ボーイズラブが前提の長編小説です。主人公は高校生。ある日、不思議な少年に出会ったことから、怪奇な事件に巻き込まれていく。惹かれ合う2人だったが…?!
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プロフィール

あまふりあおの

Author:あまふりあおの
あまふり・あおの

普段は絵描きをしている腐女子な主婦。無事出産で、現在一児の母。
たまりにたまった萌えをはきだすために、BL小説街道爆進中です。
長編ですので、ちょっと読むのは大変とは思うのですが、感想等いただけると非常にうれしいです。
もともと絵描きだから、たまには絵もアップ♪




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Welcome to 雨振舘 !!
お話のタイトルは「DARK HALF」です。中学生でも読んでも大丈夫!ですが、ちょこっとそういう描写もありますので注意です!(指定するほどじゃないので…)
管理人の日記はリンクから”雨振舘つれづれ日記”へどうぞ。お話についてもつぶやいてます。
拍手、コメント、メール大歓迎です!感想ぜひぜひクダサイ!
著作権放棄してないですよ。無断使用、転載等やめてくださいね。

☆管理人とはこんな奴
☆日記はこちら
☆登場人物紹介へ
☆あらすじへ


〜アンケートご協力ありがとうございました!結果発表をお楽しみにvv〜 ☆☆こんなのあったので作成してみました。はじめからこういうアンケート作成してればよかったかも…。
人物アンケート気が向いたらやってみてください…。
番外編 -Relations- 
2007/05/12 /19:51
番外編 -Relations-


「お前を食べるなんて…俺にはできないよ、そんなことしたら、もう声も聞けないし、姿をみることもできない…」
「…何をいっている、お前は化け物だろう?わがままを言うんじゃないよ」
 自分を抱きかかえながらぽろぽろと美しく涙を流す化け物の頬に、男は血にまみれた手のひらをそっと添えた。
「逝くな…逝かないで…頼むから」
「…無理な事を…。人間はどうやっても、お前達ほど生きてはいられない。いつかは俺もお前の側を離れていく時が来る…」
「俺がこんな…化け物じゃなかったら、お前と同じ人間だったら…」
 男は涙を流し続けるその化け物に、最後の力を振り絞って笑いかけた。
「俺は人間だから、お前のような力はないが、一つだけ…。俺の想いをお前に残す。言葉という力でお前を…縛るよ」
「縛る…?」
 頬に添えられていた男の手がゆるゆると化け物の唇に移った。
「もう、人を喰らうな。もっと別の方法で生きていくんだ。きっと、そんなお前の全てを満たしてくれるものが、現れるから、だから、もう苦しむな…」
「あ…」
 化け物がそれに応える前に、男の手がぱたりと落ちた。
「そんな…」
 男はもう二度と応えなかった。










 静かな山間部に、居を構えている者がいた。
 それは人間ではなく、ただ、人間に近い生き物であった。姿こそ人間と同じに見えるが、力は人間のそれとは違う。また、とても長く、生きていた。
 人間には、時に神のように祭られ、時に厄神として恐れられ、また、その使う特殊な能力から化け物と称された。そんな彼らは、自らを“妖”と呼ぶ。また、これとほぼ同じ起源を持ち、それでも相容れない存在として、“あやかし”と呼ばれるものもいる。
 彼は“妖”と呼ばれる中でも、力の巨大な、“大妖”と呼ばれる者だった。もうどのくらい生きているのか、どのくらい時がたったのか、彼には関わるところではなくなっていた。
 その巨大な力を、もっぱら人間界のバランスを保つために使っている。そうした彼の意志に賛同した同じ“妖”達の協力の下、自分たちの存在が人間達をおびやかさぬよう、そして、“あやかし”達がそれを壊すことのないよう、平たく言えば見張っている、そんな存在だった。
 そして、その巨大な力故に、彼はいつでも一人だった。彼の力はすでに空間の中に自然を作り出してしまうほどになっており、いつもその場所に一人でいた。ここも、そうして作り出した空間であり、彼が許した者しか出入りはできない。今まで彼を快く思わないあやかし達に見つけられることもなかった。
 その孤独にもとうの昔に慣れきってしまい、その晩もいつものように各地にいる妖達の報告をまとめながら、そっとため息をついた。そんな時であった。

