ボーイズラブが前提の長編小説です。主人公は高校生。ある日、不思議な少年に出会ったことから、怪奇な事件に巻き込まれていく。惹かれ合う2人だったが…?!
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プロフィール

あまふりあおの

Author:あまふりあおの
あまふり・あおの

普段は絵描きをしている腐女子な主婦。無事出産で、現在一児の母。
たまりにたまった萌えをはきだすために、BL小説街道爆進中です。
長編ですので、ちょっと読むのは大変とは思うのですが、感想等いただけると非常にうれしいです。
もともと絵描きだから、たまには絵もアップ♪




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Welcome to 雨振舘 !!
お話のタイトルは「DARK HALF」です。中学生でも読んでも大丈夫!ですが、ちょこっとそういう描写もありますので注意です!(指定するほどじゃないので…)
管理人の日記はリンクから”雨振舘つれづれ日記”へどうぞ。お話についてもつぶやいてます。
拍手、コメント、メール大歓迎です!感想ぜひぜひクダサイ!
著作権放棄してないですよ。無断使用、転載等やめてくださいね。

☆管理人とはこんな奴
☆日記はこちら
☆登場人物紹介へ
☆あらすじへ


〜アンケートご協力ありがとうございました!結果発表をお楽しみにvv〜 ☆☆こんなのあったので作成してみました。はじめからこういうアンケート作成してればよかったかも…。
人物アンケート気が向いたらやってみてください…。
DARK HALF第14話・6 
2008/04/30 /20:50
 そんな頭の中に、幻妖の声とは別の声が久坂に語りかけた。

 ーー選ぶ権利があるのは、久坂、お前だけだからーー

 それはいつか自分が夢の中で聞いた声だった。
 確かに自分の中にあやかしの力はある。あるが、その力をどうするか選ぶ権利があるのは、今こうしてここにいる自分自身にほかならない。だったら、自分は今のままでいたい。今の自分という人間の存在を消してしまうことなんてできない。
 
 自分はここに、自分がここで、高杉といたい。
 
 そう思うと、遠ざかろうとしていた意識が少しずつ戻ってきた。
「…いやだ、嫌だ!俺は…俺は俺のままでいるっ!」
「…っ!!」
 久坂の胸元にかけている火印から、光がほとばしって、幻妖は突然のことに驚いて、久坂から離れた。
 久坂の強い意志に火印が反応し、久坂の力を増大させる。一気に爆発したそれは、久坂を束縛していた蔓をすべて引きちぎった。強く束縛されることで支えられていた身体が、その支えを失ってよろめく。久坂は膝をついてなんとか倒れることをさけた。ただ、力は消耗してしまったようで、顔をあげて幻妖を睨むので精一杯だった。
「は、はは…っ!なるほど、人間の姿のままでもそこまで力を発揮するか。なるほど、それはそれでおもしろいがな。だが、そうまでして人間のお前のままでいて何になる?そこまで力を出せるのであれば、そんなおいぼれた妖なぞに頼らなくても力を自在に使えるようになりたいと思わないか?」
「そんなこと…ないっ!」
 胸元の火印を握りしめながら、久坂が叫ぶ。
 幻妖はゆっくりとした歩調で久坂に近づきながら、口の端をゆがめて笑った。
「どうかな?そう思っているのはお前だけなんじゃないか?」
「そんな…」
「あのくたばりぞこないの…若造はどうなんだ?」
「え…?」
 突然そんなことを言われても久坂は誰のことかわからなかった。
「ふ…。あいつ、潜竜…高杉、とか言うんだってな。あいつだって、もともとあやかしの力をもったお前に執着していたんだろう?力も、昔の姿も、記憶すらも失ったお前が必要だと言ったか?」
 高杉のことだとわかって、どきりとする。
「高杉は…!た、たか、すぎ…は…」
「どうした?」
「高杉、は…」
 反論しようとして、口籠もる。その先を言うことができなくて、そんな自分に愕然とした。先程高杉と言い争った光景が頭の中に浮かぶ。
 高杉は、記憶のない自分を責めた。でも、以前はそれでもいいといってくれていた。でも、さっき、記憶のない自分を、責めた。
「たかすぎ、は…っ」
 震えた声で繰り返してうつむいた久坂に、幻妖はますます愉快そうに口をゆがめて、そして。
「“久坂”」
「…え?!」
 その声に驚いて久坂が顔をあげる。それは、幻妖の声ではなかった。まるで、高杉そのものの声だった。あまりのことに驚いて身構えることすら忘れてしまった久坂にさらに近づきながら、幻妖の姿が変わっていく。
「あ…、あ…、なん、で…?」
 その姿が、高杉のものに変わっていた。
 よろよろと、久坂が2,3歩後ずさる。そんな久坂を高杉の姿をしたまま幻妖はにやりと笑った。そして、とうとう久坂の目の前に立つ。正面から見つめ合った。
「“俺が本当に欲しいのはお前じゃない”」
「や…、嫌、だ…」
 高杉の姿で、高杉の声で幻妖がささやく。これは幻妖の何かしらの術で、高杉本人じゃないというのはわかっているのに、その言葉にうちのめされている自分がいる。聞きたくなくて、久坂は両手で自分の耳を塞いだ。
「“俺は人間のお前なんて、必要ない”」
「違う、そんな…そんなこと…高杉は、言わない…!!」
「“そんなこと、どうして言い切れる?”」
 久坂の塞がれた耳元へと、高杉の姿のまま幻妖がそっと顔をちかづけてささやいた。
「“クサカとしての記憶もないくせに”」
「あ…」
 その声と、もう一つ、高杉の声が重なるように頭の中で響く。

“俺とのこと…出会いも、思い出も…何も覚えてないくせに!!”

 何度も頭の中で再生される。
 
 高杉は、記憶がない自分はだめだと…信じられないって言ったんだ…。
 
硝子が砕けたような衝撃が胸の中に響いた気がした。そのまま、目の前が真っ暗になる。
 意識は、そこで途絶えた。
 ショックに見開いた久坂の瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
 瞳が輝きを失っていく。全身から力が抜けて、久坂はがくり、とすでに元の姿に戻った幻妖の腕の中へと崩れ落ちた。

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DARK HALF第14話・5 
2008/04/29 /18:54
「お前を元のあやかしに戻してやって、それからゆっくり…犯すのさ。決まってるだろう?人間の弱い力のままではつまらんからな。嫌がり泣き叫ぶお前を陵辱して、陥落されてよがって哭くまで、どのくらいかかるか、考えるだけでも楽しみだ」
 そう言って、幻妖が心底楽しそうに笑う。震えて何も言えない久坂に、幻妖はさらに続けた。
「せっかくオレがこんなに愛してやっているのに、かつてお前は…オレを黒い力で退けた。そのことは許してやろう。許してやるとも、オレはお前を愛しているからな。そして、オレが教えてやった快楽を、他の男に身をゆだねて貪っていたことも許してやる。それでもオレはかまわん。あの時と同じように、その胸に他の男のことを抱いたお前を無理矢理犯すのも、オレにとって最上の悦楽だ。昔の再現といこうじゃないか」
「…あ、あ…」
 幻妖とかつて何があったのか、自分は覚えているわけではない。覚えているわけではないが、いい知れない恐怖を感じている。こんな男のことは知らないのに、なぜか身体が勝手に反応して震えている。そのことが、幻妖が言っていることが嘘でないという証のように思えた。黒い力の事であるとか、それが幻妖を戒めていたということもさっぱりわからないまま、ただその言葉だけが頭の中をぐるぐると回る。
 それに、なぜか自分の身体を自分の意志で動かすことが困難になってきていた。それは草の蔓に拘束されているから、ということではなく、指一本すらしびれるように動かない。自分の瞳をじっと見つめている幻妖から目を離せないまま、なぜか自分の意識は後ろへ後退していっているような、妙な感覚も覚えていた。
「その前に、お前を元に戻してやらないとな。さあ、そろそろ変化がおきてきた頃合いだろう。そんな人間の殻なぞ捨てて、もとのあやかしの力に戻るがいい。人間なぞに心を奪われて本来の力を失っていたお前を、救いにきたのだからな、オレは」
「殻を、捨てる…って…?」
「喰らってしまえ、そんな人間の部分なぞ」
「お、俺が俺を…喰らう?」
 どういうことなのかわからないが、幻妖の声はどんどん自分の意識の奥へと直接語りかけているようだった。確かに、自分の中の何かが幻妖の声に反応を始めている。
「そうだ。人間の殻などいらぬ。そんなものがあるから、お前は自分の力も取り戻せないんじゃないのか」
「違う、違う…俺は…」
 かろうじて口にするが、頭の中が幻妖の言葉に従おうとしている。どうするとか具体的なことはわからないが、自分が消されてしまうような気がした。
「あやかしが、なぜ“妖”と区別されるような存在になったか、お前は覚えていないだろう?それはもともと妖だったものが、人を喰ったからさ。自然界の中でもっとも汚れている人を喰うようになったことからあやかしの存在は生まれた。そうしていつしか、自然界の力だけで生きていくものとは別の存在が次々と生まれることになった。オレも、お前も、その汚れた力を喰らうことで生きてきたのさ。それなのに、お前は人間なんかにうつつをぬかして、あまつさえその能力を自ら封じ込めた。…かわいそうに。それを戻してやろうと、オレは言っているんだよ」
 だんだんと、頭の中をもやがかかったかのように自分の意識が薄れていく。それに変わって、胸の辺りがひどく熱くなった。吐き気のおこりそうなその感覚に、久坂は歯を食いしばった。

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DARK HALF第14話・4 
2008/04/28 /16:38


