ただ、久坂に関しては、これまで通り特に何もしない。これから力が戻ってくるにつれ、コントロールが必要になってくるだろうから、引き続き自分のことだけ考えていればいい。高杉は、わかっているだろうが、久坂周辺の事だけでなく、任せてあるエリアはきっちりと見てもらうからな」 久坂も今は自分のことで手一杯で、何の役にも立てないのはわかっているので、とりあえず足手まといにならないようにすることが先決だと思った。栄太に教えてもらって少しではあるが進歩はしている。だから、これからも努力すれば、今度はもっと役に立てるかもしれないと、そんなことも考えていた。 「そして、2人がもう大丈夫そうだから、この空間を戻すことにする」 「え…?」 どういうことかわからなくて、久坂が驚く。戻す、とはこの空間を無くしてしまうということなのだろうか。 「つまり、元の時間に戻すってことだよ」 そんな久坂に気が付いて、高杉が説明する。 「元の時間って?」 「これまでは、実は桂が時空に干渉することで実際の時間を止めていたんだよ。もっと詳しく言えば、今ここで桂が干渉を解いたら、お前はあの学校の屋上に、あのあやかしと出会った時に戻るっていうことなんだよ」 「あの時に戻る…」 どういうことかはわかったが、いまいち実感を持って感じられなくて、とまどう。 「こういったことはほとんどやらないんだけどね。今回は栄太から第一報を受けた時、ただごとではないと感じたから、その時点で時空に干渉をほどこしておいたんだよ。だから、この結界を解けば、君は学校の屋上に戻るし、時間も元にもどる。つまり、無かったことになるのは私が干渉した後…つまり、幻妖の洞窟に入ってから、ここで過ごした5日間なんだ。人間界ではその時間はなかったものとして流れていく」 「じゃあ、高杉はどうなのるの?あの時、お前はあそこにいなかったから、一緒には戻れないってこと?」 久坂が高杉の袖を掴んで尋ねた。 「いや、戻るつもりだよ。空間を戻す時に、俺がいても皆が不思議に思わないっていう暗示もまぎれさせておくつもりだし…」 「そうなんだ」 その答えにほっとする。できれば一緒に戻りたいと思っていた。 「そんなわけだから、久坂。これ、返しとく」 そういって栄太が久坂の目の前に差し出したのは、翡翠の首飾り…火印だった。 「これ、俺が持っていていいの?」 「だって、お前にあげたものだからさ。桂とも相談して、お前が持っておく方がいいってことになったんだよ。ただ、コントロールを誤ったら、ただお前の力を暴走させるだけになってしまうこともあるから、その辺は自分で修行しろよ。俺は…今回はもう戻らないから」 「え?栄太は一緒にもどらないの?」 驚く久坂に、栄太は自分の腹部をなでながら、ここがちょっとね、と笑った。どうやら、まだ傷が完治していないからということらしい。 「…わかった。ありがとう、大事にするよ」 久坂は受け取った火印をしっかりと握りしめた。 ここから、日常にもどる。 2人で過ごした日々が、周りから切り離される。でも、自分たちの中では消えることはない。 もしかしたら、この日々はその方が価値があるのかもしれないと思った。夢ではないけれど、現実ではなく。それでも共有した想いはしっかりと残り続ける。 その時久坂は初めて、横にいる高杉を思いきり抱きしめたい衝動にかられていた。いつも抱きしめられ、守られる存在じゃなく、いつか力が欲しいと願ったときのように、自分が守っていけるように、抱きしめていけるようになるために、幻になるこの日々にあらためて誓う。 「俺、もっと強くなるよ」 「うん…?」 突然そう告げる久坂に、高杉がどうした?といった表情で返す。 「だって、“クサカは俺だ”って…宣言しちゃったし。それに恥じないようにがんばるんだ」 「…そっか」 高杉も今度は微笑みで返す。 戻った日常は、文化祭も終わりの夕暮れだった。多少、時間はたってしまっているらしい。相変わらず、にぎやかな音楽が鳴り響いている。 久坂は軽く深呼吸をする。 文化祭なんて初めてな高杉を、残りの時間でどこに連れて行こうか、そんなことを考えて空を見上げたていた。 第11話了・続く
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