「……なんだ?この気配は」
 彼が異様な雰囲気に顔を上げた。自分以外いるはずのないこの空間に、無理矢理ねじ込むように押し入ってくる、気配があった。
 気配の位置を彼が今いる部屋の入り口近くの天井と定め、そちらに目を向けた瞬間、まるで雷がそこに直撃したかのような轟音と、閃光が走った。
 突然の出来事に、さすがの彼も腕で目の辺りをかばった。辺りを何かが焼けたような匂い、そして煙が充満する。白く煙る先に、人影を認めて、彼はとっさに腕を前に突き出した。無言のまま、その侵入者らしき人影に向けて、光弾を放つ。避けるだろうとは予測していたが、その人影は、随分とゆっくりとした動作でそれを避けると、その場に倒れ込む音がする。手のひらをその人影に向けたまま、尚も無言でにらみつけていると、人影がゆっくりと身体を起こし、声を出した。
「……争いにきたわけじゃないよ、…不動の巨松…」
「それにしては、随分と乱暴な訪問だな。貴様、何者だ?」
 不動の巨松、というのは彼の呼び名の中の一つである。
 侵入者の言葉通り、敵意は感じないが、何しろ誰も進入できないはずのこの結界を、強引にも突破してきたくらいの力の持ち主である。警戒は解けるはずもなかった。
「名も無きあやかし…とでも言っておこうか」
 そう言って、そのあやかしが笑う。そこで初めて、不動の巨松と呼ばれたその妖は、進入してきたあやかしを見た。
 先ほどかなり強引に結界に割り込んだためか、手足はすり切れ、いたるところに傷をつくっている。身につけている衣服もところどころ焦げ付き、破れ、身なりは良いとは言えなかったが、長い髪の間から見える切れ長の瞳には力強い光を宿していて印象的であった。ただ、力の気配だけが、弱々しく今にも消えてしまいそうな程である。これでなぜ自分の所までたどりつけたのか、不思議なくらいだった。
「そのあやかしが私に何の用だ?私の首を取りに来たにしては、ずいぶんと力不足だな」
「だから…争いに来たわけじゃないと言っただろう。…お前の力を分けて欲しいってお願いにきたのさ」
「……なんだと…?」
 予想外の言葉に、不動の巨松は一瞬ぽかんとなった。しかし、あやかしはまっすぐ見つめていて、その言葉を撤回する様子もない。
 不動の巨松は笑いがこみあげてきた。
「これはまた、随分なお願いをされたものだ。確かに貴様が力の補充を必要とするほどに弱っているのは見て取れるが、私があやかしである貴様に力をわけることなど、あるわけがなかろう。ましてや、私のこの結界を破ったほどのあやかしだ。力を再び与えてしまっては、どんな災いが起こるかわかったものじゃないからな」
 その言葉に、あやかしはそっと目をふせて、自嘲気味に笑みをこぼした。
「そうだな。それは当たり前だ。俺には、お前達を戦々恐々とさせるだけの力を持っている。…しかし、信じないだろうが、俺はこの力を使ってお前達を脅かしたり、人間を襲ったりすることはない。ただ、俺の力が弱まったせいで、俺をつけねらっているあやかしがたくさんいる。そいつらから身を守る程度の力を分けてもらえればそれでいい」
「………わからんな… 」