「あ…っ!」
 久坂は、足下を何かにすくわれ、前へつんのめった。すぐに立ち上がろうとするが、右足を何かがひっぱっていて立ち上がることができない。辺りが暗くてよくは見えないが、草の蔓が巻き付いているらしい。
「これはまた好都合な所へと逃げてくれたものだ。どうやら鬼ごっこもここで終わりのようだな」
「く、そ…っ」
 久坂は右足にからみついた蔓を引きはがそうとするが、びくともしない。それどころか、自分の周りに別の蔓が忍び寄ってきている。身を翻そうとしたその瞬間、素早く蔓は久坂の身体に巻き付いた。そのまま、強く締め付けられる。
「あ、く、ぅ…っ!」
 急激に締め付けられて、一瞬息が詰まる。
 幻妖から逃げられると思ったわけではなかった。ただ、あの場所のままだと、幻妖が何かをしかけてきても、また、自分が何か力を使っても周りを巻き込んでしまう。自分にできることは、できるだけ人気のない場所へ離れることだった。そして、なんとかこの河原まで来たが、これ以上はどうしようもない。
 浅い息を吐きながらなんとか呼吸を整えようとしている久坂の元へ、幻妖が音もなく近づいてくる。先程から幻妖の妖力の気配は小さいのに、目の前にいる幻妖はなぜか存在感が大きい。その力の大きさに圧倒されてしまう。それは、周りに自分の気配を感じさせない何か術でも使っているのではないかと思えた。だから、先程も自分が取り乱していたことを差し引いても、あんな至近距離に接近されるまで気が付かなかったのだろう。
 ぐい、と身体が引き上げられて、目線が幻妖と合う。幻妖の視線がまるで値踏みするかのように全身に絡みつく。幻妖に対して何か本能的な怯えのような物を感じながらも、久坂は精一杯幻妖を睨み返した。
 そんな久坂に幻妖はすこし驚いたように目を見開いて、すぐに口の端をゆがめて愉快そうに笑った。
「変わらんな、その目は。姿は変わってもそこは同じということか」
「う、う…?!」
  その言葉と同時にまたきつく締め付けられて、久坂はうめく。
「ふふ、人間なんぞに生まれ変わってまで“久坂”とは、よほどその名前が気に入ったか。もっとも、オレが知っているお前はもとより名なぞなかったが。その名も悪くないな。やはりいずれは黒い力を得るために元の姿に戻るつもりでもあったのか?」
 幻妖が久坂の頬をなでながら笑う。その指の冷たさに、久坂はぶるり、と身を震わせた。
「ど、どういう…こと…?」
「記憶を失っているのだったな。それはそれでおもしろい。それがどう作用するか、楽しみだ」
 そう言うと幻妖は今度は両手で久坂の頬を挟むと上向かせ、強引に口づける。
「……っ!!」
 久坂はそれから逃れようと身をよじるが、蔓はそれをさせまいと締め付けを強くする。そのせいで余計に息が苦しくなって、引き結んでいた唇を開いた。そこへ幻妖は難なく舌を差し入れる。同時に、何か、が口移しで入れられて、久坂は目を見開いた。
「んん、ん、う…っ!!」
 がっしりと両手で顔を押さえられているため、首をふって逃れることもできない。何を入れられたのかがわからなくて、恐怖が全身を襲った。せめてそれを舌で押し返すようにして飲みこまないようにするが、それも所詮無駄な抵抗だった。かなりの違和感を伴って、それは熔けるように久坂の喉へと吸い込まれていく。
「が、は…っ!!」
 やっと解放されて、久坂は激しく咳き込んだ。さきほど飲み込まされたものをはき出したいと思うのだが、それはどうも“飲み込んだ”というよりは、“吸収された”というものに近かった。喉へと入ってきた覚えはあるが、飲み込んだ覚えはない。まるで、自分の力の欠片を食べた時のようだった。
「な、何を…したんだ…っ!」
 目に涙を浮かべながら、幻妖をにらんで叫ぶ。その久坂の表情、態度は幻妖を余計に喜ばせた。
「喜べ、お前の力を返してやっただけだ。ただし…オレの力を加えて、変化するようにしてあるがな。その様子だと、すぐに吸収されて、効果を出すだろうよ」
「俺の…俺の力を…?どうしてそんなものをお前が持って…?」
 どうしてそんなものを幻妖が持っているのかがわからない。混乱する頭の中をいろんなことがぐるぐる回って、落ち着いた思考を保てない。
「お前がオレから奪った、オレのクサカの“核”、さ」
「奪った…。あ…」
 木偶のクサカのことだと思い当たる。確かに、あの“クサカ”は同じ力を持っていたはずだった。
「はじめはお前がクサカとはわからなかったからな。せっかく作り上げたオレの慰みものを消した罪をつぐなってもらおうかと思ったが…。クサカ本体はお前という人間に転生していたとは驚きだ。まあ、オレは黒い力なぞ興味はない。俺を戒めていた忌々しい力でもあるからな。ただ、お前を手に入れることでそれを支配できる可能性があるのは、おもしろい。木偶で作った偽物なんかよりはずっと楽しめそうだ」
「黒い力って…、俺を…って…。何を、する気だ…」
 久坂は何となく嫌な予感がして、問う声に震えが混じった。そんな久坂の唇に幻妖が指でそっと触れる。それはともすれば優しい仕草にも見えた。

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DARK HALF第14話・3 
2008/04/26 /20:38
「てめぇ、ぶっ殺す!!」
「そんな暇、あるのかねぇ…?潜竜は、“クサカ”が大事だと、聞いておりましたけどねぇ…」
「っ?!」
「ああ、自分から離れおったんじゃあ、しょうがないかねぇ…、あの方も、手間が省けて楽だわいなぁ…」
「お前っ?!目的はなんだっ!!」
 久坂が何か関係あると知って、高杉も目の色を変える。久坂に何かをしたというのだろうか。
「へぇ、へぇ、へぇ…。アタクシの仕事は終わりましたんでね、後のことがどうなろうと、知ったこっちゃないですからね、別に教えてやってもかまわないですがねぇ…。へぇ、へぇ、へぇ、アタクシよりも力の大きなお前さんが顔色変えてるのは…、愉快だねぇ…」
 また馬鹿にするように奇妙な笑い声をあげる。
「久坂に、何かしたのかっ!!」

「いやいやいやいや…。アタクシはなんにもしておりゃしませんよ。アタクシは調べて、それをご報告申し上げる仕事しかしておらんですからね。あの人間について調べるのに…お前さんは好都合だったというわけで。ずーっとくっついておったのに気づきもしないで…」
「調べる?俺にくっついていたって…」
 久坂のことを調べるのに自分が好都合だった、というのは何を調べることだったのだろう。
 高杉は頭を巡らせる。今日特に久坂の事であやかしが興味を持ちそうな事がったと言えば…。
 そこではっと気が付く。
「過去のこと…?お前が調べたっていうのは、久坂の過去のことだったのか?!」
「へぇ、へぇ…へ。あの人間が“クサカ”だっていうもんで、えらく興味を持たれてるお方がおりましてね。詳しく調べろって言うもんだから…。どうやって調べようかと迷っておりましたらね、お前さんがなんだかこそこそとやってるじゃぁありませんか。これにくっついておれば、アタクシも危険なことをしなくても話が聞けるなぁと思ったもんですからね。へぇ、へぇ…初めはお前さんに気づかれるんじゃないかと心配でしたんですがね、気づきもしないで、へぇ、へぇ、へぇ…」
「な、な…っ!!」
 久坂と入江の事が気になって、高杉はそっとカウンセリングルームの窓の外で話を盗み聞きしていた。その時は久坂と入江の関係について頭がいっぱいで、注意力は散漫になっていたかもしれない。
 その高杉の反応を楽しむようにまたあやかしは気味悪く笑った。
「お前、今、興味をもってる奴がいるとか言ったな!誰に頼まれた?!それはあやかしか?!そもそも、なんで協力なんてしてんだよ!」
 あやかしは基本的に単独行動だ。お互いに協力するとか、信頼するとか、とにかく共闘するということはあまり聞いたことがない。ただ、夏に出会った風のあやかしの一件は、その概念を覆した。何かの目的の為に、そこに何かメリットがありと思えば共闘しあうような関係が、あやかし達の中で起こっているということだった。
 だったら、このあやかしが協力したのも、そこに何かしらのメリットがあるということだ。
「あのお方ってばあのお方、幻妖さまですよ。なぜってね、幻妖さまが、黒い力をなんとかしてくださるっていうんでね、そりゃ、協力もしようというもの…」
「幻妖?黒い力…?どういうことだ?」
「あれが現れたらたまったもんじゃあ、ありませんもんでねぇ…。へぇ、へぇ、へ。喜んで、ご協力させていただいたまでですよ…」
「それが久坂に関係あるっていうのか?!…っ、この、詳しく話せ!!」
 高杉が詳しく聞こうと身を乗り出すと、逃げるようにあやかしは地面の中へと吸い込まれた。高杉は悔し紛れに消えていった地面を拳で殴りつける。
「幻妖だと?!」
 幻妖が久坂に興味を持っているのは知っている。黒い力というのは、学園祭の時にあらわれた力のことだろうか。幻妖が久坂をとらえることと、それは何か関係しているのか。それを解明するには、幻妖を捕まえて問いただすのが一番早い。
 高杉は怒りに力を爆発させる。周りの木々がその風圧に押されて放射状にしなった。
 自分自身に腹が立つ。なにより、こう何度も近づいているその気配に、自分が気がつけなかったことが腹立たしい。
 目の前で久坂を連れて行かれそうになった光景が浮かび上がってくる。失うかもしれないという危機感が再び襲ってきた。
 あの時、絶対にもう失いたくないと思い知ったはずなのに、自分は一体何をやっているのか。
 久坂の気配はまだある。そう遠くはない。
 それを確認すると、高杉は漆黒の夜空へと跳躍した。いつのまにか夜空には、黒々とした雨雲が立ちこめていた。