 不動の巨松がつぶやくと、あやかしは、土下座をするように前に手をついて頭を下げた。
「頼む…。無礼なのは承知の上だ。だが、俺にはもうあまり時間はない。俺がこれ以上飢えて、理性を無くしてただの化け物になりはてるか、その前にほかのあやかしに俺自身を利用されてしまう前に、お前の力を分けてくれないか」
 そのあやかしの様子に少し心を動かされた。
 こうまでしてこのあやかしが生きようとするには、何か理由があるのだろう。
 警戒を解かないまでも、不動の巨松はあやかしにそっと近づくと、その前に膝をついた。近づいても、そのあやかしは頭をあげることはしなかった。
「そこまでいうなら…相談に乗ってやらないでもないが、残念ながら私は力をわける、という能力は持ち合わせていない。お前が望むようなことはできないと思うのだが」
 その言葉に、あやかしが顔を上げた。
 間近で見て、あやかしのその顔は多少汚れてはいたが、きれいな顔立ちをしていることがわかった。
 これまでいろんなあやかしを見てきたが、こういった者は少なかったので、それにも少し興味を持った。
「お前に与える力が無くても、俺には奪う力があるから…俺は必要な分だけ奪えば、それ以上求めることはしない」
「そんなこと、うまくいくのか?できるとしても…本来私の力とお前の力は異質のものだからな」
「その辺りも考えて、お前にお願いに来たのさ。お前の力は誰よりも自然に近いから…だから、大丈夫なんじゃないかと思ったし…もしこれが失敗したら…お前なら、お前本体のその力なら、俺を一撃で殺すことができるだろう?」
「……妙な期待をかけられたものだな。お前は生かして欲しいのか、それとも殺して欲しいのか?」
「そうだな、少なくとも生きていたいとは思っている。だが、さっきも言ったように、これ以上このままの状態でいるのはお前達にとっても、俺自身にとっても、危険なことだからな。そうなるくらいだったら、殺して欲しいと思ってるよ」
 不動の巨松はそっとため息をついた。何か事情はありそうだが、それ相応の覚悟をしているらしい。こういった者を見捨てておけないのも、この妖の性でもあった。
 彼はそっとそのあやかしの手を取ると、普段は押さえている妖力の一部を解放した。そのあまりの大きさに、結界の中に作ったこの空間がぐわん、と揺れた。
 あやかしはその大きさに目を丸くしている。
「どうした、この力を奪うんじゃなかったのか?」
 惚けているようなあやかしに向かって、笑いかけると、あやかしが少し赤くなったのがわかった。
「想像していたよりも、お前の力が大きくて…。驚いた…」
「そうか。だが、この力故に、私はいつでも一人なのだ」
 どうしてなのかは解らないが、いつもは口にしないような言葉がするりと出てきた。なぜこんな出会ったばかりのあやかしにそんなことを言おうと思ったのか、自分でも解らなかった。
 その言葉に、あやかしもくすりと笑う。
「そうだな、そういう意味では俺も…」
 あやかしは、重ねられた手の上にもう片方の手を重ねると、目を閉じた。
 その手は、まるで血が通っていないかのように冷たかった。