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DARK HALF第14話・2 
2008/04/25 /19:06
 高杉は一人例の雑木林に立っていた。先日ここを浄化したおかげで、この場所は清められ、高杉としても居心地の良い場所になっている。ここへ来たのは特に意味はなく、落ち着ける場所が欲しかったからだった。
 落ち着かないと、久坂に会えない。
 先程自分が言ってしまった言葉を頭の中で反芻する。どうしてあんな事を言ってしまったのか、自分でも信じられなかった。
 いつも大切にしてきた久坂に対して、初めて覚えた暴力的な感情だった。傷つけてしまうのはわかっていたのに、その結果をわかっていて、それでも言ってしまったあの言葉。もしかしたら、傷つけたかったのかもしれない。
 そうだとしたら、なぜ傷つけたいなんて思ったのか。
 それはわからなかった。
 ただ、無性に感情をぶつけたくなった。それが、押さえられなかった。
 傷ついて泣く姿は見たくないと思っているのに、自分の中でも矛盾している。その気持ちが整理つかないまま会っても、また傷つけてしまうのではないかと思えて怖かった。
 昔、クサカに自分の感情をぶつけたことがある。それは傷つけるとかそういったものではなかったが、クサカを困らせた。困らせることはわかっていたけど、正直にぶつけて、その反応を知りたいと思ってのことだった。でも、今回の事はそんな目的もない。困らせて、悲しませただけだ。
 悪いのは自分だとわかっているのに、それでも心の中で、心の中のどこかで、まだ久坂を責めている自分がいる。
 “どうして、自分のことは思い出してくれないのか”
 言っても仕方ないことなのに、やっぱりどこかでそれを求めていたのだと思う。それでも、自分の事だけでなく、他のことも全部覚えてないのなら仕方ないと思っていたのに、よりによって、自分ですら知らないことを、他の男のことを思い出した。そのことがどうしても心にひっかかって、いらいらしてしまうのだった。
「…ん…?」
 その時、何か小さな気配が動いたのに気が付く。辺りを見回しても何もいないが、確かに自分のすぐ側で動いたはずだった。
「なんだ、これは?」
 よく見ると、制服の袖の部分に何か草の種が付いている。今日このような種が付着してしまうような草むらに入った覚えがない。この雑木林にもこのような種の付く草は今の時期見あたらないはずだった。
 その種をつまんで捨てようとした時、何かに気が付いたように高杉が目を見開いた。
「…っ!!何者だ!!」
 まさに今捨てようとした種に向かって叫ぶ。小さな種が、まるで笑うように揺れると、自ら動いて高杉の手の中から離れた。
「このっ!爆砕!!」
 その種に向かって、力を放つ。小さな種はあっというまに粉々に燃え尽きた。
それと同時に、高杉の背後で声がする。
「やれやれ、やっと気が付いたわけですかね…。大きな力を秘めた潜竜…と聞いていましたがね、いやはや何とも…間が抜けているにも程がありますなぁ…」
「なんだと…っ?!」
 振り返ると、にたにたと笑いを浮かべる者がいる。頭と上半身は人間のような姿をとっているが、下半身は草が寄り集まって出来ていた。そして、その先は地面の中へとつながっている。
 あやかしだった。
「お前…っ、いつの間に…?!」
「ですからぁ…。間が抜けていると申しましたでしょう。もうずっと前からご一緒しておりましたのになぁ…」
 またにたにたと気味の悪い笑みを浮かべてあやかしが笑う。
「ずっと前…?」
 言われて考えてみるが、やはり覚えがない。覚えがないことではなるが、自分が不覚をとったことには違いなかった。高杉がぎりっと唇をかみしめる。
「まぁ、アタクシの役目は終わりましたからね、ここいらで退散させていただきますよ。この場所は清すぎて…どうも、アタクシには合いませんのでね」
 そう言いながら、ずるずるとその身体が地面の中へと潜っていく。
「待て、この…っ!!」
 高杉が右手を横になぎ払って、あやかしに向かって力を投げつける。それは刃物のように鋭く、あやかしの身体と地面をつないでいる草を(あるいはあやかしの下半身を)切り裂いた。
 目の前で切り離された上半身が力の供給を失ったためか、形が崩れ、消えていく。しかし、すぐに草の中からずるり、と上半身が姿を現した。
「へぇ、へぇ、へぇ、へ。こわい、こわい…。ちょんぎられるのは、こわい、こわい…」
 奇妙な笑い声をあげながら、あやかしが歌うようにつぶやく。それが馬鹿にされているようで、高杉は拳を握りしめた。


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DARK HALF第14話・1 
2008/04/24 /20:01
第14話

 久坂は今通ってきたばかりの道を、後ろも振り返らず駆けた。
 先程ここを通ったときは小走りだったが、今度は全力だった。走っているということは同じだが、状況は、心境は全然違う。
 
 さっきまでは、あんなに心が満たされていたのに。

 走りながら、じわりと涙が滲んでくる。あの場で涙が流れなかったのは自分でも不思議だった。あまりにショックで、涙腺も固まってしまっていたのかもしれなかった。

“俺とのこと…出会いも、思い出も…何も覚えてないくせに!!”

 高杉の絞り出すような叫び声が耳に残って離れない。そして、その言葉がまるでナイフのように心に突き刺さり、痛い。その言葉を思い出す度にそれは傷口をぎりぎりと広げているようで、じわりと心が血を流しているような感覚すら覚えている。
 
 そんなこと、言って欲しくなかった。
 少なくとも、高杉には絶対に言って欲しくなかった。

 走りながら久坂は制服の、胸の辺りをぎゅと掴んだ。それでも突き刺すような痛みは治まらない。
「うっ…、う…、う…」
 とうとう涙が出て、嗚咽が抑えられなくなる。久坂は足を止めて、道の端のブロック塀にどん、と背中を預けた。こらえきれない嗚咽をそれでも抑えようと、口元を手で覆ってうつむく。それでも気持ちは収まらなくて、久坂は肩を震わせた。
 思い出すことができれば、どんなにいいだろう。
 こんなに好きなのに、覚えていない昔だって、自分は高杉のことが本当に好きだったに違いないのに、どうして思い出せないんだろう。
 どんなにどんなに中を覗こうとしても、記憶の底は真っ暗だ。確かに「そこに自分は存在したはず」という過去の感覚はあるのに、「そこに自分がいた証」である記憶は何もなかった。入江のことを思い出したことで、より「そこに存在したはず」の感覚は強くなったのに、その他のことはどんなに思い出そうとしても思い出せない。それでも、きっと思い出していけると前向きに考えることができた矢先だったのだ。
 感覚のアンバランスさを再び自覚してしまうと、不安ばかりがどんどん大きくなる。その欠如したバランスを支えてくれる高杉にそれを拒絶されてしまったら、自分は一体何にすがればいいというのか。
 出会いも、思い出も自分が持っているのは“現在(いま)”だけだ。
 出会いは一年前だったし、思い出はこの一年間でたくさん作ってきた。でもそれだけじゃ、かつて自分が、“クサカ”が高杉と作ってきた思い出にはかなわない。かなうはずがない。
 自分が持っているのは“現在(いま)”だけなのに。

 高杉の心は離れてしまうのだろうか。
 離れて、しまうのだろうか。
 こんなことで。
 こんなに好きだと、大切だと思えたこの事が、悪い事だったのだろうか。
 思い出せなかったら、側にはいられないのだろうか。

「ふ…っ…、う、うう…」
 立っていられなくて、久坂はその場にしゃがみ込んだ。
 伏せていた顔を上げると、涙で濡れた頬にただ、冬の夜風が冷たく過ぎていった。
 
 ふと、前に何かがいる気配に気が付く。
 恐る恐る顔を上げると、そこには一人の男が立っていた。
 その男を見た途端、びくり、と身体がこわばる。
 その男は、“人”ではない。それが一目でわかった。
 妖力を押さえているだろうことはわかるのに、圧倒的な存在感。色黒の肌、鋭い眼光。
 “あやかし”だった。
 そのあやかしは、久坂と目が合うと、にやりと口の端をあげて笑う。久坂は金縛りにあったかのように視線を外すことができなかった。
「う…」
 すっと、あやかしの伸ばされた右人差し指が額に当たって、久坂は思わずうめく。でも、それだけで、声を出すことはできなかった。
「やっと会えたな。ずいぶんと探したぞ…?嬉しくて言葉もないか?え?“クサカ”」
 あやかしが笑う。
 久坂は身体の底から震えがわきがって来るのがわかった。
 このあやかしは、見たことがない。見たことがないが、わかる。自分はこのあやかしが何者であるか、わかっていた。
「げ、幻妖…!!」
 その言葉に、あやかしは愉快そうに笑った。


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インターバル・28 
2008/04/23 /21:03
13話が終了したので、インターバルです。

13話、これからどうなる?!というところで終わってますので、早めに14話はアップしていきたいと思ってますので、おまちくださいね!でも、書くの大変なんだよ…。娘を抱えているから、両手が使える時間が少なくて…。

14話は…そうですね、今までになかった組み合わせのバトルアクションがあるかもです。どっちかというと、それメインになりそう…。もちろんそれだけじゃないですけど、こんどの事件?も収束するのは15話くらいになる予定なので、できればどんどん続けて読んでいっちゃってください。すみませんねー…。BL小説なのに、なかなかHなシーンなくって…(泣)展開的に書く予定はあるんですが、なんせそこまでいくのが長い…。うちのお話をずっと読んでくださってる方はもうあきらめてるんじゃないかと思いますが(笑)、こういう感じで気長につきあっていただけるとうれしいです!