「どうした、まだ何も話す気になれないか」
 不動の巨松は、自分の屋敷の一室にいた。目の前には、先日この結界の中に飛び込んできたあやかしが、延べた布団に横たわっていた。
 その突然の乱入からもう五日になる。
 約束通り少しだけ力を奪ったあやかしは、力尽きたようにその場に倒れ込んで意識を失った。そのまま丸3日間眠り続け、やっと目を覚ましたと思ったら、今度は何も反応しない。どうやら彼を警戒しているらしいというのはわかっていた。
「まあ、時間はある。黙っていたければ気の済むまで黙っていればいいが、お前がこのまま黙っているままならば、私もお前を信用することはできないからな、それまではここを出すわけにはいかない」
 その言葉に、あやかしがちらりと目を向けた。
「お前が私を信用するかどうかはわからんが、私はお前に危害を加えるつもりはないぞ。お前は約束通り必要最低限の力しか私から奪わなかったし…。よくよくの事情があったと思っているからな」
 あやかしは目はこちらに向けているものの、やはり口を開こうとしない。その様子に、やはり今日もだめか、とため息をついて立ち上がった。
「しょうがないな。今日はこれで退散するとしよう。だが、せっかく作ってやったんだ。少しは食べろ。お前が言うように、もう人間を襲って力を補充するということをしないのなら、あらゆる自然のものから力をもらうことくらいは出来るようにならないとな。それが出来るのと出来ないのとでは結構違うもんだぞ」
 お前の属性は、察するに人なんだろう?と、そう言いながら障子に手を掛けた時、唐突に、あやかしが口を開いた。
「……本当に、俺に危害を加えるつもりがないのか」
 驚いて振り返ると、あやかしは身体を起こしはしなかったが、まっすぐにこちらを見つめている。
 やっと声を聞けたことにふっと口元を緩めて、改めてあやかしの方に向き直った。
「本当だよ。もしお前をどうにかしようと思っているんなら、わざわざ力を渡す事なんてするわけがないだろう。それに、寝たきりのお前を消すことくらい簡単な事だからな」
「…だったら、これはなんだ。確かに身体はお前の力を奪って、危機を脱出しているはずなのに、身体を起こすことも、腕を動かすこともできない。こんな状態にしておいて信用しろといわれてもできるわけないだろう」
 その言葉に、ああ、と手を打った。まがりなりにも自分を信じて危険を冒してまで力をもらいに来たこのあやかしがそれでも警戒心を捨てないのは、それが理由だったのか、と思う。
「それは、この結界の性格上、仕方のないことだ。お前の力がこの空間に慣れてなくて、私の力に押さえ込まれているのさ」
「結界の力…?お前が意識的にやっているのではないのか」
「私の力は自然に最も近く、そして、とても濃いものだからな。普通の妖ですら、本体の私に近づくことは恐れるものだ。しかしそれは私が意識的にやっているものではない。私の力は元々そういうものだ。大きすぎるが故に、私そのものに近づこうとする者はいない。私は呼ばれた時に、この結界の外の世界に影響を与えない程度に力の一部を送っているだけの話だ。だから、ここには誰も来ることはない」
 言いながら自分でも、質問の答え以上のことを話しているような気はしたが、それはそれでかまわないと思った。あまり誰かと話をするということもずっとなかったことなので、少々饒舌になっているのだと自分で感じていた。
「………そうか…」
「ただ、お前ほどの力を持っていれば本当ならそこまで私の力に押されることはないと思うからな。たぶん、これまで無茶をしてきたんじゃないのか?倒れたことといい、身体が弱っているんじゃないかと思うぞ」
 その言葉を聞いて、あやかしが静かに目を閉じた。やっと警戒を解いたらしいあやかしにそっと近づくと、枕元にそっと膝をつく。このあやかしが自分の腕の中で意識を失った時、汚れていた衣服を着替えさせ、顔と身体をきれにぬぐったので、本来の彼の顔がよくわかった。
 やはり、平均的に見ても美しい顔をしていると思った。
 そして、ここまで整った顔立ちで、あれだけの力を持っていれば当然報告にも上がってくるはずだが、調べてみたがそういった報告は過去一度も受けたことがなかった。そのことがますますこのあやかしに対する興味を沸き立たせていた。
「俺が動けるようになったら…お前の監視付きでもかまわないから、行きたい場所がある。信じるかどうかはわからないが、俺はそこに行くことができるのなら、それ以上の自由はいらないとさえ思っている」
 目を閉じたまま、そう告げる。たぶん、その場所がこのあやかしの事を知るにふさわしい場所なのだということがわかった。
「私本体が動くわけにはいかないから、私の力の一部がお供することにしよう。それはお前に縁のある場所なのか?」
 あやかしはゆっくりと目をひらくと、ふわりと笑みを浮かべた。
「とても大事な場所なんだ」
 その気配の柔らかさに驚いてすぐに言葉を返すことができない。自分のまわりにこんな気配をさせる者はいなかったし、ましてや彼は本来邪悪な気配を出すあやかしなのだ。
「楽しみにしておこう」
 その言葉を聞いて、あやかしは安心したように再び目を閉じた。