で、日記のほうでもちょっと書きましたが、今”自己満足的あほあほプロジェクト”(仮)みたいなものが始動中でして〜。片手しか使えない隙間時間をつかってちょこちょこやっております。それはいったいなんなの?!と思われるかもしれませんが、たぶん一部の方には喜んで頂けるのではないかと!一部の方にはあきれられるのではないかと!!しかも、あまりに大変なので、途中で挫折する可能性は大です☆っていうか、すでにやっぱやめようかな…なんて思ってる自分がいる…。あああ…。

昨日友人と小説について話をしまして、栄太を割と気に入ってくれてるという話をしました。「イイ奴だし、イイ男だ!」という評価だったので、嬉しいですvv
そろそろ登場させようと思ってますので、喜んで頂けるといいな!やっぱり、小説のどこの部分が気に入ったのかとか教えてもらえるとすっごくモチベーションあがって、うきうきします。拍手とか、ランキングもそうです。これがあるのとないのでは、書くという行為に費やす萌えのエネルギー供給量が違うんですよねぇ。がんばる素です〜。

では、あほあほプロジェクトの欠片をさら〜と見せつつ… また次回!!

↓※高杉です…(イラストのタッチは変えてあるので…)


ta3.jpg


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DARK HALF第13話・11 
2008/04/22 /16:33
「どうしてそんな、こそこそした真似するんだよ!俺、後でちゃんと話すって言ったじゃないか!なのに…!」
「お前だってそうじゃないか!昨日の時点でわかっていたんだろ?だったらなんで俺に言ってくれないんだよ!お前の方だってこそこそしてるじゃないか!俺に言えないような、やましい気持ちがあったからじゃないのか?!」
「やましい…って、なんだよそれ!!」
 初めて、お互いの視線がぶつかった。久坂も目をそらすまいと高杉をにらみつける。
「だってそうだろ?俺には言いたくなかったから、何も言わなかったんじゃないのか」
「そうじゃなくて…!どう…どう言えばいいかわからなかったから、だから…」
「そのまま言えばいいじゃないかっ!それを言えないっていうのは、つまり、俺に隠しておきたかったからだろ?!」
「違うっ!!」
「違わないっ!!」
 意見は平行線をたどった。しばらく何も言わずにらみ合う。
 口を開いたのは、高杉のほうだった。
「俺だって、信じてたよ。お前のこと…っ。“縛り”をかけた人物について、何も教えてくれなかった時から、ずっと気になっていたけど、でも、いつかは話してくれるって…。もし、もしもその人物のことが大切だとしても、でも、俺のことのほうがもっと大切だと思ってくれてるだろうって…!」
「思ってるよ!当たり前じゃないかっ!」
「嘘だ!だったら、だったらなんで、俺じゃないんだよ!!思い出したのが俺じゃなくてあいつの事なんだよっ!!」
「そ…っ!!そ…んなこと…っ…」
 そういう風に言われたら、久坂は返す言葉がない。久坂がどう思っていようと、高杉のことを思い出せないというのは事実だからだった。
 そんな久坂に高杉はたたみかけるように叫んだ。
「あいつより俺が大事だって、どうして今のお前に言い切れるんだよ!俺とのこと…出会いも、思い出も…何も覚えてないくせに!!」
「!!」
 その言葉に、久坂は激しくショックを受けた。ただ、呆然と立ちつくす。今にも涙が溢れそうに瞳が揺れた。その瞳を見て、高杉も少し我に返ったようだった。言い過ぎたと思ったのか、口元に手をあてて、明らかにうろたえている。
「そんな風に、思ってたの…。俺が何も、覚えてないから、今の俺の気持ちも信じられないって思ってたの…?俺のこと、信じられないのは、俺がお前のこと、覚えてないから…?思い出せないと、意味が…ないの…?」
「……言い過ぎた…。ごめん、俺…」
 久坂がいやいやをするように首を横にふった。
「記憶がなくったって…。以前と姿が違ったって…。それでもいいって…お前、言ってくれたじゃないか…。記憶、なくったって、変わらないって…」
「久坂、俺…」
「嘘つき!!」
 高杉が久坂の方へと伸ばした手を、久坂が振り払った。そして、そのまま家とは反対方向に走り出した。
「久坂!」
 高杉は追いかけようと一歩踏み出して足を止める。拳を握りしめて、唇をかみしめると、うつむいてそのまま立ちつくしていた。

 
第13話・了

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DARK HALF第13話・10 
2008/04/21 /17:36
 記憶を取り戻す、ということは必要なことなのはわかっていたが、怖いとも思っていた。自分が自分で無くなってしまうのではないかとも思っていたが、そんなことはなかった。過去の出来事は確かにあったことだけど、それでも今の自分が揺らぐことはない。過去の自分と今の自分の一部がしっかりとつながったようなそんな気もしてくる。それに、今まで全く何も思い出せなくて、このまま自分は何も思い出せないのではないかとも思っていただけに、このことがきっかけになっていろんなことを思い出していけそうな、そんな前向きな気分にもなれた。
 そうして、家の近くまで戻ってきた時、突然目の前に何かが久坂の行く手を遮るように降りてきた。
「?!」
 思わず身構えて、すぐに目を見開く。
「高杉…!」
 目の前に立っていたのは高杉だった。久坂はほっと胸をなで下ろした。
「驚いた…。でも、ちょうどよかった、俺、お前に話が…」
「ずいぶんと、嬉しそうだな」
 高杉は久坂を正面から見ないままぼそりとつぶやく。
「そりゃ…。…うん。嬉しいことがあったよ」
 どこから話そうかな、と思いながら、そんな言葉を口にする。
「そんなに、そんなに嬉しいのかよ」
「…?高杉、何か怒ってるのか…?」
 そこで久坂も高杉の様子に気が付く。自分と目を合わせないのは、いらいらしている証拠だった。
「お前こそ、何かあったの…?」
「あったもなにも…!おおありだよ!!」
 いきなり高杉が怒鳴るので、それには久坂も驚く。よく見れば、高杉の握られた拳は震えていた。
「あったって…何が…」
「なんでだよ!なんで、そんなにあんな奴のことが嬉しいんだよ!なんで、あんな奴、今さら…!!」
 言われた内容にさらに驚く。
「あんな奴って、入江先生のこと?だったらそれは…」
「俺は認めないからな!お前の…クサカの“縛り”があんな奴への思いのためだったなんて、そんなことっ!」
「…!高杉…お前、どうして…なんで、そんなこと知ってるんだよ。俺、何も言ってないのに…」
「………」
 高杉はやはり目を合わせないようにして答えない。
「まさか…。お前、聞いて…た?あの時一瞬した気配って、まさか…」
 久坂はカウンセリングルームで一瞬感じた気配を思い出した。あれが高杉だったのだろうか。一瞬気配を感じたのは、今までそこにいたものが、離れる際に力を使ったからかもしれない。
 だとしたら、どうして、そんなことを。
「窓のところにいたのは…お前だったの?そんなとこで…何を…していたんだよ」
「………」
 高杉は答えない。
「答えないのは、肯定ってこと?俺たちの会話…盗み聞きしてたってことなのか?」
 それでも答えない高杉の態度に、久坂は怒りと失望と、そして悲しみを覚えた。


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DARK HALF第13話・9 
2008/04/20 /19:25
「……?」
 窓に顔を近づけて外をよく眺めてみるが、特になんの異常も見あたらない。
「どうしたの」
「いや…、ちょっと、何か気配を感じて…。でも、気のせいみたいです」
 首をかしげながら久坂が入江の方へと近づく。
「そういえば…。僕は君に是非聞いてみたいことがあったんだけど」
「なんですか?」
「君を満たしてくれる者は、現れたのかな?」
「え…」
 言われてみれば、それが2人の最後の願いだったのだ。男は、自分に全てを満たしてくれる者が現れることを願い、自分はその願いが叶うことを祈った。思い出そうとしても、夢で見たあの場面、自分が池に仏像を沈めてから後の記憶はまだ蘇らない。だから、はっきりとはわからなかった。
 話に聞いていたクサカは、人を喰らう事はなかったと言っていた。そんなことをしなくても生きて行けたのは、力をわけてもらっていたからだと、教えてもらった。それでも他の妖から奪う力では満たすことはできないとも。それができるのは、高杉だけだった。だから、一緒にいた、と…。
 そこで、はっと気が付く。
 満たすことができるのは、高杉だけだったのだ。
 高杉と出会ってから、奪うことも喰らうことも考えなくて良くなった。
 そうならば、高杉が自分にとっての“全てを満たす者”ということになるのではないか。
「出会った…かもしれない…。ううん、出会ってます。…うん、それしか考えられない。俺、ずっと信じて待っていて、それで、俺の前に現れてくれました。間違いないよ」
 久坂は嬉しくなって、思わずぱちんと両手を合わせた。その様子に、入江も嬉しそうな表情になる。
「じゃあ、願いは叶ったってことなのかな。僕の願掛けも無駄じゃなかったんだ」
「はい!詳しいことはわからないけど…。でも、俺にとってそういう人物は、一人しかいないんです。だから、きっと、そうに違いないんです」
 久坂も赤くなりながらも嬉しそうに続ける。
 なんだか、今すぐに高杉に会って抱きしめたい気分だった。自分と入江の悲しい別れの先に2人で願ったその願いが確かに叶って、そしてそれが今一番大切な高杉という形で自分の側にいてくれる、それが事実なら、なんてすばらしいことなんだろうと思う。是非そうであって欲しかった。
 今日のことを高杉に伝えたら、どういう反応をするか、楽しみになってきた。驚くだろうと思う。でも、喜んでくれるのではないかと思った。





「高杉はもう帰っちゃってるだろうな…」
 すっかり暗くなってしまった学校を入江と一緒に校門を出る。辺りを見回したが、高杉は見あたらなかった。
「遅くなっちゃいましたからね。彼にも後で謝っておかないといけないかな」
「別に、先生が謝らなくても…」
「だって、ものすごく心配性みたいですからね」
 そういいながら笑う。まあ、確かに、先ほどの教室での高杉の睨み様は尋常ではなかったので、そう言えるかもしれない。
「事情を説明したら、あいつだってわかると思うから…。先生、今日はありがとうございました」
「こちらこそ、遅くまでごめんね」
 入江とはそこで別れて、久坂は小走りで家に向かった。ここのところずっと抱えていた不安がなくなり、すがすがしいくらいの気分だった。そして、記憶に蘇った、ずっと大切に胸の奥にしまっていたその人がもう近くにいるということに心強さも感じていた。

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DARK HALF第13話・8 
2008/04/19 /21:04
「元の巻物は、有為巻(ういかん)と言って、僕が肌身離さず持っています。これがあるから、たぶん僕は邪の影響を受けないのだと思います。護布とこの巻物は同質の物ですが、力は全くといっていいほど大きさが違います。この巻物をそうそう使えないから、このように小さな布に経文を写して使用しているわけです。これなら、使い捨てで使うことができるし、念ずるのに使う力も生命を脅かす程じゃないですからね」
「と…いうと…?有為巻のほうを使うとどうなるんですか?」
「この簡易護布よりはるかに大きな力を出すことができます。できますが、その力を限界まで使うと…僕の命はないでしょうね。加減が難しいところです」
「命と、ひきかえ…」
「実際、祖父はこれで命を落としましたから」
 さらっと言ってのけるので驚く。
「おじいさん、が…?」
「襲われた僕たちを助けようと、これを使ったんでしょうね。そのおかげで今僕はあるわけです」
 入江は少し遠くを見るように、視線をはずした。
 平気な様子で話してはいるが、自分のために命を落としたなんて、心の傷になったに違いないと久坂は思った。そんな祖父にむくいるために、入江は力をつけようとがんばってきたのだろうか。
 その原因を作ったのは、幼い入江を襲ったという、あやかしなんだろう。自分もあやかしであったということを思い出して、久坂は胸が痛んだ。
「だから…先生は、俺たちに“人に危害を加えないなら何もしない”って言ったんですか」
「まあ、君たちが邪と一緒のようには思えなかったし…。むやみに僕も戦おうとは思いません。恥ずかしながら、そんなに強くないですしね。ただ、自分が今ここにいるのに、そういう物達に人を殺されたくないんですよ。自分が出来る、出来る限りのことをしたいと思ってます。そうしなければ、いけないんだ、僕は。どういうわけだか、こういう力をさずかったのだから」
「おじいさんのためにも…ですか?」
「そうだね。それと…一緒にいて、助けられなかった妹のためかな」
「妹さん?」
「うん」
 それ以上何も言わず、入江は目を伏せた。
「…………」
 久坂も何も言うことはできなかった。
 先ほど入江は「襲われた僕たち」という言い方をしたのを思い出したのだ。襲われた兄妹、それを助けるために命を落とした祖父、そして助かったのは兄一人。
 一度に祖父、妹を失った悲しみは到底自分にはわからないくらい深いのだろうと思う。
 ただ、思いはわかると思った。その思いは、たぶんずっと昔から思っている物だった。
 自分は力はあるとはいっても、奪うことしかできない。何かを助けたり、癒すことはできなかった。だから、そんな自分が嫌だった。今自分に力があるのなら、それを違う形で使いたいと思っていた。そんな思いから、あやかしとしての力を妖へと変えていったのだろう。根本的にはやはり奪うことしかできなくても、護りたいものを護れる力に変えていく。それをずっと心の中に描いていた。だから、属性に関係なくすべてを癒す力を持つ高杉がうらやましくて、まぶしかった。そう、自分はそう思っていた。
「僕の話はざっとこんな感じです。もっと詳しく話そうとしたら、時間が足りないね。気が付いたらこんな時間だし」
 入江が腕時計を指さして、久坂に見せて笑う。時計はもう7時前を指していた。
「も、もうこんな時間なんですね、あっという間だったな…」
 そういえば外も真っ暗だった。そう言って、窓に近寄ると、ふっと何か気配が動いたような気がした。

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インターバル・27 
2008/04/18 /22:50
やばいなぁ…。
小説のアップの区切りがキリ悪いです。いや、これから先が。どんなところで切るか、悩みます…。もやもやしてるから、一気にアップしてしまえ!!とか思ってしまったりしますが、それはそれで無謀すぎるし…。むーん。

ってんわけで、インタバってみました。
日記の方につぶやいてもよかったのですが、まあ、こっちのが慣れてるしね。

実は、明日19日が誕生日です。いやもう、嬉しくもなんともないんですけどね…。この年になると…。でもま、一応生まれた日ですね。私は常々「24歳を過ぎたら後は惰性で生きているだけだ」とか意味不明なことを言っていたのですが、そうなんですよね…。24なんて、とっくにすぎたし…。24までに何もできなかった自分がここにいるわけで…。24で私の今までの人生の何倍も濃い人生を送った彼を研究する身としては、やっぱり自分の無力さを思い知るわけで…。誕生日は毎回そんなことを考えてしまいます。←やっぱり意味不明(笑)

さて、お話の方ですが。ちょっとある意味新展開かも?ってとこです。実は書いていて楽しいです(笑)でもやっぱり13話に収まらなくて、事件は14話に持ち越しになりそうだし…。ああもう、ただでさえ長編なのに!で、少しは色っぽい?シーンも入れたいなぁ、なんてたくらんだりしてますが(いい加減そういうシーンがなさすぎですね、うちの小説…)、どこで入れるかは謎。今考えている設定を自分がちゃんと書けるかどうかも謎。くじけてしまってとってもライトなことになったらごめん。

ってなわけで、早くお話を先にすすめたいぞー!更新したいぞー!

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DARK HALF第13話・7 
2008/04/18 /17:24
「…落ち着いた?」
「…はい。ありがとうございました」
 笑って返す余裕も、やっと生まれていた。
「じゃあ、先生のこと、教えてくれますか。昨日聞けなかった、先生自身のこと。どうして、人間なのに…あんな力を持ってるんですか」
 入江は少しの間口元に拳をあてて考え込んだ。どういう風に話そうかと思案しているようだった。
「そうだな…。僕は幼い頃に、正体不明のものに襲われてね。幸いにも一命をとりとめたんだけど、その後からかな…。他の人には感じられない、見えないような“違和感”を感じられるようになったんだよ。こうして前世の記憶、というものが自分の中にあると漠然と気が付いたのもそのころだったと思う。それから…。僕は、そういった正体不明のものから周りの人を守れるだけ守ろうと思って、力をつけるようにがんばったんです」
「でも、がんばったからといってつけられる力でもないでしょう。その正体不明のものってなんだったんですか?」
「それははっきりとはわからない。そういったものを邪、と言っていたけど、でも、君の話を聞く限り、その“あやかし”の可能性はありますね。実際昨日は僕の力も多少効いたようだし。僕が身につけた力は、精神力だけですよ。君たちのような力はありません。僕の力を引き出しているのはこれです」
 そういって、入江はポケットから折りたたまれた布のようなものを取り出した。
「これは?」
「護布、といいます。僕のうちに古くから伝わってきたもので…。ああ、僕のうちは寺なんですけどね。ぼろいけど、歴史だけは古いんだよね。もともとは祖父が持っていたものなんですが、僕が譲り受けました。これに念を込めて投げつける、そのくらいしか僕はできないんですが、追い払うことくらいはできるんです」
「護布…」
 それを手に取ろうとして久坂は躊躇した。これは人間が“邪”と定義したおそらくはあやかしに対するものなのだろう。そんなものを自分がさわってしまっても大丈夫なんだろうか?
 そう思って固まってしまっている久坂に入江は笑って言う。
「それは念を込めないとまったくただの布ですからさわっても大丈夫ですよ。それに、君ほど力が強いなら、これくらいじゃあ影響はほとんどないだろうし」
「そ、そうでしょうか…」
 おそるおそる、手にとって広げてみる。入江が言うとおり、特に何がおきることもない。よく見ると、その布は思ったより新しいものだった。その裏面にびっしりとなにやら筆で文字らしきものが書き込まれている。
「これ、何が書いてあるんですか?」
「それこそが、邪よけの力を発揮するものです。邪を追い払うありがたい経文が書いてあるんですよ」
 そういいながら入江が軽く合掌している。
「じゃあこれ、先生読めるんですか?」
 あやかしを追い払う力のある経文、と聞いて興味新々に久坂が尋ねる。
「いえ、まったく。さっぱり読めません」
「ええー?!」
 意外な答えに驚く。
「恥ずかしながらそんな修行はしてないもので。僕はただ、その元になっている巻物から、護布となる祈祷した布にそのまま書き写しているだけですから。…いやあ、なんて書いてあるんだろうねぇ。気になったことはあったけど、まあ読めなくても影響なかったからねぇ」
 そんなことを言いながら入江は腕を組んでうんうんと頷いている。
「い、意外といいかげんなんですね…?」
「はい。影響ないですから」
 その笑顔に久坂も調子が狂う。