 あやかしが動けるようになるまで、それから一ヶ月を要した。警戒心を解いてからは、出した食事もちゃんと食べているし、他愛のない会話も交わすようになったが、相変わらず自分のことについては何もしゃべらない。
 ただ、今日約束した場所に行ってもいいと言ったときにみせた顔は、いままでにないくらい嬉しそうだった。まだその場所に連れていてもいないのに、何度も礼を言って頭を下げる。その様子に、不思議はますます募るのだった。

 あやかしの言う通りの場所につくと、そこは人里離れた谷間の泉だった。降り立つと、あやかしは駆け寄ってその水を手ですくう。
「よかった…。いつも通りきれいで、無事だったんだ」
「湧水か」
 水辺に膝をついているあやかしに追いつくと、自分も腰を下ろした。その水面は少し青みがかっていて、静かに輝いていた。
「ここは…ずっと昔から水が涌きだしていて、枯れたことがないそうだ。だから…俺はここを選んだ。いつまでも…途絶えることなく水をたたえ続けるここなら、いつか想いもかなうんじゃないか…って思ってね…」
 あやかしは水面から離れると、不動の巨松の横に腰をおろした。
「想い…とは、お前の想いか?」
 その問いかけに、あやかしが少し困ったように笑う。
「俺の想いも入ってるのかな。でも、その想いの元はある人間の込めた想いだ」
「人間?」
 そう。と頷いて、あやかしは遠い目をした。記憶の向こうにあるその人間の事を考えているようだった。そして、ゆっくりと話はじめた。
「その人間は、仏師だった。自分の犯した罪をつぐなうためといって、一人で100体の仏像を彫っていた所だった。俺は…その男が持つ死を望む心に惹かれて命を奪おうと…男の前に姿を現したが、死を望んでいるくせに、100体彫り上げるまでは命は渡せないと言うそいつに、俺は興味を持った。だから、100体彫り上げるまでは命はとらないと奇妙なことに人間と約束をしたんだ」
 そこまで話すと、あやかしは両膝を抱き寄せてた。また少し沈黙した後、続きを話し出す。
「俺も退屈していたところだったし、そいつの力をすぐにでも奪わないといけないような状況でもなかったから、気長につきやってやることにしたんだ。…ただの、気まぐれのつもりだったんだが、毎日様子を見に行く俺に、そいつは恐がりもせず、おかしな言い方だが、まるで友人のように親しく話しかけてくるようになって…。男の話は俺には興味深くて、おもしろいものばかりだった。知らなかったことがどんどん知識として増えていくのがおもしろくて…。こんなあやかしの俺ごときの話にも真剣に答えてくれて、その時俺ははじめて、誰かといることが心地良いと思えたんだ」
 それを聞きながら、不動の巨松は内心驚きを隠せなかった。やはりこのあやかしはこれまで出会った他のあやかし達とは大きくずれているとしか思えない。あやかしと言わず、妖ですら、こういったものは少ないだろう。ましてや、このあやかしは人を食べるという属性を持った者なのである。
「…やっぱり、そういうのはおかしいと思うだろう?」
 そんな心中を見抜いたのか、あやかしが笑いかける。
「そうだな、正直驚いた。そんなことは聞いたこともないからな」
 正直に答えると、あやかしはまたくすりと笑った。
「それでどうしたんだ。その男は100体作り終えたのか?」
「100体は彫り終わらなかった。もうそろそろ達成するという時、俺が少し目を離したすきに…。その村が野党に襲われて、男がそれまで彫った仏像も、何もかも、火に焼かれて無くなった。俺が駆けつけた時には、もう野党は引き上げた後で…。男は斬られて瀕死の状態だった。…もちろん、俺には死にそうな人間の命を奪うことはできても、救うことはできない…。俺は男を救うこはできなかった。何もできなかったんだ」
 あやかしは両膝を両手で抱きしめるように引き寄せた。その時の情景を思い浮かべているように見えた。
「…そんな瀕死の状態なのに、あいつは…俺に一体の仏像を手渡した。野党に襲われた時、それだけは懐に入れて護っていたらしくて、無事だったんだ。それが100体目の仏像だった。でも、それはまだ未完成で…。そしてそれは、男が俺の事を想って彫ったものだというんだ。俺が、このあやかしの俺が、これから先人間を食べるという行為に苦しまなくてもいいように、そして、いつか…そんなことをしなくても、生きていけるようにって…」
「…お前は人間を食べて生きていくことに苦しんでいたのか」
「いつもね、疑問に思っていたんだ。どうしてこんな風に生まれたのか、どうしてこうして生きていかなければならないのか…。自分の生まれた意味はなんなのかってね」
「それが明確にわかっているものはそう多くはあるまい」
「そうだな。…そうだと思うよ。でも俺は、少なくとも俺は、こんな化け物の俺にそうして想いをかけてくれたその人間を忘れることも、その人間の願いを捨て去ることもできなかった。だから、俺はこれからの生きる意味は信じて待つということにしたんだ」
 そうして、あやかしは目の前の泉を指さした。
「男から受け取った最後の仏像は、ここの泉に沈めた。その仏像はあの男の思いを…そして、俺の想いをいつか結びつけてくれるんじゃないかと思って、枯れることがないと言われるここに沈めたんだ。だから、俺はそれを護るために、それからずっとここにいたんだ。そして、男の残した最後の言葉、もう人は喰らうなと言うその言葉をずっと守り続けている」
「たかだか人間の言葉で、お前ほど力を持ったあやかしが本来の属性である人を欲しないなんて、にわかには信じられないな」
「だが実際に、俺はその言葉に縛られて、人を襲うことはできない。試してもみたが、やはりそういうことはできないようだ。たぶん俺が…その男の願いを裏切りたくなかったから、ただの人間のその言葉が、どんな術にも勝る効果を発揮したんじゃないかと思う」
 なるほど、と一応頷く。
 だから、このあやかしは人を襲うこともなく、騒ぎを起こすこともなく、ただこうしてここにいたから、特に報告にあがることもなかったのだろう。そしてこれからもこうしてここで生きていくつもりなのだろう。
「でも、具体的にはお前は何を待っているんだ?想いが実を結ぶと言っても、お前はもう人を食べないで生きているわけだし、力がなくなれば、それこそ、私から奪うことももうできるはずだ」
「俺が待っているのは、男が言ったもう一つの言葉…“いつかお前を全て満たしてくれる者が現れる”ていうその言葉を、そんなものを信じてみたい、なんて思ってるんだよ。もちろん、ここにずっといてそのような者に出会えるのかはわからないけど、自分の気の済むまでここで待っていたんだ」
 そうつぶやくあやかしの瞳は、どこまでも澄んでいて、邪気も何も感じられない。本当にそれをただ信じて、ただ待っているだけなのだ。
 だから、こんなにもこのあやかしの気配は穏やかだ。そして、その男に対する想いの強さも、伝わってくる。人を喰らう属性でありながら、たぶんこのあやかしは誰よりも人間に近いものを持っているのだろう。それは自分が誰よりも自然に近いものを持っているのと、どこか似ているのかもしれなかった。
 本当に想いが実を結ぶことがあるのか、そんなことは、このあやかしの澄んだ瞳を見ていればいつかはそういうこともあるのではないかと思わせた。そして、それほど強い思いを向けられたその人間が少しうらやましくもあった。
「……いいんじゃないか。お前が待ちたいだけ待てばいいと思うぞ。そして、その者が現れるまでは、私を頼ってくれないか」
「どういうことだ?」
「なに、私もお前の想いのその先を見てみたいということだよ。力が必要になったら、私の力を奪うといい。ただ、その礼として、たまには私の手伝いもしてくれないか」
「お前の…手伝い?」
「少しずつでいい。お前はもうあやかしではなく、人間を襲わない、自然と生きていく者に変わるんだよ。それでもお前はあやかしなんだから、あやかしを討ってこい、なんてことは言わない。ただ、この世界の力の均衡を護る私の仕事に力を貸して欲しいんだ」
「でも、何をすればいいんだ?俺にはそんな力はないし、どうすればいいのかもわからない」
「難しく考えなくてもいい。そうだな、まずは手始めに、私の側にいてくれないか。いろいろとお前の話も聞きたいし、第一私もお前に興味がある」
 そう言って笑いかけると、あやかしが目を丸くして、さらに赤くなった。
「ふ、不動…!」
「ああ、だから難しく考えなくてもいいからな。もちろん、お前がここに来たいときにはいつでも来るといい。お前が出入りが自由にできる空間を用意してやろう。それから、“不動の巨松”というのは確かに私の通称名の一つではあるが、多少長くて言いにくい。それに、身近な者は私のことを“桂”と呼んでいるから、そう呼んでくれるとありがたいな」
「そ、それじゃあまるでお前に囲われてるみたいじゃないか」
 あやかしは赤くなったまま抗議する。
「囲われているとは穏やかな表現ではないな。だが、それもいいかもしれないな」
「よ、よくないぞ!」
 不動…桂の真意がつかめないようで、あやかしがますますうろたえる。それに笑って冗談だ、と言うと、しばらくは複雑そうな表情をしていたが、いつしか愉快そうに笑っていた。
「お前の話を聞いて想像していたときは、もっと厳格なやつだと思っていたが、そうでもないらしいな。ずいぶんと変わり者だ」
「お互い様なんじゃないのか?私もお前のようなあやかしはみたこともない」
「それもそうだな」
 しばらく2人で笑い合う。
 このあやかしは、自分の所にくるだろうと確信した。
 そして、このあやかしが側に来てくれたら、自分の周りも何かが変わるのではないかと、そんな予感もしていた。ただ信じる、という純粋な想いを持ったこのあやかしに感化されたのかもしれなかった。
 いつか本当にこのあやかしの願うような者が現れることを、一緒に願ってあげることが出来るのではないかと思えた。
「ただ、名前がないのは不便だな。お前のことをなんと呼べばいい?」
 その言葉に、あやかしがさあ、と首をひねった。心地よい風が流れて、あやかしの背中でゆるくまとめられた長い髪がさらさらと揺れる。
「ここは…九つ坂というそうだ。俺には特に今まで名前のようなものはなかったから、ここの名前でいい」
「九つ坂、か…それも少し言いにくいな。同じ意味で、九坂、はどうだ」
「クサカ。俺はそれでいいよ」
「じゃあ、決まりだな。お前は今から“九坂(クサカ)”だ」
 クサカ、と名付けられたあやかしは、まぶしそうに空を見上げた。
 陽の光を受けて、想いの眠る水面はきらきらと輝いていた。
 
 


 −−−−−−−−それからずいぶんと年月を経て、本当にクサカは待ち続けた者と出会うことになる。

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