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DARK HALF第13話・6 
2008/04/17 /18:10
「国語研究室は…また他の先生が来たら話ができないから、どこか違うところにしましょうか。君も、あまり人に聞かれたくないでしょう?」
「そうですね、でも、どこがいいですかね…」
 そういいながら2人は校舎を歩いている。外に出るという選択肢もあったが、まだ1月の季節は外で話すのには向いていない。かといって、街に出るには遠すぎるし、この話は回りに人がいる状況ではちょっと久坂も気持ち的に落ち着かなかった。
「ああ、カウンセリングルームが空いてますね。あそこなら、我々が入っていてもおかしくないし、じゃまもされないでしょう」
 そういって、入江が指を指す。確かに、カウンセリングルームは普段は誰も使っていなし、そもそも進路指導などに使われる部屋なので、先生と生徒が入って話し込んでいても誰も不審には思わないだろう。他に候補もなかったので、そこで話をすることになった。
「さて…と。僕も君に聞きたいことはたくさんあるけど…。僕のことから話した方がいいのかな?」
 カウンセリングルームに備え付けてある小さな机に2人で向き合うようにすわると、入江が口を開いた。
 久坂は少し考えてからまっすぐ入江を見つめて告げる。
「先生のこともききたいけど…。でも、まずは俺の話を聞いてくれますか」
「うん。いいよ」
 入江はやんわりと微笑んだ。その微笑みに、久坂も少し緊張を解く。そして、これまでのことを話し始めた。
 春からの事件のこと、高杉のこと、自分自身の力のこと、そして、肝心の記憶がないこと…。その話を入江は口を挟むではなく、静かに頷きながら聞いてくれていた。
「これまでいろんなことがあったけど…でも、はっきりと記憶が戻ることはなかったんです。でも、昨日…。先生と話をしたら突然、本当に突然…昔のこと、思い出して…。こんなこと初めてなんです。それに、それに…」
 久坂は言葉をつまらせる。
「もう、二度と会えないと思ってたから、でもずっと会いたかったから…」
 そういうと、また胸が詰まった。一呼吸置いてから続ける。
「先生は、あの時の、あの、“男”ですか」
 まっすぐ自分を見つめて問いかける久坂に、入江はゆっくりと口を開く。
「君は、あの時の“化け物”なのかい?」
 お互いにしばらく瞳を見つめ合った。
 確かに姿は変わってしまっている。入江の記憶の中にある“化け物”は、“クサカ”の姿だったし、久坂の記憶の中にある“男”は、今の入江よりもう少し年齢も上だった。それでも、見つめ合ったお互いはそんなこと関係なく、納得した。
 お互いは、確かにあの時死に別れた2人なのだと。
 普通なら、もう二度と会うこともない2人なのだと。

「そっか…やっぱり、そうだったんだ…」
 久坂が緊張の糸が切れたように肩の力を抜いた。これが、自分の中にある力が訴えかけていたことだったのだ。間違いはなかった。
「僕も…驚いたよ。まさか、自分の前世の記憶に関係のある人間がいるなんて、思いもしなかったし…。ましてや、君は人間じゃないしね。もう一度君に会うことがあるなんて可能性は考えたことがなかったよ。ただ…。会いたいとは、思っていましたけどね」
「…本当に?」
「うん」
「本当に本当に、また会いたいと思っていてくれたんですか?」
「うん。ずっとそう思ってたよ。あんな別れ方をしたし、あの後君がどうなったのか…すごく、心残りでしたから」
 会いたいと思っていたのが自分だけじゃなくて、久坂は嬉しくなる。蘇った記憶はほんの一部で、その後自分がどう思っていたかははっきりと思い出せないが、きっと何百年も胸に秘めてきたのだろうと思う。
「先生…。手にふれても、いいですか」
 入江はそっと右手を差し出した。その手を久坂は両手で包む。
 暖かかった。最後に触れた記憶は、冷たい手だった。生命の営みが消えていく、そんな冷たい手の記憶だった。今は暖かい。生きているんだと実感できる。そうして久坂はしばらく目を閉じてその感覚を味わった。

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DARK HALF第13話・5 
2008/04/15 /20:08
 幸か不幸か、この日入江が担当する授業がなかった。だから、教室で顔を合わすこともなかった。そのおかげなのか、昨日よりは随分と気持ちが落ち着いたような気が久坂はしていた。昨日の状態で授業で顔を合わせたとしても気になって授業どころではなかったに違いない。
 この後特になにも予定がない久坂はこのまま入江に会いに行こうと思い、荷物をまとめているところに、高杉が近づいてきた。
「今日…これからどうする?」
「えっと…俺は、入江先生のとこにまた行ってみようと思ってるんだけど…」
「…そっか。じゃあ俺も行くよ」
「いや、あの…。一人で行きたいんだ。…だめかな?」
 高杉は久坂がそう答えることを予想していたのか、あまり驚かないようだった。そして、おもしろくなさそうな顔をする。
「別にいいけど。お前がそういうなら…。でも…」
「な、何?」
「なんか、心配なんだよ」
「心配って…何が。別に危険なこととか、そういったことはないと思うんだけ…」
「そいうことじゃなくてさ」
 そういって高杉はどう言おうかというように視線をあちらこちらに巡らせている。そして、久坂に手を伸ばして、躊躇してやめた。久坂に視線を合わさないまま教室の窓の方へ顔を向ける。
「なんか…。昨日のお前の感じがさ、昔…の様子に似てたから」
「昔の…って?」
「以前、一緒に居たときもクサカはたまに俺に行き先も告げずにどこかに行くことがあったんだよ。別に気にしないようにしていたけどさ。一度だけ問いつめたことがあって…。その時の感じにね」
「ど、どういう感じなんだよ?」
 クサカのことを言われてどきりとする。昔も何か高杉に隠し事をしていたのだろうか。意外にも思ったが、今の自分の状況を考えたらそういうこともあるのかもしれないと妙に納得する部分もあった。
「明確な理由は返さないのに、言い切るとこ」
「………」
 久坂がそれについて何も答えられずにいると、高杉は少し悲しそうな顔をしたように見えた。
「結局それがなんだったのか、俺はわからずじまいだったんだけど…。気になっていたから今になって思い出したのかな」
 その表情を見ていると、黙っているのが申し訳なくなる。そんなに不安にさせるのなら、言ってしまっても構わないのではないかと思った。
「高杉、俺…」
「久坂くん、いるかな?」
 久坂が言い出そうとしたとき、教室の入り口で声がする。それは入江の声だった。
「えっ、は、はい!」
 入江の方から来るとは思っていなかったので驚いて大きな声で返事してしまう。急いで駆け寄った。高杉も後に続く。
「ちょっといいかな?」
「俺も、ちょうど先生の所に行こうと思ってたから…」
 そういいながら高杉の方を振り返ると、高杉は鋭い目で入江をにらんでいる。
「あの、ね…高杉?」
「高杉くん、だったかな。ちょっと久坂くんを借りますよ。そんな怖い目でにらまなくても、別に獲って喰ったりしたりしませんから」
「あったりまえだ!そんなことしたら、ぶっ…」
 殺す、と続けようとして高杉は慌てて口をつぐんだ。他の生徒が何事かとこちらを見ているのに気が付いたのだった。その判断に久坂もほっと胸をなで下ろした。さすがにそんなことは穏やかではない。
「えっと、じゃあ高杉…あとでね」
「うん…」
 しぶしぶ、といった表情で高杉がうなづく。それがすねた子供のようで、久坂は後でちゃんと話そうと改めて心の中で思った。

 久坂が入江と一緒に去っていく後ろ姿を高杉が見送っていると、クラスメイトの品川がよってくる。
「何?お前、大事なお姫様をオカルト先生に取られちゃったんだ?」
「あのな…」
 いつものようにからかいに出る品川に何か言おうと思ったが、それも疲れる気がしてやめる。
 当たらずとも遠からず、といったところだった。
 もともと久坂が気になる人物、といっていたのだから、それを調べてみると言った久坂を信じているし、別に危険があるとは自分だって思っていない。それでも気分が落ち着かないのは、久坂の様子がなんだか少し変わった気がするからなのかもしれなかった。どこがどのように、とはっきり言えるものではなかったが、そのことで自分はなんだか落ち着かない気分になっている。
 それを、品川が言うように「取られた」という風に言えなくもないような気がするのだ。
 なんというか、久坂の心の中を今あの入江という人物が占めているのではないかと言ったような不安がある。少なくとも、昨日のあの事件以降、なんだか自分の存在が久坂の中で少し小さくなってしまったような、そんな事を感じていた。それはべつに嫌われたとかそういったことではないのだが、二の次になっているというか、一番ではないというか、そんなことまで頭の中に浮かんできている。
 「取られた」というより、「取られそうな」そんな不安だった。
 久坂を、信じてはいるけど。
「おい?何考え込んでんだ?」
 難しい顔をして黙ったまま微動だにしない高杉に、品川も不審に思って声をかける。
「俺…やっぱ、行くわ」
「ど、どこへ?」
「姫の警護!」
「はあ?」
 冗談なのか本気なのかよくわからない返し方をされて眉をしかめた品川を置いて、高杉は駈けだしていた。

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DARK HALF第13話・4 
2008/04/14 /20:17

 どこかで見たような、そんな懐かしい気さえおこる風景の中に、自分が立っていた。
 木で作られた何かを両手で大事そうに抱いている。
 しばらく坂道を登ると、視界が開けた。目の前には透き通るような涼しげな水をたたえるそう大きくはない池。周りは高い杉の木に覆われてまるで自分を見下ろしているようだった。
 そのまま一際高く伸びた杉の木の根本に近づくと、そこにひざまずく。そして、地面をそっとなでた。
 どうしてそんなことをしたのか、自分にはわかっていた。
 ここに、大事な人を埋めた。
 人間の身体は土に帰り、自然にもどる。その魂は天に昇るとも言われていたから、この高い木の根本ならば、魂はこの木を伝って間違いなく天に昇れるのではないかとそんなことを考えてここに埋めたのだ。
 あれから何年もたつ。ここに来ることを一日も欠かしたことはなかった。
「お若いの、熱心によく来るね。何か理由があるのかね」
 そんな自分に話しかける者がいる。ただ、その者は人ではなかった。
「ここに大事な人が埋まっているからだよ」
 そう答えた。
「人を埋めた…。ああ、そういえばそんなこともあったかね。どうも最近忘れっぽくってね。お前さんにももしかしたら会ったのは初めてじゃないのかな?」
「そうだね。もう何回この会話を交わしたかな?」
 笑いながら答える。声の主はこの杉の木だ。
「そういえばそうかね。どうも最近忘れっぽくってね」
 杉の木はそう繰り返した。
「それじゃあまたね」
 そう言って立ち去ろうとするのをまた呼び止められる。
「今日も池を見ていくのかかい?」
「そうだよ。それは覚えているんだ?」
「今思い出したんだよ。そんなにあの池が好きなのかい?」
「見ていると心が落ち着いて癒されるからね」
「それはそうだよ。あの池はただの池じゃない。神様がつくった池だからね。決して枯れることはないんだよ。皆癒されるし、願いも叶えてくれるんだよ。そりゃあ、大切な池なんだよ」
 ゆっくりと池の方を振り返る。水面は陽の光を受けてきらきらと輝いていた。
「じゃあ、俺の願いも叶えてくれるかな。決して枯れないこの水に、想いを託すことができれば、いつか願いが叶うかな」
 そうつぶやく。杉の木は、それがいいそれがいいと笑っていた。
 
 そうして、大事に持っていたものを、そっとその湧水に投げ入れた。
 想いを込めて、目を閉じた。
 このすべての人を癒し、喉の渇きを癒す水のように、こんな心も、力も飢えきった自分を満たしてくれる者が現れるようにと願いを込めた。
 頭の中に、死んでしまった男の声が響く。


―もう、人を喰らうな。もっと別の方法で生きていくんだ。きっと、そんなお前の全てを満たしてくれるものが、現れるから、だから、もう苦しむな…―


 それが叶えば本当に、自分は苦しまなくてすむのだろうか。そんな者が現れたら、もう悲しい思いをしなくてもいいのだろうか。

 そうして、その池の畔にずっとたたずんでいた。



「………っ…」
 がばっと、勢いよく久坂は身体を起こした。
 目をこすって、辺りを見回す。ぼーっとした視界の中に見えるのは、いつもの自分の部屋だった。
 ほっとため息をつく。どうやら、夢を見ていたらしい。
「やけに…リアルな夢だったな…」
 夢の一部始終が、鮮明に思い出される。夢というよりも、自分の記憶の中にあるものを覗いたような感じだった。
「これも…記憶なのかな。」
 ベッドに起きあがった姿勢のまま、しばらく考え込む。
 あれがもしクサカだとしたら、埋めた大事な人というのは、あの男の事だろう。記憶をたどってみると、昨日よりも少し思い出せたことがあった。
 男は、仏師だった。100体の仏像を彫ることで願をかけていた。自分は、それが終わったらその男を喰らってやろうと思って近づいた。でも、できなかった。
 その男は人間と交わることなく、感情も乏しかった自分にいろんなことを教えてくれた。
 いつしか、一緒にいたいと思うようになった自分がいた。
 人間を喰らって力を得る自分の在りように疑問を持ち、悩むようになった。
 でも、一緒にはいられなかった。
 男は“すべてを満たす者”が現れることを願ってくれてた。だから、その願いが叶うことを願って、男が自分のために作ってくれた仏像をを池に沈めた。
 先ほどの夢で水の中に沈めたものは、その仏像だったに違いない。
 願いは、叶ったのだろうか。

「入江先生が…その人物の生まれ変わりで、そのことを覚えているとしたら、何かわかるんだろうか…」
 久坂は自分の服の胸元をぎゅっと掴んだ。
 唐突に記憶を思い出したときの胸が締め付けられるような切なさを思い出した。だから、確かめたかった。

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インターバル・26 
2008/04/14 /14:49
こんにちは〜。毎回出だしが同じような、恒例のインターバルです。

13話、始めることが出来ました!久坂の記憶も戻ってきて、お話が新たな展開になってきた〜ってとこです。でもまだまだ終わらないんですよ。
でも最近…。新たに出したいキャラがいるんですが(友人からの猛烈なリクエストもあり)、どうもこのお話の結末までに出す機会がない…。出すとしたら、新しいシリーズのようになってしまうので、もしかしたらひょっとして、この『DARK HALF』が終わった後に『DARK HALF 2』みたいな感じになったら出るかもよ、と言ったらそうしてほしいとのことだったので…。そうなったら、まだまだ続くのか?!『DARK HALF』!(笑)長すぎるかも〜!!

最近ちょっとしたつぶやきは「雨振舘つれづれ日記」のほうでつぶやいてます。たまにイラストも載せていたり。お暇な方は見てみてクダサイ。

そうそう…。本当に、同人誌を作れたりするようになったら、出るとしたら大阪!インテでますよ!!もう、参加するために本を出す感じです。夏あたり、どうよ?!スーパーどうよ?とか思ったのですが、本が間に合いそうにないですねぇ…。でもイベント参加して、他のオリジナルの方の本とか見てみたいし、他のジャンルも回りたいし…。本当は東京行きたいけど、大阪なら実家に子供を預けることができるから〜。うーん、イベント参加企画はやっぱり先の話かなぁ…。しょんぼり。一緒に参加する友人もおらんしね…。しょぼーん…。

それはさておき、小説も書いてますが、イラストも新たにちょこちょこと。今度はからみではなく(笑)ちょっと真面目?というか、ジャンプみたいな感じ?出来上がったらこっちに載せるかどうかは別として…。とにかく、細切れ時間にイラストを描いているのを楽しんでる感じです。

最近やっと他のブログさまにもおじゃましはじめました〜。思わずメール送ったり、コメントつけたりしちゃってますので、今までより活動的かな〜??基本恥ずかしがり屋なので、なかなかメールとかできないんですが、最近は思い切って!うふふ。万が一、出没されてしまったかた、いらっしゃいましたら温かい目で見守ってやってください…。

最後になりましたが、拍手、コメント、メールありがとうございました!ああ、お返事する先がわかっていたら直接お返事したいです!長い話なので、なかなか感想…というのも難しいと思うので、少しでももらえるだけで舞い上がってます。
これからもお話を楽しんで頂けるとうれしいです!拍手コメントとかも速攻目を通してますので、またクダサイ!!


それでは13話、がんがんいくぞー!!←気合いだけは十分。

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DARK HALF第13話・3 
2008/04/13 /18:16
「あの生徒はどうするつもりだったんだろう…」
「そりゃ、捨て駒だろう。たぶん、たまたまシンクロしやすい人間だったんじゃないかな。でも、それが俺たちに倒されてしまったところで幻妖は痛くもかゆくもないし。だから、本気で襲ってきたんじゃないんじゃないかって思えるんだよ」
「そんな…」
 久坂が絶句する。あの時入江に止めてもらわなかったら、自分は無関係な人間を殺してしまうところだったかもしれない。あれは人間だ、と指摘されるまで自分の身を守ることに必死でそんなことには考えがいかなかったことは事実だった。そのことに衝撃を受ける。
「私もあれから幻妖については調べているのだが…。奴が姿を現し始めたのは、およそ100年ほど前からのようだ…。ただ、何か大きな事件を起こしたというのは聞いてはいないし、私も幻妖ほどの大きな力がいきなり現れれば感じもするが、そういったものは感じたことがない。もしかしたら、奴はこの100年近く力を回復させていたんじゃないかと思うんだ」
「回復?じゃあ、力を失っていたっていうこと?」
 桂は2人を交互に見て目を閉じて、これは推測だが、と前置きした。
「幻妖は長く封印されたような状態にあったのではないかと思うのだ。それが解かれた…。それが、100年ほど前のこと。それから我々に動きを気づかれないように水面下で力を集めていた、と…。そう考えると…」
 閉じていた目を開けて、ちらりと久坂を見た。
「その鍵は、久坂が握っているように考えられるのだよ」
「お、俺が?」
「正確に言えば、過去の君、だが…。仮に幻妖とクサカに関係があったとして…。それが、クサカが幻妖を封印したと仮定しよう。そして、クサカが突然消えたのが100年ほど前…。だから、幻妖の封印が解かれたのがクサカがいなくなってしまったからだ、ということが考えられる。まあ、確かなことは何一つわかってないのだけれどもね」
「なるほどね…」
 高杉も横で頷く。確かに、その可能性はあるのではないかと思ったが、当の本人である久坂にも記憶がないだけにわからない。それに久坂自身はまだ幻妖と直接会っていないため、実感も涌きにくかった。
「じゃあ…。封印を解かれてからクサカの…力の欠片を手に入れて、それであの木偶のクサカを作ったってことなのかな…?でも、何のために、そんなこと…?」
 久坂はあの洞窟で木偶のクサカと対峙した時のことを思い出すが、特に作られた目的については言っていなかったように思う。ただ、足りない力を集めて“真のクサカ”になる…ということは言っていた。それなら、幻妖の目的は、あの木偶のクサカを本物にすることだったのだろうか?
「結局わからないことだらけだな…」
 高杉も横でため息をつく。久坂もそれに同調するようにため息をついた。
「ところで…。今回久坂が気になっていたという例の人間については何かわかったのかい?」
「あ…」
 いきなり話を振られて、久坂がうろたえる。それを黙って高杉が見つめていた。
「先ほど受けた報告の通りだと、幻妖の空間に出入りできたり、あやかしに多少なりともダメージを与える力を持っているということじゃないか。もしや、人間ではないものだったり…」
「先生は…彼は、人間だよ」
「…?」
 桂の言葉を遮るように、久坂が言い切る。その口調の強さに、高杉も驚いたようだった。
「あ、あの…、不思議な力を持っていることは確かだけど、でも、あの人は人間なんだ。俺のようにもとがあやかしだとか、妖だとか…そういうこともないし、あやかしに操られているとか、そういったこともないよ」
「どうしてそう言い切れる?」
「少し…話をしたし…。く、詳しい話はちょっと出来なくて、どうしてそんな力があるかとかそういった事はわからないけど…」
「でも、ただの人間なんだったら、どうしてお前はあんなに気になっていたんだよ?俺だって、初めはただの人間以外には考えられなかったけど、現にああして何か力を持ってるみたいだし、お前だって何かあるって思っていたんだろ?それを…」
「先生が、先生は…人間だから…。だから、俺は…。とにかく、先生は敵とか、そんなんじゃないんだよ。だから、あやしいとか、そんなことなくて…」
 今まで黙っていた高杉が口を挟む。それにうまく答えられなくて、久坂は口籠もった。
「……何か、そう言いきれる事があるのかい?」
 桂もそんな久坂の様子に何かを感じたのか、静かに聞いてくる。久坂は少し息をついてからまっすぐ桂を見つめた。
 わかっていたことだったけど、やはり自分はうまく隠し事が出来ないらしい。でも、説明することはもっと出来ないような気がした。
「俺の、勘だけだよ。今はそれだけだけど、俺はそう思ってる」
 それだけ、また言い切る。
 少しの間、桂は思案しているようだった。そして、まるで久坂の心の奥底を見通しているかのようにじっと久坂を見つめると、表情を緩めた。
「まあ…、君がそこまで言うならね…。ただ、それだけじゃ我々もわからないから、何かわかったら…また教えて欲しい。何かを思い出しても…ね」
「えっ…」
 最後に付け加えられた言葉にどきりとする。しかしそれ以上桂は何かを言うことはなかった。
 今のやりとりで、高杉はあまり納得できないようで何か言いたそうだったが、結局何も言わないままだった。


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DARK HALF第13話・2 
2008/04/13 /00:07
 記憶が一部であれ、戻ったと言うことを告げたら、高杉は喜ぶだろう。でも今思い出した記憶の中に、高杉の姿はなかった。つまり、自分はまだ高杉のことは何も思い出せてないのだ。しかも、あの縛りを受けたという出来事について、かつての自分は高杉に詳しいことを何一つ話していない。それがどうしてなのかはわからなかったが、このことは、高杉ですら知らないことなのだ。
 さっき飛び出してきてしまったせいで、確かに自分は思い出したと思ったが、あやふやなところも多いせいで、それが本当のことなのか、本当に、入江がその人物なのか、自分で納得したわけでもない。高杉にうまく説明する自信もなかった。
 今はまだ何も言えない、と思った。
「自分で…ちゃんと確かめてから、話さないと…」
 そう決めると、震える足を叱咤して久坂はまずは顔を洗いに水道のあるところへと向かった。こんな酷い顔のまま会えば、きっと何かあったと悟られてしまう。そうなったら、うまくごまかすことはできないに違いなかった。



「つまり、気配だけは現れたが、襲ってきたのは幻妖ではなかった…というわけだな」
 校舎裏の一角で、高杉と久坂は桂を呼び出した。他の生徒達から死角となるこの場所は、いつしか桂と連絡を取る際の集合場所のようなものになっていた。
「そうなんだよな…。襲ってきた“力”については幻妖のものだったとは思うんだけど、それが人間の中に入り込んでいた…って感じだったんだよ。その後外で感じた幻妖の気配を追ってみたけど、結局奴はどこにもいなかったしね…」
 あの後高杉はあちこちを回ったが、かき消えてしまった幻妖の気配の行方については全く掴めなかった。高杉は納得いかないような面持ちで軽く手を顎に添えて考え込んでいる。
「ここ数百年、幻妖は全くと言っていいほど姿を現さなかった。それが、今こうして動き出して…しかも、久坂を襲ったということになれば、やはりこの間のことも関係しているのだろう。もしかしたら、本格的に久坂を狙ったというよりは、偵察のような意味合いがあったのかもしれないな」
「偵察…」
 そこではじめて久坂も言葉をもらす。
 それならば、何を知りたかったというのだろう。自分に狙いをつけてきたということは、自分の何かが知りたかったに違いない。それが何かわからないのも気味が悪く思えた。
「あいつ…久坂が“クサカ”だって、気が付いたかもしれないな」
「え?」
「なるほど…。今回の狙いは、久坂がいったい何者なのかを調べるため、ということか?」
 久坂は驚いて高杉と桂を交互に見た。あれだけのことで、わかってしまうのだろうか。
「でも、直接襲ってきたわけじゃないのにわかるの?」
 まあな、と高杉が難しい顔をしたまま答えた。
「あの時、結界とは違う…あの、幻妖の空間が作られていただろう?普通ああして空間を作れる奴は作っただけというのなら別にその中で何が起こってるかまでいちいち把握できるものじゃないんだけど、その目的が、お前の力を観察することなら…。そういった目的があるのなら可能だよ」
 桂に同意を求めるように高杉が目をやった。桂もそうだな、とうなづいている。

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DARK HALF 第13話・1 
2008/04/11 /16:23
第13話

「まさか…そうなのかい?君があの時の名前も知らない、"化け物"…?」
 久坂はこくこくと、頷く。
 ああ、そう。
 名前も無かった自分はただの“化け物”と呼ばれていた。
 それは不快だったわけではない。そして、自分もこの男の名前を知らなかった。お互いに、そういったことは不要だったのだ。そんな想いが久坂の胸によぎった。
 まだ泣きやまない久坂の手を、入江がそっととった。久坂が顔をあげると、そこにはやさしい笑顔があった。
 お互いに何かを言いかけた時、背後のドアを叩く音がする。
「……っ…!」
 その音に我に返った久坂が振り返ると、同時にドアが開いた。
「入江先生いらっしゃったんですか。…あら、どうかなさいましたか?」
「ああ、土屋先生。これは別に…」
 入ってきたのは、現国の教師の土屋だった。久坂は慌てて足下に散らかしていた書類をかき集めると、入江に押しつけるように渡した。
「せ、先生、これ…!!お、俺、失礼します!」
「あ、久坂くん…」
 入江が何かを言う前に、ドアの前に立っていた土屋を押しのけるようにして国語研究室を飛び出した。
 頭の中がぐちゃぐちゃで、整理がつかない。そのまま廊下を走って、階段を駆け下りた。
 
 思い出したのだ。
 確かに、それは“クサカ”としての記憶だ。久坂自身が体験したことではないのはわかっているのだが、確かに自分の過去の記憶として思い起こせるという不思議な感覚だった。
 思い出したのは、自分がかつて“あやかし”の力でいた頃、喰らおうと思って近づいた人間を結果的には喰らうことができなかったこと。その男を、目の前で失ってしまったこと。その男が自分にくれた想いを、守りたかったこと………。
 “もう人を喰らうな”
 その言葉を、守りたかったからこそ、その言葉に縛られてしまった。だから、それ以降人間を喰らうことはなかった。
 失った時、初めて覚えた感情に、どうすることもできなかったこと。
 人間ではない、そして人間を喰らう性質を持つ自分の身を心底恨んだこと。

 次から次へとあふれてくる記憶に、久坂はますます頭が混乱した。
 どこまでがクサカで、どこからが自分なのか区別はつくのか、はたまた、それは区別をつけるべき物なのか、つかないものなのか、このままどんどん記憶が蘇ったら、自分がその記憶の中に飲み込まれてしまうのではないかというような抽象的な不安にかられてくる。
 階段の踊り場で立ち止まると、手摺を両手で握って、顔を伏せ、目を閉じた。
 そのまま大きく深呼吸する。
 とにかく、今は落ち着くことが必要だった。落ち着かないと、思い出したことも整理がつかない。これから高杉と桂に会うというのに、どう説明して良いのかまとまらない。
 そこまで考えて、久坂は何かに気が付いたように目を開いた。

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オーライ?オーライ!OK!OK! 
2008/04/09 /13:23
意味不明なタイトルですが…。BGVに流していたMADの曲で…。まあ、そんなことはいいんですが…。
連日の寝不足でふらふらしているので、たぶん頭がちょっと飽和状態なんでしょう〜。
とりあえず、脱線ってことで、イラストです。なぜイラストのほうが早いかというと、ずっと娘がぐずってまして、ほとんど抱っこしてる状態なんですね。だから、両手が使えないんです…。イラストだったら、右手一本でなんとかなるので。細切れ時間を使って一日中作業していた感じ…。デジタルだからできることだね。だから、小説が進まないのです。今やっとベッドで寝てくれているので、今の内にちょっとでも小説進めようかな。って、家事、やれよ〜!!


☆イラストについて☆
かわいいちゅーが描きたかったんです。たまには積極的な久坂くんもいいかなって思ったんです。お話の中にはこんな場面ないんですが。色塗りはあまり凝ったことしてません(ってか出来ません…)背景はもう思いつかなかったので適当に。かわいい感じになればいいんだよ!ってことで。

dh_cutekiss.jpg


BGM:エレクトロ・ワールド、コンピューターシティ、チョコレイト・ディスコ、パーフェクトスター・パーフェクトスタイル、あっかんberry berry、TOUGH BOY、覚えてていいよ etc…
(すべて旦那が作業する私に聞かせるためにセレクトしたもの←アイドルマスターのMADで…どんな旦那や)

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